もうすぐ楽しいクリスマス。別名、金が消える時期。まぁ、それは置いといて。  
 
ここ、桑原家でもそれなりに準備をしているわけで。  
そんな家に居候している雪菜は、初めての『くりすます』が楽しみで仕方が無い。  
どういう風なお祭りなんだろうか、一応蔵馬さんから聞いてはいるけれど、気になって仕方が無い。  
「雪菜ちゃん、ツリーの飾り付けするけど手伝うかい?・・・・って、何見てたんだい?」  
がちゃ、と雪菜の部屋を開けた静流が咥え煙草で不思議そうな顔でこちらを見てくる。  
その声を聞けば慌てて持っていた本をパタリと閉じて、雪菜は軽く頭を振って、笑顔で返事を一つ。  
「いえ、なんでもないです。ツリーって”くりすますつりー”ですよね、楽しみです私」  
子供のような無邪気な笑顔で言う少女の姿に、静流もつられて一緒に微笑む。  
「ま、本番までには後一週間以上あるけどね、そろそろ飾り始めてもいい頃だと思ってさ。一緒にやろっか」  
「はい、お手伝いします!」  
二人で飾られていくツリーはどこにでもあるような、作りモノのツリーで。綿で作った雪を静流が取り出せば、  
雪菜はそれを不思議そうに見てから、自分の手をじぃぃぃ、と見つめてポツリと一言。  
「そんな偽モノの雪じゃなくて、私でしたらちゃんとした雪、出せますけど、静流さん」  
自分の手と、静流の手にある綿で作られた雪を交互に眺めれば、プッとおかしそうに笑い出す静流。  
「それじゃダメなんだよ雪菜ちゃん、そしたらツリーの下に常にタオル敷かなきゃいけないだろ?」  
意味分かるかねぇ、と言いながら雪菜の頭にふわ、と綿の雪を載せながら静流が笑う。  
んー、と少し考えてから雪菜はこくん、と頷いて小さく『わかりました』と微笑を浮かべ、  
頭の上にある綿の雪をツリーの上にと巻き付けて行く。  
 
それから30分もしない内に、ツリーは完成。  
 
出来上がったツリーを見て軽く満悦顔の静流とは裏腹に、雪菜はどこか微妙な表情を浮かべていて。  
そんな様子に気付いて静流が小首を傾げる。  
「ん、どうかしたのかい、雪菜ちゃん?」  
「・・・・え?あ、いえ、その・・・ちょっと私、蔵馬さんの所にお邪魔して来ます」  
「あぁ、わかったけど夕飯前には帰って来るんだよ」  
はい、と返事を返してコートに袖を通し、急いで蔵馬の家までひとっ走り。  
ぴんぽーん、と呑気なチャイムと呑気な『はーい』と言う返事の後に出て来た青年に、雪菜はとある頼み事をした。  
 
 
そして、日付は移り変わってクリスマス・イブ。  
 
『めりー・くりすまーす!』  
同時に出る声と、カチン、と合わされるグラスの音。  
「ほらカズ、お前の分」  
「どーもサンキュ、姉貴・・・何だよ、参考書ぉ!?」  
「文句言うなら返しな。んで、こっちが雪菜ちゃんの分だからね」  
「ありがとうございます、静流さん」  
貰った袋を開けば、中に入っていたのは少女らしいふんわりとした白いワンピースで、襟元に氷の刺繍が入っていたりして。  
「わぁ、とても素敵です、ありがとうございます、静流さん」  
「来年は、雪菜ちゃんからも何か貰える事期待してるから頑張ってね」  
喜んだ顔を見せれば、煙草を咥えながらもにっこりと微笑み返してくれる、相手の顔にまた喜びが増す。  
「・・・・あ、ちょっと和真さん、こっちにいいですか?」  
「へ?おう、雪菜さん、何スか?」  
ぐいぐい、と引っ張りながら静流には来ないで下さいと手だけでお願いをして、和真を部屋の外に連れ出す。  
そのまま、自分の部屋へ真っ直ぐに。  
「ちょ、ちょっと雪菜さんっ!?」  
部屋に押し込むように入れれば慌てた様子を見せる彼の背後でクス、と小さく笑って。  
「和真さん、そのまま扉の上、見てもらえますか?」  
「扉・・・・の、上ッスか?」  
 
見上げたそこにあるのは、ヤドリギ。  
 
ツリーのセットの中には無かったけれど、静流に呼ばれるまで見ていた本にはクリスマスとヤドリギの事が書いてあった。  
だから、あの時蔵馬に聞いて、どうにか手に入れる方法を聞きに行ったのだが、まさか本物を貰うとは思わなくて。  
そのまま部屋にこっそりしまっていただけの事なんだけれど。  
「えぇっと・・・」  
ぱたん、と扉を閉めて部屋の中に二人だけになってから、ポケットからメモを取り出して読み上げる。  
「えーと『Coud you kiss under the mistletoe?』で、いいのかな」  
メモに書いてあった英語を読み上げてから、少し染まった顔で見上げれば、今言った言葉を反芻する相手がそこに。  
「雪菜さん、何も英語で言わなくてもいいじゃないッスか」  
「ちょっとだけ、お勉強してみたんですよ、和真さんみたいになりたくて」  
本を読んで頑張ったんですよ、と小さく微笑んでから目を閉じる。  
「ここで『No』だなんて、言えるわけ無いじゃないスか」  
そんな声が聞こえた後、少し冷えている氷女の唇に、温かい人間の唇が触れて。  
 
 
その頃、下の階で静流は上の気配の静かさに何が起きてるかは察して、携帯で蔵馬に一応確認。  
「あー、もしもし蔵馬君。今平気かい?」  
「どうも、静流さん。メリークリスマスと言っておいた方がいいでしょうか」  
携帯の向こうから、相変わらずにこやかな声音の腹黒狐のお返事。  
「雪菜ちゃんに、何吹き込んだんだい、蔵馬君」  
「さあ、俺も流石に『今回は』何も吹き込んでませんよ、彼女の方からヤドリギをくれって言って来ただけでして」  
あはははは、と笑うように返して来る狐の言葉に、静流は携帯を取り落としそうになった。  
「あ、うん、そ、そっか。ありがと、それだけだから。・・・・メリークリスマス」  
「はい、メリークリスマス、静流さん」  
ピッと携帯を切ってから、彼女は軽く額を抑える。  
「純粋培養かと思ったら、意外と行動派なんだねぇ、雪菜ちゃんってば・・・カズには勿体無い」  
はぁぁぁぁぁ、と深い溜息をついて一人でグラスに入ったワインを傾ける。  
上の階では恐らく固まった弟と、にこやかな少女がいるんだろう、などと予想しつつ。  
 
 
携帯の通話を切ってから、蔵馬は部屋の窓際に置かれた、小皿の上の雪だるまに微笑みかける。  
「ま、俺にしてみればヤドリギなんてすぐ出せるモノですし、冬場の間溶けないコレで・・・お代は充分ですね」  
笑いながら、雪だるまをちょんちょんと突付いて、口の中でもう一度呟く。  
「・・・・メリー・クリスマス、皆さん」  
 

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