螢子が幽助を海にアタックして一泊決定、となったその日。  
 
 
「では、こちらのお部屋とこちらのお部屋とご用意致しましたので」  
「あぁ、どうもね」  
慣れた仕草で仲居から部屋の鍵を受け取る静流を、ただ不思議そうに見る雪菜達と、  
その鍵の片方をやはり当然の様に貰い受ける男達代表の蔵馬と。  
「じゃ、とりあえずあたしら先に露天風呂行っちゃうから夕飯まで好きにしてな、男共」  
手を軽く振って意味深な笑みを浮かべて女性陣の背中を押して部屋に入る静流を見送る、  
残された男達。やれやれ、と肩をすくめる蔵馬の背後ではニヤリ、と顔を見合わせる二人。  
「ちょっと聞いたか、桑原?」  
「露天風呂つったよな今、露天風呂つった。」  
「って事はだぜ、こりゃぜってー覗けって天の啓示って事だよな?」  
うしし、と笑う二人を見ながら既に暗雲立ち込めそうな気配に額を抑える、引率担当蔵馬。  
(まぁ、まだココに飛影がいないだけマシって物でしょうかね、これは・・・)  
「はいはい幽助に桑原君、早く荷物入れて俺達もどうするか決めないと、ほらほら」  
ハァ、と溜息をつきつつニヤニヤする二人の背中を押して男部屋へ行く三人。  
 
そんなこんなで女性陣はさっさと浴衣に着替えて大浴場へと。ちなみに螢子の浴衣を  
着せたのは、美容師の静流なのは言うまでもなく。後の二人は元々和服なので問題無し。  
「ひゃ――――――!絶景かな 絶景かな!」  
一番乗りで洗い場に飛び込んだぼたんが早速大声で喚き出す。その後ろから、タオルを  
長く垂らして胸元と下を艶っぽく隠した静流が出て来て、同じようにほぅ、と吐息を一つ。  
「ほぉ、確かにこりゃ良い眺めじゃないか、螢子ちゃん、雪菜ちゃん、早くおいでよ」  
軽く首を捻って後ろを向けば、ちょうど二人とも恐る恐るタオルで前を隠して入って来た  
所で、滑らないように二人共ドアに手をかけたまま、の状態。  
「あ。本当ですね〜、とても綺麗な景色です」  
ふふ、と柔らかく屈託のない笑顔で答えて、一歩づつゆっくり歩いて静流の横へ行く雪菜、  
それとは反対に足が滑らないかと慎重におずおずと足元を確認しつつぼたんの隣まで行って  
その場にしゃがんで、やっと景色を眺める螢子。  
「わー、ほんとすっごい良い眺めですね、ぼたんさん?」  
ね、と嬉しそうに見上げた螢子の胸元を何気なく見たぼたんの中にちょっと悪戯心が  
芽生えたのは、気紛れ上司の悪影響なのか、否か。  
「うんうん、でも螢子ちゃんの胸も大きくなっていて絶景さね?」  
ケラッと笑って相手の胸を指すと、案の定真っ赤になって胸を隠す仕草を見て、また笑う  
ぼたん。それに対して立ち上がろうとして・・・・そのまま足を滑らせて倒れそうになって、  
必死にぼたんへ掴まろうとする形になってしまった。  
「へっ!?ちょ、ちょっと螢子ちゃんタンマッ!あたしまでコケちまっっっ」  
うっひゃぁ、と慌てて変な声を出して転がるのは避けても、螢子を抱き抱えるぼたん。  
抱き止めれば、ふんにゃりと女の子独特の感触が厭でも腕にかかるワケで。  
一瞬相手の胸元と自分の胸元を確認してしまうのは、女の性と言う奴で。あぁ哀しや。  
「ま、ま、とりあえずこっちに座りなよ螢子ちゃーん♪」  
はいはい、と強引に手近なシャワーの前にある椅子に腰かけさせて、背後で早速タオルを  
泡立て始めるぼたん。そして、そんな気配など気にかけずに目の前に並ぶ物を眺める螢子。  
「んじゃ、雪菜ちゃん?ここで突っ立っても仕方無いだろ、あたしらも体流そうかね」  
「あ、はい、そうですね」  
二人のじゃれっぷりを眺めていた傍観者二人は、クスリとお互い微笑み合って、少し離れた  
別のシャワーの所へと移動。  
 
