僕はある目的を果たすため、自転車に乗って羽川を探していた。  
いつも散歩している羽川の歩くコースは大体決まっているようで、どの時間にどの場所にいるかの検討は付いている。  
神原に教えてもらったストーキングスキルが役に立ったわけだ。  
あいつはやっぱり優秀だな。  
弱小バスケ部を全国に導いただけのことはある。  
 
自転車のペダルを漕ぎながらそんなことを考えていると、角を曲がったところで羽川の後姿を見つけた。  
チリンチリンと自転車のベルを鳴らして羽川を呼び止める。  
「羽川っ! 早く後ろに乗ってくれ!」  
「ん? いいけど、どこへ行くの?」  
「いいから! 早く!!」  
「うん、わかった」  
僕の様子を見て何かあったのかと考えたらしい羽川は素直に従ってくれた。  
自転車の小さな荷台に乗った羽川は僕のお腹の辺りに手を回す。  
「とばすぞ。しっかり掴まってろよ」  
「えっ? うん」  
羽川はさっきよりは力を入れて僕に掴まったがまだ足りない。  
見通しの良い道に出てスピードを上げる。  
行き先は決めていなかったけれど何か意味を持たせるために、学習塾跡の廃ビルに向かうことにした。  
そうすることで羽川の意識は何か事件があったのか、という方向に向くはずだ。  
今の状態が不自然だとも思わないだろう。  
 
僕はスピードを上げた。  
だけれどまだ足りない。  
羽川が僕に接触しているのは両腕だけだ。  
それじゃ意味がない。  
今日の僕は羽川のおっぱいの感触を味わう使命を負っている。  
十日前に自分とした約束だ。  
ちゃんと果たさなければならない。  
 
この日のために神原先生に師事し、ストーキングスキルを磨いた。  
いつもよりも力が出るよう、さっき忍に血を吸ってもらった。  
千石に頼んで演技も見てもらったし、予行演習にも付き合ってもらった。  
(演技だから色々大胆になってしまったのは大変申し訳ないと思っている)  
 
それはすべてこの日のため、いや今この瞬間のためだ。  
羽川がもっと力強く僕に抱きつくようにスピードを上げ、少し自転車を揺らし羽川の体勢を不安定にする。  
予想通り羽川は僕に強くしがみついてきた。  
腕だけの力では危ないと思ったのか、身体を密着させ、僕に豊かなおっぱいを押し付ける。  
その感触は体育倉庫で断ってからずっと追い求めていたモノだった。  
フワフワとしながらも弾力があり、なぜか精神的に僕を満たしてくれる。  
温かく包容力があって、優しく包んでくれている感覚に陥る。  
いつも羨望の眼差しで眺めていたおっぱいだからだろうか。  
僕は感動のあまり涙を流してしまい、前が見えなくなってしまう。  
そして自転車のスピードも緩めてしまった。  
 
自然と羽川のおっぱいは僕の背中から離れる。  
僕はなんていう失態を犯してしまったんだ……。  
至福の時間は一分にも満たなかった。  
ショックのあまりペダルを漕ぐことが出来なくなってしまい、自転車は止まってしまう。  
 
「阿良々木くん、どうしたの?」  
「い、いや、なんでもない」  
「泣いてるの?」  
「そんなわけないだろ?」  
「じゃあ、こっちを向いて」  
「僕は前だけを見て生きるって誓ったんだ」  
 
「格好良い台詞なんだけど、ちょっとキマってないよ」  
「僕はお前のおっぱいだけを見て生きるってお前のおっぱいに誓ったんだ!」  
「随分と格が下がっちゃったね」  
「自分のおっぱいを卑下することはないぞ。自信を持て」  
「私のことじゃなくて阿良々木くんのことだよ」  
「なっ!? 僕はお前のおっぱいに誓ったんだぞ! 誰よりも高みにいけるはずだ!」  
「………もしかして今日私を誘ったのって……、これのため?」  
「な、なんてことを言うんだよ! 僕はお前と一緒にどこかに行きたかっただけなんだ!」  
「じゃあそう言えばいいよ? 断る理由なんてないし」  
「そうか、わかった。じゃあ素直になろう。羽川」  
「はい」  
「僕におっぱいを揉ませてくれ」  
「やっぱり」  
「よし、揉むぞ」  
「ダメだよ」  
「どうしたら揉ませてくれるんだ?」  
「んん? じゃあ今度の試験で私より上の点を取ってくれたら」  
「もっと現実的なものにしてくれないか?」  
「頑張れば出来るよ」  
「僕のことを信用してくれているのはありがたいけど、ケアレスミスに憧れているお前に勝てる気はしない」  
「じゃあ、五十番以内に入ったらいいよ」  
「五十番か、僕の成績じゃ難しいな」  
「でもそれくらいは取らなきゃ戦場ヶ原さんと同じ大学にはいけないでしょ? 頑張らなきゃ」  
「ああ、そうかもな。よし、じゃあ五十番以内に入れるように勉強を教えてくれ」  
「……いいけど、なんか複雑だね」  
「どこがだ?」  
「自分のおっぱいを揉ませるために勉強を教えるみたいで、ちょっとね」  
「いいじゃないか、それがお前の望みだろ?」  
「そんなわけないでしょ」  
「わかった。お前の代わりに僕が誓おう。絶対五十番以内に入ってお前のおっぱいを揉みしだいてやるから安心しろ」  
「ちょっと意味がわからないよ」  
「お前のおっぱいを僕のモノにする」  
「そんな台詞言っていいの?」  
「いいさ。僕は自分を偽らない」  
「あれ? 火憐ちゃんたちに言ったことに掛けてるのかな? 偽者って」  
「恥ずかしいから説明はしないでくれよ。で、五十番以内に入ったらいいんだな? 手を抜くなよ」  
「なんか無駄に格好良く台詞を言おうとしてるね。でもいいよ。五十番以内ね」  
「よし、約束だ」  
「あともう一つ条件をつけていい?」  
「そんなことは許さない」  
「簡単なことだよ。五十番以内に入ったとして、その後に八九寺ちゃんを先に見つけた方が勝ちってことで」  
「そんなの運じゃねえか!」  
いや待てよ。  
いつか八九寺は待ち合わせてもいいって言ってたよな?  
今度会った時に話をしとけばいいわけだ。  
ふふ、甘いな羽川。  
お前のおっぱいに対する僕の執念を甘く見すぎだ。  
八九寺と待ち合わせるのは気恥ずかしいが、ここは八九寺に頼んでおこう。  
そうすれば僕が圧倒的有利だ。  
羽川、お前のおっぱいはすでに僕のモノだ!  
 
「運も必要だよ。ダメ?」  
「あ、いや、いいぞ。その条件で勝負しよう」  
「うん、じゃあこれから図書館で勉強だね」  
「ああ、時間が惜しい。とばすぞ!」  
「うん」  
僕は出来る限りの力を使い、ペダルを漕いだ。  
サービスだろうか、羽川は僕におっぱいを押し付ける。  
おっぱいを背中で堪能し、満足した僕はこれからは時間を無駄にせず、勉強に取り組むことを決意した。  
 
 
 

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