千石に身体を洗ってもらってから一週間が経つ。
あの後、なぜか忍に身体を押さえつけられて無理矢理洗われた。
僕の身体はそんなに汚かったのだろうか。
もしかしたら臭っていたのかもしれない。
忍にも千石にも股間を必要以上に丁寧に洗われた気がするんだけど…。
なっ!? それってヤバいんじゃ……。
ま、まぁそういうことに気付いていて千石は身体全体を使ってあんなに一生懸命洗ってくれたんだろうな。
うん、優しいやつだ。
疲れて痙攣しながらも頑張って、しっかり洗おうとする奴なんて他にいないだろうし。
僕は幸せ者だ。
あれから月火ちゃんはというと……、火憐ちゃんと組んで僕を襲おうとしていた。
というか何度も襲われた。
初めは朝に起こしにきた時、ちょっと強引に何かを迫られる程度だったけど、二、三日も経つと結構本格的に襲われ始めた。
流石は参謀。
やることが……いや、考えることが違うな。
でもどうしてか追い込まれる度に忍が助けてくれた。
いつもなら笑って放っておくと思うんだけど、心変わりでもしたのか?
なぜ僕が襲われるのかはわからないけど、火憐ちゃんが僕を襲うことにノリノリだったのには驚いた。
また歯磨き勝負を挑んでみるか。
いや、神原先生に頼んで火憐ちゃんの羞恥心の底の奥の底の核をむず痒くえぐるような何かを伝授してもらわなきゃダメだな。
そうしないと火憐ちゃんに喜ばれるだけでは済まないで、僕も違う世界に連れ去られそうになる。
危険だ。
それに神原が月火ちゃんに取り込まれない内に勝負を決めなきゃ確実に負けるよな。
何に負けるのかはわからないけど、絶対に負けちゃダメな気がする。
あれっ? そういや火憐ちゃんと神原はもう組んでるんだっけ?
身体的には最強のドMコンビ。
どんな手を使っても勝てる気がしないし、なにより悦んでいるドMコンビを想像したくない。
屈強な肉体と何をしても喜び悦ぶ精神を持ち合わせるなんて…なんて卑怯な奴等だ。
二人を会わせたのはやっぱり失敗だったか。
最近はこんなことを大真面目に考えている訳だけど、本当に本気で真剣だった。
ちょっと前、夜が明ける頃に寝込みを襲われた。
相手は火憐ちゃんと月火ちゃん。
その時も忍は何も言わず僕に手を貸してくれた。
僕が目を覚ますと両手両足が身体の後ろで何かに縛られていて、全く身動きが取れない状態だった。
さすがに焦ったけど、いつか戦場ヶ原に拉致監禁された時みたいに忍がさらっと手錠を切断し、
月火ちゃんと火憐ちゃんが目を丸くして驚いた隙を突いて逃げ出すことに成功した。
どこから仕入れてきたんだよ。
この頑丈そうな手錠。
逃げ出す前に正気を取り戻した月火ちゃんが「キスの責任……」とか言っていた気がするけど、聞かなかったことにした。
いくら家族でも女の子が『責任』なんて言葉を使うと怖い。
強者で優位に立ちながらも『責任』っていう言葉を使うだけで被害者っぽくなるんだから世の中怖いものだ。
そんなことがあって、家にいるのは危険だと判断した僕は外へ出て散歩することが多くなっていた。
しばらくするとふらふら歩いている八九寺を見つけた。
八九寺に会えるなんて……、今日はラッキーな日だな。
八九寺と二人きりで会うために待ち合わせする、ということは恥ずかし過ぎて未だに出来ないし。
八九寺を見つけると狙いを定めて露骨にセクハラをする、なんてことはもうしない。
なぜか誤解されているようだけど、本当に僕は初めて会った時から八九寺なんかに興味はないんだ。
ちょっと気になって声を掛けただけだし…。
というか大嫌いだからな、あんな奴。
八九寺を見つける度にテンションも下がる一方だよ、まったく。
でも僕はもう成長して大人になったんだし、嫌いだからって理由で無視したりしないで、きちんとクールな対応をしなきゃいけない。
毎回同じように、八九寺の名前を大声で叫びながら後ろから抱き着いて、
頬づりして、頬っぺたにキスの雨を降らせて、口の端っこにキスの嵐を浴びせて、
胸を揉みしだいて、パンツをずり下げようとして、本気で八九寺の唇を狙う、なんて考えたこともない。
いつでも紳士な僕としては大人の社交場のような清い交流を深めるのさ。
……身体は意外と身勝手で僕の意思に反したようだ。
いつも通り大きな声を発し、
「はちくじぃ―――――――――――――!!!!!!」
と愛しい名前を叫んだあと、全身を使って固く強く熱く抱擁した。
八九寺は僕と出会った喜びのあまり「きゃあああああ!!」なんて恥ずかしげもなく嬉しい悲鳴を上げてくれる。
……そんな僕らの姿を、栂の木二中の制服を着た女の子に目撃された。
……ヤバイ。
火憐ちゃんが言ってた噂のセクハラ高校生じゃないことを証明するために僕は叫んだ。
「か、可愛いなっ、このっ! さっ、さすがは僕の妹だ!!」
大声で主張すると変な者というか、変な態を見るような蔑んだ目つきで一瞬こっちを見たように感じる。
僕が確認しようと女の子の方を向くと、その女の子は目が合わないようにさっと視線をどこかへ移動させていた。
……信じられていない。
これじゃ嘘を吐いた意味がない。
その間も八九寺は嫌がった素振りを見せる。
もちろん僕も容赦はしていない。
さっきの言葉を言い放った時もずっと手を休めることなく八九寺の胸を揉みしだきながら、頬にキスをしていた。
手足をバタバタと動かして「ぎゃああぁぁぁぁあああああああああああ」なんて愛くるしく叫んでいる八九寺は、
傍目には本気で嫌がっているようにも見える。
八九寺って本当に演技上手いよな。
演技派女優も目を丸くするような本気で嫌がった素振りを見せるから誤解されたじゃないか!
僕は変質者じゃないぞ!
変質者は自分のことを『変質者じゃない』と言い張るだろうからここで僕が何かを言っても何の意味もない。
くそっ、世知辛い世の中とはこのことか!?
やっぱり僕が八九寺と会うとロリリスク、ロリリターンという言葉が付いて回るらしい。
だけど僕は負けない。
周りからロリコンと呼ばれるリスクを背負いながらも、僕に抱きつかれて身体中を弄られ
て心の底から喜んでいる八九寺の姿を見るのは本当に嬉しいんだ。
それが僕にとっては大きなリターンになる。
僕は『ロリコンという誤解を受ける勇気』を持ってるだけなんだ!
でも、そもそもあいつは僕より年上だし、見た目がアレなだけで本当はロリじゃないんだよな。
……心の中で軽く自己弁護をし、八九寺といくつか言葉を交わし別れた後、
八九寺に嫌われると僕の心が折れることを再確認した。
あいつとの交流を深めるためなら何でもしよう、と心に誓ったところで千石の後姿を見つける。