「んっふっふっふっふ〜♪けーぇこちゃぁーーーん♪」  
「・・・・はい?何ですか、ぼたんさ・・・・きゃぁぁぁぁぁ!」  
いきなり胸に泡立てたタオルを押し付けられて、慌てて叫ぶ螢子と、ニヤニヤとしながら  
タオルでわしわしと容赦無く洗うぼたん。まるでサイズを計ろうとしているかの様に、  
しっかりと隅々まで確認するように、丁寧にタオルで洗い込む。  
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、ぼたんさんっ!」  
「いやぁ、しばらく見ない内に螢子ちゃんってば胸大きくなっちゃってまぁ」  
むにゅ、と相手の胸を素手で握ってハァァ、と溜息をつく相手に青くなる螢子。  
「し、しばらくっていつ見たんですか、いつっ!?ってかサイズ何で知ってるんですか!」  
(突っ込む所はそこじゃないだろ、螢子ちゃん・・・・・)  
雪菜の髪を洗ってやりながら、横目で二人を眺めつつ心の中で突っ込む静流。  
うふふ、と相手の胸をいぢくりながら嬉しそうに、にんまりするぼたん。  
「いやさねぇ、螢子ちゃんってばさぁ。あたしゃ霊界案内人だよぉ?そりゃもぉ、あーんな  
事やらこーんな事とか、いーろいろ知ってたりしちゃってぇ?」  
「あ、あんな事とかってな・・・・っ・・・・んっ」  
ぼたんの指先がちょっとだけ先をかすめて、思わず小さく声を漏らして顔が真っ赤に。  
「へ?何か言ったかぇ、螢子ちゃん?」  
「なっ、何でも無いですっ!」  
ぶんぶん、と首を左右に振って慌てて否定するのを見て、ぼたんはふーん、と一声。  
そのまま、タオルを滑らせてお腹の辺りを洗い出す。勿論、自分の体は背中に密着させて。  
そっと、優しく洗いながらもくすぐったくなる手前寸前で止めるのはやはりあの気紛れ上司  
自らのお仕込みの賜物、とでも言えばいいのだろうか。  
ぴったりと背中に自分の胸を当てたまま器用に脇の下やら膝やらを洗って、さて。  
「それじゃ、脚開いてくれるかぇ、螢子ちゃん?」  
「・・・・・いやです。」  
即答で却下する螢子。  
「それじゃ洗えないよぉ〜?開いてくれなきゃくすぐっちまうよぉ、脇とか脇とか脇とか」  
うふふ、と背後から聞こえる笑い声は確実にヤっちゃうよ、と宣言しているような物で。  
何で自分がこんな目に合ってるんだ、と溜息をつきつつ螢子は軽く脚を開く。  
 
「いやん、ご開帳ぉ?」  
「なっ!何言ってるんですか、ぼたんさんっ!」  
 
ごつっ。  
 
思わず振り向いてしまった途端、覗き込んでいたぼたんと唇同士がぶつかってしまったのは  
螢子にしてみればあくまでも事故、と言う事にしておきたい所か。  
「おやおや、あたしゃ螢子ちゃんの唇奪っちまったかぇ?あ、でも最初は幽助さね」  
ニシシ、と笑う相手の顔を見られず、真っ赤になって口を抑えたまま慌てて前を向く螢子。  
しかも、大事な部分を相手にタオル越しに、とは言え洗われている状態。更に真っ赤。  
ゆっくりと焦らすように、柔らかく優しく洗う仕草に、声が漏れそうで漏れない状態で。  
もしこれが幽助だったら、なんて事を一瞬考えて、慌てて小さく頭を振って考えを飛ばして  
みたりする、そんな可愛い一面とかがあったりする。  
「さーて、んじゃお次はお背中行きますよぉ、っと」  
背中の感触が消えて、思わず螢子は自分の胸をふにゅっと触って、視線はぼたんへと。  
「ん?どうかしたかぇ、螢子ちゃん?」  
軽くこちらを見る仕草に不思議そうに胸を隠しもせずに小首を傾げるぼたん。  
ジーッと相手の胸と自分の胸をしげしげと見比べて、それから小さく何度目かの溜息。  
「・・・・・ぼたんさんの方が胸、大きい・・・・・」  
「へっ?あ、あぁ、そりゃあたしの場合こりゃ結局容れモンだからねぇ、ちょいと大きめに  
作ってあるのさね、だ、だから気にする事ぁ無いよ、螢子ちゃんっ!」  
哀しそうに溜息をつく相手に慌てて手を合わせて拝みつつ、慌てて言い訳をするぼたん。  
 
