その日は珍しい来客が来ていた。  
物珍しげに、窓を通り過ぎる景色に感嘆の声を上げ、幼い表情を綻ばせ、  
こちらと目線が合えばニコリ、と微笑む。自分の周りにはいない。  
そんな、珍客・・・・とでも言うべきか。あいつの・・・身内だが。  
 
「ありがとうございます、躯さん。私が下からでも見たい、と我侭を言ったせいで・・・氷女の国の近くまで連れて行って下さって」  
目線を落としがちにしつつも、微笑んで感謝の意を伝えるその少女の名は、雪菜。  
あの男の、唯一の身内。肉親。ただ一人の、妹。  
「構わん、しばらくは百足も特に巡回する用事が無いから問題も無い」  
呟くように応え、自分のグラスに入った酒を飲む。いつもならすんなり通り抜ける酒が苦く感じるのは何故か。不可思議な気分でムスリ、と再度口にグラスを当てる。  
人払いをした客間には雪菜と躯、ただ二人だけ。  
「今日は・・・・その、飛影さんはいらっしゃらないんですね?」  
少女の口から聞こえた名に、一瞬だけ自分の胸の中に炎が上がったような、そんな気がした。  
「あいつは今は所用で人間界に行っている。用事でもあったのか?」  
自分でも驚く程、冷たい声が唇から漏れ出してしまうが、気付いているのか気付いていないのか、少女はただ『そうですか』と寂しげに微笑むのみ。  
無垢な、何も知らない少女。自分も・・・そう、もしかしたら自分も持っていたかもしれない、穢れを知らない姿。その姿が目の前にあるだけで、苛々と脳の端は煮えたぎるような、そんな気分が募って、募って。  
「雪菜」  
「はい、何でしょう躯さん?」  
キョトン、と小首を傾げて微笑んでこちらを向く少女の姿を、もう一度眺める。そんな自分を、不思議そうに眺める姿。また、脳の端が焼けつくように煮える。何故、何故。  
「着物が着崩れているぞ、俺の寝間で着直すと良いだろう。こっちだ」  
口から発せられた言葉は、何の世迷いごとか。何を血迷ったのだ、とフッと思うも、素直に頷いて立ち上がる姿に一瞬見とれてしまう。  
 
寝間へ案内し、自分の寝台の前で帯を解く姿を見ている内に、フッと  
自分の中へと悪戯心が沸き上がるのを抑えられなくなった。  
「お前は・・・・その体に異性を受け付けられないと言うのは本当か?」  
「・・・・・はい?」  
着物の前をはだけ、長襦袢を直していた少女は何を言うのか、と言った顔で  
こちらを見つめる。美しい翡翠色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめる。  
「氷女は、異性と交われば死ぬ、と聞いた事がある。お前の母がそうだったんだろう、雪菜?」  
近付き、何も知らない、全く純粋無垢な少女の頬に手を添える。  
オロオロと目線を彷徨わせつつも、少女は小さくかぶりを振って、  
その言葉を小さく、でも確実に否定した。  
「いえ、分裂期に合わせて交配した場合のみ、命を落とすんです。 
ですから・・・・その、分裂期に合わなければ、ま、ま・・・えーと・・・」  
途中まで言って口篭もる様子だけで、彼女が純粋なのが見て取れる。  
「交わっても、平気と言うわけ、か」  
クスリ、と自分の唇の端に笑みが乗るのを感じる。こんな質問だけでこの反応だ。  
もし・・・・淫らな事をされたら、どんな顔をするのだろう?最近は大人しくなっていた、  
自分の中にある嗜虐の心が刺激される。胸の中の炎が、弾けるような。  
「あ、あの・・・そうですね、はい。」  
頬を撫でられればそれだけで再度紅く頬を染めて下を向く視線を顎を持って  
強引に上に上げさせる。驚いてこちらを見つめ返す視線に、軽く微笑んでから、口付けを。  
「・・・・・っ!?」  
頬に当てた手に強張る相手の体を感じ、自分の中の炎が蠢いて止まらないのを自覚する。  
後で飛影に文句は言われるだろうが・・・たまにはこういう余興があっても良かろう?  
 
