「寂しいでしょうけどこれを私だと思って我慢してちょうだい」  
戦場ヶ原はまるで今生の別れのような台詞を言いながら僕に包みを渡し、旅立っていった。  
土・日・祝日の三連休に父親と出かけなければいけないらしい。  
何があるのか詳しくは知らないが、何となく言いにくそうな雰囲気だったので特に聞かなかった。  
見送りに来るように厳命され、今は駅からの帰りである。  
「何だろうな、これ」  
受け取った包みの中身が気になったが、帰ってから確認することにしよう。今日は受験勉強も休みの日だ。  
八九寺や千石に会ったりとか羽川や神原から連絡がきたとかそんなフラグが立つこともなく、僕は自分の部屋まで戻ってきた。  
特にしなきゃいけないことがあるわけでもなし、机に向かい、早速戦場ヶ原から受け取った包みを開封する。  
「……………………」  
本が入っていた。これは外からでもわかるので予想の範疇である。  
予想外なのは表紙の記事に『ツンデレ女の子特集!』と書かれた男性向け雑誌だったことだ。  
いわゆるエロ本。  
「何を考えているんだあいつは……」  
いや、それこそ考えるまでもない。要するに溜まったら自分とする代わりにこれで抜けと言っているのだ。  
こんな特集の本を用意するあたり自分がツンデレであることはわかってるらしい。ほとんどデレないけど。  
「というか変なとこに気を使うなよ……」  
男の子のデリケートな部分だぞ。  
「おや?」  
包みにまだ何か入っていた。僕はそれを取り出してみる。  
「っっ………………!!」  
服が入っていた。だけどそれは寒さをしのぐのにも肌を隠すのにもあまりに頼りない面積だ。  
ていうか下着だった。女物のパンツである。  
混乱している僕の目に付属していたメモの内容が飛び込んできた。  
『今朝まで履いていたものよ。自由に使ってちょうだい』  
……僕はどのくらい茫然としていただろう、少なくとも15分は呆けていたと思う。  
さっきも洩らした言葉がもう一度出てきた。  
「何を考えているんだあいつは……」  
まったく、これじゃ僕が女の子の下着大好きな変態みたいじゃないか。  
僕が好きなのは戦場ヶ原なんだ。  
だから戦場ヶ原の下着になら興奮しても全然不思議じゃないよな。  
「うん、普通普通」  
僕はその下着を手に取る。かすかにまだ温もりが残ってる気がするのは思い込みだろうか?  
「しかし……」  
手に取ってはみたものの、紳士たる僕には使えと言われてもどうすればいいのかわからない。  
 
うん、全然わからない。あんなことやこんなことなんて頭の隅にちらりとも思い浮かばない。  
ましてやそんなこととかこんなことなんて一生をかけても考え付かないだろう。  
「……とりあえずこっちを読んでみるか」  
僕はエロ本に視線を向けた。  
ぱらぱら見ると特集というだけあって、グラビアからエロ漫画まで色々混ぜている。ちなみにグラビアはロングヘアの女の子が多い。少しでも自分に似てるのを集めているのだろうか?  
ていうか。  
「あいつどこで手に入れたんだこんなもん……」  
しかもよく見ると目次に『←オススメ』とかチェックが入ってる。  
「気を使いすぎだ!」  
この場にいずして僕に突っ込みを入れさせるとは恐るべし戦場ヶ原。  
まあなんだかんだ読んでるとエロい気分になってきた。発情したら使えと用意されたもので発情してたら本末転倒な気もするが、別にいいか。せっかくなので使わせてもらおう。  
今日は両親は仕事だし、妹二人は「遠出するから夕飯まで帰らない」とのことで、家には僕しかいない。  
カチャカチャとベルトを外し、ちょっと大きくなったものを取り出そうとした時だった。  
「何じゃ、自慰行為でも始めるのか?」  
「うわあぁっ!」  
ガッタァン!!  
バンパイアAが現れた!  
暦は驚き戸惑っている!  
バンパイアAはこちらを見ている。  
「何をそんなに驚いておる? 椅子から転げ落ちる程のものでもあるまい」  
「……タイミングってのがあるんだよ」  
人に見せられないような事をするときに声をかけられたら驚きもする。  
転んだときに脱げかけたズボンを直しながら僕は立ち上がった。  
「ん、やめるのか?」  
「お前が見ている前でするわけないだろ」  
「見ていなくともすぐ把握できるわい。儂は常におぬしの影にいるんじゃぞ」  
そうなのである。もはや僕と一心同体ともいえる忍にはどんな隠し事も通用しない。僕が一人でこそこそしていることも筒抜けだろう。  
「気分の問題だよ、目の前にいるのといないのじゃ大違いだ。だいたいまだ昼なのに何で出てきた?」  
「それよそれ。ひとつ思い出したことがあってな」  
忍はカーペットにあぐらをかく。  
女の子がはしたない、と思ったがはるかに年上なんだった。  
忍はその小さな口をあー、と開ける。  
「どうせ自慰行為をするのなら儂の口を使ってみんか?」  
「……は?」  
僕は思わず忍の口の中を見つめてしまった。  
意味が分からない。  
だいたいその八重歯というか牙が怖い。  
「お願いします」  
 
