浦飯幽助にとって、雪村蛍子は日常だった。  
幼少時代の、まだ世間一般と自身との隔離を知らない時分から、彼女は彼の側にいた。  
長じるに連れ周囲から人が消え、あるいは騒がしくなったときにも、蛍子の存在が  
幽助の付近から消え去ることはなかった。  
風邪を引いた翌日にも、他校の連中とやり合った数時間後にも、霊界探偵として仕事を  
終えた直後にも、蛍子は変わらず幽助の傍にいて、小言を言い、顔を顰め、時に強烈な  
ビンタを炸裂させた。  
雪村蛍子は、浦飯幽助の日常そのものだった。  
 
だから、その日、蛍子にだけは逢いたくなかった。  
 
クリスマス、という習慣は、当然の事ながら魔界には存在しない。  
魔界と人間界との結界が解かれて、初めて迎えるその騒がしさ、煌びやかさは、魔界の  
住人の心も掻き立てるだけの威力を持っていたらしい。  
赤と緑と光の洪水に、妖怪達は大いに酔い、興奮し、魅了され、そして当然の帰結として  
大いに騒いだ。  
そちらで大量の妖怪が踊り狂えば、こちらでは別の奴らが大道芸をおっ始める。  
酔ったサラリーマンと老妖怪が、ヤツは最近子供の事しか見えてなくて、と上司の愚痴  
で意気投合する。  
男の価値は顔か度量か、でOLと女妖怪が論戦となる。  
新宿の母のトコロに、顔を隠した不審な男が上司との相性を聞きに来る。  
殺人や強姦といった凶悪犯罪が起こらなかったのが、唯一の救いと言えた。  
 
そんなワケだから、当然クリスマス直後の幽助は、てんてこ舞いの忙しさだった。  
クリスマス当日にまんまと逃げおおせた分のしわ寄せが来たと言ってもいい。  
煙鬼から、人手が足りずにどうしようもない。助けてくれと言われては、到底断れなかった。  
まして、当の煙鬼がクリスマス当日に嫁に置いてきぼりにされた上、プレゼントを  
大量に強請られ、人間界で浮かれ騒ぐ妖怪達を追い回している間に秘蔵の酒を全て  
飲み尽くされたあげくに何のお返しもご褒美ももらえず爆睡された、という一部始終を  
聞いてしまっては、まぁ事後処理も頑張れ、とは言えない物があったのだ。  
そんなワケで、幽助は東奔西走した。  
東にノロウイルスを貰ってきた妖怪が居れば速やかに蔵馬に引き渡し  
西に呑み疲れた妖怪が居れば酒を抜くために大海原に投げ込み  
南に死にそうな妖怪が居ればひと思いに楽にしてやり  
北に喧嘩しそうな妖怪が居れば……当然の事ながら自ら飛び込んでいったのだった。  
 
北からの帰り道。鳩尾と左肩がズキズキと痛んだ。  
鳩尾には強か妖気の弾をくらい、左肩は思い切り噛み付かれ肉がえぐり取られていた。  
取っ組み合っている二人の妖怪を引きはがし、殴り、気づいたら3人竦みになっていた。  
そして、三竦みのメンツは皆バカだった。  
とにかく他2人をつぶせばいいだろ、という思考回路の3人だった。  
一人を殴ればもう一方に殴られる。一人が一人に噛み付いている所に弾を撃ち込む。  
一人の腕を吹き飛ばした隙に肩の肉をごっそり持って行かれる。  
殴りかかろうとする傍から足を捕まれ、手の中で骨を粉砕された。  
喧嘩は半日を超え、3人が3人とも満身創痍となり、それでも尚戦闘意欲に翳りはなく、  
むしろ手傷を負ったことで、次の一撃こそはと蓋をされた活火山のごとく妖気は燃えさかった。  
次の一撃こそ。  
高まる相手の妖力に煽られ、血液が沸騰するかと思った。  
そこに、煙鬼のストップが入ったのだ。  
止められて気づいた。なんのことはない。二人の妖怪は父の友人だった。強いのも当然である。  
雷禅の息子と分かり、二人の妖怪の頭からはすとんと血が下がった。  
いやぁ悪い悪い。まぁ楽しかったぜ。また今度遊ぼうや。  
肩をぽんぽんと叩いて、彼らはあっさり魔界へ帰った。  
すとんと血を下げられなかったのは幽助だけだ。  
力尽きるまで続いた黄泉との戦いに比べ、先の喧嘩のなんと不完全燃焼なことか。  
煽られた暴力の興奮、思い知らされた実力差。捌け口を求めて、自分も魔界へ渡ろうか  
と考えた所に、彼女は現れたのだった。  
 
