蔵馬から変な紙袋を渡された。何かと聞いたが、ただ笑うだけで
「あの方に使ってみたらどうですか?」
とかほざくだけだ。とりあえず百足へ戻り、奴のいない所で袋を開いてみる。
「・・・・・・・・?何だ、これは・・・」
自分のと同じような形をした変な物体が数個ある。よく見れば、スイッチが付いているようだ、押してみるか。
ウィーン、と鈍い音を立てて妙な動きをするその物体の珍妙さに、思わず手に持っていたソレを取り落としそうになってしまった、俺らしくもない。
「な、なんなんだコレは一体!?」
数日後、飛影からの電話を受けた蔵馬がニヤニヤしながら使い方の説明をしたのは言うまでも無い。
蔵馬から貰った例の品。躯にはバレないように、自分の引き出しにしまい込んだまま数日が経った。たまたま休みが取れた今日、ソレを取り出し、目の前に置いて、どうするべきか、思案する。
「・・・・・このままアイツの思惑通りに使うのも少々勘に触るな」
『何が”勘に触る”んだ?』
ボソリ、と自分が呟く声に思わぬ声が背後からかかって慌てて振り向いた。そこにいたのは、自分に取って至上の女。この魔界ではもっとも恐れられていた女とも言える存在。躯が、片手に酒瓶、片手には2つグラスを持って俺の部屋の入り口に立っている。
「何だ、その驚いた顔は。お前の部屋に来てはまずかったのか、飛影?」
俺が驚いている様子が余程気に入ったと見え、滅多に見せない微笑を湛えてこちらに寄って来るその歩き方は気品と自信に満ち溢れており、何もかも忘れて見とれてしまう、そんな自分を軽く呪う。
不意に、躯の足が止まる。目線を追えば、俺の背後・・・先程まで俺の向いていた方向・・・?方向、方向・・・・!?
「飛影、何だその変な物体は?」
問いかけながら近付いて来る躯の吐息は既に美酒の香が漂って、それだけで軽く頭の芯が痺れるような、そんな感覚に陥って。一瞬、躯が何をしたのかすら理解が出来なかった。
「人間界のモノか。何だ、これは?スイッチ?」
しげしげと不思議そうに、子供のように楽しげに見慣れない物体を手に取って嬉しそうな顔でスイッチを入れると動き出すソレに俺と同じように驚いて取り落としかける、そんな仕草に思わず俺が今度は笑う番だった。そうだ、今更隠しても仕方がないだろう。
蔵馬からある程度の知識は得た。躯をこのまま酔わせて試してみてもそれはそれで興が乗る。
「まぁ、ソレの使い方は後で教えてやる、躯。酒を持って来たんだろう?とりあえずそれを飲ませろ、話はその後だ」
言いながら、躯の手からグラスと酒瓶を奪って勝手に2つのグラスに酒を満たす。この酒は結構度数が高い奴だな、躯でも3杯呑めば結構酔いが回る代物だ。自らコレを持参すると言う事は・・・そうだな、本人もその気になっていると見て良いだろう。
「何だ、勝手に俺のモノを取り上げるとは良い度胸じゃないか、飛影」
少女のように軽く頬を膨らませる、そんな仕草は俺だけの物。この表情をさせるのは、俺の前だけ。それが俺の躯だ。
ニヤリ、と軽く笑って自分のグラスから一口含む。そのまま躯の顔を引き寄せ、口付ける。
「・・・ん・・・」
小さい声と共に躯の咥内に美酒を満たせば、自然とそれを飲み込む白い喉。その喉元に軽く口付けをして、再度口付けを軽く、啄ばむように落とす。
「ずるいぞ、飛影」
既に酒が入っているせいもあってか、仄かに赤らんだ頬でこちらを見る姿に再度笑う。そして、俺も一口。
「中々旨い酒だな。貴様は呑まないのか?」
