誰もいない寝間。特に飾り気もないその部屋で、躯は一人悩んでいた。  
ここ一年近くでめきめきと頭角を現し、自分の筆頭戦士となった一人の男について。  
自分の寝間へと入る事の出来る、数少ない面子の内の一人となった、ただそれだけの事なのに、  
何故こうもアイツの事だけが頭の中から離れないのだろうか。百足の上に立ち、辺りを見回す仕草。  
鋭い目付きで見回し、邪眼でも遠くを見つめるその姿に何度、思わず見惚れた事か。  
 
見惚れた?  
 
自分の思考に一瞬考えが止まる。まさか、そんな。このオレが、男に見惚れていた、だと?  
「まさか、そんな事がある筈も無い。オレが、アイツに見惚れていた、だと?」  
口をついて出て来た声が狼狽し、震えている事に気付いて思わず辺りを見回す。と、視線の先に。  
今、自分の頭の中を占めていた男が、そこに不思議そうな顔で突っ立っていた。  
「貴様が何に見惚れていたんだ?珍しい事もあるものだ」  
くつくつと子供のような笑みを見せて、無防備に近付いて来る男。手には、訪れる度に毎回違う酒瓶。  
「あ、あぁ。な、なんでもない・・・・・そ、それより今日の酒は何だ?」  
狼狽した声がまた口から漏れて、更に慌ててしまうのを取り繕おうとして目線を泳がせる。  
間近まで近付いた男の顔に思わず動きが止まる。交わる、視線。避けようとする、意思。  
でも、視線は相手の目に釘付けられたまま、動く事が出来ない。視線も、体も、思考も、全て。  
「どうした?躯・・・・・・・・?」  
固まる自分を不審に思ったのか、相手が手を伸ばして軽く触れる。それだけで、体が反射的にビクリと  
怯えるかの様に震えて、目線がまた泳ぐ。泳いで、また相手に戻る。  
「躯?」  
どうした、と言葉を続けながら寝台に男が腰かける。他の相手ならば、この場で殺している所だが、  
前からこいつにだけは許しているのは何故だろう、そんな事を頭の隅で考えてしまう。  
「何か変な物でも食ったのか?さっきから表情がコロコロと変わって・・・まるで普通の女だぞ、お前」  
苦笑気味に漏らされた一言で、さっきまで頭の隅でわだかまっていた考えがピタリと一つになる。  
「あぁ、そうか。オレはお前に惚れたのか、なんだ、そうか」  
思わず呟いた言葉は、しまった、と思っても今更遅く、まさに覆水盆に帰らず。  
言った本人と、言われた相手は、お互い微動だにせず相手を凝視してしまう。  
凍りつく時間、交わったまま止まる視線。  
 
