1
本の一番後ろの、本編に反映させ忘れたあおり文を実現させるような、冬休みの話をしよう。
すべては、月火がくだけた髪留めを偶然ひろってしまったことからはじまっていた。
偶然以外の何者でもない。くだかれた玄関。散らばっている破片。そこに、月火の髪留めがのこっていただけ。
『アンリミテッド・ルールブック』が破壊しそこねた、月火の髪留め。実際にはその欠片。
不幸なことは、僕より先に月火がそれをみつけてしまったことだ。回避する手段は無数にあり、愚かな僕はそれに気がつかず、見過ごしてしまったのだ。
まず、月火は自分の目を疑ったんではないかと思う。なぜならその髪留めは血と脳漿でべったりとよごれていたのだから。
考え方こそ子供だが、頭の回転は波の大人よりも数段速い月火はすぐに回答をみつけてしまった。
僕が月火の体質について、気がついたように。
月火は自分の体質について、気がついてしまった。
痕跡から鑑みるに、月火は洗面所で指を一本きりおとした。
小指が洗面台の上にころがっていたが、止血した様子はなかった。
次は胸をさしたのだと思う。血で汚れた千枚どおしがリビングにころがっていた。
止血なんて、できるわけがない。転々と続く血液の滴がわずか三歩ほどの距離でなくなっていた。
胸の傷を三歩で完治できるほど人間の治癒能力は高くない。
最後に二階から飛び降りたのだと思う。
月火と火憐の部屋の真下の地面には、血のあとがべったりとはりついていた。
指を切り落とし、胸をつらぬき、身をなげてもなお、死なない。
そんな月火の心情と無茶をついぞ知らず、僕は自室で勉強をしていた。要するに密室だ。そのとき月火がどんな状況でいたのかを、僕は知りようがなかった。
部屋の外の出来事を知ったのは、部屋の扉を蹴やぶった火憐が青ざめながらこういったからだ。
「月火ちゃんが・・・・・・帰ってこない」
時計は二十時を回っていた。
5W1H。いつも一緒にいるはずの火憐の焦りように、僕はこういって火憐を落ち着かせた。
「や、いまどきの中学生はこのぐらいの時間、普通なんだろ? いちいち気にしてたらきりがないし、そもそも僕はおまえたちが大嫌いだ。この時期の受験生をなめんなよ? ストレスで火憐ちゃんを押したおしたところで、なんの不思議もない。だから落ち着け。受験生のじゃまをするな――」
結果、火憐は落ち着かなかった。泣きだしやがった。
月火の失踪について、火憐はまったく心当たりがなかった。
以前、火憐が貝木に立ち向かおうと家を抜け出したときは、抜け出した先こそわからなかったものの、目的と目標だけは僕も月火も理解していたのに。
仕方なしになにか手がかりはないかと、家中をさがして、自分の考えがつくづくあまかったと思いしらされた。
痕跡はなによりも真実を物語っていた。僕はそこではじめて、月火ちゃんがどうしていなくなったのか理解した。
火憐が月火の目的と目標に気がつかなくても仕方ない。 火憐は、月火の怪異を知らない。しでのとりにまつわる、月火の体質を知らない。だから、しでのとりとしての月火の行動をまったく予測できなかったのだ。
怪異の行動を予測するには――火憐は怪異をしらなすぎる。
青い炎、いつまでいつまでも、燃え続けることができる、青い炎と化した阿良々木月火は、正義を実行しはじめた。
すくなくともその月火の炎は地元の暴走族を崩壊せしめ、学校という学校の不良をすべて駆逐し、ヤクザの事務所をたたきつぶした。
バイクで曳かれても死なない。
ナイフでさされても死なない。
拳銃で撃たれても死なない。
不死性にとんでもないレベルの回復力に身をまかせ、自分の体を防弾チョッキと防刃ジャケットがわりにしながら、鉄パイプと出刃包丁で悪党を一人一人戦闘不能にしていったのだ。
島流しにあった罪人に焼き印を入れたように『悪党』の尻に歯磨きを突き入れながら、彼女の正義は執行されつづけた。
僕と火憐が月火に追いついたのは地元の駅だ。心理的トラップにひっかかり、僕と火憐は月火がいるホームとは、逆側のホームで月火と対峙することになった。
乱れにみだれた、月火の着物。血と土によごれた異様な様相。長く垂れた帯をまきなおそうともせず、白い両手で端と端をにぎりしめ、肌を上気させ、なましろい肩を月明かりに露出させ、乱れた裾から細い足をなまめかしくのぞかせながら阿良々木月火は、
ふたりめの妹は、世界の終わりを宣言する。
「こんな偽物だらけの世界は滅んじゃっていいと思うんだよね、お兄ちゃん」
偽物っていうのは、おまえのことか?
