久々に部屋に立ち寄った飛影が面倒臭そうに口を開く。
「・・・・・おい」
はい?と薬草をしまっている手元から視線を上げて、飛影の方をチラリと見れば、まだ何やら言い難そうな顔をする相手。
また躯に何かやったのだろうか、などと思って相手の顔をただ見つめてやる。
「女と言うのは、そんなに口に出されるのが嫌なのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
いつも、どこかしら変な事を言って来る相手とは言え、この一言は予想外。思わず瞬きをして相手を凝視。
ええと。確か、昔聞いた覚えでは躯が口で処理をしてくれた筈なんですけれどね、なんて思ってしまったりして。
そんな気配を察したのか、飛影が眉を顰めて再度口を開き、相手の頭の中の疑問に答えを返す。
「人間界に来ると、厭でもそういう会話が耳に入って来る。躯はそういう事は言わんが、そういうモノだとしたら・・・」
最後の方は彼らしくもなく俯いてボソボソと言葉を紡ぐ様子を見て苦笑が漏れ出す。ああ、なるほど。そういう事ですか。
「そこは、人それぞれ。躯がしたくないならしないでしょうし、飛影が気にする事は無いでしょう?」
ぽんぽん、と肩を叩いて笑いかけ、それから話を聞きながら詰めた薬草を相手に手渡して窓を開いてやる。
「ほら、今日は早く帰って躯に聞いてみたらどうですか?人間界と、魔界の常識は違うんですから。問題無いでしょう?」
さっさと出なさいとでも言うように、飛影の背中を半ば強引に押して窓の外へ放り出す。
屋根の上で、しばらくこっちを見ていた黒い影が頭を振ってから走り出すのを見送ってから、窓を閉める。
「・・・・・ま、聞いた所で半殺しにされるのがオチってものでしょうけど」
秋空に向かってぼそり、と呟いてから、腹黒狐は次の報告を待ちましょうか、等と呑気に考えていたとか。