「貴様、今何と言った?」  
「え、あ、いや・・・・・」  
先に痺れを切らしたのは相手の方。言った側の自分はただうろたえるだけで、何も返す言葉が無い。  
あぁ、自分らしくも無い。と思いながら相手から目線を外そうと顔を動かせば、視界の隅で相手の  
手が動くのが見えた。と、同時にしっかりと顎を掴まれて視線を逸らすに逸らせない状態に。  
真っ直ぐに見据えられる眼に、捕らえられる。蜘蛛の網にかかった蝶々の様な。  
何も言わず、ただこちらを見据える眼は、無言でこう言っている。  
『何を言ったか、もう一度ちゃんと答えろ』と。  
「言うも何も、ちゃんと聞こえていたのだからこういう態度を取っているのだろうが、お前は!」  
思わずカッとなって相手の手を握って叫ぶと、一瞬呆気に取られた顔をした後、相手が吹き出した。  
「いや、済まんな。貴様らしくも無い台詞に、もう一度言わせてみようと試しただけだ、気にするな」  
笑いを堪えながら、持って来た酒をまるで何事も無かったかのように注ぎ出す相手に、胸の奥が  
苛々として、モヤモヤとした物も溜まって行く。何が、何が不満なのか。  
「ほら、今日の酒はお前好みの甘めの奴だぞ?強いから気を付けろ」  
お前もそれ程強くない癖に、と呟きつつ受け取ったグラスからは芳しい、甘い果実の香り。  
グラスを口に付けた瞬間、相手が一言ポツリ、と漏らす。  
「しかし、俺に惚れた、などと言う相手は初めて聞いたが・・・・・・どういう気分なのだ、一体。」  
げほ、と思わずむせてグラスの中身を服に零してしまう。慌てて自分の服を拭く物を探そうとする  
相手の服を掴んで、今度は自分が捕らえる番、だ。  
「惚れた、と言うのはそのままの意味だが、飛影?」  
頬が火照るのを感じつつ、率直に鈍い相手に伝える。こうでもないと、こいつは気付いてはくれん。  
鈍いから、こうやって直接真っ直ぐに伝えてやらんと、気付いてくれん嘘つきだから。  
だが、そういう素直じゃない所に惹かれたのは事実だ。飛影の、気紛れさと相反する素直さに。  
「惚れる、と言うのは相手の服を掴んで離さない事なのか?」  
不思議そうに小首を傾げて、自分の服を掴む躯の手をそっと、大事な物に触れるように離す。  
「っっ!・・・・・これだから、何も知らん奴は嫌いなんだ・・・・っ!」  
軽く歯軋りをして、自分の手を握る腕を掴んで強引に寝台に押し倒す。  
「!?む、躯、貴様、ここで手合わせをした所で意味が無いだろう!」  
慌てる顔の相手が発する言葉が、単純で何も知らない無垢さを自分に今更教える。こいつは、まだ  
何も知らない、無垢で穢れていない、自分とは違う奴なのだ。血で汚れている所だけ一緒だ、と。  
「煩い。」  
ぴしゃり、と言い捨てて強引に口付ける。きっと、これがこいつに取っては初めてになるであろう、  
最初の口付け。強引に奪われる哀しさを知っている自分が、強引に奪うのか、と自嘲しつつ。  
一旦、顔を離して飛影を見る。何をされたのかすら理解出来ておらず、ポカンとした顔で  
こちらを見る眼。何も知らないまま、何を奪われたのかすら理解出来ていない表情。  
もう、これ以上抑えていても仕方が無い。こうなったらやるまで、と覚悟を決めて。  
 
強引に再度口付けて、相手が息苦しさで唇を開いた隙にその間へと舌を捻り込ませる。そのまま、  
咥内を蹂躪し、歯茎を撫で、歯列をなぞり、思う存分堪能する。今まで自分がされて来たように。  
「・・・・はっ・・・・」  
唇を離せば苦しそうに吐息を漏らして、頬を染める飛影の姿に背中がゾクゾクと。  
「惚れる、と言うのはな・・・・・体で教えてやるよ、飛影。相手を全て手中に収めたいと言う事、をな」  
酸欠でグッタリとする相手の耳元で囁いて、飛影の短いシャツをたくし上げる。  
「む、躯、なにを・・・・ッ!」  
かり、と音が出そうな位の強さで躯は飛影の胸を噛む。かすかに残る傷跡も、桃色に染まった尖った  
先も、全て齧り取りたい、そんな思いでと噛むように食む。そして、舐め上げる。今は、この間だけは  
この強い男は自分の物だ、と。その想いを跡にして残す。  
「・・・・・っく・・・・・は・・・・・」  
飛影に取っては初めてであろう感覚。それを思う存分与えてやりながら、片目はチラリ、と飛影の  
下半身を確認する。ズボン越しに既に分かる程、大きくなっている箇所。  
さわ、と布越しに触れば、慌てたように飛影の手が自分を抑えようと動く。  
その瞬間を狙って、既に痛い程尖っている桃色の先端をカリ、と齧れば、それだけで飛影の動きは  
制止される。なんとまあ、脆い事か。慣れていない、初心な男とはこんな物なのだろうか。  
「随分とココが大きくなっているな、飛影?苦しいだろう?楽にしてやるからな」  
囁くように、わざと耳元で言ってやる。勿論、片手は布越しにそこを撫でながら。  
「くっ・・・・・・!」  
耳まで真っ赤にして、初めて与えられる快楽に顔を歪ませる男。それが、また躯の快感を呼ぶ。  
そっとズボンのチャックを下ろして、既にいきり立つ飛影自身を取り出す。先が軽く湿っていて、  
寝間の薄明りにきらきらと反射する様を眺める。それから、先に溜まった物を指ですくって口の中へ。  
「・・・・ふん、味はまぁまぁ、か?」  
薄く笑みを浮かべて顔を眺めながら言ってやれば、更に真っ赤になる飛影。  
さて、と小さく呟いて頭から咥え込む。若い、青臭い香りと一緒に、しょっぱい味が口の中に広がる。  
「ふぁ・・・・・・っ!」  
軽く仰け反って、そのまま躯の咥内であっさりと飛影は発射してしまった。  
口の中に広がる、独特の味をしっかりと味わいつつ、顔を上げる躯。そして、体を軽くひくつかせつつ  
躯の顔を見て、固まる・・・・・・・飛影。  
「ん?あぁ、口に付いていたか?」  
クスリ、と艶のある笑みを浮かべ、飛影に見せつける様にペロリと口の周りについた粘液を舐め取る。  
「き、貴様・・・・・お・・・・・」  
パクパク、と普段の飛影からは想像も出来ない顔でこちらを見る相手に、再度微笑みを。  
「あぁ、お前のは中々美味だったぞ?だが、次はオレの番だな、飛影。楽しませてくれよ?」  
「え?」  
何がだ、と言おうとした飛影は再度固まる。目の前で躯が急に服を脱ぎ出したから、だ。  
全て脱ぎ捨てた躯は、そのまま相手の上にまたがって、位置を確認すると、そのまま腰を落とす。  
 
