『ソレ』を勝手に取り出して眺めていたのが悪いのか。気付けば組み敷かれ、
腕を男の力で強引に抑え込まれたまま頭の奥では冷静にそんな事を考えて。
「勝手に人の引き出しを開けて何をしていた、躯」
自分を組み敷き、冷たい声で問い掛けられて目線を逸らす。
まさか、お前が持っていた『ソレ』が気になって興味を惹かれた、等と
口走ればこの男がどんな事をするか・・・・・容易に想像が出来る。
「別に、たまには自分の男が何を持っているか気にしても良いだろう?」
軽く足蹴を入れてみても相手の力は抜ける気配すら感じない。まぁ、人間界で
暗黒武術会の優勝チームの一員だった男だ。そう簡単に力を抜く筈も無い、が。
「自分の男、か・・・ならば、もっと信頼して下手な詮索は止めておいた方が
良いんじゃないか?こんな物をしげしげと観察するような奴だったとはな」
ニヤリ、と黒い笑みを浮かべて先程まで自分が持って眺めていた『ソレ』を
手に取って、火傷の無い方の頬を叩いて来る。
カァ、と顔に血が上るのを感じつつも冷静を装って声を出す。
「・・・お前がそんな物を後生大切にまだ保管していたとは思わなかったから
それで・・・・たまたま眺めていただけの事・・・で・・・」
冷静を装って言葉を紡いだつもりが、唇から漏れ出したのは途切れ途切れの
まるで怯えた少女のような、そんな声。
「お前が言っただろう?『言ってからなら使っても良い』と。」
その一言を聞いた瞬間、先日の逢瀬を思い出し顔に更に血が上るのを感じた。
まさか、今・・・・使う気では無いのか?このグロテスクな物体を。
「そうだな、言ってから・・・と言われたからには先に伝えるべきか?」
自分の反応を楽しみつつ、完全に硬直した躯に口付けて飛影は微笑んだ。
まるで、悪魔のような、天使のような。どちらにも見える、魅惑の微笑。
唯一、躯だけに見せる、あどけなさを残した笑みを。
「これは渡された中でも一番細い奴だったな、確か・・・あのバカ狐は
”動きが中々良いと評判の逸品”などとほざいていたが・・・試してみるか?」
相手の言葉に反射的に『厭だ』と言いたいのを堪える。自分で言ったからだ。
自分で『先に言えば良い』等と言ったから、だが・・・・だが、だが。
「こうやって強引にされるのは屈辱的だ」
ポツリ、とやっと出た反論の言葉は否定も肯定もしない曖昧な台詞。
組み敷かれた状態の躯の、精一杯の反抗。
言われた相手は最初は意味が理解出来なかったのか、不思議そうな顔でこちらを
見つめ、それからやっと手を離して躯を解放した。・・・片手は掴んだまま。
「・・・この手を離せ、飛影」
「離せばお前は逃げるだろう?そんな顔をしている」
言うと同時に掴んだ手で引き寄せられて相手の胸の中へと収まる。
「なっ・・・!」
何をする、と言いかけた唇は同じく唇で塞がれ、言う筈だった言葉はそのまま
消えて。
「ん・・・・」
合わせた唇からは、もう甘い吐息が漏れ出してしまう。そんな自分が厭だと
思いつつも、体は純粋に相手を求めて、手は自然に首に回される。
唇を離されれば二人の間には透明な糸が引かれ、それを見た自分の芯が熱くな
っていくのを嫌でも感じて、また更に芯が熱く燃える。
「そうやって素直な貴様も、また良いな」
微笑んで髪を撫でられるだけで、それだけで耐えられない。もう、この男の手が
自分には必要なのだと厭でも思い知らされる。この手に離されたく、ない。
「痴れ者が・・・好き勝手ばかり言って」
プイ、と顔を背ければ視界の端を相手の腕が動いて、そのまま胸元に直接手を
差し入れられる。いつもならば、着ている物を脱がしてから観察するのが好きな
こいつが、何と珍しく急いている事か。
触れた手の体温を感じれば、トロリと脳が溶けていくような錯覚へ陥る。
「ふぁ・・・・ん・・・・っ」
