「………………」  
「いやすまん、完全に儂のせいじゃな」  
「………………」  
「謝るからそう拗ねるな、悪かった」  
珍しく忍が目の前で頭を下げる。その顔を恨めしそうに見上げていた僕は大きくため息をついた。  
「……まあもうやってしまったことは仕方がないけどさ」  
春休みとは別の意味で最悪だと思った夏休みも半ばの頃、僕は小学生になっていた。  
いやごめん、何を言っているのかわからないと思うけど僕にもわからない。  
ただ、朝起きたら僕の身体が縮んでいたのと忍の身体が大きくなっていたのを見て嫌な予感だけはひしひしとする。ていうかもう予感じゃなくて起きてしまってるけどな!  
「とりあえず説明くらいは聞きたいんだけど」  
そう話す自分の高い声に物凄い違和感を感じる。声変わりする前の状態になっているようだ。  
「説明といってもなにもないぞ? ただ儂がお主の血を吸い過ぎて慌てて戻したらこうなってしまっただけじゃ」  
「待て! 突っ込みどころが多すぎる!」  
いつの間にか勝手に吸って、しかも戻したってなんだ!?  
本当に悪いと思っているのかわからないが、とりあえず説明を受けた。  
昨日は訳あって日がまだ出てるうちに就寝している。僕が深い眠りについたころ忍は目を覚ましたが、半分寝ぼけている状態で何の考えもなしに僕の首にかぶりついて血を吸った。  
相当量を飲んだところで我に返ったが、やはり寝ぼけているせいか慌てて吸収した血を僕の身体に戻したということらしかった。  
「で、これはその時の結果ということか」  
「おそらく儂を小さくしておる影響が血を介してお主にも出たのであろう」  
「そしてお前は大量の血液を摂取したからそこまで成長したと」  
「いつものことと同じでしばらくすれば元に戻ると思うが……」  
僕は再び大きくため息をついた。どうして厄介事が次から次に起こるのだろう。  
まあ自分の不幸な星の元の生まれを嘆いていても仕方ない。まずは前を向いて歩こう。人間はポジティブが大事だ。  
「とりあえず家族にゃ見せられないよなこんな姿」  
いつも忍に血を吸わせてる時の状況から考えると、元に戻るのに数日はかかるだろう。となると……春休みに続いてまた自分探しの旅に出ることになるのか。どんだけ彷徨える仔羊なんだ僕は。  
必要最低限のものを用意して何回目かの家出をした。  
 
 
何の脈絡もなくて申し訳ないが、またもや僕は拉致監禁されてしまった。  
もはやお馴染みとなってしまった町外れの廃ビル。以前と同じようにそこで僕は両手を縛られていた。  
前回と違うのは僕は気絶させられてないということ、街中を歩いていたら漫画みたいに突然襲われて縛られ猿轡をされて袋に詰められここに来たこと、犯人が目の前の神原であることだ。  
「…………色々想像できるが、一応理由を聞かせてくれるか?」  
「……ああ、阿良々木先輩、本当に可愛いな」  
ダメだ、目が完全にイってる。ん? この姿で僕だというのがわかるのか?  
「ごきげんよう、阿良々木くん」  
戦場ヶ原が部屋に入ったきた。ていうかやっぱりお前かよ!  
「理由を聞かせてくれるんだろうな」  
「前回と同じ、保護よ保護。なんだか大変なことになっているみたいだから」  
地獄耳にも程がある!  
「どこで知ったんだよ」  
「阿良々木くんが自分で話してたじゃない」  
「?」  
「正確には部屋の中で話していたのをドアの外から盗み聞きしたのよ」  
「どうして僕の部屋の外にいたんだよ!」  
「家族の許可はとったわよ。話し声がしたから聞いてみるとおもし大変なことになったようだから神原に頼んで保護してもらったの」  
「今面白いと言いかけなかったか?」  
「まさか、気のせいよ。それにしても…………」  
戦場ヶ原はじっとこちらを見つめる。  
「な、何だよ?」  
「わからないのか阿良々木先輩、戦場ヶ原先輩は阿良々木先輩が可愛くて仕方ないのだ」  
「そうね……正直予想外だったわ。かっこいいのは知ってたけどこんなに可愛いとは」  
「全然嬉しくねえよ!」  
ただし、かっこいいと言われたのはまあ嬉しかったりする。  
「阿良々木先輩がそんな姿で出歩いていたら襲われること間違いなしだ、早めに保護出来てよかった」  
今まさに襲われてるようなもんだよ、お前らに!  
「もう大丈夫よ、お姉ちゃん達が守ってあげるからね、暦ちゃん」  
戦場ヶ原はそう言って僕の頬を撫でる。  
そこだけ聞くと優しい台詞に聞こえるがめちゃくちゃ怖い!  
「ていうか暦ちゃんって何だよ!?」  
仮にも同級生の男子だぞ!  
「何を言ってるの、あなたは今小学生じゃないの」  
「そういえばそうだな。私も年下に向かって先輩はないな。ここは戦場ヶ原先輩に倣って暦ちゃんと呼ばせていただこう」  
神原!? お前のことは信じていたのに!  
「暦ちゃん昨日は激しかったから疲れていないかしら? 何でもお姉さんに相談してね」  
 
「一応神原もいるんだから少しは慎めよ! 恥ずかしいだろうが!」  
「大丈夫だ暦ちゃん、元々全部聞いているからな」  
「何だと!?」  
ひょっとしたらと思っていたがまさか本当にとは!  
僕の人生はどうしてこんなにも困難なのだろうか。  
「大丈夫よ暦ちゃん、子どもの未来は希望に満ち溢れているわ」  
「そうだぞ暦ちゃん、元気を出していこう」  
「暦ちゃん暦ちゃんうるさいよ! あとそろそろ顔を撫でるのやめろ!」  
こそばゆいというかくすぐったいというか、ちょっと変な気分になりそうだ。  
「あら、どこか別のところを撫でてほしいのかしら?」  
突然太腿やや胸を撫でられ始めた。  
「お、おい、ちょっと!」  
身体を捩って避けようとするが、神原も加わった四本の腕からは逃げられなかった。  
「暦ちゃん、うふふ」  
「暦ちゃん、ふふふ」  
「いやーっ!!」  
僕の悲鳴が建物内に響き渡った。  
 
 
 
結局元の身体に戻るまでの数日は二人におもちゃにされまくってしまった(下手をしたらマジで犯罪モンだぞこれ)。  
まあ多少は嬉しいこともあった(否定したいけども)が、二度とゴメンだったので忍に厳重注意をした。『助けを求めればいつでも助けてやったのじゃが、呼ばれなかったので』とか言ってたが絶対嘘だ。  
そしてやっぱり妹には笑われ、両親は何も言わなかった。  
 
………残った宿題でもやってさっさと忘れることにしよう。  
「そうじゃ。犬に咬まれたと思って気にしないほうがよいぞ、暦ちゃん」  
「うるさいよ!」  
 

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