・するがローズF  
 
―美味イ―  
ヤハリ、雄ノ液ハ格別ダ。  
先ノ幼イ雌、盛リノ雌モ悪クハナカッタガ、コレトハ比ベモノニナラナイ。  
モウ、オ腹ガイッパイ―  
ナノニ、コノ雌、マダ飲ム。  
飲マサレル、モット飲ム。  
モウイッパイナノニ、口ニ注ガレツヅケル。  
飲メナイノニ、苦シイノニ。  
「―飲ミ過ギハ身体ニ毒。  
薬人ヲ殺サズ、薬師人ヲ殺ス。生カスモ殺スモ匙一ツ次第―」  
コノ雌、マダ求メテヤマナイ。  
ワタシハ飲メナイ、モウイッパイダ。  
苦シイ、吐キ気ガシテキタ。  
出スシカナイニ、ナオ注ガレル。  
コノ雌ノ底無シノ肉欲ニ、ワタシハツイテイケナイ。  
モウ、ココニハイレナイ。  
今スグ逃ゲテ新シイ宿リ主ヲ探ソウ。  
早ク、早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃  
ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲテ早ク逃ゲ  
テ早ク早ク早ク早ク早ク逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテニ  
ゲテ―  
 
ハヤク、ニゲテ――  
 
くちゅっ…れちゅっ…べちゃっ…ねちゃっ…  
 
二つの口の間で、白濁の液体がやり取りされる。  
なぜ戦場ヶ原が神原と僕の精液を分け合っているのか、最初は理由がわからなか  
った。  
しかし、後々思えばそれは最善の策だったと言えるかもしれない。  
それほどまでに、僕の頭は混乱していた。  
そういえば、戦場ヶ原、結局制服に着替えてなかったな―。  
 
今日僕が神原の家に来た目的、それは神原にとり憑いた『薔薇の怪異』を祓うこ  
と。  
そこに八九寺、ギロチンカッター、そして戦場ヶ原がやって来ただけであって、  
目的が変わったわけではない。  
そして、一連の動作から、戦場ヶ原は解決の方法を「神原の性欲を満たすこと」  
と考えていたようだ。  
それなら、今までの戦場ヶ原の行動に全て説明がつく。  
僕の口を神原に与えたのも、意を決して精液を口で受け止めたのも、それを口に  
含んだまま神原とキスしていることも―  
 
…ごくっ…ごくっ……  
「んんっ…ぷはぁ」  
液を飲み干し、二人の唇が離れる。  
「これで…どうかしら…神原。」  
「うむ…とても…満足した…ぞ、戦場ヶ原先輩…」  
「私だけじゃないわ、阿良々木くんの股間にも感謝しなさい」  
「僕本人じゃなくて!?」  
そんなに局所的に感謝されても。  
「ありがとう…阿良々木…先輩……のっ…股間」  
「やっぱりそこだけ!?」  
本体のこともたまには思い出してやってください。  
 
「―はうっ――あぐうっ!」  
「どうしたの神原!まさか―つわり?」  
「それは早過ぎる!」  
第一口からどうやって。  
「あぐっ――ううっ……うぐぐっ!」  
「神原!?今すぐ近くの産婦人科に」  
「だからつわりじゃない!」  
「いや…その…吐き気と…快感が…同時…え゛うっ!?」  
「神原?神原本当に大丈夫なの?」  
「うがっ…ごほっ…げぶっ」  
途端にむせる神原。  
それは、胃の中から何かを吐き出すようで―  
 
「うがっ…が゛あっ…お゛うぇぇぇ―――――――っ゛!」  
 
神原の口から大量に吐き出される透明な液体。  
その色はうっすらと緑を帯びており、何かの体液のようだった。  
「ごほうっ…がっ…げあぁぁぁぁぁ―――――」  
液体の色に、少し白が混ざる。  
かと思えばみるみるうちに赤へと色を変えて―  
「おい戦場ヶ原!この色、もしかして―」  
「大丈夫!何かはわからないけど、少なくとも血じゃないわ!」  
確かに。  
もし血だとしたら、余りに水分が多く、かつ匂いが甘すぎる。  
まるで、薔薇の花のような――薔薇?  
じゃあもしかするとコレは―――  
 
