もう残暑という言葉が使われるような時期だけど、長袖を着るにはまだ早い。  
というのに千石はいつかみたいに露出の少ない服を着て、フラフラとしていた。  
ただ、道を彷徨いながら歩いている八九寺とは違い、身体が左右に揺れているように見える。  
 
……肌が露出していない。  
その姿は、一ヶ月くらい前に出会った時の怪異に憑かれた千石を思い起こさせる。  
そういえば、貝木の流行らせた『おまじない』はどうなったんだ?  
火憐ちゃんたちが解決するために何かと走り回っていたようだけど、一人歩きした『おまじない』を止めることは簡単じゃないだろうな。  
出来なかったのかもしれない。  
 
千石は気配でも察したのか、僕に気付くと走って近づいてきて勢い良く抱きついた。  
話を聞こうと声を掛けると、「…また……」とだけ言って僕の胸の中で泣き始める。  
こんな時でも僕の呼び方は変わらないようで「…ぁ……あなた。助けて…」と小さな声で呻いていた。  
泣きながら照れるってどうなんだろうな。  
大変そうなところ申し訳ないんだけど、そんな可愛い顔で見られるとまた勘違いしちゃうじゃないか。  
僕はどうしてもこの娘を護ってあげたくなる性分のようだ。  
今も千石が落ち着くように「大丈夫だ」と声を掛け、優しく抱き締めてしまっている。  
でももちろん妹のような存在の千石に手を出すはずはない。  
……本当の妹にこんなことしたことあったっけ?  
 
 
千石から詳しい話を聞くと、  
 
違うクラスの女子にまた『おまじない』をかけられたという。  
目の前で『おまじない』をかけたと宣告された千石は気が動転したのだろうか、また正しい対処法を取ってしまったようだ。  
う〜ん、内気な千石が勇気を振り絞って前髪を上げたことで、学校内で千石の評価が一気に高まったんだろうか。  
まだ夏休み中なのに。  
兄の欲目じゃなくても千石は可愛い。  
その結果、今まで目立っていなかった千石に嫉妬した女の子がいたんだろうな、たぶん。  
 
何もしなければ大丈夫なのに千石は気が弱いのかなあ。  
僕と一緒にいるときは、有無を言わさない雰囲気を持ってるんだけど……。  
僕が千石から出される選択肢は大抵の場合が一択だもんな。  
あれっ、僕の兄としての威厳が失われている!?  
 
とりあえず状態を確かめるためにまた千石を僕の部屋に連れて来た。  
玄関に月火ちゃんや火憐ちゃんの靴はなくて、二人は外出しているみたいだった。  
特に警戒する必要はなかったようだ。  
 
僕の部屋に入ると千石は何も言わなくなった。  
沈黙がしばらく続いた後、何も言わずに突然服を脱ぎ始めた。  
 
『おまじない』をした、と言われた千石もきっと今の僕のような気持ちだったのだろう。  
意味がわからない。  
気が動転して何も出来ない。  
鼓動が凄まじく高鳴ったんだけど、どうしてだろう。  
僕が千石相手に興奮するわけがないのに。  
とりあえず後ろを向いておいたけど、こういうときの正しい対処法ってどんなんだ?  
羽川なら知っているか?  
でも僕の部屋に裸の中学生がいることを知ったら軽蔑されるかもしれない。  
大きな胸の命の恩人に軽蔑されるなんて…、そんなことになったら僕は生きていけない!  
せめて神原がいてくれたら……。  
 
「…ぁ…あなた。…見て」  
部屋に入ってから初めて千石が口を開いた。  
その呼び方はもう定着したのか?  
良く考えてみるとこの呼び方って結構ヤバいんじゃないだろうか。  
 
周りに人がいる状況で「あなた」って呼ばれて僕だけが振り向くのって、まるで夫婦みたいじゃないか!  
ただの二人称代名詞のはずがこんな革命的で変則的な変化をみせるなんて!  
これで誕生日に指輪でもプレゼントしたら誤解が一気に広まりそうだな。  
 
でもこれは千石にとてつもなく大きな迷惑が掛かるんじゃないか?  
ここは兄として注意をするべきだな。  
冗談っぽく何かを言おうとして、振り向いた僕の身体は固まった。  
 