何度も何度も啄ばむように口付けをすれば、雪菜の力は抜け、着物を掴んでいた筈の手は空をかき、  
やがて躯の服へと辿り着き、それを掴んで離さない。  
まるで、何か頼りになる物を探し当てたとでも言うように、しっかりと。  
「・・・・は・・・」  
唇を離せば頬を染め、涙目でこちらを見上げる少女の姿。  
「ふ・・・・驚いたか?」  
「あ、あの、何を一体なさるのかと・・・・私を食べても美味しくありませんよ?」  
全く見当違いな言葉を紡ぐその唇を、煩いと再度塞いでそのまま軽く後ろに押し倒せば、  
自然にグラリ、と寝台に2人の影が倒れ込む。  
唇を離し、もう一度顔をチラリと見てからそっと首筋を吸うように、啄ばむように軽くペロリ、と舐め取る。  
「きゃっ!」  
今までに無い感覚に口から声を漏らし、慌ててその口を手で塞ぐ仕草など、正に無垢な少女そのままと言うべきだろうか。自分には、もう無い物。もう、とうの昔に失った、あるべきであった姿、か。  
「お前を欲しがる馬鹿の気持ちが解る気もするな」  
ニヤリ、と笑って手慣れた仕草で長襦袢の紐を解けば、慌てて前を抑えて開かせまいと焦る仕草。そんな様子もまた初々しくて、良い。あぁ、そうか。たまにはこういう仕草をしてみれば飛影も興が乗るだろうか?  
「わ、私を欲しがる方なんていませ・・・・きゃ!」  
言いかける口を塞ぐ為に、薄い長襦袢の上から小さな幼い膨らみをそっと撫でる。思った通りの反応に小さく、薄い笑みが躯の唇に浮かぶ。  
 
10分もそうやって優しく布の上から撫で続けていただろうか。  
もうその頃には、逆らう気力も無くなったのか、それとも力が抜けてしまったのか。  
雪菜の息は荒く、寝台の上の敷き布を軽く掴んで幼い二つの膨らみを上下させて、  
目にはうっすらと涙を浮かべてこちらをただ驚いたように見つめている。  
「そんな顔を見せられたら、意地でも虐めたくなるじゃないか、雪菜?」  
顔の半分は爛れているものの、それでも尚、美しい女は唇の端に笑みを浮かべて  
力の抜けた少女の襦袢の前をはだけさせる。  
「ぁ・・・・や、やめ・・・」  
かぁぁっと紅くなって口だけで抵抗する少女の胸を直接触れれば、  
その抵抗する口もきつく結ばれ、目は瞑られる。そう、瞑っていれば全て忘れられる。  
瞑って耐えていれば、涙も出ない。何も、変わらない。昔、掴まっていた頃のように。  
彼女の過去は飛影から寝物語に聞いた事がある。  
・・・・自分と同じだと、その時は朧気に思ったものだが、今こうして自分が組み敷いている少女が、  
そんな過去を持っていたとはまるで思えない。  
胸の先にある紅い頂点を口に咥えれば、軽く呻き声を上げ、また慌てて口を抑える仕草に  
小さく苦笑する。  
「声を出した所で誰にも聞こえんぞ?」  
― 恐らく遠くから観察している飛影以外には、だがな ―  
口には出さず、遠くで歯軋りをして見ているであろう男を思い、薄く、再度笑う。  
笑って、嬲るように雪菜の幼い膨らみを直接揉み、吸い上げ、頂点を軽く齧り、  
少女の唇から声が漏れ出るまでしつこくそこだけを弄る。  
「ん・・・・ぁ・・・・っ・・・・は・・・・」  
手で抑えた隙間から漏れ出る声を確認して、手をそっと下へと滑らせれば、  
ビクン、と雪菜の体が硬直を。  
「力を抜け。抜いた方が楽になるぞ?」  
気休めにしかならない、と分かっていても優しく声をかけて脚の付け根をそっと、  
何度も何度もゆっくりと撫で回す。悪寒を与えないように、火傷をおっていない方の手で優しく、  
解きほぐすように、子猫をあやすように根気良く撫でる。  
こんな時でも気を使うようになった自分に軽く驚きを覚えて苦笑を漏らしながら。  
 
