――それはちょっとだけ僕の関心を引いた、世にも珍しく極めて平凡な事件だった。  
葵井巫女子、江本智恵、貴宮むいみ、宇佐美秋春。最初から僕の入り込む隙間なんて  
どこにもなかった四人の中に、僕はするりと入り込んで壊してしまった。  
ぐちゃぐちゃに、徹底的に、完全無欠に、木っ端微塵に。お邪魔様。  
 
「少しだけどうでもよくなっちゃったんだよね」  
 
零崎人識、哀川潤。それはこの僕、欠陥製品が  
どうしようもなくどうしようもないのだということを、  
あの青色以上に鮮明に思い知らせた、鏡と首輪だったのだ。  
 
――「どっちでもいいんだ、あたしは。お前に喋らせるって決定には変わりはない。お前に、殺人鬼についての情報を教えてもらうってのはもう決まったことだ  
    決定事項。でもお前は友達だから訊いてやる。優しくして欲しい?痛めつけて欲しい?」  
哀川さんはあとずさる僕にじっと視線を合わせながら、そんな風に訊いた。  
 
どう答えると思っているんだろう。どう答えればいいんだろう。友達――哀川さんと僕は、友達。  
「哀川さん」  
「あぁ?あたしのことを――」  
僕は  
「殺してしまうかも知れない人のことを」  
友達だなんて、呼びたくないんです。  
もちろんそんなことは有り得ない。究極絶無の可能性。人類最強の赤色が、京都千本中立売の戯言遣いに屠られる未来。  
「僕は――」  
「ったく」  
「いーたんかわいいよいーたん」  
死んでしまいそうなくらい甘い声音とともに、目の前が赤色に染まった。  
 
哀川さんは二度三度口付けをして  
ああ、そんな温もりよりもあの紅い紅いルージュを追ってしまいそうになる。  
「服、気ぃ使えよ、ちょっとは」  
いいんですよ。誰も見ないし。  
「いーたん下着は白ー」  
色気ないってやつですか。  
夏の京都の暑さはハンパないんです。見えないおしゃれなんかしてもしなくても一緒でしょう。  
聞こえてないことは言ってない、それと同じです。  
大体言葉も言葉になってないんじゃないか?斜め30度首を傾けた僕の目には  
だらしなく放り投げられた太腿とソックスが覗いた。  
造りかけのパペットみたいになった僕は  
撫でてくんないかなぁ、って、思った。  
 
「で、例の殺人鬼クンとは河原でどこまで行ったんだ?」  
唇を曲げて軽く嘲う哀川さんの唇は遠いし、  
撫でてもらってるのは冷たい足じゃなくて薄い胸だし。  
「ぁ・・・」  
それでも、滲み出るような願いを押し留めることなんか、できない。  
 
「男に惚れてるくらいがちょうどいいんじゃねーか?いーたんよぉ」  
ちが――  
「お前がお前をどう思ってるかなんて関係ねーよ。お前に欠陥なんざ無い。信じられねぇか  
あたしがよぉ、信じられねぇなら何万回でも言ってやるよ」  
哀川さん・・・  
「潤だ」  
「潤、さん・・・」  
「あったけーよ、お前のココロはさ」  
潤さん  
「やーらかいし」  
潤さん  
「食っちまっていい?」  
はい。  
 
「あたしが許す」  
「あたしが赦す。お前はお前のやりたいようにやりゃあいいさ。何が壊れたって何が滅したって、何が解けたってお前のせいなんかじゃねぇ  
お前がつついたくらいで壊れるものなんざ、お前じゃなくたって壊れるもんなのさ。そして」  
哀川さん  
「あたしは人類最強の請負人。請け負えってんなら右から左、上から下まで片っ端から請け負ってやるぜ?」  
撫でてください。  
「応」  
 
どうしたって独りが定員のボロアパートで、僕ははしたなく下着を濡らし、倒れこむようにして委ねた体は  
哀川さんの胸に落ちていった。  
潤んでしまった瞳は子供のように。一緒くたになってしまえばいいと、大きな哀川さんの胸に僕の心臓を重ねた。  
出来損なった僕を、とにかくどうにかして欲しいのだ。  
「零崎は、多分本物の殺人鬼ですけど」  
「うん?」  
「零崎は僕なんです」  
喉が痛くなって、泣いてしまう。  
暖かな言葉の中で  
似つかわしくない絶頂に啼いてしまう。  
「うん」  
 
僕は頭から靄を被ってその日、意識を手放すのだった。  
 
 
目が覚めるまで、僕は哀川さんの膝の上だったらしく、  
僕が頭を持ち上げると哀川さんは、僕に玖渚からの情報を手渡し  
「あとは自分でやったほうが早いし」  
と、言った。  
 
「あ」  
なんです?  
「玖渚からのメッセージ。浮気しないよーに。ほっぺにチューまでなら…ってなぁオイ」  
いや、なぁとか言われましても。  
「んじゃ行くわ。わかってると思うけど、世界はそれでも何も変わらない、だぜ?いーたん」  
そう。  
そして僕はなんだか、とても恐ろしい決断をするんだ。  
でもそうしなきゃいけない気がして。あの四人にとって  
違うモノだった僕が。  
 
今日、少女をひとり、殺します。  
 
〈了〉  
 

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