それともおまえから見た、僕たちのことか?
世界っていうのは、おまえのことか?
それともおまえから見た、僕たちのことか?
プラットホームを照らす電灯は暗く、月火の表情はうかがいしれない。
白い肌がうかぶだけ。
不安げで、不在げで、吹けばなくなってしまう、希薄な存在。
しでのとり。阿良々木月火。フェニックス。
呆然とする僕と火憐をよそに、のぼりの最終電車が駅にするすると進入し、阿良々木月火をさらっていった。
電車のテイルランプが見えなくなり、火憐が力つきたようにプラットホームにすわりこみ、言った。
「あんな格好で電車乗ったら、次の駅でおろされちゃうよ、月火ちゃん……」
「おそろしく同感だけど、ほかになにか言うことないのか、お前」
おっきいほうの妹の頭を思い切りぶんなぐった。
そして月火の怪異に引きつられるように。
蟹が思い出したように復活し――、
雨の悪魔は再び宿り――、
呪いの蛇は穴から這いだし――、
猫は再び暗躍し――。
考えうるかぎり、最悪のクライシスは、まだまだ始まりに過ぎなかった――。
というのが、この話の前日談にあたる話。
受験生の大切な時間をなんと三日も消費させた、月火ちゃん家出事件は、まあなんとか解決した。
すべて元通りとはいかなかったものの、僕は月火と火憐と、新たな兄妹の絆を結びあの事件は終了した。
身内の恥をわざわざさらすような真似をしたりはしない――。
この話はここでおしまいだ。
そのかわりに変わってしまった兄妹の話をはじめよう。
2
「そろそろ火憐ちゃんが帰ってくる時間かな――はじめるか?」
カーテンを閉め切った自室のベッドで、僕は僕の胸板をまくらにしている月火にいった。夕焼けの木漏れ日がカーテンの隙間から漏れているので、明度はさほど心配ない。
まあ人ならぬ僕にとっては、明度など、さほどの心配もいらない。
月火が小さくうめいた。
「ん、あ……? せっかく寝てたのに……起こさないでよ……」
顔をあげようともせず答える月火。
いつも僕をたたき起こしにくる妹の言うことではない。
「いくらなんでも男の胸の上で全裸で寝るな」
「男っていうか、お兄ちゃんだけどね……」
本当に眠っていたらしい月火はいつもよりほんの少し鈍い反応で、たれ目を僕に向ける。
「ん、と……もうちょっと、このままでいいかも。いいよね?」
「いいけどさ。僕まだ勉強のノルマが終わってないから、前みたいに三人で夜通しとか無理だからな」
「わかってるよ。それくらいがまんするってば。いつまでも子供あつかいしないでよ……プラチナむかつく」
いいながら月火ちゃんがほおを僕の鎖骨のあたりにすりつける。マシュマロを肌にすりつけたようにやわらかい頬が鎖骨の上をなぞる。
目をつむりながら繰り返すそのしぐさは猫をおもいださせる。自分のにおいをマーキングするかのように、月火は飽きもせず、僕にそのやわらかなほおを押しつけ続けた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
「おお」
こんなときしか出さない声音で、僕を呼ぶ月火におもわずおののいた。
やべえ、かわいい。デレた月火ちゃんは、いつぞやの火憐に匹敵するほどかわいいのだ。
ぷっくりとした唇、愛らしいほお、整えられた眉、形のいい耳、すっきりした鼻梁。
思わず抱きしめて守ってあげたくなる。
そんな保護欲をそそる幼さこそ月火の魅力なのだ。
ワンレングスの髪のすきまから白いうなじが見える。
