乱暴なエンジン音を響かせて疾走するコブラ。  
哀川さんが語り、僕がさっぱりと忘れていた「あれほどの」事件の恩返しとして  
僕は澄百合学園に潜入。紫木一姫、なる少女を救い出す任務を負った。  
 
哀川さんはポリシーを曲げるような人ではない。例え極秘でなければならない  
澄百合学園への潜入に際しても、その足は愛用のコブラだ。  
「近くに止めるから、わりぃけど後は徒歩でな、いーたん」  
ま、そこはそれ、であるが。  
 
しかしさすがは澄百合学園。所在地不明、神出鬼没、玉壁堅牢にして空前絶後の秘密主義ぶり。  
京は千本中立売から道を行くこと数時間、山越えることふたつみつ。  
「…まだですか?哀川さん」  
「潤だ。あたしを名字で呼ぶなっつってんだろ」  
 
いつもの洒落っ気がないのは、哀川さんも苛ついているからだろう。  
曲がりくねった山道のせいで思うようにコブラのスピードが出せないこととか、そもそも  
009ばりの足(しかも加速装置なんてインチキはなしだ)を持つ哀川さんならいっそ走ったほうが  
速いだろうとか。大型のスポーツカーなんて日本で乗るもんじゃないね。  
 
「でも大丈夫なんですかね…」  
「あぁ?なんだよなんだよいーたんはよー。なーにが心配なんだー?よしよし、おねーさんが相談に乗ってあげよー」  
あ、はやくも面倒になってる。ま、いつものことか。  
「潜入方法ですよ。いくらなんでも女装して正面からなんて…」  
「だからさっきも言ったろー?金田一一だって日渡玲だって銭形のとっつぁんだって女装して捜査してんだぜ?  
偉大な先輩方はみんな同じ道を通ってきてんだよいーたん少年」  
「僕は別にJDCに入りたいとか思ってるわけじゃないですよ。…見つかったらどうするんです。僕にだって一応羞恥心ってものが――」  
がくん。  
突然シートベルトに腹を潰される。100km超で走っていたコブラが急にブレーキをかけたのだ。当然車は悲鳴を上げ、山道の路面の悪さで  
車体が激しく揺れた。  
「わかったよ、いーたん」  
「あたしに演技指導して欲しいんだな?」  
 
哀川さんはにやりと笑う。かわいい奴だぜ。と、言った。  
先立つ幸運をお許しください…。  
いたずらな猫に弄られるような感覚。本当に幸運かもしれなかった。  
 
「演技指導?」  
「ま、要は一姫見つけてさっさと帰ってくりゃあそれで済むんだから、それほど心配はしてねぇんだがな。仕方ねぇだろ?あたしの大好きないーたんが、半端じゃ澄百合にゃ入れねぇっつーんだからさ」  
硝子に押さえつけられた僕の首。横目に赤い爪が見えた。笑顔が笑顔に見えないのは気のせいじゃないだろう。獲物を捕らえた肉食獣のように、人類最強の請負人は舌なめずりをした。  
「…え、演技指導と言われましても…僕はさすがに男捨てるつもりはないですし。あ、安心してください。挨拶はごきげんようをデフォルト設定しときますから」  
「向こうで誰にロザリオ渡されるかわかったもんじゃねぇんだぜ、いーたん?」  
さすがにネタが寒いので乗ってくるとは万が一にも思っていなかったんだけど。それにしても倒錯的な雰囲気だ。面倒がって昼間は外に出歩かない生っ白い腕や体毛の薄い足なんかのおかげで、  
遠目から見れば女子高校生に見えなくもない僕。そんな僕を組み敷くような形で薄ら笑いを浮かべているのは、すこぶるつきの美女、哀川さんである。  
百合はお断り――でもないだろう、近頃は。  
 
「なに、役者じゃねーんだから、あたしだってそう大層なことは言わねぇよ?」  
ただな――、と、僕は背筋にとんでもないレベルの悪寒を感じた。  
「こんなもんおっ勃ててるようじゃ、確かに先が心配ではあるな」  
う、嘘だ!肉体どころか人生にまで悉く不感症な僕に限ってそんなこと、あり得るはずがない!  
僕は明らかに焦りながら、思考と裏腹な体の実情を感じとっていた。哀川さん?ただ隣りに哀川潤が存在しているというだけで、僕の矜持は追いやられてしまったというのだろうか。  
 
「随分、、頑張るじゃねーか、いーたん」  
赤色は余裕たっぷりの声音で言った。すべてを知り尽くした繊細な指使いは、僕のそれを、スパッツ越しに形が浮き出るほど張り詰めさせていながら、決してその先へは行かせなかった。  
どのくらいの時間が経ったものか。知ればあっけないほどの短い間に、僕は浅ましくも快楽をむさぼることに夢中になっていた。焦らされた絶頂を前には、理性などこんなものなのだろうか。  
「しっかし、いーたんは便利な女の子だねぇ。こんだけおっきいクリトリスだと相当感じるんだろ?」  
今ここでその設定を持ち出すのか!もう一度言おう。今ここでその設定を持ち出すのか!一体その必然性はどこにあるのか、普段なら子一時間ほど問い詰めたいところだ。  
「どうなんだよ?」  
「はぁっ…!」  
瞬間、根元からこっちをぎゅっと握り締められて、僕は外聞もなく声を上げた。じわりと染みをつくるスパッツの頂点が、首を振り回す僕の目端に映った。  
「んん?返事がないな、感じてないんなら止めたほうがいいよな。こりゃいーたんに悪いことしちまった。ごめんね?」  
哀川さんは僕の顔を覗き込んで、いかにもしおらしいしぐさをして見せた。  
(ほとんど強迫だ…!)  
そのように、してみせるしかないんだろう。脂汗がしたたる顔と同じくらいみっともないことになっている頭ではじきだした答は、そんなものだった。  
「感じて、ますよ…ちゃんと」  
この上なく。しかし、我ながらあっけない陥落だ。  
 
そこからは、電撃のような快感のほか、まるきり拷問ではないかという責めが繰り返された。  
「邪魔なもの、脱いだらどうなんだ?」  
ちゃんとしてやるよ、という哀川さんの言葉は、はや絶対のものとして受け取られた。僕は腰を浮かせて、ずるずるとスパッツを下ろしていく。ここでスカートまで脱いでしまっては興ざめというものだ。そのくらいわからない僕ではない。  
「いいコだ」  
哀川さんの白い手が、するりとブリーツスカートの下に伸びた。指の腹で敏感な部分を押されたり、片手でやんわりと握られてしごかれたりする。すでに爆ぜそうだったそこは、簡単に音をあげるのだった。  
「っは…!はっ…ぁ」  
 
「しっかしいーたんはおっぱいぺったんこだねぇ」  
すかすかだねぇ、と言いながら、哀川さんは僕の胸に当てた腕を前後に動かした。自分サイズ?  
「言わないでくださいよ。けっこう気にしてるんですから」  
という設定。ぷいっ。  
「まーまー、小さいほうが感じるって言うぜ?」  
なんだその眉唾100%。  
「それ、確かめてくれるんですか?」  
「確かめて欲しいのか?」  
「…」  
「お前は≪私のおっぱい感じさせてください≫と言う!」  
言わねぇよ!なんだその頭悪い台詞!  
「さっさと言えよ。あたしはともかく御大敵に回す気か?」  
ちくしょう。反論できねぇじゃないかよ。  
「…お、お願いします、私のおっぱい感じさせてください!」  
オプション付き。勢いで言っちゃった感じなのがポイントだね。この時腕は(座り姿勢なので)スカートを上から押さえるように逆三角形をつくる。哀川さんを直視できないといった風に頭を振るのも忘れてはいけない。  
「いーたん、可愛いじゃん。萌え!」  
いや萌え!の使用はもう少し後ですよ哀川さん。  
「制服、上も脱ごうか、いーたん」  
ここは頷くだけ。僕は着たこともないセーラー服を脱ぐというちょっと不思議なことをやった。って、脱いだらバレちゃうんじゃないですか?致命的に。  
 
「ひぅっ!」  
哀川さんの舌が僕の右胸に触れて、暖かだったそこに空気が冷たく流れた。  
「怖いか?」  
ええ。そのまま食べられてしまいそうで。  
「安心しろよ」  
ちゃんと愛してやるぜ?  
そう言う哀川さんの唇が胸から上って首筋を撫で、僕の唇と重なった。強く力をかけられて、硝子にこすれた髪の毛が痛い。  
「!」  
いきなり反転。シートにぼふんと体が跳ねる。  
がくん。  
あ、倒した。  
「立てるな、ボーイ」  
哀川さんは僕にまたがった体勢で背中のファスナーをぴぃっと下げた。踊るように足を抜くと、瞬く間に美しすぎる裸体がそこに現れた。  
「出なくなるまでヤるぜ、いーたん」  
恐ろしいことを言ってるので見惚れるのはなしだ。  
 
足を踏み入れたそこは、味も素っ気もない快感だけの世界だった。性的快感なんて嗜好品が山盛りの世界なんて素っ気なくて当然だ。  
互いに湿り気を帯びた部分は、擦れてぐちゅぐちゅと鳴った。いやらしい、と思う青さなんて叩き伏せられてしまいそうな、そんな波だった。  
 
「抜かずに何回いけるかな」  
虫追いに興じるような気安さで哀川さんは言う。僕はいつしか、小刻みに腰を震わすだけのオートマタになっていた。  
哀川さんは存外にねっとりと腰を動かすのだった。間隔を置いて耳に響く射精音を数えるのは、最初の二回でやめてしまった。  
「わっかいねー、いーたん」  
 
そう言ってくすくすと笑う哀川さん。腰を一旦深くまで沈めたかと思うと、今度はぎりぎりまで浮かせて、僕に行為の跡を見せ付ける。精液が溢れて僕の下腹部にかかった。  
 
「枯れれば勃たねぇから女子高行っても安心だろ」  
まだ枯れてませんよ。ひどいなぁ。っていうかそっちがメインだったのかよ。演技指導とかそっちのけじゃねぇか。…薄々わかってはいたけど。  
あ、そうだ。  
「ことが済んだらこの制服、もらってもいいですか?」  
玖渚が欲しがってるんです。澄百合の制服。  
「いいけど洗ってから渡せよ。って、それはどっちでもいいのか」  
あ、  
 
 
<終>  
 
 
 
 

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