「げほっ!」  
大きな咳とともに、神原が最後に小さな何かを吐き出した。  
恐る恐るそれを手にとる戦場ヶ原。  
「これは…何かの種かしら。阿良々木くん、阿良々木くんはどう思うの」  
しげしげと眺めたそれを僕の顔の前に持ってくる戦場ヶ原。  
それを手にとった僕は―あれ?  
いつの間にか、蔓が力を失っていて、僕の四肢は自由を取り戻していた。  
とすると、さっきの神原の様子からこの種は―  
「戦場ヶ原、たぶんこの種が、怪異の核なんじゃないかと僕は」  
遮るように戦場ヶ原が再び口を開く。  
「奇遇ね、私の気品あるエグゼクティブな思考と阿良々木くんの陳腐で下賎でい  
やらしい妄想にまみれた思考が一致するなんて」  
「なんだか遠回しに意見の一致を嫌がられてる!」  
そんなに陳腐で下賎でいやらしい思考をした覚えはない!  
「当たり前よ阿良々木くん。ホームズとワトソンの推理が同じだったら話が4ペー  
ジで終わってしまうじゃない、羽川さんのパンツみたいに」  
「どうしてそのことをお前が知っているんだよ!」  
「それは、まあ色々作者が」  
「作者陰謀論!?」  
僕の波瀾万丈春休みの幕を上げる出来事となったあの一秒間。  
この一秒間の記憶は、色褪せることはあっても決して消えはしないだろう。  
あの時僕が瞬きしていたら、キスショットに遭遇することもなかったし、あの時  
階段で上空から落ちてきた重さのない少女を拾うこともできなかった。  
それほどまでに、あの一秒間は僕の人生を人生でないものに変えた―。  
ありがとう、羽川のパンツ。  
「とにかく、この種を潰せばいいのね阿良々木くん」  
「ああ、多分そうすれば…」  
 
「えい」  
 
戦場ヶ原は、僕の手の平の種に向けて円形分度器をそのまま「振り抜いた」。  
 
「うぎゃああああああああああ!」  
手の平を掻っ捌く分度器の縁!  
盛大に吹き出る動脈血!  
生々しい手の平の断面!  
まさに Let's スプラッター。  
「あらごめんなさい阿良々木くん、少し手元が」  
「少しの狂いで手の平を切れるか!そもそも分度器で切れるもんじゃないだろ!」  
「そこはまあ、匠の技よ」  
「そんな匠いらねぇよ!」  
こいつにリフォームを任せるわけには絶対にいかない!  
「でも、阿良々木くんならその程度、私への愛だけで何とかなるでしょう?」  
「愛『だけ』じゃ無理だ!第一愛で怪我が治るか!」  
「えいやっ」  
今度は眉間にコンパスが刺さる!  
「わかりました愛は万能です!ひたぎさんの愛さえあれば何でも出来ますからその  
痛いコンパスを抜いて下さい!」  
「あら、さっきあれだけ出したばかりなのにまだ物足りないのかしら精力糸色倫  
阿良々木くん」  
「そっちの『抜く』じゃねえよ!あと『絶』の文字をわざわざ分割するな!」  
それこそまさに絶望じゃないか!  
「それはそうと、見て阿良々木くん、所狭しと部屋中に伸びていた蔓があしたの  
ジョーのように」  
「白い灰って素直に言えよ!」  
見れば、僕の身体を縛っていた蔓も、部屋を覆っていたジャングルも全て色を失  
い、端から崩れ落ち始めていた。  
「あ…本当だ……って、そういえば神原!神原は大丈夫か?」  
神原が『生えていた』場所に目を向ける。  
 
「むにゃ…もう下の…口…溢れて…」  
 
爆睡中だった。  
ていうか、どんな夢を見たらそんな台詞が出るんだ。  
見れば、いつの間にか根っこも消えて、普通の姿に戻っている。  
幸せそうな寝顔。  
口元から垂れるヨダレ。  
そんなものを見せつけながら、すやすやと畳の上で眠っていた。  
 
