――とある昼下がり、神原宅にて――  
 
「ねぇ、神原。阿良々木くんに恐怖心を抱かずに抱かれるには、どうした  
らいいかしら」  
 
「阿良々木先輩は戦場ヶ原先輩に危害を加えるなどという愚行をするよう  
な御方ではないと思うが……そうだな、あの人も男だからな。如何な阿  
良々木先輩でも、[男=狼]という法則から逃れることはできない――かも  
しれない。少なくとも、それを責めることはできまい」  
 
「そうね。いっそ本物の狼だったなら、歯牙にもかけずにすむのだけれど。  
力でねじ伏せれば解決だもの」  
 
「――それだ!普段から本物のケダモノ扱いをしていれば、いざ本番とな  
っても動じずにすむのではないか?うむ、我ながら実に妙案だ」  
 
「あら、素敵な意見ね。さっそく明日からでも犬畜生扱いしてみるわ。で  
も、それだけだと弱いわね。他にも良い案はないかしら」  
 
「うん、今ので、もう一つ思いついたのだが、日頃から徹底的に虐げて、  
どんなときでも逆らわない従順な性格にするというのは、どうだろう?そ  
う――さながら犬の躾のように」  
 
「あまり私を舐めないでちょうだい、神原。私はいつだって全力で阿良々  
木くんをいたぶっているわ」  
 
「これは失礼した、さすがは戦場ヶ原先輩だ。しかし――ふふ、こんなに  
想われているなんて阿良々木先輩が羨ましいな。思わず嫉妬してしまいそ  
うだぞ。ああ、戦場ヶ原先輩に弄くられると考えただけで、私の中のマゾ  
の血が疼いてしまう」  
 
「……ええと、神原。被虐的な興奮を覚えるのは、ほどほどにしておきな  
さいね?」  
 
「何を言う!いくら尊敬する戦場ヶ原先輩の発言でも今の台詞は見逃せな  
いぞ!マゾ道というのは、ほどほどで極められるほど、浅い世界ではない  
のだ!」  
 
「………………」  
 
「ふむ、マゾ――そうか、発想の転換だ、戦場ヶ原先輩!逆に考えるんだ、  
『乱暴にされればされるほど、感じちゃえばいいさ』と考えるんだ!」  
 
「……却下よ」  
 
「うう……どうして誰もわかってくれないんだ!一歩踏み出すだけで、新  
しい世界が開けるというのに……」  
 
「ああ、そんなに落ち込まないでちょうだい、神原。そのうち、阿良々木  
くんをそっちの世界に送り込んであげるから」  
 
「……仕方がない、他ならぬ戦場ヶ原先輩の提案だ。大変遺憾ではあるの  
だが、ここは固唾を呑んで、それで手を打とうではないか」  
 
「この場合、呑むのは涙の方ではなくて?――いえ、そんな瑣末なことは  
どうでもいいわね。私はこんな物分りの良い後輩を持てて嬉しいわ」  
 
「それは、私には過ぎた言葉だ。そう言ってもらえるだけで、天にも昇る  
心地がするぞ。もしも勢い余って笑点してしまったら、責任を取っていた  
だきたいぐらいだ」  
 
「その責任は阿良々木くんの管轄ね。普段はゴミの役にも立たないのだか  
ら、ツッコミが必要なときぐらいはそこにいて欲しいものだわ。ツッコミ  
しない阿良々木くんなんて、針のないホッチキスのようなものだというの  
に。私は大好きな神原に無粋なツッコミはしたくないのよ」  
 
「うん?よくわからないが、私は阿良々木先輩に突っ込んでもらえばいい  
のか?」  
 
「そのときは、状況を逐一、詳細に、水も漏らさぬ厳密さで私に報告なさ  
い。しかるべき手段で阿良々木くんを接待してあげるから」  
 
「うん、任せてくれ!全ては戦場ヶ原先輩の思うままに」  
 
「良い子ね、神原――それで、話を戻すけれど、他に何か良い手段はある  
かしら」  
 
「ふむ、そうだな――直接的な解決にはならないが、それで構わないのな  
ら方法がないこともないぞ」  
 
「何かしら?」  
 
「ええと、阿良々木先輩の下手で無遠慮な愛撫でも気持ちよく感じられる  
ようになれば、恐怖感を抱きづらくなると思うのだ」  
 
「なるほど、一理あるわね」  
 
「うむ、ここからが本題なのだが、敏感になる為には誰かに体を開発して  
もらわなければならない。そして、開発をするパートナーは恐怖感を感じ  
ない相手――つまり、男ではなく尚且つ信頼できる間柄でなければならな  
い――ここまでは、よろしいか?」  
 