そのさらに向こうには、肩甲骨と背骨がお尻のほうにのびている。お尻の片側にはさきほどから僕の手が乗っていて、指はやわいお尻に埋まっていた。筋肉のつきかたが違うせいか、火憐とはまた違う弾力がある。ふにふにだ。
「お兄ちゃん……おしり好きでしょ」
ささやくように月火が言う。
否定はできない。いや、ともかくさわり心地がいいからさ。
ちなみに僕と月火はいま全裸で重なりあっていた。
僕のいきり立った局部は月火のそこを貫いている。
月火をうしろから視姦したならば、まだ幼く男をまだよくしらない未熟な、サーモンピンクなそこに僕の局部が埋まっている様を見て取ることができるだろう。
久々に火憐なしのデート(本人は神原先生とデートなのでべつに後ろめたい気持ちにはならなかった)をきめこんだ僕と月火は、もはやいつもどおり、といった気軽さで情事をはじめた。
シャワーをあびて。
僕の部屋のベッドにはいって。
全裸にむいた月火の膣に、僕の息子をさしこんでからすでに一時間くらいは経過している。
いつしか緩めのエッチが暗黙の了解になり、一度などマッサージのやりあいで終わってしまったことがあったくらいだ。まあ、最近は慣れてきたようで、激しくしても気絶はしなくなったけど。
そもそも月火と火憐と戦場ヶ原と羽川いわく、僕の息子が大きすぎるらしい。以前「縦横にうま○棒三本分」とか例えられたが、いやいやそんなことはない。月火が小さいから、相対的に大きく見えているだけだ。なんだそのバンカーバスター。
人間の持ち物じゃねえよ。
まあ、僕の局部の話はともかく。
髪の毛を揺らしながら月火が上目づかいでこちらを見る。瞳は淫らな光を宿してぬれていた。幼さとのギャップがまたそそる。おねむタイムはおわりをつげたらしい。
「あ、またなにかやらしいこと考えてる……」
唇をとがらせながら月火は細い指先が僕の胸をつっ、となぞる。
挑発するようなことを……。
ぞふぞふとうごめく月火の膣道に、頭のどこかがとろけていく。
月火といっしょにどろどろにとろけたい。
理性はあぶられてどろどろになるものなのだ。
戦場ヶ原の中も名器なのかもしれないが、やっぱり相性というものはあるみたいだ。月火の中は抜群に気持ちいい。人肌に暖め、よくぬめりを持たせたこんにゃくに局部をはさまれるような……そんな感覚がこの一時間、たえず僕にもたらされている。
ちなみに相性としては火憐と月火がベスト1と2を争っている。
神原が3位にはいって、残念ながら戦場ヶ原は4位で……。
いつか痛い目を見そうだ、僕。
長らく待ちぼうけを食らった僕は、身じろぎをする月火に刺激されて、おもわず彼女の名前を呼んでしまった。
「っ……月火ちゃん……」
月火の喘ぎ声が聞きたい。月火の気持ちよさそうな顔が見たい。
そう思うと息子がぴくりと反応した。もちろん、それは月火にも伝わる。なにせ、感覚があいまいになるくらいぴったりとつながっているのだから。
「んっ……あれ、もしかしてお兄ちゃん――」
からかうような視線を向ける月火。
ああ、やっぱりばれちゃったか。でもこれで月火とすんぐほぐれつ、快楽にひたることができるというものだ。察しのよい妹でよか――
「わたしの膣で、おしっこしたくなったの?」
「そんな特殊な趣味があってたまるか!」
ドン引いた。
やっぱり僕の妹たちはとっさの発想に問題がありすぎる!
妹の膣の中で尿を出したいという欲求は、すくなくとも僕の中にはない! どんな変態さんだ。
とっさにそんな考えにいたる月火が心配でならない。いったい日本の情操教育はどうなっているのだろう?