「とりあえず、この件に関しては解決という形でよかったかしら阿良々木くん」  
「…ああ、十分解決だ。お前は凄いよ、戦場ヶ原」  
後輩を助けるために、自分の貞操(口内限定)をこんな童貞少年に捧げるなんて。  
あれだけ苦しんでいた『思い』に関わるものを曲げて、意を決し僕を受け止めて  
くれた戦場ヶ原。  
しかもそれを自分以外の人間のためにやるなんて、普通じゃ出来るわけがない。  
「あら、褒められちゃったわ。でも、そんな必要ないのよ。私は、『阿良々木く  
んがしていること』を真似してやってみただけだから。  
阿良々木くんが自身を傷つけてでも神原を助けようとしたように、私も自らを犠  
牲にしてでも神原を助けたかった。それだけのことよ。只のお人よしだと思って  
くれて構わないわキングオブお人よしの阿良々木くん」  
「なんか変な称号取っちゃった!」  
神原の怪異の時、確かに僕は身を挺して左手の悪魔を祓おうとした(もっとも、結  
局は戦場ヶ原のお陰で解決できたのだが)。  
でもそれは当たり前の事だと僕は思うし、それは感謝される程のことではないと  
思っている。  
だけど、こうして見ると、戦場ヶ原や神原、千石が僕に感謝したくなる気持ちが  
少しわかった気がする。  
「さて阿良々木くん、そんなこんなでいつの間にかお昼を過ぎてしまったのだけ  
どこれからどうしたものかしら」  
「…あー悪い、今日は妹達をプールに連れていかなきゃいけないんだ、悪いな戦  
場ヶ原」  
まあ、あいつらのことだから、もう二人で勝手に行っているだろうが。  
「ふーん、つまり阿良々木くんは二人の妹の『ポロリもあるでよ』が見たくてし  
ょうがないと」  
「別に見たかねぇよ!」  
「あらそう、残念だわ」  
「何が残念なんだよ!」  
「とりあえず、最後にこの部屋を掃除してから帰ろうかしら阿良々木くん」  
「…ああ、掃除したほうがいいな。」  
僕らは白い灰にまみれた神原の部屋を掃除し、それぞれの家に帰っていった。  
 
 
ちなみに、この後家に帰った僕は二人の妹から「筋肉バスター火憐スペシャル×  
超絶全身ハリ治療(千枚通し2000本)」を受けることになった。  
 
 
 
後々の話。  
あの時、怪異の核が出てきた理由は、「『僕の精液+戦場ヶ原の唾液』というあ  
の怪異にとって栄養素や水のようなもの」が大量に入ってきて、体内の栄養バラ  
ンスが崩れたことにより身の危険を感じ、神原の体内から脱出しようとしたから  
だそうだ。  
では、あの時の白やら赤やらのカラフルな液体は、「僕の精液+戦場ヶ原の唾液  
+怪異の体液」だったのだろうか。  
やはり、植物も人間も甘やかし過ぎはよくないらしい。  
そんなことを戦場ヶ原に話したら、  
「あら、そんなに栄養満点、甘々豊饒だったのならもう少し出させておけばよか  
ったわ。そして私も神原もぐんぐん発育していつの間にか阿良々木くんのアンテ  
ナが肩にくる身長に」だとか何とか。  
これ以上の身長差は流石にキツい!  
ましてや150cm代の神原が急に成長されても…。  
まあ、バスケには都合がいいかもしれないが。  
その神原としては「戦場ヶ原先輩の唾液も阿良々木先輩の下のシロップも一滴残らず  
飲み干し味わいたかった」というのが本音のようで、その底無しの性欲が怪異に  
対し強烈なパンチとなったようだ。  
変態も、たまには役に立つものだ――  
 
「兄ちゃん起きろ!朝だぞ!」  
「今日こそプールに連れてってもらうんだからね!」  
朝から妹二人に叩き起こされる。  
二人ともプールが待ちきれないらしく、水着のまま部屋に入ってきて容赦のない  
攻撃を僕に浴びせ掛けていた。  
流石に服着ろよ、服。  
「わかった…だからあと5分」  
「「だーめっ!」」  
布団ごと階段から落とされる僕!  
「ぎゃあああああああああああ!」  
痛い痛い痛い!  
階段の角が背中に刺さってくる!  
「とどめだ月火ちゃん!」  
「ほい来た火憐ちゃん!」  
「「階段飛びボディープレスッ!」」  
落下。  
二人分の体重が、僕の身体に突き刺さる…っ!  
「にょげぇ―――――!」  
その時暦に電流走る!  
 
 
そんなわけで、結局神原は元に戻れたので、一件落着。  
ただ、あの時の味が忘れられないのか、「阿良々木先輩!今日の阿良々木先輩のシ  
ロップはどんな味なのだ!ぜひこの口で確かめさせてくれ!」と時々せがまれる。  
日替わり定食かよ!  
第一、恥ずかしいから、人前で出したいモノでも無いんだけどな――。  
 
「「兄ちゃん起きろーっ!!」」  
「ぎゃあああああああああ!」  
 
 
するがローズ 完  
 
 
…とか思ってんじゃないですか!  
そんなわけねーじゃん!  
 

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