「螢子にさ、背中から抱き付くといつも怒るんだ」  
「は?」  
蔵馬は唐突な告白を怪訝そうに聞いた。  
「螢子ちゃんが?『いつも』?何をしたらそうなるんです」  
幽助は苦笑いした。  
「いやぁ、ほら、な。女の子の背中って何とも言えず、…えーと…そうだ、可愛い!だろ?!」  
強引に合意を求める口ぶりに、蔵馬は、なるほど抱き付いた後が問題なのだなと納得した。  
「それは人によりけりですね。見上げられるとき、堪らなく可愛いと感じる人もいますし…」  
(例えば桑原くんとか。)  
彼の場合、身長差の都合上、致し方ないとも言える。  
 
「…見上げたときが一番、ということもある」  
「!」  
それまで、窓辺に陣取って昼寝をしていた飛影の言葉に、蔵馬は驚いた。  
「確かに、そういうこともありますけど…」  
やはり女王様はアオリで見たほうが『らしい』のか…と、聞いた人間はつい勘ぐった。しかし。  
「見上げられて可愛いのは、女の下手に出てる態度を可愛いと感じてるだけだ」  
「ま、それも要因の一つなのは否定しません。でも、だけ、ってこともないでしょう」  
肩透かしを食らった気がした蔵馬だが、つまり、上目遣いなしでも魅力的な女はいる、という含みに気付いて苦笑した。  
 
(分かりにくい惚気だなぁ)  
まあ、幽助のだって、『喧嘩するほど仲がいい』というたぐいのもの。  
本人たちが幸せなうちは、はいはいと聞き流すのが吉であろう。  
 
*  
 
「あっ、あっ、あふっ、あぁっ…」  
男の上で、髪を振り乱し踊る女の腰を、彼はしっかりと押さえた。  
「んあっ、あ…、んはぁ…?」  
(何故止める…?)  
蕩けた目が、非難がましく男を見た。  
 
それも可愛いと彼は思う。  
「下から見ると、なんでこうも魅力的なんだろうな」  
にやりと笑った男に、躯は顔を真っ赤にした。  
「そんなことを言っても何も出ないぞ!」  
 
「何も出さないでいい。…というか出せたか?女なのに?」  
にやにやしている男が憎らしく、どきどきしている自分が恨めしくて、躯は顔を顰めた。  
「じゃあもう動いてやるもんか!」  
「ああ、それもいいな」  
「え…?あっ!あぁっ!はん!う、やっ、めっ!えぇぇぇっ!」  
「俺が動く…、って聞こえてるか?躯」  
揺すぶられ突き上げられて、がくんと崩れた女は、男が動きを止めてもまだ息を荒げている。  
「気にするな。上でも下でも、貴様は腰を振ってる」  
飛影は揺さ振り続ける。  
(クソガキ…!)  
思いながら躯は、意識を手放したのだった。  
 

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