季節が秋になるかならないかという微妙な時期の、夕方と夜の境目になるこれまた微妙な時刻。  
 僕は戦場ヶ原の家で恒例になりつつある勉強会をしていた。  
 今は休憩時間で、戦場ヶ原と流行の服についてしゃべっていると、  
 
「そういえば話は変わるんだけど阿良々木くん」  
 
 戦場ヶ原は飲みかけの水を机の上に置いて言った。  
 
「自慰する時に誰を思い浮かべてるのかしら」  
「話が変わりすぎだ!」  
「そうかしら。だったら別の話にするわね。オナニーする時は誰を思い浮かべてるのかしら」  
「単語が変わっただけでなんにも変わってない!」  
「私には無理やり訊いておきながら自分は誤魔化そうとするのね」  
「訊いた憶えは微塵もねえよ!」  
「忘れたの? あの八九寺とかいう子と会った日のこと」  
「あの時に?」  
 
 あの日は八九寺と出会い彼女の怪異、というか彼女自体が怪異だったわけだがそれを解決した日だ。な  
により僕と戦場ヶ原が恋人同士になった記念すべき日であるため、あったことはかなり詳細に憶えている  
が、少なくとも自慰対象を訊いた記憶は全くこれっぽっちもない。  
 
「言ったじゃない。阿良々木くんと出会ってからの一週間、阿良々木くんで色々と妄想したって」  
「あれそのまんまの意味だったのかよ!」  
 
 ていうか、それは訊いてない。お前が自分でカミングアウトしたんだ。  
 
「それで、誰でヤッてるのかしら」  
「そんなこと……」  
 
 他人に言えるわけがない。まして相手は恋人だ。どう答えようが気まずくなるに決まってる。  
 言いよどむ僕を見て、戦場ヶ原の目が細くなる。  
 
「そう、私に言えないような相手でしているということね」  
 
 これはヤバイと思う暇も無かった。戦場ヶ原の腕が伸びてきたかと思うと、僕の襟首を引っつかみ、  
自分の方へ引き寄せた。同時に右手が机の上のシャーペンを握り、僕の耳の穴へ突っ込む。  
 器用なことに、シャーペンの先端は耳の穴にすっぽりと入った。耳が傷つかなくてよかったと安堵した  
のも一瞬だけ。戦場ヶ原はカチカチとシャーペンの頭を押して芯を伸ばしだした。  
 かすった! 今なにかが耳の奥をかすった!  
 いつもの平坦な顔で、戦場ヶ原は再度問う。  
 
「それで、誰でヤッてるのかしら」  
「戦場ヶ原ひたぎさんです! いつもそうです! 生まれてこの方、戦場ヶ原以外では抜いてません!」  
 
 彼女に脅迫されてオナニーについて告白させられている高校三年生の姿がそこにあった。  
 ていうか僕だった。  
 
 僕の答えに満足したのか、戦場ヶ原は襟首をつかんでいた手を放し、耳からシャーペンを抜いた。シャー  
ペンの芯は三センチ以上出ていた。  
 冷や汗が止まらない僕を尻目に、戦場ヶ原は澄ました顔をしている。  
 
「うれしかったでしょう」  
「うれしくない! 百年に一人の逸材マゾでない限りうれしくない!」  
「恋人に無理やり自慰経験を話させることを男は好む、って本に書いてあったんだけど」  
「なんの本だよ! そして言わされたのは僕だ!」  
「私はうれしかったわ。歯軋りするほど」  
「それは悔しいときの表現だ!」  
「阿良々木くんもドキドキはしたでしょう」  
「もうちょっと甘酸っぱくドキドキさせろよ!」  
 
 いきなりついと目をそらし、雰囲気作りはこんなものかしらねと戦場ヶ原は呟いた。  
 雰囲気ってなんの雰囲気だ。公開拷問ショーの雰囲気か。  
 戦場ヶ原のテンポについていけない僕(いつものことだが)を尻目に、戦場ヶ原は押入れを開ける。入っ  
ていた布団をどさどさと取り出し、机をどけて敷いた。  
 そして僕の目を正面から見つめて、言った。  
 