僕の口が勝手に変な言葉を発して、慌てて否定する。  
「じゃなくて! 何なんだよ突然!?」  
「んー、ちょっと実験してみようかと思うてな」  
「?」  
「吸血鬼は血液を摂取するわけじゃが、それは血液でなければいけないというわけではなく、老廃物でない体液でも代用できるらしいのじゃ」  
ええと……それはつまり。  
「うむ、この場合で言うと精液じゃな」  
「……マジかよ」  
「そもそもは吸血鬼の能力のひとつである魅了もそのためにあるらしいんじゃが、代用なんぞ必要なかったので試したことはない。が、今の儂らの状況の時はどうなるかと思うてな」  
「……それで実験というわけか」  
「うむ、どうじゃ? 血をやるのと同じようなものじゃからあのツンデレ女に対して浮気だと思うこともなかろう。風俗に通うよりも全然マシじゃよ」  
「伝説の吸血鬼ともあろうものがどんだけ俗物になってるんだ!!」  
忍野か? これも忍野の教育なのか?  
「それに男は女の口でしてほしいものだとおぬしの持ってる本にあったぞ」  
「勝手に人のエロ本を見るな! 中学の男友達かお前は!」  
まあ。そんなのほとんどいたことはないけど。  
「で、どうなのじゃ?」  
ううむ…………いや、しかし。  
「儂に隠し事はできんと言うておろうが。言い訳など探しておるでない」  
「くっ……」  
「それにあのツンデレ女は口ではしてくれんのじゃろう? 『そんな汚いものを私が口に触れさせるわけがないじゃない。阿良々木くんみたいな単細胞にすら過剰な期待をさせてしまったなんて私もまだまだ世間知らずのお嬢様だったようね』とか言って」  
「……とりあえずお前の声優が優秀でないのはわかったよ」  
ふう、と僕は溜め息をつく。  
「じゃあ……お願いしていいかな?」  
「うむ、どんと来るが良い」  
忍はその場で座ったまま目を瞑り、口を開ける。  
…………この場合どうすればいいんだろう?  
AVとかだと女性の方からしてくれるんだけど、忍は明らかに経験なさそうだし、僕ももってのほかである。  
とりあえずいきなりかもしれないけどくわえさせてみるか。  
僕は期待ですでにギンギンに固くなった自分の肉棒を掴み、忍の頭を押さえて口内に差し込む。  
「う……っ」  
心地良い温かさが伝わってきて僕は思わず呻いた。  
 
僕は自分のサイズがそんなに大きいとは思ってないが忍自身が小さいため、口いっぱいになってしまっているようだ。  
唇で締め付けられるのは気持ちいいが、忍が苦しくないかと様子を窺う。  
「…………」  
特につらそうな感じはなく、こちらをじっと見ている。  
が、その視線に僕は改めてドキッとしてしまった。  
金髪の少女に僕のモノをその口にくわえさせているのだ。ロリコンじゃない僕でも興奮して当たり前である。  
両手を忍の頭に添えて固定し、ゆっくりと出し入れしてみた。  
「うわ……」  
その感触も気持ちいいが、それよりもこの光景がめちゃくちゃエロくて全身がぞくぞくとする。  
忍が僕のズボンのベルトに手をかけた。今のチャックから出している状態はお気に召さないらしく、下半身をすべてさらけ出された。  
何だかアンバランスな気がするので、僕はそのまま上半身も脱ぐ。  
「忍も脱いで」  
返事はなかったが、すっと忍のワンピースが消えた。  
そういえば服も能力で出してるんだっけ。  
「っ!」  
れろ、と忍の舌が這い、ちゅっと吸われた。  
「ちょ、ちょっと待った!」  
僕は腰を引いて忍の口から引き抜く。  
忍が不安そうにこちらを見上げてくる。  
「痛かったか?」  
「い、いや、そうじゃなくてその……良すぎて」  
忍は少し考えて、やがてにやにやと笑い出した。  
「そうかそうか、儂の口が気持ち良すぎて腰が抜けそうで立っていられなかったんじゃな」  
「うう……」  
「可愛いやつじゃな。ほれ、そこに座るがよい」  
可愛い外見の少女に可愛いと言われてしまった。戦場ヶ原にも言われるけど、僕はそんなに男っぽくないのだろうか。  
まあ格好良くないとこはあるだろうけど。言われてこんなふうに素直に椅子に座ってしまうとことか。  
「とりあえず儂が好きなようにしてみてよいか?」  
僕の脚の間に身体を入れてそう言った忍に僕は頷く。  
「まあ儂もおぬしの持っておった本の知識しかないしな、おぬしが自分で動きたくなったら好きなようにしてよいぞ」  
そう言って忍は僕の竿に舌を這わせ始めた。  
「んっ……」  
気持ちいい。手や女性器とはまた違う感覚。僕は快感で身体が勝手に動くのを必死に抑える。  
 