月火が首をかしげる。
「ん? でも勃起しているときっておしっこでも気持ちいいんじゃないの?」
「逆に出にくくて仕方ないけどね……。どこからもってきた知識だよ」
「それにほら、中だしのときの快感の、さらにさきに行けるかもしれないし?」
「絶対に片道切符だよなそれ! 実の兄をどんな目でみてやがる!」
そんな変態行為をやったらもう帰ってこれないよ、どっちも。
そうだね〜と適当な相づちを打ちながら、月火がぺろりと舌をだして僕の胸をなめる。
その際ずるり、と月火の体がずれて、僕の男根をしげきした。
「うっ……」
しびれる感覚が先端から背骨の方につたわり、思わず声をあげてしまった。
膣のなかでうごめいたのを感じたのだろう。月火がいたずらっぽく笑った。
「またお兄ちゃんのぴくってなったよね……。エッチだなぁ」
「このドS妹が……」
憎々しげににらんでいるのに、月火はどこ吹く風といった感じで僕にほほえむ。
いつものように楽しい会話。ちょっとエッチな方向に向かう会話も、こういうベッドシーンでは本当に楽しい。
シャンプーの香りがする髪を撫でながら、もうひとつの手で背中をさすってみる。おもわず浮きでた背骨を、指で上から下になぞった。
「いまどうして背骨をなぞっ――ひぃあぁ!」
反射的に体をおこした月火ちゃんが、いきなりぶるりとふるえる。おなかをへこませ、背を矢なりに反らせた。
「んん――! い、う……」
「うわ……」
膣道が根本から締まり、僕の男根を包み込んだ。そのまま射精までもっていかれてしまいそうな刺激をなんとか我慢する。
「は、あう……」
小刻みにふるえていた月火が息を弾ませながら言う。
ちょっと涙目だった。
「な、なにいまの……。ちょっとすれただけだったのに……」
「へえ、そんなに気持ち良かったのか。そういえば一時間も挿しっぱなしだったのは初めてだったっけ」
いつもは性感マッサージに近いし、挿入も行わないときがあるくらいだ。それにくらべれば、この一時間挿入しっぱなしという状況はチャレンジに近い。日本語で言えば、挑戦。
挑戦はどうやら成功だ。ちゃんと――気持ちよくなってくれているみたいだ。
「う、うん……。なにこれ、こんなに気持ち良くなるものなの?」
「最近のはやりっぽいしな。ポリネシアンセックス……スローセックスだっけ? はやるってことは効果もあるんだろ」
「お兄ちゃんが本気で動いたら、どうにかなっちゃいそうだよ……」
そういって月火は顔を赤らめる。
いや、そんなふうに照れられると、どうにかしちゃいそうなんですけど。
ともかくスローセックスのすすめ、だ。
腰を動かさず、挿入したままいちゃつくのがコツなんだそうだ。
さて、それはともかく、この強気な妹にして、困惑気味な表情というのはめずらしい。
僕の胴をまたぎ、ぺたんといった形ですわりこむ月火。
呼吸するたびに薄い(本人が聞いたら立腹もの)の胸が上下し、なめらかなお腹(幼児体型のせいだが、本人が聞いたら激昂もの)がふくらんで、また元に戻る。
それにしても扇状的で背徳的な光景だ。
一番身近かな――それこそおしめを取り替えたことだってある、身近な妹が僕の局部を飲み込んでいる。
たばこの毒を例に出すまでもなく、背徳はいわゆる麻薬なのだ。
視姦を続ける。
小振りな乳房にのっかる小さい桜色の頂点を凝視する。
乳房がめだたないものだから、乳首のかわいらしい勃起が逆にめだつ。
きれいな桜色。まだ僕しか触れたことのない、けがれのない、そこ。赤ちゃんの爪の先ってあるだろ? あんな色だ。汚れていない。無垢な。
「月火ちゃんってさ」
「んぅ?」
余韻に浸っていた月火が目だけをこっちにむける。
「将来美乳になりそうだよね」
月火の乳房に手をそえた。
しっとりと濡れた肌が、手のひらに吸いつくようだった。
「ひゃ……う、んっ」