促せば渋々と言った顔で、それでも否定はせずに渡されたグラスを一気に半分程呑み干す、そんな素直な姿に軽く満足しつつ、横目で寝台の上に置かれたあの物体達を見る。
『最初から大きいモノを使うのはあの方も抵抗があるでしょうから、そうですね・・・・ピンクの奴があるでしょう?アレで楽しんでみたらどうですか、飛影』
脳裏に横切る、楽しげな狐の声が蘇る。アイツは・・・・アイツは、俺がこうして悩む姿を想像して楽しんでいるに違いない。性格の悪さは黄泉よりも酷いだろう、恐らく、魔界随一と言っても過言じゃないだろう。
「飛影、注いでくれ」
既に酔いの回っている表情で躯が空いたグラスを俺に差し出してくるので、今度は先程よりも多く注いでやる。さぁ、早く酔え。そして、たまには俺に遊ばせろ、躯。
「何だ、さっきより多いら・・・じゃないか、ちくしょう。もう酔っているのか、俺は」
クラクラしているであろう頭を抱えて呻く姿を俺は楽しげに目を細めて眺める。俺まで酔ってしまっては楽しめないので、こちらは軽く呑むだけだ。いつもなら、そこを的確に突っ込んで来るのが、
先に軽く呑んで酔いが回っている躯は気付かずに素直にグラスを再度空ける。
「うまい。」
飲み干して、空いたグラスを手で弄びながら躯が呟く。
「それはそうだろう?極上の献上品だ。貴様がたまに喜んで呑んでいる癖に、今更何を言っているんだ」
クスリ、と笑いを含んだ声でむくれた顔の相手の頬に口付ける。火傷で爛れた側にも口付けると、それだけで軽く声を上げる。
「っ!ば・・・っ!そちら側は・・・」
慌てて抑えようとする腕を抑え込み、そのまま寝台へと倒れ込み、上に被さる。
「馬鹿者・・・いきなり押し倒す奴があるか」
頬を染めていつもの強気さを既に捨て去っているのは酒のせいか、それとも単に俺の前だからだと自惚れて良いのか。毎回、そこは戸惑うのだが、今回ばかりはその素直さが有難い。
「さて、先程の品の使い方だが」
ん?と、興味を惹かれてキラリ、と目が光るそんな仕草に再度笑って口付ける。
「もう少し楽しんでからでも良いだろう?躯」
「お前は性格が悪いな」
「ふん、今更何を言っている?判っていて来たんだろうが、貴様は」
短いやり取り。でも、お互いの言葉の裏にある感情はそれだけで通じる。それで、充分だ。
そっと喉元に口付ける。見える場所に跡は付けない、と言うのが暗黙の約束。薄いローブの前を開け、俺にしか見られない場所に、俺の跡を付ける。
「・・・・・・・・・・んぁ・・・」
白い肌の側に点々とついて行く紅い華。付ける度に細い喉はしなり、その唇からは美声が漏れ出て行く。
焦らすように、焦がすように、わざと大事な部分は触れずに何度も脚の付け根、腹、胸。何箇所にも跡を残して行く。次の逢瀬が何時かなど分からないのだから、
それまで消えないように、俺の印を付けて行く。こいつは、俺のモノだと。その印を。
「んっ!ぁ、はっ・・・ひ・・・え・・・」
訴えるような瞳が、無言で俺を見つめる。そろそろ頃合いだろうか?
躯からは見えない位置にある、ピンクの小さな楕円形のモノを取る。細いコードの先には、調節のスイッチがある。確か、これを使えとあの狐はぬかしていたな。
「ん・・・・?なん・・だ、それ・・・?」
おぼろ気な視線で俺の持っている物を目で追い、不思議そうな顔をする躯の髪を優しく撫でる。それだけで、目を細めて嬉しそうな顔をする、そんな姿が良いと、素直に思えるようになるとは俺も変わったものだな
、そんな事を冷静的に考えてしまい、つい苦笑が漏れる。これではまるで蔵馬の考えているような事ではないか?
