結果の前に過程を求めるのは各人それぞれ自由であってもしかし経緯というものは無かったにはできないと、
この僕、供犠創貴が後悔することになったのは土曜の午後水倉りすかの家にて作戦会議もとい雑談をしていた
時だった。
「キズタカ、そういえば合言葉の中で教えてほしいことがあるのが陵辱の意味なの」
りすかはコーヒーを一口飲んで思い出したように言った。僕は少し気を抜いていてソファにもたれていたと
ころというか油断していたので、そのりすかの何気ない口調ととんでもない内容を理解せずに、
「そんなことも知らないのか」
などと返してしまった。
「ん……知ってるみたいだけど教えてくれないのがチェンバリンなの。もしかしてみんな知ってるのが陵辱
なの?」
「いや、少なくとも僕やりすかの年で知っている人間はいないだろうな」
「ふうん、コアな情報なのが陵辱なの」
連呼しないで欲しい。
りすかは再びコーヒーカップを口元に持っていき、今度はきっちり飲み干して手錠をちゃらりと鳴らすと、真実邪気も無い目で僕を見た。
「それじゃ、教えて欲しいのキズタカ」
…… うっかり返事してから予想はついていたことだが、一年近く魔法使い狩りを続けてきた僕とりすかは知識を交換し共有することに
慣れている。聞くなといえば聞けないし言えないといえば言わせないという基準はあるにしても、それは切羽詰った最低ラインの線引きで
あってこういう日常会話にまで持ってこれるルールではない。だからこそりすかは何となしに聞くのだが――
「キズタカが黙るのはどうしてなの?」
「……」
さて、純然たる事実として今だ年端もいかない十歳という子供に対し、犯罪者をぬかせば特殊な
趣味を嗜む人間達の領域である陵辱というジャンルにおいてりすかの性格に歪曲を与えず僕への見
方を白いものにさせず僕等の関係にいささかの引っかかりも生じさせないうまい切り抜け方という
か説明の仕方を僕は考える。
間を持たせるために自分のコーヒーを飲み、僕の隣に座ったりすかには目を向けず何でもないよ
うに一口チョコレートに手を伸ばす。
「つまり強姦の事だ」
「ゴマのこと?」
疑問符をたっぷりまぶして、りすかは聞き返す。本来ならこういった低脳発言に対し有り余るほ
どの憐憫と侮蔑をもって突っ込むべきだろうが、用意されたチョコレートは口の中で溶けてイイ感
じにうまかった。
「片方が強制するセックスのことで、レイプとも言うな」
「……どういうものなのがセックスなの?」
「それは――前戯があって胸に触ったり」
「じゃあ、例えばキズタカが私の胸に触ってもなの?」
「いや、そういうわけでもない」
「むずかしいのが説明なの……例えば今も出来るものなのがセックスなの?」
質問に答えを返しているだけなのに微妙に追い込まれる気分になっていく。チェンバリンが主人
の傍を離れてどこかに行っていて、りすかと僕で部屋の中に一対一というのもかなり拍車をかけて
いるようだった。なんとも間が悪い。いや、間が良いというべきなのか。いづれにしても随分条件
に恵まれたものだ。
「一応できる」
「それなら、してみた方が早いのなの」
さすがに動きを止めざるを得なかった僕に対し、りすかはそう言って座りなおした。両手を軽く
重ねて膝の上に置き、背筋を改めてじっと僕を見つめる。一挙一動を受け入れるように。