 
「あぁ、お帰り幽助」  
玄関を開けた瞬間、ゴミ袋片手に彼女が振り向いた。  
反射的に「まずい」と思った。  
今の幽助はバトル状態を完全に引きずっている。蛍子に会える状態ではない。  
「親戚からミカン、箱で送られてきたからお裾分けして来いってウチの親が」  
「あぁ、そか。そりゃサンキュー」  
台所の端に置かれた膨らんだビニール袋を目の端で確認する。  
「あんたも少しは部屋片づけなさいよ。足の踏み場もないじゃない。それに玄関。施錠  
 しなさいって何度言ったら覚えるのよ」  
ミカンを置きに来たはいいが、部屋の汚さに掃除を始めてしまったらしい。いつものことだ。  
更に、合い鍵も持たない身では施錠して帰ることも出来ず、元来の責任感の強さから  
家人の帰りを待っていたのだろう。  
それも、いつものことだった。  
いつもと変わらない、日常の事だった。  
「……何ぼうっとしてんのよ」  
突然の間近の声に、幽助はビクリと肩を震わせた。ぼうとしている間に、蛍子が  
玄関先まで来ていた。顎下すぐに、柔らかな体がある。  
「あ、あー、いや、なんでもねぇよ」  
ちと寝不足で、と言いながら、幽助は蛍子に背を向けた。  
まずい。  
今、蛍子に相対するワケにはいかなかった。  
こんな、戦いの空気をまとわりつかせた状態で、蛍子には会えない。  
蛍子は、幽助にとって日常だった。  
人間の、ごく普通の生活の、象徴だった。  
どれほど喧嘩をしても、おかしな噂を流されても、蛍子だけは変わることはなかった。  
だから、今、蛍子の傍にいることはできなかった。  
血が滾り、核が燃えているこの状態で触れて、蛍子を無事にいさせる自信はなかった。  
本能のまま求め、奪い、その柔らかな肉を食いちぎってしまうかもしれなかった。  
そうして、傷つき果てた蛍子の目には、幽助はもはや依然と同じようには映らないだろう。  
蛍子の目に拒絶が浮かぶのを想像することさえ、幽助にとっては苦痛だった。  
が、背を向けた幽助の腕を、当の蛍子本人が掴んだ。  
「ちょっと、帰ったそうそう何処行くのよ」  
「あ、あー……パチンコだよパチンコ」  
「はぁ? あんたねぇ」  
腕を掴んだ指の感触に、幽助は眉根を寄せた。細い指。細い腕。それに続く細い体。  
幽助がその気になれば、片手で全身の骨を砕ける。ちょっと手加減を忘れて抱きしめれば、  
肋骨ごと心臓が潰れるだろう。華奢な体。  
「別にいーだろ。風俗行ってくるわけじゃなし」  
わざと怒らせることを言えば、案の定手が外れる。蛍子の顔が一瞬で茹だる。  
「……あんた何言ってんのよ」  
茹だって、すぐに冷めた。次に浮かんだのは怒り。  
「この年の瀬に浮気宣言?」  
「だから、風俗行くよりゃパチンコ行くほうがマシだろって」  
っつーわけで、と行こうとするのを、肩を掴んで止められる。よりによって左肩。  
痛みを押さえ込む一瞬の隙に、蛍子が一歩の距離を詰めた。真下から、見上げられる。  
「あたしを何だと思ってんの。10年来の幼なじみよ。……なんかため込んでんのくらい  
 見りゃ分かるわよ」  
手が、首の後ろに回る。大型犬にするように、首の筋をはたかれる。甘い女の匂いがする。  
だめだ。まずい。  
 
「そーだよ、溜まってんだよ」  
爆発する。暴発する。蛍子に向かって流れる。  
「だから、危ねーから触んなって」  
「だからって風俗行ったら108回殴るからね」  
「多いな」  
「煩悩の数ぶんよ」  
108回でも足りない。もっともっと、きっと壊れるまで犯す。だから。  
「他に出すくらいなら、あたしにぶつけなさいよ」  
離れようとするのを、片手と、言葉で引き留められた。  
「……何言ってんだ」  
「幼なじみ甘く見ないで。あたしが今まで一回でも、幽助を受け止めなかったことなんて  
 ないでしょ?」  
片手を首の後ろに、もう片方の手を自分の腰に回して、蛍子は堂々としていた。  
「幽助が勝手するのはもう止めないから。だからせめて、帰ってくるのはやめないでよ」  
ため息混じりの言葉を吐いた唇に、がむしゃらに噛み付いた。  
 