月火が体をすくませる。こうなる以前に触った時には、考えられなかった反応だ。
女の反応といったかんじ。
見た目では洗濯板のようでも、ふれてみると乳房が膨らみはじめているのがわかる。明らかに男の胸板とは違う脂肪を感じる。
人差し指と中指の間に乳首をはさんでほぐすように指を動かす。
「あっ、やらぁ……、はぅ……」
刺激をあたえるたびに、小さく悲鳴を上げる月火。その膣もつられるようにうごいて、僕を責め立てる。
先端を撫でるように、
鈴口をこそぐように、
根本をつつむように、
刺激してくる。誘ってくる。
ああ、やっぱり月火が一番かも。
げんきんなお兄ちゃんである。
「感度いいよなぁ……。いつもながら」
すこしばかり乱暴に、親指の腹をぐりぐり乳房におしつけた。親指にだけ乳首のしこりの感覚がつたわる。
「あ、ひっぁ……」
「おりゃ、十六連打!」
「ひゃあああああああああ!」
「必殺、名古屋打ち!」
「ぎゃああああああああああ!」
なんて、男女のまぐわいをしているにしては、色気もへったくれもない愛撫だった。
案外楽しい。
ひとしきり月火の胸で遊んだ。
月火は肩を上下させる。首筋から一筋、汗が流れて、鎖骨に落ち、最後に僕のへそのあたりに落ちる。その汗もすぐに僕の汗にとろけて見えなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。も、おっ! お兄ちゃん、妹のおっぱいさわりすぎ……」
「前と同じ台詞なのに、すごくやらしく聞こえるのは僕だけか!?」
それとも前と違って、ちょっぴり恥ずかしそうに言っているから違うのだろうか。それとも熱い吐息をはきつけて、うすい肩を揺らしているからだろうか。
挑発するじゃねえか、阿良々木月火。
「月火ちゃん。足、こっちむけて」
僕は上体を起こして、月火と向かいあう。
座高の関係上、今度は僕が月火をわずかに見上げる格好になる。
だが、月火の全体重が僕の太股にのっかったおかげで、月火のさらに深いところに男根がはまったのを感じた。先端が何かを押し上げている。
「うう……お兄ちゃん……深い……」
「痛いか?」
月火は首を横にふるう。
「お兄ちゃんはどう? 気持ちいい?」
「気持ち悪いわけないだろう! 最高だぜ月火ちゃん! 月火ちゃんのなかを気持ち悪いなどと言う男を、僕は男だと断じて認めない! そんなやつは人類としてなにか大切なものを持って生まれなかったに違いねえ! そいつの局部はなにか大切なものを失っている! 皮さえむけていないに違いない! いっそ全人類にこの感触を味わってもらいたい気分だ!」
「え、あ、そう……」
これを気持ちよくない、などと言えるものか。
だが勢いよく言いすぎただろうか。月火が若干引いている。
おもいのたけをしゃべりすぎたか。
あとで反省会だ。
月火は深いため息をはいたあと、
「もう、わかったから……はずかしいなぁ、もう」
そんなことをいいながら、月火の腕が僕の首にまわった。
ひっついた胸と胸。相手の心音やらを感じる前に、月火はそのまま僕の耳元にくちびるを寄せて、
「全人類に、とか。プラチナむかつく」
とつぶやいて、
「お兄ちゃん以外には絶対に抱かれないもん」
と続けた。
はずかしいのは言われた僕のほうだ。
耳に吐息があたり、つぶやきが鼓膜をふるわせ、脳に一番近い外部器官であるところの、耳の奥をそぞろかす。
頭の内側をなめられるような感覚は、理性が機能するより前に、僕の思考を真っ白にぬりつくした。
妹との情事が禁忌であることも、罪であることも、わかっている。
そして罪であることを心のそこから認識している。
はじめて月火を抱いたとき、火憐をはじめて抱いたときと同じような罪の意識を感じたのは、阿良々木姉妹と阿良々木暦にとって歓迎すべきことなのだ。
禁忌であることを確かめるために、僕は二人の妹を抱く――。