そんな様子の二人を、髪を流して貰いながら見ていた雪菜がふ、と静流を振り返る。  
「なんだい、雪菜ちゃん?痒いトコあったかい?」  
目を細めて聞く静流の胸と自分の胸を見比べる雪菜。その視線に、まさかと静流が思った  
その瞬間、やっぱり雪菜の口から出て来た言葉は。  
「あの〜・・・静流さんって、皆さんの中で一番・・・胸、大きいですよ、ね?」  
何の他意も悪意も無い、純粋な少女から出された一言。当然、あまり遠い位置にいない  
もう一組の二人にもそれはしっかりと聞こえてしまったわけでして。  
「な、何だって雪菜ちゃんっ!」  
泡だらけのタオルを握り締めて駆け寄ってくるぼたんと、興味津々な表情で近付く螢子。  
そんな三人を見て、思わずシャワーを持ったまま軽く額を抑えてしまう静流だった。  
「三人して、そんなに気にする程胸小さいって思わないけどねぇ、あたしは」  
ほら見なよ、と諦めて胸を隠していた手をどけると、ぼたんと螢子から小さい感嘆の声が  
上がって、あぁやっぱり見せるんじゃなかったと再度がくり、とする静流。  
「あの、静流さんって胸のサイズいくつなんですか?」  
すごい、と感心しているのが丸見えな螢子がおずおずと聞く。隣でぼたんが真剣な顔で  
頷いて、その二人に挟まれるようにしてキョトン、としている雪菜。  
「大した事ぁ無いよ?DだかEだか・・・その位じゃないかい?」  
濡らさないように、とまとめ上げていた髪を下ろしながら諦めの一言を呟く静流に、二人は  
素直に うわぁぁぁぁぁぁ!と歓声を上げてしまう。  
「ちょ、ちょっと聞いたかぇ、螢子ちゃんっ!」  
「DとかEとかって言うかDの時点で凄いですよね、ぼたんさんっ!」  
さっきまで自分がぼたんのより小さい、と嘆いていた事をすっかり忘れて手を合わせて  
喜ぶ二人。その間にぎゅぅぎゅぅと挟まれて、やはり不思議そうに小首を傾げる雪菜。  
「・・・・・・・・・・・・・・・・いいからとっとと体も頭も洗って風呂入るよ、風呂っ!」  
しばらくの沈黙を置いて、低めの声でボソリと呟く声に、慌てて自分達の椅子へ戻る二人。  
それを確認してから、はぁぁぁぁぁ、と深く溜息をついて髪を洗い出す静流に、雪菜が  
「えっと・・・”でー”とか”いー”って・・・・すごいんですか?」  
と、何も知らない彼女らしい一言をポツリ、と。思わず前につんのめって、軽くそちらを  
見れば、何も知らない少女は今の台詞がボケだとも気付かずに体を一人で洗っていた。  
「・・・・すごいのかも、しれないねぇ・・・・とりあえず、あそこの二人には?」  
「そういうものなんですか〜。じゃ、静流さんってすごい方なんですね」  
ふふ、と柔らかい笑みを見せる少女には、流石の静流も勝てないと言う事で。  
 
ちなみに、露天風呂と言うだけの事はあって、彼女達の喧騒はしっかりと男湯に聞こえて  
いたりしまして。蔵馬は聞いていても何の反応も示さず、さっさと髪と体を洗っていたり。  
そして、問題のバカ二人。  
「・・・・おい、聞こえたか、浦飯?」  
「何がだよ、桑原」  
「い、今・・・雪村がエロい声出し・・・・ぐぁ!」  
ゲシ、と相手の頭を一発殴って、幽助は再度仕切りの壁に耳を当てる。そりゃそうだ、  
こんな機会は滅多に無いのだから。螢子だけなら、その内機会も巡って来るだろうが・・・・  
そこにぼたんやら、桑原姉やらが一緒にいる状態。・・・怖い飛影の妹も、だが。  
「おい、聞こえたか、浦飯。」  
「だから何がだよ、桑原。」  
「・・・・雪村の奴、ぼたんより胸小せぇみてぇだz・・・・・ぐはっ!」  
今度は相手の顎に一発喰らわせて、また耳を付ける幽助。やはり懲りない奴である。  
「・・・・おい、桑原。聞こえたか?」  
「何だよ、浦飯」  
「・・・・・・静流さん、DカップかEカップらしいぜ、知ってたか、お前」  
「い、幾ら弟でも姉のサイズまで知ってるわけねぇだろうが!」  
懲りないバカ二人の会話は段々とヒートアップしていくばかりで。  
「えーと・・・・二人共、そろそろいい加減体洗ったらどうですか〜」  
のんびりと温泉につかっていた蔵馬が声をかける。壁の向こうから物凄い殺気が先程から  
見えるので、一応声はかけておいてやろうという、蔵馬なりのせめてもの良心。  
あくまでも、自主性は大事にしておいてやる辺りが彼らしいと言う事で。  
 
急に静かになった女湯に、小首を傾げるバカ二人。  
「ゆーうーすーけーーーーー?」  
上から聞こえる声に、ん?と上を見上げる二人の視界に映ったのは、胸をタオルで隠して  
手に洗面器を持った、螢子とぼたんのニッコリと微笑む鬼のような形相。そして、次の瞬間  
 
ごんっ  
ごんっ  
 
良い音を立てて、二人とも壁際に撃沈。  
「だから言ったのに、そろそろ体を洗ったらどうですか、って」  
クスクスと笑いながら、耳の良い狐がそれを見て笑っていた。  
「いやぁ、流石に蔵馬は聞き耳なんかしないんだねぇ、見直したよぉ♪」  
うふふ、と壁にしがみつきつつ笑いかけるぼたんに、軽く手を振ってニッコリと笑顔を。  
「俺はそんな姑息な真似はしませんから。それより、脚を滑らせないで下さいね、  
ぼたんさんも、螢子ちゃんも。怪我をしたら洒落になりませんから」  
しっかり聞いていましたよ、なんて事は言わない、それが盗賊。  
 
「いやぁ、でも静流さんがあんなに大きかったとは知らなかったな・・・・」  
誰もいない大浴場、一人ぼやく蔵馬がいたとかいなかったとか。  
 

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