「セックスしましょう」  
 
 突っ込めなかった。いかな僕でも突っ込めなかった。  
 あまりにも唐突すぎるだろうとか、その一方で布団を出した時からかすかな予感はあったとか、窓から  
入る夕陽に照らされて仁王立ちになってる戦場ヶ原がおそろしく様になってたとか、色んな考えが頭の中  
を巡って何も口に出来なかった。  
 十数秒近く呆けてからようやく出た言葉は、  
 
「お前、大丈夫なのか」  
 
 戦場ヶ原の過去。男に乱暴されかけたその事実。あの星空を眺めた夜にも、彼女は僕に抱かれるのが怖  
いと告白した。  
 あれからそれなりの月日が経った。それでも戦場ヶ原がその苦悩を克服するのに充分な時間だったかど  
うかは分からない。  
 
「本当にいけてない童貞ね、阿良々木くんは」  
 
 一歩詰め寄って戦場ヶ原は僕を睨んだ。  
「いいかしら? 私が性交について苦手意識を持っていたのはまぎれもない事実よ。けどそれはあくまで  
私自身のこと。その私から誘ったということは、大丈夫だと私が判断したということ。なのにあなたが心  
配するだなんて、お門違いにもほどがあるわ」  
 
 さらに戦場ヶ原の目つきが悪くなる。  
 
「それとも、これだけ付き合っても、阿良々木君は私のことを彼氏の欲望を満たすためだけに体を喜んで  
投げ出す自己犠牲の激しい女だとでも思ってるのかしら?」  
 
 そんな女はまかり間違っても戦場ヶ原じゃない。  
 
「いや、そこまで戦場ヶ原のことを勘違いしていない。その、ごめん」  
「まあ、童貞とメンヘル処女の初体験なんだし、この程度の行き違いはあってもおかしくないわ。許して  
あげる。ついでに出血大サービスよ」  
 
 戦場ヶ原はもう一歩詰め寄る。ほとんど顔が触れそうな距離。  
 
「阿良々木くんとセックスしたいのよ。してくれないかしら」  
 
 ぐらり、と来た。危うく倒れそうになるほど、来た。  
 本当に、こんなことまで彼女に言わせるなんて、僕はいけてなさすぎる。  
 
「ああ、僕も、戦場ヶ原と、したい」  
 
 切れ切れになりながらも、なんとか言えた。  
 さっきとは違う理由で心臓の鼓動が上がってる。恐怖でも甘酸っぱさでもなく、もっと直接的で熱い何  
かで。  
 
「だったら」  
 
 僕から離れて布団に身を投げ出す戦場ヶ原。その体勢から手だけ伸ばして、彼女は言った。  
 
「セックスしましょう」  
 
 
 
 
 戦場ヶ原は自分で服を脱いだ。  
 僕も自分で服を脱いだ。  
 そして今は、僕が戦場ヶ原に覆いかぶさる形になって、戦場ヶ原の胸を吸っている。胸の先端を舐める  
たびに、戦場ヶ原は声こそ出さないが、体がかすかに痙攣したように震える。  
 空いている右胸にも触れてみた。特に大きいとはいえない胸だが、弾力はずいぶんとある気がする。掌  
に感じる乳首も固い。あまり表情は変わっていないが、興奮しているのが伝わってくる。  
 一瞬、羽川や神原の胸の感触を思い出すが、あわてて頭から消した。勘の鋭い戦場ヶ原のことだから、  
他の女の子と比べていたことに気づくかもしれない。そうなれば、たちまちこの部屋は血の海だ。  
 
「阿良々木くん」  
 
 いきなり声をかけられて、死ぬほど驚いた。  
 まさか、本当に気づいたのか!?  
 