寝室まで行く余裕もなかった。  
冷たくひえた玄関先で、靴も脱がないままに押し倒し、服を剥いだ。釦がいくつか  
はじけ飛び、布が裂ける音がして興奮を煽られる。  
ブラジャーを力任せにむしりとって、現れた乳房に噛み付いた。  
「あぁっ!」  
明らかな悲鳴が上がっても脳の熱が下がらない。  
柔らかな乳房をすくい上げるように掴んで、力任せに揉みしだく。指に逢わせて白い肉が  
撓んで歪む。手の平の中で溶けそうだ。溶けてしまえと思う。  
乳首をねじり出すようにして掴み、尖らせた胸を噛んで、歯形を舐めて、しゃぶる。  
口の中で乳首が右へ左へ踊りながら尖っていく。舌にこりこりと当たる尖りを歯の間に  
強く挟むと悲鳴が上がって、それを楽しむように噛み付いたまま乳首を引っ張る。  
「あっ……あぁぁ、っふ、ゆ、幽助、いた……いたい…っ」  
涙まじりの声に、伏せていた上体を上げて蛍子を見る。  
目が潤み、顔が上気し、唇が開いている。  
服は無惨に乱され、前釦が全て飛び散り、なのにスカートは履いたままなのが劣情を煽った。  
スカートを捲り上げ、ストッキングごと下着を破き捨てた。  
シルクの裂ける高い音に、蛍子がびくりと震える。  
それでもなお、幽助が臆すより早く、蛍子の足は自ら開いて幽助の両脇に落ちるのだ。  
膝を立てて誘惑するわけでもなく、腰でいざって逃げるでもなく、ただ受け入れようと  
する体勢に、下半身がどくんと疼く。そして、嗜虐心も。  
「あぁうっ」  
濡らしもしない指を、蛍子の中に突き入れた。中は冷たく、わずかに湿った程度。  
そこを傍若無人にかき回す。  
「あっ、あ、あぁっ……あ、んむ」  
切れ切れに叫ぶ口を、噛み付いて黙らせる。そのまま舌を奥の奥まで差し入れ、引き出し、  
まるで性器のようにぬめぬめと動かした。  
その舌に、蛍子の舌が絡んできた。性器じみた動きを助けるように、裏に舌を当て、頬で  
挟んで吸い上げる。  
キスに合わせて、蛍子の奥がとろりと溶けた。  
柔らかくなった膣が、幽助の指をやわやわと包み込む。指先から溶かされそうだ。  
心地よさに背筋が震え、口づけを解くのと同時に指を強引に抜き去った。  
内臓ごと引き出すような動きに、蛍子が悲鳴をあげる。  
「あぁっ、や、いやっ、幽助……っ!」  
細い腰が淫らに踊る。無意識に唇を舐めると、蛍子の目が一層潤んだ。  
 
「……ヤらしい顔だな」  
「……っふ」  
恥じるように瞼が降りる。目尻から涙が零れて耳に流れる。それを追って耳朶まで舐め  
上げ、耳の穴をぐちぐちと音を立てて抉ると、蛍子の肩が大きく跳ねた。  
「ゆ、すけ……ゆうす、け、……お願い、おねが…い……」  
「なんだよ、何のお願いだよ」  
蛍子の白い足が幽助の腰を擦る。ジーパンの前立てに両脚の狭間を押しつけられるのを  
感じて、幽助はわざと腰を浮かしてそれから逃げた。  
「あっ!」  
「なぁ、何して欲しいんだよ……言えよ、蛍子」  
蛍子の目から涙が零れる。恥辱に歪む頬を、べろりと舐めると下肢が震えた。  
「ぁ………、っ……いじって…」  
「何を」  
顔を背けられないように片手で頬を押さえつけ、もう一方の手で両手を拘束する。  
尖りきった乳首に噛み付くと、蛍子が叫んだ。  
「あぁっ、あ、の……なかっ、中に、指っれて、いじって……っああっ!」  
指3本を根本まで突き刺す。白い体は魚のように跳ねた。片足で蛍子の太股を押さえ、  
突き入れた指をバラバラに動かして中を広げる。ぐちぐちと音がして蜜がたらりと溢れてくる。  
わざと音を立てるようにしてかき混ぜた。恥ずかしいくらい濡れていると蛍子に思い  
知らせてやりたかった。喘ぐ口をキスで塞いで舌を絡め取ると、口の中で蛍子の舌が  
痙攣した。  
たまらない。  
性器でそうするように、良い場所ばかりを狙って指を乱暴に突き入れ、強引に抜き出す。  
体感を逃がすように蛍子が顔を振り、髪がぱさぱさと音を立てる。  
「あぁ…ぁぁん、ん……ふぁっあっあっ……そこ、だめ……いやぁっ」  
「何が駄目なんだよ、こんな濡れてんのに」  
「いや、駄目っ。そこ……そこ、溢れちゃ…っから、だめぇっ」  
とろけた声に、背筋がぞわぞわする。  
膣壁を抉るようにして指を全部引き抜いた。  
「溢れるくらい、どろどろになれよ」  
ジーンズの前を開ける。中で張りつめて、痛いくらいだった。下げにくいジッパーを  
強引に下ろすと、その音に蛍子が唇を噛んだ。  
噛みしめた唇を舌先で舐めながら、割れ目に男根の先端を擦りつける。ぬちゃぬちゃと  
溢れた蜜をかき混ぜ刷り込むように腰を使うと、蛍子の下肢がかくかくと揺れた。  
「あ、ぁ、…ゆ……すけ」  
「言えよ」  
 