既に相手の姿で興奮しきっていたそこは、充分な湿り気を帯びているとは言え、ここしばらくは  
誰とも交わっていなかった場所である。しかも、飛影の物は一回出したとは言う物の、中々のサイズ。  
「ん・・・・・ぁ・・・・・っ」  
軽く閉じた唇から漏れる艶声に、飛影の分身は自然に反応して、躯の胎内で硬さを増す。  
「こ・・・・んぁ・・・・どは・・・・簡単に・・・・はっ・・・・イくな・・・よ・・・・っ」  
途切れ途切れに言葉を紡ぎつつ、跨ったまま飛影の上で腰を軽く揺する躯。  
そして、先程とは違う感覚に戸惑いつつ、自然に手が相手の腰を抑えてしまう、飛影。  
「あ・・・・・あ、あっ・・・・・んぁ・・・・!」  
時折かすめるツボに自然に声が漏れ出る躯と、その声が出る方が良いのだ、とやっと気付き出す飛影。  
どこが良いのか、と軽く腰を振ってやれば、その分躯が艶声を出して反応を返す。  
それが嬉しくて、また腰を振るが、段々とまた自分自身が辛くなって来て、動きが鈍くなって行く。  
「んっ!・・・・あ、い・・・・いいぞ・・・・っそのま・・・まっ!」  
ふぁ、と軽く叫びつつ、躯が更に激しく体を揺すった瞬間。  
飛影は、今度は躯の胎内で果てた。  
 
「・・・・・ところで、躯」  
「なんだ。」  
二人共、何も身に付けず寝台に横になりつつ背中を向けている状態で、飛影が重い口を開く。  
「”惚れる”と言うのは、こういう事をする事なのか?」  
「な・・・・・・っ!!」  
何をまた、と思わず振り返った躯の唇を、飛影の唇が塞ぐ。そのまま、しばらく二人して硬直。  
唇を離して、真っ赤になる躯を不思議そうに見つめつつ、飛影は呟く。  
「俺は、貴様にたまに触れたいと思った事があるのだが・・・つまり、俺も貴様に”惚れている”と  
いう、そういう事か?それとも、俺の考えは間違っていたのか?」  
キョトン、とした顔でこちらを真っ直ぐ見据える眼は、時折見せる、氷泪石を見つめる眼と同じで。  
そんな眼を向けられたら、自分は微笑み返すしか無い、だろう?  
「そうだな、そういう時は”相思相愛”と言うんだよ、飛影」  
軽く笑って、相手を自分のふくよかな胸に抱き止める。  
「・・・・よく理解出来んが、つまりは良い事だと言う事だな、わかった」  
わかっているのか、分かっていないのか。胸に素直に抱きとめられつつ、飛影は呟きを返した。  
そんな相手を見下ろしながら、躯は先を思う。  
 
咥えた程度で果てる相手では、自分を満足させるまで育てるのにどれだけかかる事やら、と。  
 
 

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