どちらにしろ、そんなバックグラウンドはいまこのときには、まったく関係がない。
ただふつうに月火とこうしているだけでは、ただの犯罪者になってしまう。僕にもこうしなければならなかった理由というのが存在するのを、なんとかわかってほしかったのだ。
ともかく――
さて、人間の証明たる理性がとろけた人間は、もうケダモノでしかないのかもしれない。本能の命じるままに、僕は月火ちゃんに襲いかかった。
「つ、月火ちゃん!」
つながったまま、僕は月火ちゃんをベッドに押したおした。
スプリングが音を立ててきしんだ。シーツに月火の体が沈み。すこしだけバウンドする。
「あっ」
ほんの少し体をよろける月火の体を押さえつけ、抵抗できないようにしたあと、目をまるくした月火の唇を奪ってやる。
「んっ、ぬう――!」
そのまま舌を入れ込み、口の内側を蹂躙する。
唾液を絡めて、舌を絡めていると、月火も僕の舌に舌を絡めてきた。ざらりとした感触が舌先につたわり、みだらな音が口内でなりはじめる。
くちゅ、くちゅ、じゅる、じゅる。
口の中を犯され、犯される。陵辱され、陵辱される。
月火の口の中は甘かった。唾液のすべてをなめ尽くしたい衝動にかられ、うち頬から舌の下まで味わい尽くす。
「んちゅ、ちゅ、ん、ちゅ……お兄ちゃん……」
しばらく月火の口を味わった。唇をはなすと、月火と僕の間に唾液の橋がかかってすぐにおちた。
すこしだけ理性を取り戻した僕は、股間のうずきをおさえながら、いままで見えなかった結合部をみた。濡れ具合というか――月火の状態を確かめたかったのだ。
大きく開いた脚のまんなかに、僕の男根がうまっている。
まだはえそろっていない恥毛は愛液でびしょびしょでべとべとによごれ、流れ出したそれは、月火の内股をも濡らしていた。
大丈夫そうだ。
僕は月火のうすい腰を両手でがっしりとつかんだ。
月火が大きく体をふるわせる。
「あ、やだ……ちょっ」
あわてて体を起こそうとする月火をよそに、僕は腰を大きくひいた。いままで入りっぱなしだった局部をひきだす。
小柄な体のなかは、暖かくて、それでいて柔らかだった。細かいヒダが、先端から根本までをくすぐり、締め付けてくる。膣道からでてくるまで、一瞬の隙もなく、月火は僕をせめたてつづける。
「あっ、いやゃ……! お兄ちゃん、急すぎ! あっ!」
「う、う、う、う……」
先端が持ち上がるのを我慢できない。油断すればそのまま吐き出してしまうほど、月火のそこは気持ちよかった。
悲鳴をあげた月火は、その顔は恐怖と歓喜をないまぜにしたような、複雑な表情をしていた。
期待と恐怖、かもしれない。
いま挿し入れたらどうなるんだろう?
どことなくうしろぐらい思いが胸のなかにくすぶった。
腰を前に進めようとすると月火は反射的に身をよじって逃げようとしたが、単純な力くらべなら僕のほうに分がある。両手に体重をかけて月火の腰をベッドにおしつけ逃げられないようにしたあと、改めて腰をうちつけた。
先端が肉壁をわって奥へおくへと侵入していった。
「いやっ……いやぁぁぁ!」
小さい子供がいやいやをするように、月火は目をつむって首をそらした。
ふたたび暖かく、うねうねとうごめく月火の中に男根をうめた。ぞろりと表面をなぞりあげる。そして間髪入れずに抜く――。
なにかに急かされるように僕はそれを繰り返した。
ぎしぎしときしむベッドと出し入れするたびに響く水音が聞こえないほどに夢中に、それを繰り返した。
「やっ、あっ、あっ、ああっ、やぁ! また――」
動くたびに月火の悲鳴が、トーンをあげていく。
「また――! やあっ! さっきイったばっかりなのにっ!」
言っている間に、月火はベッドから浮き上がるほど、体をそらせる。
「――! ――! ――!」
眼尻に涙をため声にならない悲鳴をあげる月火を――僕は無視した。吸血鬼よりも、鬼。甘んじて受けよう、その雑言!