肉棒を割れ目の先端、赤くしこった核に擦りつけながら囁く。逡巡する気配を、乳房を  
強く揺さぶって後押しする。  
「はぁ……ぁん……っん……挿、れて……」  
「何を」  
「ゆ、うすけ……の……」  
恥じらいを許さず虐めていた核を解放すると、切なそうに顔を歪めて蛍子が言葉の続きを  
叫んだ。それでもなお許さず、腰を押しつけるだけの状態で、さらなる言葉を強請る。  
「俺のいれて、そんでどうして欲しいんだよ、なぁ」  
耳を舐め、乳房をきつく揉んで縊りだした乳首を指に挟んでコリコリといじる。  
「挿れ、て……中、ぐちゃぐちゃに……かき、回…して…っ」  
「ヤらしいなぁ」  
「……っ!」  
羞恥に染まる頬を再度捕まえ、鼻の触れ合う距離で視線を絡め取り、幽助は淫靡に笑った。  
「いまの、全部続けて言えよ」  
「……そ、っなの……無理…っ」  
「言ったら、コレ、中に入れて振ってやるから……」  
視線を合わせたまま、隆々と反り返った肉棒を蛍子の太股付け根に擦りつける。  
飢えたように蛍子の喉がこくりと鳴って、唇がわなないた。  
「ゆうすけ、の……おち…ちんを、あたしの……中に挿れて……ぐちゃぐちゃに……、  
 して…っああぁっ!」  
狭い肉壁の中へ、ねじ込むようにして突き込んだ。半分ほどまで一息に入れ、腰を振って  
根本まで飲み込ませていく。  
あれほど濡れていたのに、膣は狭くきゅうきゅうと幽助を包んで締め付けてきた。  
溶けそうなほど熱く、ぬめぬめと濡れた筒の感触に腰からぶるりと震えが走る。  
蛍子が挿入の衝撃に慣れるのも待たず、がむしゃらに動き始めた。  
「あっ、ぁあっ、やっ、幽助……強いっんっんんっあっあっあんっ」  
ずちゅっ、ずちゅっ、っと重たく濡れた音が下肢から上がる。腰を押しつけて大きく  
回すと、信じられないほど高い声を上げて蛍子が跳ね、中が締まって引きずられそうに  
なる。  
「あ、やぁ……も、おかしくなる……おかしくなっちゃうっ……」  
「もっと、もっと言えよ。声、出せ、蛍子」  
「うん、うん……っきもち、い……っと、もっと……いれ、てかき回してっ」  
きついくせにとろとろに溶けた膣の中を、右に左に突き入れて、奥の奥まで押し込んでは  
そのまま腰を小刻みに揺する。  
もうだめ、もう無理、と叫びながら、蛍子の両脚が幽助の腰に絡みついてくる。  
腰が淫らに踊って膣肉が咀嚼するように幽助の肉棒を舐る。奥が男根を欲しがって  
吸い込むような動きをする。  
脳が煮える。腰を振って出す事しか考えられない。ただそれだけの卑猥な生き物に成り果てる。  
「あ、ぁぁ、あ……も、いく……もぉ、駄目っ」  
ビクビクっと痙攣した体に、強く肉棒を締め付けられ幽助は喉奥で呻いた。限界まで  
腰を進めて、蛍子の一番奥で射精する。腰を押しつけたまま、精液を最後の一滴まで  
絞り出すように腰をカクカクと揺すると、その度に蛍子は震えて小さくイった。  
 