「少しだけ、背中を丸めてくれる」  
「あ? あ、ああ……」  
 
 どうやら違うらしい。言われた通りに、伸ばしていた背筋を丸める。  
 
「…………っ!!」  
 
 途端、全身に衝撃が走った。   
 背中を丸めることで生じた、僕と戦場ヶ原の躯の隙間。そこに戦場ヶ原の腕がもぐりこみ、僕の股間を  
握ったのだ。  
 親指が、ペニスの先端を圧迫する。残りの指は力加減を図るように幹を強く握ったりゆるめたりしてい  
る。  
 たったそれだけの行為。前戯というにもぬるい愛撫。だというのに、先走りの液がどんどん出てくるの  
が自分で分かる。  
 その液体を指に絡めるようにした戦場ヶ原が、全体を擦りあげだす。  
 
「つぁぁ……!」  
 
 声が漏れる。一人でする時とやってることは同じだ。むしろ初めての行為故の拙さが分かる程度の技量。  
 そのはずなのに、してくれているのが戦場ヶ原というだけで、触れているのが戦場ヶ原の指だというだ  
けで、とんでもなく感じる。感じてしまう。  
 戦場ヶ原にしていた愛撫は、とっくに止まっている。  
 たった数回こすられただけで、腰の奥に射精の感触が湧いた。そのまま手の中にぶちまけてしまいたい  
衝動を必死で我慢する。  
 
「かわいい顔するのね、阿良々木くん」  
 
 顔を上げると、小憎たらしく笑う戦場ヶ原の顔があった。  
 主導権を握られっぱなしなのが悔しくて、戦場ヶ原の首筋に吸いついた。  
 
「んっ!」  
 
 予測できなかったのか、戦場ヶ原は鋭く甘い声をあげる。  
 首筋に舌を這わせ、ふやけた肌に歯を立てた。肌を食いちぎる寸前まで力を込め、浮き上がった血管を  
舐める。  
 このまま血を吸ったらどうなるのだろう、とふと思った。  
 半分吸血鬼の僕が血を吸ったらどうなるか。忍野も忍も話してくれたことはないから知らない。知らな  
くていい。僕が死ぬまで他人の血なんか吸わなければいいだけの話だ。そうすれば永遠に分からず、永遠  
にどうだっていい。  
 益体も無い考えを頭から振り払い、戦場ヶ原の股間に手を伸ばした。  
 
「あ……んん」  
 
 くちゅり、とやけに大きく響く音。  
 そこはもう、充分すぎるほど濡れていた。  
 
 今度は戦場ヶ原の手が止まる番だった。  
 数回動かしただけで薄い恥毛はべったりと濡れて指に絡み、戦場ヶ原は仰け反る。  
 
「あっ……くぅん……!」  
 
 こんな時でも弱みを見せたくないのか歯を食いしばっているが、小さく喘ぎ声が漏れていた。  
 僕にテクニックがあるわけがない。だとすれば、こんなに感じてるのは戦場ヶ原に素質があるわけで。  
 
「お前ってかなり敏感……あだだだだだだだ!!!!」  
「うるさい…………わよ」  
 
 こ、この女、男の一番大事な部分をひん曲げやがった!  
 しかもそのまま、今までで最大のスピードでしごき上げてくる。  
 童貞の僕が、その手に耐えられるわけがなかった。  
 
「うあぁ……!」  
 
 真っ白になる視界。  
 気づいた時には、どろどろの液体を股間は吐き出していた。  
 戦場ヶ原は手についた白濁液を、指を閉じたり開いたりしてにちゃにちゃと弄び、おもむろに口に含む。  
 全部綺麗に舐め取ってから、戦場ヶ原は言った。  
 
「…………不味いわ」  
「そりゃそうだろ」  
「ものすごく不味いわ」  
「わざわざ言い直すなよ! なんか傷つくんだよ!」  
 
 そう言いつつも全部飲んでくれたのは嬉しいが、なんでこうもムードを作ろうとしないのか。  
 さすがにむかついたので、戦場ヶ原の股間に頭を近づけた。  
 写真でも映像でもなく、初めて生で目にした女性の大切な部分は、とろりと糸を引いている。  
 味が知りたい。強烈な欲望のままに、僕は濡れた谷間にしゃぶりついた。  
 
「や、やめなさい阿良々木君……!」  
 
 珍しくも、本気でテンパッた声で戦場ヶ原が叫び制止しようとしてくる。  
 
「そんなことして……後でひどいわよ……!」  
 
 彼女らしからぬありきたりな脅迫台詞も、頭を押し離そうとする華奢な腕も、僕の行為を止めることは  
出来なかった。  
 たとえ後でカッターで刺されようが文鎮で殴られようがホッチキスで唇を止められようが、今はただ戦  
場ヶ原の秘められた場所が生む液体を飲み干し続けたかった。  
 
