「戦場ヶ原、何か欲しいものとかあるか?」  
英語の長文読解を終えたところで僕は戦場ヶ原に尋ねた。  
戦場ヶ原は顔を上げて不思議そうな表情をする。  
「どうしたのよ突然。受験失敗による自殺前の身辺整理でもしてるの?」  
「まだセンターすら受けてねぇよ!」  
息を吐くように非道いことをいう戦場ヶ原にいきり立つ僕。  
あー、いかんいかん、落ち着け。  
「いや、もうすぐお前の誕生日じゃん。何か欲しいものあるかなーって」  
サプライズパーティーの計画もあるが、バースデーイブに二人で過ごすのもいいかなと最近思っている。  
プレゼントは悩みどころだったが、下手に考えるよりは直接本人に聞いた方がいいだろう。  
「誕生日……そういえばそうね、ここしばらく無縁なイベントだったから忘れてたわ」  
抑揚なく言うが、その心中は如何なものか。  
が、ちょっと同情していると。  
「阿良々木くんと一緒で祝ってくれる人もいなかったし」  
早速非道いことを言う。  
確かにほとんどいないけどさ!  
「そうね、何かくれると言うのなら……阿良々木くん」  
戦場ヶ原はじっと僕を見つめる。  
何だ?  
ま、まさか、巷のバカップルみたいに『あなたが欲しいわ』とか『あなたがそばにいてくれればいいわ』とか言い出すのでは!?  
僕は固唾を呑んで戦場ヶ原の次の言葉を待った。  
「あなたの身長が欲しいわ、少し分けてちょうだい」  
「できるか! できてもお前にはこれっぽっちも分けてやらん!」  
僕より背ぇ高いくせに!  
アニメで横並びにならないようどんだけ気を使ったと思ってるんだ!  
「じゃあ……そうね、身長がダメなら」  
今度はどんな無茶を言うのやら。  
僕は身構えた。  
「阿良々木くん全部が欲しいわ」  
「…………」  
え?  
な、何だって?  
「聞こえなかったかしら? 頭だけでなく耳も悪いの?」  
お前は究極なまでに口が悪いよな! なんてツッコミを入れてる場合じゃない。  
戦場ヶ原の言葉の意味を考える。  
「どうしたのよ、早く受け取ってもらいにきなさい」  
「あ……うん」  
僕はペンを置いて立ち上がり、テーブルを迂回して戦場ヶ原の隣に腰を下ろす。  
戦場ヶ原も参考書を閉じ、僕にそっともたれかかってきた。  
肩に頭を乗せてきて、髪の毛のいい香りが僕の鼻腔をくすぐる。  
すっと両腕を僕に巻き付け、身体の向きを変えてぎゅっと抱きしめてきた。  
 
僕の胸に顔を埋め、そのままじっと動かない。  
僕は手を戦場ヶ原の頭に乗せ、軽く撫でる。  
指でその長い髪の毛を梳いてやると表情がわずかに緩むのがわかった。  
しばらくして戦場ヶ原は腕の力を抜き、顔を上げて僕と見つめ合う。  
僅かに潤んだ瞳の中に自分の間抜け面が写っている。  
ゆっくりとそれがアップになっていき。  
二人とも目を閉じて、唇が重ね合う。  
どれだけそうしていただろう。  
僕はいつしか戦場ヶ原の背中に手を回し、力いっぱい抱きしめていた。  
ぐっと戦場ヶ原が押してくると僕は抵抗せずに後ろに倒れ込む。  
僕たちは横になって重なり合った。  
少し唇を開き、舌を出して戦場ヶ原の唇をなぞる。  
戦場ヶ原も舌を突き出し、ちょんちょんと舌先を触れさせ合う。  
最初は控え目に、やがて大胆に。  
交互に相手の口内に出し入れして、歯茎や内側の頬肉を味わった。  
戦場ヶ原の唾液がまるで媚薬のようで、口に含んで飲み込むたびに甘い疼きが脳や全身を駆け巡る。  
特にある一箇所はヤバいくらいに固くなり、はちきれんばかりに大きくなっていた。  
だけど、止められない。  
もっともっとずっとずっと戦場ヶ原の口内を味わっていたい。  
と。  
「ん……」  
ちゅるんと舌が離れる。  
つうっと二人の間に糸が引き、重みで切れて僕の顎に付着した。  
僕はそれを拭おうともせず、大きく肩で息をする。  
戦場ヶ原はふるふると身体を震わせ、何かを堪えるようにぎゅっと唇を噛みしめていた。  
やがて落ち着いたようにほう、と息を吐く。  
「まさかキスだけでイきそうになっちゃうなんてね」  
「…………」  
無表情でそんなこと言われても可愛くない。  
あーもう! 全然可愛くないぞ! くそ!  
僕は腕を伸ばして戦場ヶ原の首に回し、ぐいっと引き寄せて再び唇を合わせた。  
「んむっ!」  
舌を絡めて引き寄せ、唇で挟み込みながら先端を甘噛みする。  
「んっ! んむっ! むうっ!」  
戦場ヶ原は離れようとするけど僕は首と背中に手を回してしっかりと抱き締める。  
だんだん戦場ヶ原の息が荒くなってきた。  
「んっ! んふっ! んふぅっ! んんっ…………んんんんうううっ!」  
びくんっ、とひときわ大きく戦場ヶ原の身体が震え、ぴんと指やつま先が伸びた。  
しばらく痙攣していたかと思うと、ふっと身体の力が抜けて僕に体重を預けてくる。  
唇を離して頬擦りするように互いの肩に顎を乗せ合う。  
「戦場ヶ原、イった?」  
「…………なによ、阿良々木くんのくせに」  
 
支離滅裂な答えが返ってくる。  
ひょっとしたら照れ隠しというやつなのだろうか?  
微笑ましくなって僕は戦場ヶ原の頭をぽんぽんと軽く叩いた。  
「その余裕が何だかムカつくわね……」  
そうは言っても顔は緩んでいるし、僕にしがみついてる腕の力は変わらない。  
いわゆる身体は正直というやつだ。  
「黙ってないで私をもっと気持ちよくさせなさい。私の所有物のくせに気が利かないわね」  
はいはいっと。  
僕は戦場ヶ原の服に手をかけ、脱がし始める。  
 
 
「ん……そこ、いいわ」  
 
「どっちが……って…………どっちもいいわよ……んっ!」  
 
「焦らさないで……早くしなさい」  
 
「な、何を……そんなこと…………あっ!」  
 
「お、お願いよ……早く、入れて」  
 
「あああっ! いい! いいっ!」  
 
「もっと奥までいいわよ」  
 
「ええ、出して。そのまま中に出して!」  
 
「あっ、熱いっ! あああああああっ!!」  
 
「ん……すごく、よかったわ」  
 
「え、ちょ、ちょっと?」  
 
「だ、だめっ、少し休ませて!」  
 
「ひ、ひぃっ、ひぁっ!」  
 
「え、だ、だめよ! 今出されたら私、私……」  
 
「あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああっ!」  
 
 
 
 
たっぷり愛し合って僕たちは今横になっている。  
戦場ヶ原は僕の腕を枕にして静かな寝息を立てていた。  
僕はそっと戦場ヶ原の前髪をかきあげ、額にちゅ、とキスをする。  
実はこの時すでに戦場ヶ原は目を覚ましていてあとで散々からかわれることになるのだが、そうとは知らない僕は言葉を紡ぐ。  
 
「戦場ヶ原、生まれてきてくれて、ありがとう」  
 
 
 
 

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