達したばかりで敏感な月火をさらに責め立てるため、僕は腰のストロークを大きくした。
「い、やああああ! あっ、あっ、やぁ! やだっ! いったばっかりだから! やさしく――!」
「それは無理だよ。月火ちゃん」
「はへ――!」
「月火ちゃんのアヘ顔みてると、腰がまったくとまらねえ!」
「あっ、やっ、あっ! あ、アへ顔なんてしていない! 変態がいるぅ! 家族を性的に虐待して――ひゃあっ!」
「まったく説得力ないぜ。口から涎たらしながら、あえぎ声をあげつつ、目尻に涙なんて顔、アヘ顔以外のなんだっていうんだ?」
腰のうごきはいっさいゆるめず、僕は月火のほおにキスをする。
まさか、そのキスで達したわけではないだろうが、月火は再び体をびくんんびくんと痙攣させた。
征服感とでもいおうか。
いつも生意気ばかり言ってくる妹を屈服させる快感というか、なんというか。
汗みずくになっている月火の耳元でつぶやく。
「さて、そろそろ本気でいくぜ、月火ちゃん」
月火がびくりと体をふるわせた。さきほどまでの、絶頂でからだをこわばらせたのとは明らかにちがう。
「や、やらっ……」
もう呂律すら回っていない。僕は宣言どおり本気を実行するべく、月火の両足を自分の肩の上にのっけた。
先端がさっきとは違い場所に当たる。そこを男根の先ですり上げたとたん、月火が鳴き声をだした。
「うぐっ――! そこ、だめえっ! だめだよぉ――!」
月火が弱点をつかれて暴れはじめる。
といっても脚は固定されているし、腰は押さえつけている。月火の腕が忌みもなく宙をかいて、最後に自分が横たわるシーツを握りしめて止まった。
月火の一番感じる性感帯、実はそこが一番挿入している僕にとって気持ちのいい場所だったりする。
ものごとは小説のようにうまくはいかないのだ。
ペースが違う以上、同時に達するなんてのは夢のまた夢なのだ。
開き直って月火の弱点におもいきり男根をたたきつける。
「やっ、やっ、あっ、あっ、やあ! プラチナむかひゅ、くっ!!? ひっ、ぎゃあ……」
「月火ちゃん、月火ちゃん、月火ちゃん!」
意味もなく名前を連呼しながら、僕はさらに月火ちゃんを責めたてる。結合部は月火ちゃんから流れでる愛液でとんでもないことになっていた。
ぐちゅぐちゅでぬちゅぬちゅだった。
出し入れするたびに愛液の飛沫が僕の内股にまでふりかかる。
「んっ、んっ、やっ、やっ、やぁっ! お兄ちゃん、はやっ、すぎ、だよっ! あっ、あっ、いやぁ!」
月火の嬌声すら、腰の動きを加速させる材料でしかない。もっと深く、もっと早く。
先端を膣壁にくすぐられ、あっという間に昂ってしまった。
「うううっ! 月火ちゃん、そろそろいくよ」
「……! まって! いま奥にだされたら、またいっちゃうよぉ――! やっ、ああっ、ああっ!」
「大丈夫だよ。外でいいふらしたりはしないから。家族には恥ずかしいところを見せようぜ!」
「いやぁ――!」
制御はとっくに利かなくなっている。挿入している途中なのか、抜いている途中なのかわからなくなるほどに、僕は夢中で腰をうごかしていた。
「はあぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁ――」
「いやぁ! やらっ! あっ、あっ、やぁ!」
わずかに残った吸血鬼スキルを存分につかい、とても常人では耐えられないほどの運動量で月火を責め立てる。
責め立てられる月火は、唇の端から涎をながし、大粒の涙をながし、汗で体中がぬるぬるになっていたりと大変なことになっているが、ほおはゆるみっぱなしだ。悦顔だ。
「はぁっ! やっ、やぁっ! んっ! んっ! んっっ! あああああっ!」
腰をつきこむたびに、月火がはねる。
刺激されつづける先端が僕の意志とは関係なく跳ねあがる。
ちなみ月火は穏やかなのが大好きだが次に好きなのは中だしだ。精液が子宮口をたたくのが、ものすごく心地いいらしい。
「よし、いま中に出してあげるからね、月火ちゃん――」
「んっ、んっ、んっ、うん! 今日は大丈夫だから――お兄ちゃんが欲しいの――!」