千石はブルマさえ、いやパンツさえも穿いていない。  
 
左手で胸を隠し、右手で股を隠す。  
でもそんなところを凝視するようなことは出来なかった。  
かつて約一秒という刹那の間に四ページ以上にも渡って羽川の穿いていたパンツを頭の中で懇切丁寧に、出来るだけ精密に描写した僕だけど、今回はそんな余裕がなかった。  
 
 
……何かが千石の身体に巻きついてた。  
 
 
見覚えがある。  
蛇だ。  
前と違うのはその細さ。  
鱗の痕等は見えないが、直径二センチ程のロープで縛られているようだった。  
それが千石の胴体を中心に巻き付いている。  
 
だけどそれは徐々に形を変えていった。  
千石の白く透き通った肌に食い込む痕は痛々しい。  
痛みを堪えているのか千石は顔が少しだけ歪んでいる。  
 
「千石! なんとかするから、痛かったら言うんぞ!」  
 
声を掛けている間も千石を拘束している見えない怪異は姿を変えていく。  
抗おうとする千石を無視するかのように千石の両手は後ろに回され、背中に固定された。  
痛みと胸を晒した羞恥心に耐えかねたのか千石は膝を折り、体勢を屈める。  
その隙を突き、怪異は太ももの付け根と足首を縛り、千石は両足を開かされた。  
千石は文字通り身動きがとれなくなってしまった。  
 
 
ベッドの上で見えない怪異に取り憑かれた千石はあられもない姿で僕のベッドの上に寝転んでいる。  
いや、転がっている。  
でもその姿はとてつもなく綺麗で、僕の妄想が具現化したのかと勘違いしてしまうくらい幻想的だった。  
 
……僕は千石に魅入られた。  
 
前髪を上げてから目立つ大きな瞳は潤み、恥ずかしさからか頬が紅潮している。  
乳房は主張するように搾り出され、小さな突起が僕の方を向いていた。  
くすみのない桃色の突起は刺激されているのだろうか、小刻みに上下に動いている。  
それに合わせるように千石も…………ん、………ん…ぁぅ………と悩ましい声を漏らした。  
 
今度は下半身に異常が起こる。  
太ももの内側をヌルヌルした縄のようなものが這い、千石の股の中心に向かって動く痕が見える。  
けれど局部には決して触れることはなかった。  
 
千石は切なそうな声を上げる。  
「…あ……あなた。こっ…ち……きて…」  
僕は何の警戒もなく、吸い込まれるように近づいてしまったが僕の身には何も起きなかった。  
代わりに千石の嬌声は跳ね上がった。  
 
千石の陰唇に触れている怪異は芽を摘み弄びながら、膣を目指している。  
陰唇がカパっと開いたと思ったらそのまま閉じることはなかった。  
透明の怪異のせいで、千石の膣の中は丸見えだった。  
ピンクの内壁がピクピクと蠢き合って快感を欲している。  
僕はそう感じてしまった。  
千石は何かを欲するように僕を見上げ、何かを言おうとする。  
けど言葉になってない。  
恥ずかしそうに……ぁぁ……ん…ぁ………ぃい…………ぁ……と声を漏らすだけだった。  
 
…ゃぁ……あな…た…………ぅっ………はっ…んっぅ………。  
身体中が熱気に当てられたように真っ赤に染まった千石は、ただただ艶やかだった。  
見蕩れて、見惚れて、吸い込まれる。  
そんな魅力が溢れ出し、『妹のような存在』という言葉を見失いそうになった。  
 
…やっ……と千石が小さく呟いた後、怪異は千石の口さえも閉じれなくした。  
声も出せなくなった口内を掻き回し、舌が巻き取られる。  
膣内では中をえぐるようにゆったりと動いていて、千石の官能を引き出しているようだ。  
それは実に効果的なようで、………んっ……………んんっ……と切ない声だけが僕の元に届いた。  
 
千石はもう限界のようで涙を流しながら、身体を痙攣させている。  
しまった!  
本当に見蕩れていた!  
でもこれ以上、放っておくことは出来ない。  
忍に頼るなんて出来ないし、ここは僕一人で解決するしかない。  
 
どうすればいい?  
まずは何より優先するのは千石だ。  
千石を安心させることが第一のはず。  
僕はそう考え、千石の頭を撫でながらギュッと抱き締めようとする。  
千石の身体からはヌルっとした感触が伝わってきた。  
 