 ささやかな茂みをかき分けて舌を内部に潜らせる。出来立てのスープのようにとんでもない熱さが僕を  
迎えた。僕は舌を必死で動かして、熱の源から零れる液体をすくい続ける。これまでの人生で一度も味わっ  
たことのないしょっぱさ。  
 湧き続けてくる端から飲んでいると、舌がなにやら硬い突起に当たった。  
 
「ひゃうっ!?」  
 
 またもや戦場ヶ原ひたぎにあるまじき悲鳴が上がった。  
 拙い性知識とその声を照らし合わせ、ここが女の子が一番感じる場所ではないかと推測する。  
 答えあわせをすべく、僕はぬろりと舐め上げてみた。  
 
「…………っっ!!」  
 
 途端、声無き悲鳴が上がり、秘裂からぷしゃっと透明な液体が飛び散って顔を汚した。  
 童貞の僕でも分かる。戦場ヶ原は、イッた。僕が、イカせた。  
 優越感よりも、僕の勝手なきままな舌遣いでも気持ちよくさせてあげられたことに安堵の息をつく。  
 これでお互い一回ずつイッてフィフティフィフティ。準備は出来た、はずだ。  
 体を起こし、ペニスに手を添える。  
 まだとろりと蜜を流し続けている戦場ヶ原の秘裂に押し当てた。  
 
「あ……」  
 
 蕩けていた戦場ヶ原の目が、僕の顔を見る。  
 その瞳の奥まで覗き込み、はっきりと宣言した。  
 
「挿入れるぞ」  
 
 一拍置いて、彼女は小さな声で、いいわよ、と答えてくれた。  
 僕も頷いて、戦場ヶ原の膣内に進入していく。  
 
「…………ぅっ!」  
 
 戦場ヶ原は目を閉じ、指を噛んで必死に声を殺している。だがその表情には、彼女が感じている痛みが  
はっきりと表れていた。  
 痛いならやめておこうか。  
 喉元まで出かけたその台詞を飲み込む。  
 戦場ヶ原は言った。私が誘ったのだ、と。だからこの痛みに耐えることを覚悟していたはずだ。なのに  
僕がやめようなどと言い出せば、本気で軽蔑されてしまう。  
 だから、少しでも痛みが和らぐようにと、できるだけゆっくりと突き入れる。  
 それに理由はまだある。僕のほうも、とんでもなく苦しかった。  
 体内に侵入してくる異物に対して、処女の体は本能的に力を入れることで排除しようとしてくる。つま  
り、僕の分身は戦場ヶ原の中で、寸分の隙間もなくぎちぎちに締めつけられているのだ。  
 あまりに強い締めつけに、気持ちいいを通り越して、吐き気に近い気分がする。  
 このまま一気に奥まで突っ込めば、あっという間に射精してしまいそうだった。  
 だから少しずつ少しずつ、それこそ蝸牛の歩みのように進んでいく。  
 なにか、薄いものに当たった感触がペニスにあった。  
 
「戦場ヶ原」  
 
 僕の声に、戦場ヶ原が目を開く。  
 
「いくぞ」  
 
 腰を止め、一度大きく息を吸って、貫いた。  
 勢いがつきすぎて、こつんと終点に当たるまで一気に突き抜けることにとなった。  
 
「少し楽になったら、言ってくれ。それまでは動かないから」  
「あ……」  
 
 彼女の口から指が離れる。指には、血がにじんでいた。数回はくはくと唇が開閉したが、すぐにいつも  
の口調が出てきた。  
 
「もう、大丈夫よ」  
「どこがだよ。お前、めちゃくちゃ痛そうな顔してるぞ」  
「阿良々木君も似たようなものよ。……正直に言えばたしかに痛いけど、動いてもらった方が楽になれそ  
うなのよ」  
「だったら、いくぞ」  
 