少しでも気を紛らわそうと忍の頭を撫でる。  
軽く指を立てて髪を梳くようにすると嬉しそうに忍の目が笑った。  
が、僕が空いた手を伸ばしてほとんど膨らんでない胸の突起に触れようとすると途端にその目が険しくなる。  
ガリッ!  
「ぎゃっ!」  
噛みつかれた!  
牙ではなかったので穴が開いたりとかはしなかったが、それでも痛い!  
「調子にのるでない。好きに使ってよいのは口だけじゃ」  
そういえば手も服を脱がせたとき以外はずっと床についたままだ。  
「うう、わかったよ」  
僕が手を引っ込めると、忍は今自分が噛みついたところをぺろぺろと舐める。  
治癒力の効果かただ単に快感が上回ったのか痛みが消えていく。  
根元の方まで這っていき、袋まで到達して舌で弄ばれる。  
「うっ……」  
付属器官だと思っていたところがこんなにも気持ちいいとは。  
左右交互に間断なく刺激される。  
一番敏感な先っぽはほとんど舌でされていないが、さらさらの金髪の前髪が時折撫でてきて快感がどんどん高まっていく。  
限界が近付いてきて、僕は悲鳴のように叫んだ。  
「し、忍っ、くわえて!」  
すぐさま忍は大きく口を空けて僕のモノを包んでくれる。  
頭を掴んでじゅぽじゅぽと音が響くくらいに激しく出し入れしたが、忍は特に抵抗の意志をみせない。  
どころか、舌で先っぽの割れ目を刺激してきてくれる。  
「くうっ!」  
多分戦場ヶ原では経験させてくれない快感。  
でももしこんなことをあの戦場ヶ原がしてくれたら……。  
その光景を想像したら一気に射精感が高まった。  
忍の唇をカリ首の位置に固定し、指でしごく。  
「忍っ……唇……締めてっ」  
ぎゅむぎゅむとカリ首を忍のピンク色の唇が締め付ける。  
「んっ……う」  
唇を噛んで堪える僕の目に机の上に置いてあった戦場ヶ原の下着が写った。  
僕は無意識のうちにそれを手に取り、自分の顔に押し当てる。  
すう、と吸い込むと戦場ヶ原の匂いが身体の中を駆け巡った。  
「あ、あ、出るっ」  
僕は手の動きを早める。  
「せ……戦場ヶ原……っ」  
びゅるっ!  
ついに僕は射精した。  
「あっ……あっ……」  
戦場ヶ原の下着の匂いを嗅ぎながら忍の口にびゅっびゅっと精を放つ。  
忍は舌でそれを受け止めながら、こくんこくんと喉を鳴らして飲み込んでいく。  
「っ……はぁ」  
全部出し切り、最後の一滴まで吸い出されて僕はぐったりとなる。  
ちゅぽん、と音を立てて忍は口を放した。  
 
「すごい量じゃったな、飲みきれないかと思ったわ」  
ぺろ、と舌で自分の唇を拭いながら言った。  
「ふむ」  
自分の身体を確かめるように動かす。  
「まるっきりの代わり、とまではいかんが多少の効果はあるみたいじゃな……しかししてやっておるのは儂なのに他の女の名前を叫ぶとは」  
「……ごめん」  
「ふん、まあよい」  
忍はワンピースを身に纏う。  
「これからは一人でするのは禁止じゃ。そんな勿体ないことはさせん」  
「勿体ないって……」  
「あのツンデレ女がおらん時は儂が口でしてやる、もちろん飲ませるのが交換条件じゃがな」  
それは僕がだいぶ得をしている気がするが。  
「じゃあ儂は寝るとする、ごちそうさまじゃ」  
言うなり忍は僕の影に消えていった。  
それを見届けて僕は服を着始める。  
「僕のプライバシーって何なんだろうな……」  
忍と生きていくのは自分で選んだ道だから仕方ないけど。  
とりあえず僕は戦場ヶ原の下着を引き出しの中の簡易金庫の中に仕舞う。そこには羽川の下着も大切に保管してある。  
「また家宝が増えたのぅ」  
「うるさい、早く寝ろ!」  
 
 
 
 
 
 
 

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