うわっ、気持ち良い……。  
 
間違えたっ!!  
このまま千石を抱き締めていたい衝動に突き動かされそうになるが、目の前で苦しんでいる千石を放っておけるわけはない。  
僕は必死で見えない何かを掴もうとした。  
ヌルッとした感触が伝わり、僕の手の中をすり抜ける。  
 
蛇ってこんなにヌメったっけ?  
枕カバーを取り外し、それで手を覆い乳房に巻き付いているモノを掴みにかかる。  
滑った。  
もう一度挑戦。  
失敗。  
今度は口の中に入っているモノに照準を定めた。  
カバーで覆った手で力強く掴む。  
掴めた!  
そのまま千石の口内に侵入したソレを無理矢理外に出した。  
ごふっごほっと千石が咳き込む。  
これで息をするのは楽になったはずだ。  
 
でも僕がこんな風に四苦八苦している間も千石の苦しみは続いていた。  
……ん………んん…ぁん………ぃっ……ぅぅ…………。  
…ひゃ………ぅ……ぁっ……………はふっ…………ぃゃ…。  
もう何度も痙攣している。  
その度に身体をピンと伸ばし、息を整えようとするが怪異がそれを許さない。  
怪異による千石への攻めは続いている。  
 
口内に侵入したモノを掴めたことで、徐々に千石の身体に巻きついた怪異も剥ぎ取ることが出来た。  
千石の胸を刺激させるのを止めさせ、そのまま下半身に入り込んだモノを取り出そうとする。  
取り出す前にまた千石は痙攣を起こし、ぐったりと力が抜けたところで怪異を引き離すことに成功した。  
怪異が僕に巻き付こうとする前に窓を開け、外に投げてしまう。  
地面に叩きつけられた怪異はもうこちらに向かってくる素振りはみせていないようだ。  
地面についた怪異の跡は外へ向かっていた。  
 
 
……怪異は返っていった。  
 
 
もしこの怪異を千石に掛けた相手が女の子だったら、毎夜悩まされそうだな。  
首には巻きつく気配は一切見せなかったから、命の危険はないだろう。  
でも見えないヌルヌルがいつも憑いて回る状態。  
ヌッチョリした感覚に纏わり付かれる。  
可哀相に。  
もう二度と集中なんてできないだろうな。  
 
男だったら……、想像したくない。  
ま、頑張れと心の中で一言だけ声を掛けるとしよう。  
 
全身に汗をかいて息も絶え絶えな千石を少し休ませ、「良く頑張ったな」と頭を撫でる。  
その後、僕は千石を風呂場へ連れて行った。  
疲れ果て、一人で立つことの出来ない千石を抱っこする。  
俗に言うお姫様抱っこというヤツだ。  
この前のお礼も兼ねて千石の身体を洗うことを告げると喜んで抱きついてきた、というか腕を僕の首の後ろに回し、キツく巻き付いてきた。  
あれっ、こいつも蛇っぽくないか?  
取り憑かれたせいか?  
ま、ちょっと子供っぽいけど、こういう素直なところが微笑ましく可愛くも見える。  
妹相手にこんなことを考えちゃいけないんだった。  
 
 
お湯をはって千石を入れる。  
二人で入るのには少し狭いけど、僕と千石が密着した形なら普通に入れた。  
僕が先に入って身体を伸ばし、千石が僕の上に乗る。  
千石の背中が僕の胸に寄りかかり、僕の足には千石の足が絡まり、僕の股間の上には千石のお尻がある。  
それでもゆったりと足を伸ばし、全身の力を抜いているのがよくわかる姿勢だった。  
振り向いた千石は、  
「…あ……あなた、撫子の為にここまでしてくれるなんて……もうディープラブだねっ」  
と。  
千石はディープラブってどんな意味で使っているんだろうか。  
ま、大切な妹として愛するのは当たり前だよな。  
千石は僕の方を向くように身体を反転させた。  
 
小さな浴槽の中なのであまり自由が利かない。  
千石の太ももが僕の股間に断続的に触れている。  
その代わりなのか、僕の太ももには千石の股間が擦り付けられていた。  
顔は僕の胸に預け、何度も唇を当てて、気持ち良さそうに目を閉じた。  
甘えん坊だな。  
 