 ずるりと引き抜く寸前まで腰を引いた途端に、ものすごい快感が背筋を走って、僕の我慢を壊しかけた。  
 気遣いの心がどこかへ吹っ飛び、初めて感じる女の身体を全力で貪りたくなる。  
 たが指一本、理性の崖っぷちで堪えられた。  
 ゆっくり、ゆっくりと、ただそれだけを念じながらピストン運動をする。その度に、戦場ヶ原は眉を歪  
めながらも、熱い吐息を漏らした。  
 腕が強く抱きしめてくるが、それだけでなく爪が背中に突き立てられる。しかしその痛みのおかげで、  
ほんのちょっとだけだがペニスの途中まで来ていた液体が引っ込んでくれた。  
 
「はあっ…………あぐっ……」  
「あ………ああっ……」  
 
 狭いアパートの中に、二人分の喘ぎ声だけが響く。片一方が自分のものだとは思えないように、僕も戦  
場ヶ原も蕩けた声だった。それぐらい、気持ちよかった。  
 いつまでもこうして繋がっていたいけれどそれは無理な相談で、腰が痺れて力が入らなくなってくる。  
 はっきりと限界を感じた刹那、最後に残った力を総動員して腰を引いた。  
 半瞬の差で、僕の精は戦場ヶ原の膣内ではなく腹にかけられる。  
 浴びせられた戦場ヶ原は、虚ろな目で僕ではなく天井を見つめたまま呟いた。  
 
「阿良々木君の精液、すごく熱い……」  
 
 唇から、一筋唾液が零れていた。  
 
 
 
 
 僕と戦場ヶ原の初体験は、そこで終わった。  
 破瓜を迎えた戦場ヶ原も、童貞を卒業した僕も、たった一回の交わりで疲れきってしまったからだ。  
 戦場ヶ原は「高校生の男の子なんて、猿みたいにいくらでも出せるそうじゃない」などと言っていたが、  
僕の腰は本気で限界だった。  
 一応僕自身の名誉のために言えば、一人でする時はもうちょっと回数こなせる。ただ、戦場ヶ原の手と  
膣が気持ちよすぎて、十回分に匹敵するんじゃないかと錯覚するぐらい出したからだ。  
 
 だいたい戦場ヶ原にしたところで、腰が抜けたのかずいぶん長い時間布団にへたりこんだままだった。  
今も身支度は整えたが、壁に背を預けてだらりと脱力している。  
 時間はとっくにいつもの帰宅時刻を回っていたが、そんな戦場ヶ原を置いて帰っていいものかと逡巡す  
る僕。しかし結局は「もうすぐお父さんが帰って来るわよ」の一言で退散する腹を決めた。  
 いや、この後戦場ヶ原が父親にあることないこと吹きまくる恐れがあることを考えたら、残った方がい  
い気もしたんだが。  
 僕を玄関まで送るつもりなのか、戦場ヶ原ものろのろと立ち上がる。だが足というより壁の手で身体を  
支えているような危なっかしさで、案の定一歩踏み出しただけでよろめいた。  
 咄嗟に僕が支えると、戦場ヶ原は腕の中で上目遣いをしてきた。  
 
「お前、本当にだいじょう……!?」  
 
 心配の言葉は、柔らかい唇で強制的に止められる。  
 不意討ちの口づけは僕に思考活動を放棄させ、そういえばセックスしている間キスはしなかったな、な  
どとぼんやり考えるのがやっとだった。口の中に何かが入ってきても、それが舌だと分かるまですごく時  
間がかかったぐらいだ。  
 長いような、一瞬のような口づけは、始まった時と同じくやはり戦場ヶ原のタイミングで終わりを告げ  
た。  
 
「それで阿良々木君」  
 
 まだ棒立ちのままの僕に、戦場ヶ原が訊いてきた。  
 
「自分の精液の味はどうだった?」  
「最後の最後でぶち壊しだ!」  
 
 
 
 
 後日談というか、今回のオチ。  
 あの後、戦場ヶ原は神原に電話をし、夜を徹して僕とのいかがわしい行為をしゃべったらしい。非常に、  
克明に。  
 翌日、登校した僕を見つけた神原は満面の笑みと学校中に響き渡る声で僕を祝福してくれた。  
 
「おめでとう阿良々木先輩! ついに不順異性交遊に成功したんだな!」  
 
 
 
          終わり  
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル