・するがローズB  
 
 
「―やれやれ、やはり遅すぎましたか―」  
部屋の縁側から聞こえた『いい声』の主を探して周りを見てみると―  
「おや、お久しぶりですね、元ハートアンダーブレードの元眷属さん」  
「―僕はもうヤツの眷属じゃない、あとヤツももう吸血鬼じゃない。だからそん  
な呼び方をするな」  
「困りましたね、一応『元』と二度もつけたのですが…では何とお呼びしたらい  
いでしょう?」  
「阿良々木 暦 だ。名字でも名前でも構わない。」  
「そうですか、では改めて『阿良々木さん』とお呼びしましょう。はじめまして  
、阿良々木さん。」  
「―何がはじめましてだ」  
いくら暗記が苦手な僕でも忘れることは無い。  
神父の出立ち、ハリネズミのような髪型、細い双眸、その名は―  
「ソニック・ザ・ヘッジホッグです」  
「嘘だっ!?」  
 
――ギロチンカッター。  
春休み、吸血鬼と化した僕と戦い、最後にはハートアンダーブレードに骨まで喰  
らいつくされた吸血鬼ハンター、ギロチンカッター。  
何故生きている。  
僕はこいつがキスショットに喰われている所をこの目で見たと いうのに―こいつ  
は一体――  
「なぜ生きている」  
そのまま疑問をぶつけてみる。  
「僕?僕がですか?」  
何を聞かれているのかわからない―という表情。  
「ああそうだ」  
「いやだなあ、僕は人間だったんですよ?生き還る訳ないじゃないですか」  
「ならどうしてここにいる!」  
「おや?その言葉からすると…八九寺さんからお聞きになられていないのですか」  
「―まさか、お前―」  
八九寺は言っていた。  
―『最近怪異に詳しい幽霊に出会った』―と。  
「ええ、お察しの通り、今は幽霊となった怪異の専門家、またはしがない大司教  
、人呼んでギロチンカッターです。」  
「―やっぱり幽霊か」  
「おお、思っていたより物分かりがいいのですね。僕、分別ある人は嫌いではな  
いですよ」  
すごく下に見られている気がするが、気にせず話を進める。  
そんな事を気にするより、今は神原が先決だ。  
「―どうして幽霊に―」  
「いやあ、僕も笑ってしまいましたよ。怪異を認めない者が、その未練と使命感  
の強さのあまり、自ら怪異となるなんて」  
「―まさか、神原を―」  
「いやいや、今の僕は幽霊です。ヘタに術式を張ろうモノなら、自らが浄化され  
てしまいますよ。」  
「だとしても、腕力で」  
「こんな太い蔓、素手で千切れるとお思いですか?」  
「うっ…」  
返す言葉がない。  
もしそんな事ができたら、ここまでの事態になっているはずがない。  
僕一人で、なんとか出来た筈だ。  
「さて、僕の大切な友人である八九寺さんが気を失っているようなので、彼女を  
連れて帰りますね」  
「待て!ギロチンカッター!」  
「はい?僕をお呼びになられましたか?」  
「そうだお前だ!教えてくれ!この怪異を倒す方法を!」  
かつて僕―どころか羽川の命さえ手にかけようとした男に頭をさげるのも癪だが  
、今はそんなことを言ってる場合ではない。  
とにかく、神原を人間に戻さないと―  
 
「この怪異ですか―ふむ―」  
「あるのか!何か方法があるのか!」  
「では、このような話をしましょう。その昔、我が主イエス様は―」  
「宗教説話や寓話なんて聞きたくないっ!解決方法を教えろ!」  
「まあまあ、そう焦らずに、最後まで。  
―その昔、、中世ヨーロッパでは、薔薇はその美しさや香りが『人々を惑わす』  
が為にタブーとされた事があったのです。  
また、薔薇はその美しさ故、ローマ神話では、『愛の女神』ヴィーナスを象徴し  
ていたとのことです」  
「それに何の意味がある!」  
第一、ローマ神話とキリスト教に関連があるのか?  
「まあまあ慌てずに。薔薇は愛の象徴なのです。聖母マリア様のことを『ローザ  
ミスティカ』と言うのはご存知ですか?」  
「知るか!第一僕に怪しげな通販商品をネット注文してクーリングオフ寸前に返品  
してスリルを味わうような趣味は無い!」  
「…阿良々木さんはせっかちですねぇ…わかりました、解決のヒントを差し上げ  
ましょう。」  
今までのはヒントじゃなかったのかよ!  
真面目に聞こうとした僕の心を返せ。  
「阿良々木さんは、『パリスの審判』というのをご存知ですか?」  
−パリスの審判−、そういえば前羽川が言っていた。  
『三美人の中から一人を選ぶなら、二人分の嫉妬を受け止める覚悟が必要なんだ  
よ?阿良々木くんは、三人から誰か一人を選んで、嫉妬を受け止めることが出来  
る?』  
−そんな事と一緒に言われた。  
じゃあ、戦場ヶ原はユノ――ギリシャ神話でいうヘラに決まっている。  
僕はさしづめ、大いに悩むパリスだろう。  
「彼女らは、『誰か一人』が選ばれたが故に、嫉妬に猛り狂い、パリスはそ青き  
の炎に焼かれました――逆に、『全てを選ぶ』ことができたら、どうだったので  
しょう?」  
「―まさか、お前。この僕に―」  
「さて、後は阿良々木さん、あなた次第ですよ?何をしたって構いません。しか  
し、神は全てを見ておられます。あなたが七つの大罪を幾つ犯そうとも、きっと  
お許し下さるでしょう。」  
「何だそれは!僕にその大罪とやらを犯せという前フリなんだな?そうなんだな!?  
」  
「深読みのしすぎは身を滅ぼしますよ?では、あなたに神の御加護があらんこと  
を」  
「ごまかすなっ!」  
そして、八九寺を小脇に抱え、通常の三倍のいスピードで逃げ去る幽霊神父。  
「さらばだ元眷属っ!」  
「勝手に帰るな!」  
流石は鍛えているらしく、僕が門まで追いかける間に、もう姿を消していた。  
「マジかよ…」  
僕は自分のやるべき事を思い浮かべ、大いに自己嫌悪に陥った―。  
「―あらどうしたの阿良々木君、こんな所でローションまみれの上半身を剥き出  
しにして―」  
「…好きでこんな格好している訳じゃない」  
「あらそうなの。私には阿良々木くんが可愛い後輩神原とのプレイ最中に興ざめ  
させるような予想外のアクションをとってショックのあまり盗んだズボンで走り  
出したようにしか見えないけど」  
―その台詞、その暴言、その毒舌―  
「―来てたのか、戦場ヶ原―」  
そこにいたのは、紛うことない僕の彼女―戦場ヶ原ひたぎだった――  
 
 

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