少しの間、そうしていると満足したのか、また僕に背中を向ける。  
千石は身体を僕に預けながら僕の手を誘導した。  
片方の手は千石の頭の上に、もう片方の手は千石の胸に…?  
そしてお尻はもぞもぞと動かし、僕の股間を刺激する。  
そんなことされなくてもさっき千石の太ももに刺激された僕のモノはすでに硬くなっていた。  
千石は少しだけ腰を浮かせて僕のモノに自分の股を擦り付ける。  
…ぁふ……ん………ぁ…ぃ………。  
と悩ましげな声を出し、聴覚から僕の中に侵入しようとしているようだった。  
千石はその感触を楽しんだ後、満足したのかゆっくり腰を下ろして元の体勢に戻っていく。  
ヌチュっと抵抗なく何かに包まれた僕は思わず震え、千石を強く抱き締めてしまう。  
……ゃ……ぁ…。  
漏れてくる声は風呂場の中で反響し、僕の興奮を倍増させた。  
 
でも千石はいつの間にお湯を出したんだ?  
それも股間だけピンポイントにお湯を出して温めるなんて千石は変わったことをする奴だ。  
 
うん?  
ってことは……やっぱり僕の股間には何か重大な問題があるんだろうか……。  
……これは大問題だ。  
……吸血鬼になって人間であることを否定されるより、  
人間もどきになって大切な部位に重大な欠陥があることに気づいた方が辛いとは……。  
これから先、僕は男として生きていてもいいんだろうか……。  
 
でも無理に考えていてもしょうがない。  
千石が頑張ってくれているんだ。  
ここは千石に全てを任せるとしよう。  
 
この前も思ったけど、この感覚って最高に気持ちが良い。  
温かく包まれるだけでも気持ち良いのに、その上締め付けられる感覚はなんとも言い難くて心地良いんだ。  
きっと千石の処理が上手いんだろう。  
鈍感に見えるけど、意外と器用だったりするんだろうか。  
 
お風呂の水面がざわついていると思っていたが、徐々に波立ってきた。  
それにつられて、もじもじとしていた千石の身体が徐々に大きく揺さぶられるように動き始める。  
 
……それは何かに突き動かされているようだった。  
 
僕の股間は継続して快感の波に襲われるが、千石は僕に背中を見せているため表情がわからない。  
うなじが綺麗だけど、今はそんなこと言ってられな…い?  
……美女のうなじに吸い付きたくなる吸血鬼の気持ちが今になってなんとなくわかった気がする。  
映画の中の『吸血鬼が美女の血を吸う』っていう行動原理は正しかったわけだ。  
 
思考がぼやけている間に僕は千石のうなじに甘噛みしたようだった。  
…ぁっ……と色気のある声が聞こえると同時に、誰かにポカッと頭を叩かれた。  
忍のやつ、今頃になってやっと出てきたのか?  
「お前様はやっぱり鬼の中の鬼じゃ。鬼畜の中の鬼畜じゃ。  
 儂はなんて人間を主にしてしまったのか……」  
なんて軽い冗談がボソボソと呟くような声で聞こえた。  
 
あぁ、いつの間にか話が逸れている。  
現状をもう一度把握しよう。  
今、僕の股間は何かに締め付けられている。  
それは心地の良いものだけど、何かはわからない。  
もしかしてまだ怪異が残っていたのか!?  
そういえば、この前の蛇の怪異は二匹いた。  
それに気付かずに僕は一匹祓えたところで満足してしまっていた。  
 
もしかして二匹目が!?  
 
くそっ。  
同じ失敗を繰り返すなんて!  
そんなことを考えている間も僕は股間に感じる心地の良い締め付けに心を奪われる。  
 
な!? もしかして今度は僕の身体に取り憑いたんじゃないか!?  
……それならそれでいい。  
千石が苦しむ姿を見るよりも何倍もマシだ。  
ここは火憐ちゃんの時と同様に僕が引き受けよう。  
 
相変わらず千石の表情は見えない。  
漏れてくる声だけで判断しなきゃならないんだけど、さっき怪異に取り憑かれていた時みたいに千石の声には艶が宿っていた。  
声につられてか、淫靡な空気が漂っている気がするけど……。  
これは深く考えちゃダメだ、と本能が告げている。  
 
腰を小さく動かしている千石の右手が僕の右手に触れた。  
僕の右手は誘導されるまま千石の股の間へと導かれる。  
そして中指一本だけを掴み、千石の割れ目の始まり辺りを這わせて小さく動かした。  
………ぁっ………ん…んん……いぃょ……ぅ……ひゃ………っ…。  
 