「たまには着たまま、と言う趣向も楽しいだろう?コレも使うし、な」
再度頬に『ソレ』を当てられれば、体は自然にビクリ、と反応してしまう。
素直に反応をする体を疎ましく思いながらも、『ソレ』が欲しい、と体が
自然に願っているのを感じて小さく歯軋りを一つ。
不意に太腿に体温を感じて虚ろな視線を下ろせば、飛影がさするように太腿を
触れていた。確実に感じる所を触れながら、でも一番肝心な所には触れずに、
ジワジワといたぶるように、何度も、何度も。
「く・・・・っ・・・・ふぁ・・・・」
脳がどんどんと溶けていってしまう、そんな感覚に溺れながら必死で飛影の服の
裾を掴む。でも、その手の力もすぐに抜けてそのままダラリと寝台の上へ。
「こうして服を開いた状態のお前も中々眺めが良いな」
クク、と笑いを押し殺したような声で呟く声を聞いた、と思った。
ひやり。ぬるり。と。
「ひぁっ!?」
股の間にいきなり何かが垂れて来た感触に意識が一瞬で戻る。何をしたのか、と
無言の瞳で訴えれば、こちらを見返す瞳は三日月の様に細くなる。
「あのバカ狐がこの前・・・人間界に行った時についでに寄越した物でな。あい
つ曰く”滑りが良くなって、感度が良くなる”だそうだ。面白かろう?」
そう言って微笑む姿は、ただの悪戯っ子の様にしか見えない。今では魔界でも
それなりに一目を置かれる存在だ、と言うのに。幼な子に見えてしまう。
飛影がぬるり、とした液体を躯の秘所にゆっくりとまぶすように、
指を押し付けるように動かす。前後に動かし、そして胎内にも忘れずに。
「んぁ、はっ・・・・ひ・・・・・ぁ、だ・・・・・ふぁっ・・・・!」
駄目だ、と言いたいのに口が動かない。漏れて来るのはただの小さな嬌声。
液体が触れている所がどんどんと熱くなって行くのが自分でも判る。熱く、
古傷が疼くように、そして”何か”を求めて。
(そろそろ頃合い、か・・・・?)
いつも以上に乱れる姿を見下ろしながら、飛影は躯の頭の横に置いてあった物を
とりあげる。躯の視線は虚ろで、蔵馬の寄越した薬が良く効いている様だ。
そっと躯の秘所に『ソレ』をあてがう。違和感を感じてか、躯の体が一瞬強張るのを
チラリ、と一応見てからそのまま一気に押し挿れた。
「ひぁ・・・ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いつもとは違う、異物感。でも、待ち焦がれていた感覚。厭だ、と言う思いと
『コレ』がずっと欲しかったのだ、と自覚する頭。相反する考えを消そうと必死に
首を振ってその感覚だけに溺れようと。
「予想以上の反応だな、ん?躯」
楽しげに笑って自分の頬にキスを落としてくる相手にも何も返せない。否。
返すつもりなど最初から無いのかもしれない。こいつには、敵わないのだから。
飛影が『ソレ』を出し挿れする度に淫水の音が飛影の寝間に響き渡る。
躯の部屋と違い、あまり広さの無い部屋に音は反射して、否が応でも躯の耳に
自分の体の状態を思い知らされる。
「や・・・・ぁ・・・・・んぁっ・・・・!」
細い喉をしならせて嬌声を上げて悦ぶ姿は、本当にかつて一国の主だった者の姿、
なのだろうか。今の姿を見る者がいたら、そんな事を考えるだろう。
出し挿れを止めて、飛影が躯の息が落ち着くのを待つ。
「ぁ・・・・ひえ・・・い・・・?」
体の芯が熱いまま刺激を止められて戸惑う。何をしたいのだろう、この男は。
自分の考えを読み取った飛影がカチリ、とスイッチを入れる音がした。
ブゥゥンという独特の振動音が響くのと同時に、躯の胎内で勝手にゆったりと
くねりと『ソレ』が動き出す。
「ふぁ・・・・っ・・ん」
抜けないように、軽く手を添えるだけで飛影は動かず。
胎内を蹂躪するように蠢く感覚に背中に鳥肌が立つ感触と、それでもその感覚を
