「おはようございます。ろり先輩」
「……弔士くん、私、朝は絶対あなたにあいたいと思っていたの」
二段ベッドの上を確保してから、やけに寝つきが良くなったと思う。
とは言っても、登校中に偶然出会えたろり先輩はここの所ずっとローテンションである。
未だにぼくの姉の死や、幼馴染である崖村先輩の凶行――そして逮捕されたことを、引きずっているのかもしれない。
ま、ろり先輩ってこぐ姉と崖村先輩以外に友達っていなさそうだったしな……。
ぼくは徹底的に嫌われているから……とはいっても、最近はまだ話を聞いてくれている方かもしれない。
やはり、傷を負ったからには癒しを求めるのが人間の常であり、ろり先輩はその癒しをわずかながらもぼくに求めているのかもしれない。
と言うのがぼくの理想であり妄想だった。
「ろり先輩は……」
「ろり先輩ってもっと呼びなさい!」
「失礼、ろり先輩は、まだこぐ姉のこととか引きずってるんですか?」
ちっ、と舌打ちするろり先輩。
こういう反応が面白いから、直す気にならないんだよな……。
そして、先ほどの問いに対するろり先輩の答えは。
「気にしているわ」
「…………」
これは、難しいな。
気にしているに決まっていると思っての質問だったのだけれど、この場合。
素直に本音を言いそうにないろり先輩を前提条件として置くと、『気にしているわ』というのはろり先輩の強がりである「気にしていない」の嘘であるのだろう。
嘘を更に嘘で覆い隠すという高等テクニックを、ろり先輩はやってのけたのだった。
いや、高等かどうかなんて、知らないけどね。
「弔士くん」
「なんですか?」
「あなたの頭の中はとても正常ね。端から見ていてとても爽やかな気持ちになるくらいの好青年だわ」
「…………」
「あの事件から十年以上も経ったというのに、あなたのその態度、尊敬するわよ」
「その辺り、少しはご寛恕していただきたいところですよ。ろり先輩」
「そう、私としたことが至極真っ当なことを言ってしまったわね。弔士くんには申し訳ない気持ちでいっぱいよ。今すぐにでも土下座してあげたいくらい」
確かに、知り合いが逮捕され、姉と友人が二人死んでからまだ一ヶ月も経たない。
ぼくのこの平然とした態度は、ろり先輩からみればおかしく思えるのだろう。
とは言っても、ぼくにとってそれはもう過去のことであり、思い出だ。
あの病院坂先輩の従姉妹……だっけか? あの人と将来酒の肴にでもするような話なのだ。
それに、今のぼくの興味は、「ろり先輩を処女のままどれだけ淫乱にさせられるか」ということにあるのだから。
その為にまずは最初のアプローチが大切だ。
……既にこの険悪な空気からして、最初のアプローチは失敗しているとも言えるけれど。
「ろり先輩、おっぱい触らせてもらっていいですか?」
「…………は?」
流石のろり先輩もこの問いにはクエスチョンを浮かべざるを得なかったようだ。
「ろり先輩。今『こいつはいきなり何を言っているんだ?』と思いましたよね?
その疑問に答えましょう。理由なんて一切ありません。
これが小説か何かだったら、真っ当な動機、それらしき理由を用意しなければ読者は納得しないでしょう。
ですが僕は生憎小説の中の登場人物ではありませんから、何の脈絡もなくおっぱいを揉みたいと告白するのですよ」
とは言っても、朝からこんなことを言うぼくはやっぱりまともじゃないんだろうな。
まあ、そんな無茶な要求でも、ろり先輩はうそつき村の住人である。
「も、もちろんOKよ!」
笑顔が引きつっていたけれど、ぼくはあえてその言葉を額面通りに受け取り。
「ありがとうございます」と、ろり先輩のその小ぶりな胸を制服の上から思いっきり揉みしだいた。
幸い、周りに丁度人はいない。
ここぞとばかりにぼくは揉んだ。揉みまくった。
「んっ……ちょ……!」
まさか本気で揉むとは思っていなかったのだろう。
ろり先輩の反射的に飛んできた平手打ちを、ぼくは敢えて受け止め、それでも逃がすまいと揉み続けた。
「やm……あ、ちがっ……も、もっと揉みなさい!」
「はい、わかりました。ろり先輩」
「き、気持ちいい! もっとしてっ……!」
こうして聞くと痴女としか思えない。
というか、こんな道のど真ん中でもっと胸を揉めと叫びだすのは完全に痴女だ。
しかし、先輩の抵抗も激しくなってきた。
ぼくは流石にこれ以上は誰かに目撃されるかもしれないと考え、その柔らかで温かい感触を味わっていた手を離す。
とどめに一言。
「ろり先輩好きです、付き合ってくださいませんか?」
殴られた。