はだけたローブは既に敷き布となっていて、目の前には躯の裸体が横たわる。その、先程まで触れずにいた部分は既に湿っているのが薄明りにもよく判る。
躯の大事な場所へ、ピンクの物体をそっと当てればそれだけで喉がまた仰け反る。
「ひ!ち・・・ょ・・・飛影!な、何を・・・っ!」
慌てて押し返そうとする手は弱々しく、力は入らない。押されたまま、もう片方の手でスイッチを入れる。
ブゥン・・・・と、小さな振動音を立ててソレが動く。
声にならない小さな悲鳴を上げて、躯が俺の腕を強く掴む。何だ、力はまだ入るのか?
そっと、前後に楕円形のソレを揺らせば、それに合わせて躯の腕の力も微妙に変化するのがまた楽しい。俺の手で、躯が弄ばれている。
「ぁ、あ・・・・っ!んぁ!・・・・・はっ、ひ・・・えっ」
声にならない声を上げて俺に縋りつくように、何かを掴みたいように、躯の手が空をかく。それを目を細めて眺めながら、スイッチを更に強い方へと俺は入れる。
「ひぁっ!!!」
ローブの尻の辺りは既に水をかけられたかのように染みが出来、それだけ躯が感じている証拠を示しているのを、満足げに俺は眺める。成る程な、蔵馬が『楽しめ』と言っていたのも理解出来るような気はする。
やや強くしただけで、躯の声は段々と切羽詰って、間も無く上り詰める、そんな気配を俺は感じてグイ、とピンクの楕円形のソレを押し付けてやる。
「あ・・・・っ!は、だ・・・・めだ!ひっ・・・・ぁ、ぁぁ!!っっ!」
白い喉を仰け反らせ、身体をガクガクと言わせながら、躯が達するのを確認してから、スイッチを切る。ローブは今までに無い程・・・・濡れていた。
それからしばらくして。
「・・・・で、何でお前がそういうモノを持っているんだ、飛影」
かなり不機嫌な躯が裸体のまま胡坐をかいて俺の前に座っている。俺は、目線を逸らしながらただ無言を貫こうとしていた。
まさか、蔵馬の奴から貰った等と口走ったら何故使ったのだと口やかましく言われるのは判り切っているのだ。それなら、こいつが諦めるまで口を噤む方がまだマシと言うものだ。
チラリ、と横目で見れば、声とは裏腹に軽く笑っている姿に一瞬唖然としてしまい、ポカンと口を開けてしまった。
「ま、何となく予想はつくが、な?お前が自分で手に入れる事は無いだろうから・・・恐らく、あの狐辺りが寄越したんだろう?まさか黄泉、と言う事は無かろうからな・・・・
今回は見逃してやるが、今度はいきなり使うのは禁止だからな、聞いてるのか?」
ちょっと待て、それは・・・・・・・
「なら、言ってから使えば良いという事か、躯?」
思わず口走った俺の言葉に、紅くなって今度は相手が顔を背ける。
「そうか、なら次回は宣言しておいてから使う事にしようか」
「・・・・・・・・・・・・・馬鹿者が。」
そんな拗ねた表情に、軽く口付ければまた紅くなる顔。愛おしい、俺だけの至上の女。次は何をしてやろうか、今から楽しみになるだろうが。もう、離したりは出来んぞ?
―後日
「あぁ、それであの方はどんな反応だったんですか?」
クスクスと含み笑いをしながら薬草を渡して来る相手に、俺はただニヤリ、と笑いを返してやった。
「嫌だなぁ、飛影は。いつからそんな底意地の悪そうな顔をするようになったんですか、全く・・・せっかくあげたんだから、ちゃんと報告位してくれてもいいでしょう?」
「さぁな、そこまでする義務は無いと思っているんでな」
それだけ小さく言って、再度小さく笑って俺は蔵馬の部屋を後にする。さて、次の逢瀬は何時になるか。その時、躯はどんな顔をするか、今から楽しみだ。