何かわからないけど、小さな豆粒のような突起があった。  
こ、これが原因か!? これが原因なんだな!!  
わかった。  
僕がなんとかしてやる!  
残念だけど、怪異は僕の身体に移ったわけじゃなかったようだ。  
 
怪異が原因とはいえ、これは千石の身体だ。  
千石の身体を傷つけるなんてしちゃいけない。  
あくまで優しく、心を込めて触ることで追い払ってやろう。  
怪異相手に僕の心が通じるとは思えないけど、今はこれしか出来ない。  
 
壊れ物を触る程度じゃない。  
もっともっと、ひたすら優しく小さな芽を触り続けた。  
その度に千石が苦しそうな声を上げる。  
…ん……ぁぁ…………ぃっ…あ………ふ…ひゃっ……。  
 
指を少し奥の方にずらすと、千石の股間から何か太いものが伸びていた。  
いや埋まっていたと表現するべきだろう。  
内心驚いたが千石に伝えるなんてことは絶対に出来ない。  
無駄に怖がらせてしまう恐れがある。  
でもここは声を掛けるべきだ。  
 
「苦しいか? 大丈夫か?」って尋ねると、  
「……全然、…そのまま……っづけ…て…」と返ってくる。  
色の付いた悩ましげな声だ。  
きっと相当辛いのに我慢をしているんだろう。  
早くこの状況から早く解放して、介抱してやらなきゃ千石の身体が持たないかもしれない。  
 
どうすればいいんだ?  
 
僕は今の状態を確認する。  
僕の股間は何か温かいモノに優しく包まれ、どうしてか締め上げられている。  
右手は千石の股間にある芽のようなモノに触れていて、左手は柔らかな胸に当たっていた。  
 
………。  
…………。  
……………。  
 
小さな突起か。  
胸にもあったな。  
試してみよう。  
右手の動きを止め、左手だけを動かす。  
僕は胸部の先にも小さな突起があるのを思い出し、そこを重点的に攻めてみることにした。  
 
胸部の下の方から徐々に膨らみへと指を這わせ、焦らすようにゆっくりとその頂点を目指す。  
固くなった小さな突起に辿り着くと、軽く、優しく、丁寧に触れる。  
千石はビクッと背筋を伸ばし反応した。  
 
正解のようだ。  
この怪異は小さな突起になって千石の身体に取り憑いているんだろう。  
この三点を攻めることで千石を苦しみから救うことが出来るかもしれない。  
それだけ確認すると僕は再び右手を動かし始めた。  
 
千石の声が大きくなる。  
それは風呂場に響き渡り、反響し、返ってくる。  
今まで聴いたことのないような妖しい声だった。  
…はっ…ん……ぁ…ゃぁ………ぃ……ん…んん……ひっ……ぁああっ……。  
 
千石も闘っているんだ。  
僕も頑張らなきゃ千石を苦しめるだけになってしまう!  
僕は少しずつ指を動かす速度を速めていった。  
それに呼応するように千石の身体が震え始め、一段と声が大きくなる。  
 
もし今、家に誰か帰ってきたら誤解されてしまうかもしれない。  
この光景は、きっと僕が千石をいぢめているように見えるだろう。  
漏れる声を小さくするためには、千石の口を塞がなきゃいけないな。  
どうするか。  
 
ここはやっぱり僕の口で……と思いもしたがそれはさすがに千石が嫌がるだろう。  
キスは大切な人としなきゃいけない。  
とても妹二人のファーストキスを奪った奴の台詞とは思えないかもしれないけど……。  
でも大切な千石を泣かすことは出来ない。  
妹たちと同じ思いをさせるわけにはいかない!  
 
僕は僕の太ももの上にあった千石の小さく柔らかな左手を掴み、千石の口へと持っていく。  
千石も僕の求めていることを素早く理解し、自分の手で自分の口を塞いでくれた。  
これで心置きなく怪異に集中できる。  
 
「大丈夫だ、任せろ」という言葉を態度で示し、安心させるために一度千石の身体をギュっと抱き締める。  
柔らかくしなやかな千石の身体はスベスベしていて、離したくなくなる衝動に駆られたが、今、最優先で考えなければならないのは千石を楽にすることだ。  
 
僕は再び千石の身体を愛撫し始めた。  
『愛撫』という言葉が妥当でないことはわかるが、それくらい丁寧に触っている。  
 
千石の股間にある芽を優しく触り、時折り軽く摘み、また優しく触る。  
これの繰り返し。  
 
千石の声が大きくなり、口を塞いでいるはずの千石の左手は僕の左手に重なっていた。  
千石の両手はまるで僕の両手を補助するかのように力強く握り締めている。  
一緒に闘おうというのか!  
さすがは千石だ!  
 
でもそれだけ苦しんでいるんだよな。  
早く終わらせないと。  
僕は千石に触れている指の動きを早めた。  
それに応じるように嬌声が響く。  
苦しいだろうが、ここで手加減をすることは出来ない。  
僕はひたすら指を動かし続けた。  
 
…ぃやぁ………ぃい………ぅ……はっ………………んん……ひゃっ………。  
………ぁん……っ…………ぁな…た………ぃぃ…ぁっ……ん…ィィッ……。  
一際大きな声が室内に木霊した。  
千石の声、というより千石に取り憑いた大人の女性が官能を堪能した嬌声、というのが相応しい気がする。  
千石の全身がブルブルっと震え、僕の股間を強く締め付けた。  
もしかしてこの怪異が僕を苦しめようと股間に手を伸ばしたのだろうか。  
僕を締め付ける何かは千石の腰の動きに合わせるように、まだ小さく動いている。  
 
くっ、怪異なんかに負けてたまるか!  
千石が大きく痙攣した。  
そして何度も小さく腰を動かした後、落ち着きを取り戻したように千石の動きが止まった。  
 
僕に憑いた怪異は最後に一段と強く締め付けた。  
増した締め付けに耐え続けたのが良かったのか、フッと僕のモノは解放された。  
なんとか怪異が去ったようだ。  
今回も危なかったな。  
もう少しで射精するところだったよ。  
お風呂の中にニュルニュルした白い液体が浮かび上がってきたら、さすがの僕でも言い訳が出来ない。  
僕のことを全く疑いもしないで、受け入れ、信用してくれている目の前の妹のような可愛い女の子に  
トラウマを背負わせるなんて出来るわけがない。  
 
千石はというと、僕の身体から怪異が抜けると同時に一度僕の身体から離れ、こっちを向き直し身体を密着させ始めた。  
隙間なく密着され、身体全体を使って抱き締める、という表現が妥当だろう。  
怪異に解放されたことが、余程嬉しかったんだな。  
お互い裸なのに恥ずかしいという感情はほとんどないようで、今は解放された喜びを噛み締めるようにうっとりした顔で僕を見上げている。  
 
お礼のつもりなんだろうか、僕の唇に千石の唇が軽く触れた。  
やっぱり感謝してくれたんだな。  
結構嬉しい。  
柔らかく弾力のある千石の唇が離れていく。  
物足りないと無意識に感じた瞬間、もっと強く千石を感じた。  
少し開かれた薄桃色の唇からヌルヌルとした舌が僕の唇を儚げに舐め始める。  
 
じれったくもあったが嬉しくもあった。  
人見知りで、積極的という言葉とは掛け離れている千石がこんな風に喜びを表現するんなんて。  
 
驚きよりも先に身体が反応し、思わず僕も応えてしまう。  
千石の舌を絡めとるように舐めまわし、キツく強く身体を抱きしめ、まるで恋人のように唾液を交わす。  
 
――そのまま数分が過ぎた。  
 
実の妹二人とは軽く唇が触れ合っただけだったのに、妹のような存在の千石とこんなにもネチネチしたキスをするとは思ってなかった。  
でもお礼はありがたく受け取りなさい、と小さな頃に親に躾けられた様な……。  
 
それはともかく、あんなにも嬉しそうな千石は初めて見た。  
蕩けそうな表情で僕を見ては小さな笑みを零す。  
心の底から満足し、安堵しているような表情だった。  
その後、僕の胸に何度もキスしたり、また唇を重ねたり……。  
なぜか甘い空間が広がっている。  
見る人が見たらまるで恋人のようだ、って誤解しそうだよ。  
 
頭を優しく撫でてやると千石は僕に体重の全てを預け、眠ってしまった。  
全力で怪異と闘ったことで疲れたんだろうな。  
お風呂の中で身体を密着させた僕らは、その後帰ってきた妹たちに発見されるまでお風呂の中でくつろいでいた。  
 

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