艶っぽい笑顔で悦びながら、月火は脚で僕の体をロックした。
そこで我慢が利かなくなった。
先端から勢いよく――精液が飛び出していった。
どくんっ、どくんっ、どくん
「月火ちゃん――!」
「ひゃあああああああああ!」
喜鳴をあげながら精液を受け止め続ける月火を抱きしめる。あらんかぎりに奥まで突きこみ、さらにそこから射精した。勢いよく飛びでたアレが月火の奥にぶちまけられていくのを感じる。
膣道が絞るように収縮した。尿道まで絞られる。最後の最後まで、月火は僕を責め立てる――。
どくん、どくん、どくん
「ん、ぐぅ……で、てる!」
子宮で何億におよぶ精子を受け止める心地よさに、月火はまた子宮と全身をふるわせた。宙にういていた足が勢いよくのびる。
中だしが癖になったらどうするんだ、まったく。
たっぷりと子宮に精子をふりかけ、心地よい倦怠感をあじわいながら、そのまま月火ちゃんをだきしめる。
汗みずくの体と体をぴったりとあわせて、阿良々木月火の鼓動を全身で感じる。
人間より高めの体温をやどし、激しい呼吸を隠そうともしない。
それはまごうことなく人間の、女性のそれで、フェニックスのそれではない。
阿良々木月火。阿良々木家の次女にして、青い炎、ファイヤーシスターズの参謀は。
たしかに僕の妹だった。
「あつい……お兄ちゃんの……」
時間にして三分くらいだろうか。
出すモノをはきだした男根がすこしずつ小さくなっていく。
どくん、どくん、どくん……
「あっ、あっ……な、がいよぉ……。おなかいっぱい……まだびくびく……」
「たまってたからな」
尿道に一滴も残っていない。射精しつくしたけだるい快感にめまいがした。
「ありがと月火ちゃん。気持ちよかった」
「はぁ……はぁ……はぁ……。お兄ちゃん妹の膣で出しすぎ……」
軽口を叩くくらいの余裕が戻ってきた月火をねぎらうように頭をなでる。唇で首筋の汗をぬぐってやる。
月火がよわよわしく、抱きしめ返してきた。
「よく頑張ったね、月火ちゃん」
「はぁ、はぁ、はぁ……やっぱり不公平だとおもう。お兄ちゃんぜんぜん余裕だもん」
「女の快楽って男の十倍っていうからな」
「はぁ……でも、いつか絶対にお兄ちゃんを――してやるからね……」
「はは、――の中身がなんにせよ、まだまだおまえらにイニシアチブを握られたりしねーよ」
「なにそれ……。そのうち痛い目にあうからね、そんなこと言ってると」
上半身を浮かして月火の顔をみる。ほほをわずかにふくらませながら、でもどうしようもなく悦(しあわせ)せそうな顔をしたちっちゃいほうの妹の顔がある。
「月火ちゃん……」
「お兄ちゃん……」
桜色の唇に唇をあわせたあと、僕はゆっくりと月火から男根を引き抜いた。
結合していた部位から、さっきはきだしたばかりの精子が月火のお尻にほうに落ちていった。
おむらしこそしなかったものの汗みずくになったシーツはとりかえなくてはいけないだろう。だが、いますぐ行動する気にはとてもなれず、月火のとなりに寝ころんだ。
僕の体も汗まみれだ。いやがらないだろうか、と頭の片隅で思いながら、黙って月火を抱き寄せる。月火はだまってそれにしたがい、僕の胸に頭をおいてつぶやいた。
「ずっと、お兄ちゃんでいてね、お兄ちゃん」
その台詞に対して、僕がいえることはたった一つだ。
「もちろん。月火ちゃんが嫁にいこうと、なんだろうと、僕は阿良々木月火のお兄ちゃんだ」
この先なにがあっても、阿良々木暦を肯定する要素として、当然の用に阿良々木月火の存在はかき消えたり、しない。
僕はそっと月火ちゃんに顔を近づけて、
月火は普段のたれ目をまあるくして、
僕はそっと舌を外におしだして、
――眼球を舐めた。
「月火ちゃんになにをしてんだ!」
艶消しな――甘い空気をぶっ飛ばす暴力が僕の後頭部をおそったのは、つるりとした眼球の感触を舌先で味わった瞬間だった。月火の涙の味を味わう間もなくぶっとばされた。
ぶっ飛ばされながら、視界のはしっこに、のっぽな影をとらえる。
阿良々木火憐。
おっきいほうの妹の登場だった――。