「んっ・・・・」  
力が一瞬抜けたのを見逃さず、脚の隙間に手を差し入れる。  
恐らく本人以外が触れた事の無い秘所は既に湿り気を帯びており、  
そこから出てくる女の香は本人の鼻にも届いている事だろう。  
「・・・・や・・・・」  
顔を隠すようにして、力の抜けた体を着物の上に横たえた少女の姿は  
淫らで、それでいて清くあり、美しく整っており。  
ギリ、と自分が小さく歯軋りをしたのは気のせいか。いや、気のせいであって欲しい。  
雪菜の秘所をなぞればぬるりとした感触と同時に、顔を覆った手の間から甘い声が漏れ聞こえて来る。  
「力を抜け、雪菜」  
呟くように耳元で囁き、秘所の入り口から人指し指をそっと中へと侵入させる。まずは第一関節まで。  
「ひぁ・・・・!」  
ビク、と背中がしなり、自分よりも細い喉を仰け反らせて体の中に入って来る異物感に  
耐えようと自然に手が空をかくのをもう片方の手で握ってやる。  
「な・・・ん・・・」  
翡翠色の瞳を濡らして切れぎれに問う声には返す言葉が無い。  
まさか、お前にヤキモチを妬いた、等と言うわけにも行くまい?返事の代わりに、もう少しだけ指を指し入れる。  
「あ!・・・・・ん」  
軽く呻いて、子供が駄々をこねるように頭を左右に振る姿を眺めつつ、  
軽く醒めた気持ちで指を軽く出し入れする。何度も繰り返していれば、指の動きに合わせて水音が寝間に響き出す。  
「聞こえるか?お前の出している音だぞ、雪菜」  
クスクス、と意地の悪い声で耳元で囁けば、耳朶まで真っ赤に染めて嫌々、といった風にかぶりを振る。  
「何が厭なのだ?お前が出している、お前の体が感じて出している音だ。聞こえるだろう?」  
音が聞こえるように、先程よりも深く、何度も指を出し入れしてみせる。  
「ぁ・・・・・は・・・・・っ・・・・んぁ・・・っ」  
カァ、と紅く染まった頬を隠す事も無く、淫らな音を響かせて躯の前に横たわるのは、  
少し前までの純粋で、何も知らない少女ではない。ただの、快楽に溺れ出している『女』だ。  
 
頃合いを見計らって顔を秘所に近付ける。そこから漏れ出す女の香は芳しく漂って  
自分の鼻腔を満たして行く。甘い、魅惑の果実の香。飛影も・・・いつも自分の香をこうして嗅いでいるのか?  
「・・・・ぁ?・・・・な・・・にを・・・」  
慌てて脚を閉じようとするのを片手だけでガッシリと捕らえて再度開かせると、  
そのまま秘所に軽く舌を這わせる。  
「んぁ!」  
ひぃ、と小さく悲鳴を上げて再度仰け反る体を自分の体で抑え込むようにして  
雪菜の一番感じる所を探す。・・・・あぁ、あった。女が最も感じる、尖った蕾。  
そこを、舌先で突付き上げるように啜れば・・・  
「あ、あっ・・・・ぁ!・・・・や・・・は・・・・っ」  
悲鳴混じりの嬌声を上げてよく反応して鳴く体。  
それに満足せず、入れたままの指を何度も出し入れし、舌先で尖った蕾を突付いてやる。  
「は・・っ・・・あ、あ・・・・あぁ、あぁぁぁぁぁ!」  
一瞬、一際甲高い声を上げたかと思えば、あっという間に雪菜の体はぐったりと崩れ落ちた。  
「おや、案外早かったな」  
蜜で汚れた口元を拭い、寝台の脇にある水盤に布を浸して雪菜の体を拭き清めてやる。  
襦袢の前を合わせ、着物は・・・流石に寝ているままでは着せられない、か。  
引き出しから取り出したのは、少し前に『戯れにでもお使い下さい』と、  
あの人間界に住む狐がくれた夢見草。  
流石に今の仕打ちを覚えられているままではこの娘が気まずかろうと、少女の枕元に撒き散らす。  
 
