カリカリとペンをノートに走らす音が響く。
僕のものと戦場ヶ原のもの。
ただいま戦場ヶ原の家で受験勉強の真っ最中である。
「…………」
数学の難問に集中しているとき、ふと僕は顔をあげた。
戦場ヶ原が何かを聞いてきた気がするのだが。
だけど戦場ヶ原は変わらない表情でノートに目を向けており、傍らの麦茶を一口飲んだ。
気のせいだったか。
僕もまだ氷も融けきってない麦茶を口に含む。
「羽川さんのおっぱい気持ちよかった?」
僕は盛大に麦茶を吹き出した。
「げほっ、げほっ、げほっ」
「なによ、汚いわね」
僕のノートと参考書が麦茶まみれになってしまった。
ていうかなんだその質問は!?
「羽川さんの胸でご褒美をしてもらったんでしょう? どうだったか聞いてるのよ」
そうだった。
あの馬鹿みたいな発案はそもそも戦場ヶ原だったのだ。
「で、どうだったの?」
「…………」
なんと答えたものだろう。
僕の位置からテーブル越しに斜め45度の位置で座っている戦場ヶ原。
かつて神原の話を出してシャーペンを突き付けられたときよりも近い。
下手な答えやごまかしをしたら何をされるかわかったもんじゃない。
僕は脳の中身をフル回転させた。
できることなら昔やったように頭の中に手を突っ込んでいじくりまわしたいくらいだ。
「どうなのよ?」
すこしイラついたように聞いてくる。
あまり時間もない。
僕は咄嗟に思い付いたセリフを吐く。
努めて冷静を装って。
「戦場ヶ原ほどじゃないけど気持ちよかったよ」
「……………………」
長い沈黙。
裁判の判決を待つ瞬間はこんな感じなのだろうか?
実体験したいとはこれっぽっちも思わないのだけれど。
「そう」
短く一言口に出して戦場ヶ原は再びノートに意識を向ける。
どうやら正解だったようだ。
僕は心の中で安堵のため息をついた。
瞬間。
かつてのように突然戦場ヶ原の身体がこちらに飛びかかる。
腕を回して僕の頭を固定した。
だけど前と違うのは、シャーペンではなく唇。
目に突き付けられたシャーペンの代わりに僕の唇に戦場ヶ原の唇が重なった。
僕は突然のことに戸惑ったが、特に抵抗はしない。
唇を押し付けられるのも、舌が僕の口内に侵入するのもされるがままである。
いや、むしろ僕の方からも動いた。
そっと戦場ヶ原の首に腕を回す。
そのまま後ろに倒れ込んで戦場ヶ原を引き寄せ、とさっと僕達は抱き合ったまま横になった。
少しだけ唇を離し、お互いの顔を見つめ合う。
糸を引いた唾液が途切れないうちに僕達は再び唇を合わせる。
さっきよりも情熱的で、扇情的で、刺激的な、キス。
舌を絡め、唾液をすすり、激しく吸い合う。
僕は戦場ヶ原の背中に手を回し、思いきり抱き締めた。
「ん……ぷはっ」
唇を離すと、二人とも呼吸するのを忘れていたかのように息が荒い。
戦場ヶ原は力が抜けたか僕に全体重を預けてくる。
お互い相手の肩にあごを乗せ、軽く頬を擦り合わせた。
「…………受験勉強はいいのか?」
「できなくて困るのは阿良々木くんでしょ、私は意地悪なのよ」
勉強の邪魔をしてもいいかしら、と聞いてくる。
是非もない。
むしろ今の状態から勉強再開しようと言われる方が無理だ。
僕は戦場ヶ原の身体をまさぐり始める。
スカートをまくってその形のいい脚を晒して太腿を撫で回し、裾から手を差し入れて少しだけ汗ばんでる背中に触れた。
「ん……っ」
戦場ヶ原は特に動かず、僕に抱きついてされるがままになっている。
下着の上からお尻を揉み、ブラのホックを外した。
僕はそこで一旦動きを止める。
ホックを外したらそこからは二人とも自分で脱ぐ合図だからだ。
いや、別にそんな取り決めはないんだけどなんとなくそれがパターン化してしまっている。
だけど今日はなぜか戦場ヶ原は動かない。
どうしたのかと思いつつ背中を撫でているとか細い声がした。
「……脱がせて」
え?
今、何て言った?
以前は僕が脱がせようとするとぴしゃりと制止してきた戦場ヶ原が『脱がせて』とか言った気がするが?
