泊りがけで遊びに来た浅野の部屋は相変わらず狭くって、しかも部屋の半分を  
骨董品が埋めているから布団を敷くのに困ってしまった。  
 結局一人分の布団に二人でもぐりこんで、アタシ達は体を縮めてくっついて  
眠った。  
 しばらく、闇が続いたと思う。掛け布団がもそもそ動くのに促されて覚醒し  
て、アタシは目をつぶったまま手を伸ばして動くものを捕まえた。  
 触れたのは、あったかい何かだった。その何かの方向から小声で浅野の声が  
する。  
「起きていたのか、鈴無……」  
 アタシはまだ半分寝ていて、目を開けるのは面倒だ。瞼を閉じたまま口だけ  
動かす。  
「いま起きたんだわ」  
「まだニ時だから寝ていていいぞ。起こして済まないな」  
浅野の声はハッキリしている。直感が思考のさきを越して、アタシの口を動か  
した。  
「浅野、寝てないのね」  
 頭がだんだん覚醒してくる。もともと比叡山では三時に起きていた。目を開  
けると、少し離れたところに輪郭だけぼんやりと布団から出た友人の顔が見え  
る。  
「眠れなくてな」  
 それなら起こして欲しかった。  
 無駄話も夜語りでも、なんなら子守唄でも歌ってやったのに。  
「浅野は気を遣いすぎるんだわよ。いの字を甘やかしてばっかりじゃなくて、  
自分も甘えなさい」  
 小さく、笑ったようだった。  
「20過ぎれば甘え方なんて忘れてしまうさ」  
 
 アタシは息をついて、掴んでいた浅野の腕をチャイナのスリットから中に入  
れてやって、太ももで挟んだ。もう片方、アタシの自由な方の手は浅野の頭を  
自分に引き寄せるのにつかう。  
「誰かの体温があると眠りやすいでしょう」  
 よくわからない沈黙。納得しているのかしていないのか。  
「あんたが男だったら胸に触らせてやってもよかったんだけど、浅野は女だし」  
「……どっちかといえば鈴無の方が男役だろうに」  
「チャイナ服の男なんていないだわよ」  
 距離が縮まったせいか、吐息に混ざった体温すらわかってしまう。  
 体を動かして、二人で布団を頭からかぶるようにした。狭い空間にお互いの  
息が混ざって、どちらがどちらとも分からない。触っていないのに触ったよう  
な感覚に沈む。太ももで挟んだ浅野の手は、自分の体温と同調して、なんだか  
自分の体の一部のような気がしてきた。  
 顔色の分からない闇が続いている。耳を澄ませば、規則正しい呼吸のリズム  
がして、だからだろう言ってみたくなった。  
「キスもしてあげようか」  
 返る言葉は無い。  
 脳髄までわかりきっていた、それでもタメ息が出てしまう。  
 眠った後でしか本音を言えない自分に、何度も味わいすぎて慣れてしまった  
失望をして、拗ねるように手を挟んだ両足に力を入れた。  
 
 
=  
終了。  

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