「そうね、今のところ問題はないわ」  
 
「ならば、話は早い。戦場ヶ原先輩の適切なパートナーである私に全て任  
せてくれ。何、決して戦場ヶ原先輩の悪いようにはしない」  
 
「ええ、何か上手く乗せられているような気がするけど、神原なら信じて  
あげてもいいわ――それで、私は何をすればいいのかしら」  
 
「ただ、リラックスして私を受け入れていただければいい。さあ、横にな  
って目を瞑ってくれ」  
 
「服装はこのままでいいの?」  
 
「ああ、大事なことを忘れていた。ブラとパンツだけは外していただけな  
いだろうか。これは羽川先輩から聞いた話なんだが、阿良々木先輩は女性  
のそういう姿に極度の興奮を覚える重度の変態だそうだ――本当にあの人  
は何でも知っているのだな」  
 
「ふうん、彼女がそう言うなら、それは真実なのでしょうね。ならば、そ  
れを利用しない手はない、ということね。さすが神原、目の付け所が鋭い  
わ」  
 
「ふふ、またまたご謙遜を。目つきの鋭さでは、私ごときでは戦場ヶ原先  
輩の足元にも及ぶまいよ」  
 
「……ええ、あなたの柔和な笑顔が好きだから言うのだけれど、神原。あ  
なたは、私に影響を受けすぎる傾向があるのよね。それが、少し心配だわ  
――余計なお節介だったかしら」  
 
「まさか!戦場ヶ原先輩からいただけるものに、余計なものなど何一つと  
してありはしない!例えるならば、食べかけの飴やガムだって、私にとっ  
ては何物にも変え難い大切な宝物たりうるのだ!」  
 
「ええと……、文脈的に、ここは神原の一途な想いに感動する場面でいい  
のよね?ええ、できることならば、後半の台詞はチリ紙に包んでゴミに変  
えて欲しいのだけれど」  
 
「ふむ――だが、余計なお節介ではないのだが、有難いお節介ではあるの  
かもしれないな。こういう風に考えられるようになったのは、決して戦場  
ヶ原先輩への思いが冷めたからではなく、むしろ尊敬してるからこそなの  
だが――私はいつまでも戦場ヶ原先輩の臀部を追いかけまわすつもりはな  
いのだ」  
 
「あら、それはそれで少し寂しい気もするわね」  
 
「いや、くれぐれも誤解しないでいただきたい。遠くからあなたの背中を  
見ているだけ――そんな黒色の百合生活はもう懲り懲りなのだ。私は戦場  
ヶ原先輩ときちんと正面から向き合えるようになりたい。そう、つまり―  
―戦場ヶ原先輩の臀部ではなく、胸部を目指して生きていくと私は誓った  
のだ!」  
 
「………………」  
 
「私は常々、戦場ヶ原先輩に近づきたいと思っているが、それは戦場ヶ原  
先輩のようになりたい、ということとイコールではないということだ」  
 
「ふふ、あなたは本当に良い子ね、神原。中学のときよりもずっと魅力的  
になっているわよ」  
 
「そんな、滅相もない。私の肉はともかく、内面的な女としての魅力は、  
らぎ子ちゃんにすら及ばないのではないか?」  
 
「あんな女臭いのと比べちゃ駄目よ。品性が下がるわ」  
 
「そういうものなのだろうか」  
 
「ええ、そういうものよ――さて、だいぶ話が逸れたわね。そろそろ、始  
めてもらってもいいかしら」  
 
「そうだな。半裸の戦場ヶ原先輩と楽しくトークするのも捨て難いのだが、  
やはり据え膳というのは、愛でるものではなく食べるものだからな。ふふ  
ふ、……ふふふふ。」  
 
「神原、そういう嫌な笑顔はよしなさい。まったく、誰に似たのかしら」  
 
「では、始めさせてもらおう。最初は普通のマッサージのようなものだか  
ら、体の力を抜いて楽にしていてくれ」  
 
「………………あら、気持ちいいけれど最初は胸を揉んだりするのではな  
いの?」  
 
「ふふふ、最初に胸を揉むのは素人か童貞だ、戦場ヶ原先輩。性感マッ  
サージというものは、まず体のコリをほぐして血行を良くするところから  
始めるのだ」  
 
「ふうん…………うん、なかなかの腕ね」  
 
「ああ、そうだろう。私はこういうのは結構上手いのだ。この技術のおか  
げで、あのバスケ部の結束が生まれたのだからな」  
 
「どういうことかし…………いえ、深くは触れないでおくわ」  
 
「ん、そうか、残念だ。だが、確かに他人の武勇伝、特にのろけ話の類は、  
本人以外にとっては存外退屈なものかもしれないな」  
 
「ええ、そういうことにしておいてちょうだい」  
 
 
――30分後――  
 
 
「…………お、そろそろ全身のコリもほぐれてきたか。よし、そろそろ愛  
撫にうつるぞ」  
 
「ええ、わかったわ……………………、あら、まだ胸や股間には手を出さ  
ないのね」  
 
「ふふ、メインディッシュはとっておくものだからな。そもそも、女性の  
性感帯というのは全身にくまなく散っているのだ。慣れてくれば、脇の下、  
背中、耳、脇腹、うなじ、太もも、手のひら、内股、足の裏など、どこで  
も快感が味わえるようになるぞ」  
 
「…………なんで、そんなに詳しいのかしら?」  
 
「先ほども言ったとおり、バスケ部のハーレ――」  
 
「ごめんなさい余計なことを聞いたわ。気にせずに続けて」  
 
「うん、そうか。確かに、お喋りに夢中になりすぎるのはよくないからな。  
…………ところで、気分はどうだ、戦場ヶ原先輩」  
 
「…………そうね、気持ちいいというよりは若干くすぐったいという感じ  
かしら。でも、体中がポカポカしてきたわ」  
 
「くすぐったいということは、敏感な性感帯になるということと紙一重だ。  
やはり、私の見込んだとおり、戦場ヶ原先輩はなかなか素質があるな」  
 
 
――60分後――  
 
 
「…………………………」  
 
「ふむ、戦場ヶ原先輩は、体はとても正直に反応するのに、顔は無表情な  
のだな」  
 
「……ん、何か問題でもあるのかしら?」  
 
「いや、阿良々木先輩<私>は反応があった方が喜ぶと思うぞ。普段は鉄面  
皮な戦場ヶ原先輩が自分<私>の手で乱れたら、阿良々木先輩<私>は一発K  
Oだろう。ギャップ萌えというやつだな。あくまでも阿良々木先輩<私>の  
話だが」  
 
「神原、本音が漏れているわよ」  
 
 
――90分後――  
 
 
「…………ぁ……ん」  
 
「おや、おやおや?やっと声が出てきたな、戦場ヶ原先輩。しかし、まだ  
まだだ!もっと快楽を受け入れろ!理性などドブに捨ててしまえ!一匹の  
メスになりきるんだっ!」  
 
「ん……、いつのまに熱血体育会系のノリになったのかしら」  
 
 
――120分後――  
 
 
「……んんぅ、……ふぅ」  
 
「ふふふ、こんなにも乱れている戦場ヶ原先輩を前にした私は、もはやた  
だの神原ではない――スーパーカンバル3だ!」  
 
「ぁっ、ん……、いつのまに1と2を超えたというのっ!?」  
 
「なに、そんな小さなことを気になされるな。さぁ、次はいざフュージョ  
ンといこうではないか、戦場ヶ原先輩!」  
 
「ぁ…………そこはだめよっ!」  
 
「安心してほしい、私は膣内には手を出さない。テンションが上がりすぎ  
て、処女膜を破ってしまったら阿良々木先輩に申し訳が立たないからな」  
 
「とても安心できないオーラがひしひしと伝わってくるわね」  
 
「私の冗談は下の口だけだから、大丈夫だ」  
 
「くっ…………あ、……んっ」  
 
 
――150分後――  
 
 
「はぁ……はぁ……、ぁあっ!」  
 
「ふふふ、もう限界のようだな、戦場ヶ原先輩。いいぞ、そのままイッて  
しまうんだ!」  
 
「んんっ、ぁぁあっっ!!」  
 
「ふぅ、ようやく1回か。だが、私達の戦いはまだ始まったばかりだ!」  
 
「え?……いえ、私は今イッたばか――ひゃんっ!」  
 
「さぁ、また絶頂と共に昇ってゆこうではないか、このはてしなく遠い女  
坂を!」  
 
「ち、ちょっと神原!?や、やめ――ひぅっ!あっ、だめっ!」  
 
 
――半日後――  
 
 
「……はぁっ……はぁっ、はぁっ……さすがに半日は堪えるわね」  
 
「私はもっと期待に応えられるのだが……まぁ、正直に言うとまだ物足り  
ないのだ」  
 
「……はぁ、ふぅ、神原は元気ね」  
 
「うん、だが、これ以上は戦場ヶ原先輩が限界だからな。残念だが、続き  
はまたの機会だ。不幸中の幸いか、部活を辞めた今の私は、暇と性欲を持  
て余している。私でよければ、戦場ヶ原先輩の納得がいくまで、とことん  
お付き合いさせていただこう」  
 
「ええ、世話になるわね、神原。おかげで阿良々木くんとセックスする目  
処がついたわ」  
 
「うん――ただ、ここまでしておいて言うのも難なのだが、阿良々木先輩  
が相手ならば、まず心配することはないと思うぞ」  
 
「まあ、そうね。あの人はあれだもの」  
 
「ああ、あの人はあれに違いない」  
 
 
阿良々木暦は、誰にでも優しくて、いつだっていい人で――  
 
 
二人は異口同音に声を揃えて言った。  
『『ヘタレ』』  
 

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