戦場ヶ原は今度ははっきりと口に出した。
「脱がせてくれないと下着が汚れちゃうわ」
「!!」
そ、それってアレだよな、いわゆる濡れてるってことで……。
僕はごくりと唾を飲み、まず下から脱がしにかかった。
お尻や太腿に触れながらパンツをずり下ろしていく。
脚から抜くときにわかってしまったけど、すでに戦場ヶ原の秘所は随分と濡れそぼっているらしい。
その源泉に触れたい気持ちを押し殺しながら手探りでスカートを脱がす。
ちなみに戦場ヶ原はずっと僕にしがみついていたが、さすがに上着を脱がす時だけは腕を離した。
それでも片方ずつしか離さないため、ちょっと苦労したが。
今度は全裸になった戦場ヶ原が僕の服を脱がしにかかる。
相変わらず密着したままのためやりにくそうだが、僕は何も言わずされるがままになる。
やがて二人とも生まれたままの姿になり、再びきつく抱きしめ合う。
戦場ヶ原の体温と柔らかさが心地良くて、僕は肌を擦りつけるように身体を揺すった。
僕の股間の屹立した肉棒が時折戦場ヶ原の濡れた秘所に触れ、そのたびに戦場ヶ原は呻き声をあげる。
身体を起こして膝立ちになり、潤んだ瞳で僕を見つめた。
「もう…………いいわよね?」
そう言って僕が返事をする前に肉棒を掴み、秘口を指で開いてあてがう。
先っぽに濡れた感触がして、その気持ちよさに僕は声を絞り出した。
「うん……戦場ヶ原の中に……入れさせて」
言うが早いか戦場ヶ原は腰を沈め、僕の肉棒を飲み込んでいく。
「んっ……」
思わず声が出たのは僕か戦場ヶ原か、多分二人ともだろう。
戦場ヶ原は中腰で先っぽが埋まった状態で一旦動きを止め、僕の腹に手をついて身体を支える。
口を真一文字に結び、声が上がるのを堪えながらゆっくりと動き始めた。
カリで入口付近を擦るように小刻みに腰を振る、戦場ヶ原の一番好きだと思われる動きだ。
気付いているかは知らないが、騎乗位をするときはまず必ずこの動きをする。
せつなそうな表情で声を押し殺して腰を時には上下させ、時には前後左右に振り、時には半円を描くように回転させた。
やばい!
ものすごく気持ちいい!
前戯らしい前戯はしていないのに戦場ヶ原の中は充分に濡れそぼっており、一番締め付けの強いところでカリや裏筋が擦られる。
僕は思わず戦場ヶ原の腰を掴み、動きを止めさせる。
「…………気持ちよくなかったかしら?」
「いや、そうじゃなくて」
そこではっと気が付いた。
僕くらいにしかわからないだろうほどの小さな変化で戦場ヶ原の表情に不安みたいなものが見て取れたのだ。
同時に少し戦場ヶ原の様子が変だったのも説明がついた。
多分戦場ヶ原は不安と嫉妬に苛まれているのだ。
自分が羽川と比べてどうなのか。果たして僕が本当にどんな時でも自分を選んでくれるのか、自分を愛してくれるのか。そして自分は僕を気持ちよくしてあげられてるだろうか。
僕はそんなに鈍感ではないからそれらを察することが出来た。
ごめんな戦場ヶ原。
僕の意志が弱いせいでいろんな女の子に振り回されてるから不安になるよな。
でも結局僕が一番好きなのは戦場ヶ原、間違いなくお前なんだぜ。
「戦場ヶ原」
僕は戦場ヶ原を迎え入れるように大きく両腕を広げる。
戦場ヶ原はその中に倒れ込み、僕達は再び身体を密着させた。
戦場ヶ原の首筋にキスをする。
そしてそのまま。
思いっきり吸った。
「んんっ!」
戦場ヶ原が声をあげる。
ちゅっ、ちゅっ、と音が響くくらいに強く。強く。
「や……っ、跡がつくわよ」
そうは言ってもあまり抵抗はしてこない。
たっぷり吸って唇を離すと、赤く跡が残っている。
「今度は僕に付けてよ」
僕は顎を上げ、戦場ヶ原に首筋を晒す。
「僕が誰のものかっていう印をさ」
「…………」
うおおおおっ!
やばいやばいやばいやばい!!