眠ったままの少女を、枕元の椅子に座って眺める。  
「無垢、か・・・・・・」  
ポツリと呟き、焼け爛れた自分の片手を見つめ、また少女の顔へと視線を移す。  
自分にはもう手に入れる事の出来ない物を持った少女。何の力も無い癖に、  
人に愛される術を無意識に持ち合わせている、可愛らしい少女。  
やるせない気分に陥り出した時、不意にパチリと雪菜が目を開く。  
「・・・・あ・・・れ?」  
きょろきょろ、と周りを見渡してから、自分の着物がはだけているのに気付き、  
慌てて体を起こして前を合わせ、それからやっとこちらを恥ずかしそうに向く、  
その姿は先程までの『女』を全く感じさせない物で。  
「あ、あの躯さん・・・私、どうして?」  
困ったように聞いてくる姿に苦笑してから、髪を撫でてやる。  
「着物を着付け直そうとした時、貧血を起こした様子でな。そのまま寝かせておいた。  
気にするな、どうせもうじき氷女の国の近くに着くだろうよ」  
「ごめんなさい・・・・」  
伏し目がちに謝る姿に、胸の奥の炎がチリリと痛む。  
「気にするなと言っている。それ以上謝ったら今すぐ百足から叩き出すぞ?」  
笑って言えば、慌てて立ち上がって着物を着出す姿を見、気付かれないように息を吐く。  
それからしばらくして、雪菜が外で氷女の国を眺めている間、  
躯は寝間で一人酒を呑んでいた。先程の余韻の香が漂よう部屋で、ただ一人。  
「さて、あいつには何と言うべきか、考えておくか」  
自然に口から笑みが漏れるのに気付いて、苦笑が零れる。  
何でこんなに喜んでいるのだろう。大事な男の、ただ一人の妹を穢しておいて、  
今更理由を考えているとは。自分も結局はただの『女』と言う事か。  
 
何を今更、嫉妬をしているのだろうか、と。自嘲めいた笑みを唇に乗せて、グラスを傾ける。  
 
 
次の日、人間界へと戻る姿を見送った躯が百足の自分の寝間へ戻ると、  
寝台の上にいるはあからさまに不機嫌な男が一人。  
入って来た自分をジロリ、と睨む姿に思わず吹き出す。  
「・・・・・・貴様、あいつに何をした」  
「何を?見ていたんだったら言う必要も無いだろう、飛影」  
サラリ、と言ってこちらを睨む頬にキスを一つ。  
「お前の愛情を独り占めしたかっただけ、と言ったら・・・・怒るか?」  
素直に白状してみせれば、呆気に取られる男の顔。再度、吹き出す自分。  
「痴れ者が。俺が決めたのは貴様だけだ、阿呆。その位も分からんのか」  
そう言って躯の首に腕を絡め取り、飛影にそのまま引き倒されながら躯は思う。  
 
こいつに惚れて良かった、こいつでなければ俺は一生暗闇から抜け出せなかっただろう、と。  
 

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