必死にどうにか手にしようと自然に意識がそちらに集中するのと。どちらの
感覚からも逃げたいのに逃げられなく、手は必死に空をかく。
「どうした?」
空をかく手を握られ、笑みを含んだ声で問いかけられても何も答えられない。
いや、答えたくないのかもしれない。答える事に意識を向けるなら、このまま
体を蕩かされてしまいたいのかも、しれない。
何の返答も反応も無い事に焦れたのか、飛影が『ソレ』を前後に動かす。
くねる物体が新しい刺激を厭でも感じれば、また体の芯が溶けていく。溶けて
そのまま敷き布へ一緒に同化してしまいそうな位、自分の境界線が解らなくなって行く。
「・・・・・・んぁっ!・・・・はっ・・・・あ、ぁ・・・・」
涙混じりの目で力無く相手を睨んだ所で効果が無いのは判っていても、睨んで
しまうのが自分だ、と冷静な部分で思いながら相手の手の温度を感じて、
そこだけが安心感に満たされているのに自分の体は疼く。これでは足りない、と。
「欲しいのか?」
耳朶を軽く食まれ、ゾクリとする様な声音で囁かれると、また背中にざわり、と悪寒が立つ。
厭ではない、心地の良い矛盾する悪寒。
その間も独特の振動音を出しながら胎内で蠢く『ソレ』に意識を持って行かれそうになりつつ、軽く頷く。
「ダメだな。今日はこのままの貴様を見ているのも一興だ」
「ふぁ・・・ん、な・・・なに・・・がっ」
クイ、と顎を持たれて強引に目線を合わさせられる。炎のような妖気を放つ、
冷たい瞳の男。目が合ったらもう離してはいけないと思うような、そんな男。
「そうやって悶えて疼いてたまらん、と言った顔をする貴様だ。そういう様を
見て楽しんでみても構わんだろう?俺が楽しいから、な?またこの前のように
俺のではない、ただの物体で気持ち良くなればいいだけの事だ」
既に躯の体から溢れている蜜をすくって見せつけるようにペロリ、と舐めて
見せつけてからニヤリと笑う男。こういう時、こいつが凶悪な性格を持っている事を
改めて思い知る。だが、そこがまた良いと思う自分も同じなのだとも思う。
グイ、と一瞬引き抜かれて体が強張るのと同時に、胎内へとまた打ち込まれる。
「あ、ん・・・・・ぁぁぁぁ!」
小さな悲鳴と同時に体の意識が全てそこに集中してしまう。もう、目の前にい
る男の事を思うよりも、体を全て使ってでも快感を得たいと思ってしまう、そんな
女の性。今まで捨て去って来た筈の自分を曝け出してしまう瞬間。
「やっ・・・・ぁ、ふぁっ・・・」
飛影が小さく笑いながら出し入れをする度にくねりと振動が高みへと持って行こうとさせる。
もっと?そう、もっと、もっと。恐いけれども、この瞬間が最高の瞬間。
「相変わらずよく鳴く奴だな」
耳元で囁かれ、爪の先で隠れた蕾を突付かれた瞬間、躯の意識が弾け飛んだ。
気が付けば、服は綺麗に前を合わせ直してあり、乱れた髪も飛影の不器用さを
表す程度には撫でて直してある。重い体を起こして周りを確認する。
「・・・・俺の部屋・・・?」
はて、と小首を傾げた時に寝間の仕切りが開いて飛影が酒瓶を持って現れた。
「やっと気付いたか、躯」
思わず先程の醜態を思い出して顔が熱くなるのを感じて視線を逸らす。
「なかなか良い物を見せてもらったな」
そんな自分を知ってか知らずにか、隣に座って置いてあるグラスに酒を満たし
てこちらに手渡して来る飛影。受け取りながら、そんな相手から視線を逸らし
て何もない虚空を見つめる。
「次はもう少し良い思いをさせてやろうとは思ってるからな、安心しろ」
慰めにならない慰めを言われ、肩を叩かれて熱くなっていた顔から血の気が引
くのを感じた。次はもう少し?もう少し、ってどんな手を使ってくるのだ、こ
いつはと。
クラクラする頭を抑えながら飲む躯を楽しげに見る飛影。
そして、その日は飛影が横にいるせいで躯が安心して眠れなかったとか何か。