戦場ヶ原の表情自体はほぼ変わらなかったが、身体がぶるぶるっと震えた。
そして膣内がぎゅぎゅぎゅぎゅっと締まり、別の生物がいるかのように奥に引き込んでくる。
血が滲むほどに唇を噛み、あまりの気持ちよさに一気にせり上がってきた射精感をなんとか押さえ込む。
気を抜くと一瞬で果ててしまいそうだ。
これは戦場ヶ原の身体が僕の言葉に反応しているということなのだろうか?
戦場ヶ原は僕がつけた跡を愛おしそうにさすり、首筋に吸い付いてきた。
ちゅ、と吸われて僕も声が出そうになる。
痛いようなくすぐったいような、でも何となく気持ちいい感覚。
僕は戦場ヶ原の髪に指を絡め、そっと頭を撫でる。
ひとしきり吸ったあと戦場ヶ原は少し唇の位置をずらし、また吸い付く。
どうやらひとつでは物足りないらしい。
いいさ、いくらでも付けてくれ。
そして頭を捻らせて反対側の首筋を晒した時。
僕は自分の失態に気付いた。
「……………………」
そう、そこには忍によってつけられた噛み跡があるのだ。
これでは僕が忍のものだと言っているに等しい。
何も言い訳できず、次の瞬間にはこの首を食い千切られてもおかしくない。
僕は覚悟を決めて目を閉じる。
だけど。
戦場ヶ原は。
その噛み跡にそっと口づけたのだった。
そしてその部分を激しく吸う。
塗り潰すように。
上書きするように。
その周りも戦場ヶ原のキスマークで埋められてしまった。
人が見たら湿疹かなにかだと思うかもしれない。
戦場ヶ原はもう一度僕と唇を合わせる。
舌も絡めない、唾液の交換もしない、ただ触れ合うだけのキス。
だけどそれは何よりも僕の心に響いた。
「戦場ヶ原、好きだ」
「私もよ、阿良々木くん」
「嬉しいよ」
「嬉しいわ」
僕は身体を起こし、戦場ヶ原を横たわらせる。
そのまま腰を進めて奥まで僕のを埋めていく。
「ん……っ……奥まで……来てる……っ」
僕は身体の角度を調整し、戦場ヶ原の膝裏を掴んで大きく開かせる。
「もっと奥、叩くよ」
「え……ああっ!」
最奥まで埋め、肉棒の先端が子宮口に届くと戦場ヶ原の身体がびくんと跳ねた。
僕は腰を掴み、あたかも子宮口から中に入ろうとするかのようにぐりぐりと腰を揺らして突く。
何度も何度も何度も。
戦場ヶ原は息も絶え絶えに言葉を発する。
「だ、駄目……もう…………そこ……行き、止まり……無理…………無……理……………無――――」
人形の糸が切れたように、いや、糸がそれぞれの方向に引っ張られたように手足が大の字に伸びた。
足は膝からつま先までぴーんと真っ直ぐになり、横に伸ばされた手は開いたり閉じたり忙しなく動く。
首でブリッジをするように背中と腰がぐうっと浮くほどに反り返る。
びくんっ、びくんっ、と身体が痙攣し、はっ、はっ、としゃくりあげるような呼吸をした。
やがてぱたりと力が抜け、大きく肩で息をする。
そんな絶頂の余韻に浸っている戦場ヶ原を僕は眺めていたけれど、もう限界がそこまで来てしまっていた。
「戦場ヶ原……僕ももう……イキそう」
戦場ヶ原は無言で脚を僕の腰に巻き付けて絡める。
さらに僕の二の腕辺りを掴み、しっかりと僕が離れないよう押さえた。
その行動を、このまま戦場ヶ原の膣内に射精してもいいのだと解釈した僕は再び腰を揺すりだす。
「戦場ヶ原、戦場ヶ原、戦場ヶ原っ」
「阿良々木くん、阿良々木くん、阿良々木くんっ」
きゅうきゅうと締め付けてくる戦場ヶ原に僕はとうとう限界を迎えた。
「出るっ……いくよ……戦場ヶ原の、中に、出すよっ!」
「うんっ……きて……出して……阿良々木くんの、いっぱい」
「戦場ヶ原ぁ……っ…………あっ!」
僕の身体が大きく震え、肉棒の先端から我先にと精液が噴射された。
「ん……っ」
それを体内で受け止めた戦場ヶ原もぶるっと身体を震わす。
もちろん一度で済むはずがなく、どくんどくんと幾度も精を放つ。
「あっ……あっ……」
精液が尿道を駆け抜けるごとに脳に快感の電流が走り、僕はそれに翻弄されながら腰を振って声をあげる。
僕は精液を出すたび、戦場ヶ原はそれを受け止めるたび身体をびくんびくんと痙攣させた。