「……ぁぁ…」  
震える唇からか細い声が漏れて、濡れた舌がちらりと覗く。そのまま下唇を舐めながら  
見上げられ、今度こそ本当に理性が飛んだ。  
 
いつ、居間に移動したのかも定かではない。  
奥まで突き刺したまま体を持ち上げられた蛍子が、狂ったように鳴いた覚えがあるから、  
多分その時だろう。  
前から後ろから、溢れるくらいに犯した。  
気を失っても構わず、暖かな膣の中で肉棒を扱いた。揺さぶられる衝撃に目覚めた蛍子が  
泣きながら懇願するのを無視して突き入れ、また失神させた。  
膣壁は緩みきり、ふくらんでヒクヒクと痙攣している。  
溢れた蜜に白濁の精液が混じり、こすれて切れたのか赤い筋さえ混じった。  
それでも尚、止まることなく犯し続けた。  
そうして、体を離すこともせずに眠りについた。  
 
 
 
突然の鼻の痛みに、幽助は目を覚ました。  
「って」  
「何いつまでも寝てんのよ」  
ぱちり、と目を瞬く。場所は居間のままだった。うつぶせの体の下に、ぐったりした蛍子  
を組み敷いている。鼻の痛みは、蛍子に噛み付かれたものだった。  
「重い」  
「えっ、あ、悪ぃ」  
慌ててどけると、拍子に入れたままだった肉棒がずるりと動いた。互いに乾いた性器が  
こすれ、引きつれる感触に、蛍子が小さく唸る。  
「ぁっ」  
慌てて幽助は動きを止めた。見下ろす体には、全身に歯形と痣が散っている。  
ぼろ切れのように破れた服を呆然と見つめ、言葉を無くした幽助の耳に、高い電子音が  
飛び込んできた。  
「あー、携帯……」  
呟く蛍子が体を動かそうとして、すぐに顔を顰めて断念する。腕を動かす気力もないらしい。  
まして、お互いまだ繋がったままだ。無理な体勢を諦め、いいのかと目顔で問う幽助に、  
ほんのわずかに肩を竦めて見せる。  
「今のジュ・トゥ・ヴだったでしょ。あれメール用だから、後で見るわよ」  
「じゅぶぶ?」  
「ジュ・トゥ・ヴ。サティよ……って分かるわけないわよね」  
呆れた蛍子の様子に、幽助は目を瞬いた。  
おかしい。普通だ。  
「何へんな顔してんのよ」  
大きな牧羊犬にするように、蛍子の手が後頭部から首筋を撫でた。  
屈託ない口調に、幽助は恐る恐る切り出した。  
「あー……その。…怒ってないのか?」  
「なにが」  
「いや……なんつーか……乱暴に、したし」  
痛くないのか、と問えば、痛いわよ、と間髪入れず蛍子が返した。  
「何よ、間抜け顔。ああそう。怒ってるか、だったわね。別に、浮気にくらべりゃ、  
 大した事ないわよ」  
「や、でも……痕とか……」  
蛍子が渋面を作る。  
「あんた、今まで散々あと付けるなって言っても聞かなかったじゃない。なによ今更」  
さばけた口調も、態度も、清々しいまでにいつも通りだった。そう、日常のままに。  
「それより。服。買って貰うからね。新しいの」  
破いたんだから当然よね、と言いながら、蛍子がまだ入ったままの幽助を抜こうと身を捩る。  
幽助の両手が腰を掴んで、強引にそれを阻止した。  
「ちょ、なにす……っ」  
言葉の途中で、蛍子の頬が紅潮する。中に入ったままの男根が、伸び上がるように膨れた  
のを感じたからだ。  
「ちょっと、なに、何よ、これ……っ」  
「いや、ま、なんつーか、うん」  
「うん、じゃないわよ。ちょっと、やぁ、動かすの……は、反則っ」  
ずっずっと2,3度動かすと、肉棒は完全に復活した。絶句する蛍子を見下ろし、にんまりと  
幽助は笑った。  
「受け止めなかった事なんてないんだろー蛍子?」  
「え、あ……ちょ、ちょっと……」  
抗議の声は聞かず、幽助は蛍子の腰を抱え直して深々とキスをした。  
まだ熱は冷めやらず、目の前には華奢で頑丈な恋人。気を失うまで犯して、犯して、起き  
たらビンタの一発も貰って、宥めてすかして謝り倒せばいい。  
それも、きっと日常の一部だろうから。  
 
終  

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