すべてを出し切り、大きく息をついた僕は戦場ヶ原の身体に倒れ込む。
そんな僕の背中に戦場ヶ原は手を回して抱き締めてくれた。
そのまましばらく余韻に浸ったあと、僕は身体を起こす。
「抜くよ」
「ええ」
腰を引いてゆっくりと戦場ヶ原の中に埋められた肉棒を引き抜いていく。
ずるるっと二人の体液にまみれたものが姿を現してくる。
「ん……っ」
戦場ヶ原が眉を顰めた。
その表情を見て僕の中にちょっとした悪戯心が湧き上がる。
半分ほど抜いたものを腰を揺らしながらまた少し埋めてみる。
「んんっ!」
びくんと戦場ヶ原の身体が跳ねた。
その反応が何となく楽しくなって、感じる所を擦りながらちょっとずつ引き抜いていく。
「や、やめて……っ」
「ん、ゆっくり抜いているだけだよ?」
カリが入口に引っかかるとこまで来たとき、僕は今日一回も触れていない陰核に指を伸ばして軽くつまんだ。
そのままなるべく刺激を与えるように一気に肉棒を引き抜く。
「あ、や、やぁっ!」
戦場ヶ原が何かを堪えるように全身に力を入れる。
だけど僕が陰核を擦るとびくんっ、と身体が反応して力があらぬ方面に入った。
「や、や、いやぁっ!」
先程かららしからぬ悲鳴をあげていたかと思うと、突然ぷしゅ、と水音がする。
そして戦場ヶ原の股間から勢いよく黄色い水が噴き出してきた。
どうやら気持ちよさのあまり失禁してしまったようだ。
その時の僕が何を考えていたのかはわからない。
だけど気が付いたら自然と戦場ヶ原の尿道口に口をつけていた。
「ちょ、ちょっと! 何をしてるの!?」
戦場ヶ原が狼狽えた声をあげ、僕の頭を押して突き放そうとする。
だけど僕はしっかりと戦場ヶ原の腰を掴み、噴き出される液体を口内に受け止めて飲み込んでいく。
ちら、と見上げると目線が合い、ばっと戦場ヶ原は両手で顔を覆ってしまう。
僕は戦場ヶ原がすべて出し終わるまで口を離さなかった。
「戦場ヶ原」
「…………」
「おーい、ガハラさん」
「…………」
戦場ヶ原は僕に背を向け、部屋の隅でうずくまっている。
先程肌を重ねたあと、後始末をしてやってからずっとこうだ。
…………まあさすがにあれを飲んだりしたのはどうかと今の自分でも思う。
僕は戦場ヶ原の全身から発せられる『近づくなオーラ』をなんとかはねのけて近づき、そのまま背中からそっと抱く。
戦場ヶ原はぴくっと反応したが、抵抗はされなかったので少し強めに抱き締めた。
ここで何か気の利いた一言が出れば機嫌も治るだろう、僕は脳内でかけるべき言葉を模索する。
「戦場ヶ原の、美味しかったよ」
「……………………」
「……………………」
何を言っているんだ僕は!!
自分で自分のセリフに驚愕してしまった。
こ、これをフォローするのは口の上手い保健室引き籠もり女子高生や口八丁で生きてる本名不明戯言遣い大学生でも不可能ではないだろうか!?
だけど戦場ヶ原はふう、とため息をついてこちらを振り向いた。
「まあ阿良々木くんが変態なのは知っていたから今更悩むのもなんだけどもね」
そっと身体に巻き付いてる僕の腕に手を添える。
「なんで好きになっちゃったのかしらね、こんな変態をこんなにも」
「お互い様だろ。以前僕を拉致監禁したときに『僕が汚物にまみれてようとも躊躇なく抱擁できる』って言ってたじゃないか。僕だって同じさ」
「あれは嘘よ」
「嘘なのかよ!」
しかもよりによってこのタイミングでそう言うか!
「それに拉致監禁じゃなくて保護よ保護、人を阿良々木くんみたいに言わないでちょうだい」
「『犯罪者みたいに言わないでちょうだい』みたいな感じで僕の名前を出すな!」
まったくこの女は。
僕の方こそどうしてこんなにも好きになってしまったんだろうなぁ?
まあとりあえず戦場ヶ原はいつもの調子を取り戻したようなので良しとしよう。
ちなみに。
この日以来僕は戦場ヶ原にキスマークを付けられるのが習慣になった。
忍の噛み跡の部分を自分ので塗り潰す。
おかげで絆創膏がますます手放せなくなってしまった。