「…で、どうしてこうなった、神原。」  
「たぶん、私があまりにも触手に造詣が深いが故に、なるべくしてなってしまっ  
たと考えたい。  
ほら、願えば必ず夢は叶うと言うではないか、触手に鞭に果てはデッキブラシま  
でなんでもござれの阿良々木先輩。」  
「違う!僕は断じて触手や鞭に造詣が深いわけでもないし、第一そんなポジティブ  
な解答は求めていない!」  
「ああ…らぎ子ちゃんが私の発言を全否定する…あふぅ」  
「そんな所で恍惚の笑みを浮かべるな!第一アニメでカットされたネタを引っ張る  
な!あーもー本当にやりにくい!」  
 
話は十数分ほど前に遡る。  
休日にもかかわらず妹二人に叩き起こされた僕は、そのままのどかな朝を満喫し  
ていた…。  
だが、それも鳴り響く着信音の前では儚い胡蝶の夢のようだった。(いや、起きて  
いるから夢ではないのだが。)  
「神原駿河、座右の銘は『I'll be back』だ。」  
「未来で命狙われちゃった!?」  
「その声と峠を走るハチロクのようなキレのいいツッコミは阿良々木先輩だな」  
「僕は豆腐屋じゃねーよ!あと免許も車も持ってない!」  
「ふむ、阿良々木先輩ならシルビアとシルエイティの走りの違いが判ると思った  
のだが…すまない、とんだ見込み違いだったようだ。」  
「普通の人はわかんねぇよ!第一、休日の朝早くから何の用だ!」  
「ふむ、それがな、言葉で表すにはちょっと人知の範囲を超えてしまっていると  
いうか…」  
「まさか、また怪異か!?」  
また怪異がらみか、どうして僕の周りにはこんなにも怪異が寄ってくるのだろう  
か。もし運命の女神が僕に試練を与えているのなら、僕は試練突破記録を作れる  
自信がある、それも、何度でも。  
「…まあ、そういうことなのだ。もっとも、今回は身から出た錆とも言えるのだ  
が。」  
「なんだ?またその左手か?」  
「いや、今回は何というか…その…説明しずらいのだが…。」  
「なんだ?そんなに言いづらいことなのか?」  
「その…何というか…地に足着いてるというか……根っこが生えてしまったのだ  
。」  
「……。」  
「あ、いや!その、根っこは根っこでも男根がというわけではないぞ、本当に足か  
ら根っこが生えてしまったのだ。」  
「なんでそっちの根っこに走る!僕はそんなにそっちに興味があると思っているの  
か!」  
「まあ、とりあえず家まで来てくれ、阿良々木先輩。」  
「…あまり行きたくないが、行くしかないんだろうな……よし神原、しばらく待  
ってろ!」  
「おお!さすがは海の様に広い心を持つ阿良々木先輩!私のような小心者にはでき  
ないことを平然とやってのけるその器量、感服するばかりだ。」  
「よせよ、褒められるのは慣れちゃいない。で、何か持っていく物はあるか?」  
「ふむ…とりあえず、掃除道具とエロスに満ち溢れた阿良々木先輩の心、そして  
今日発売の『メリー×マスG』を買ってきてくれないだろうか。」  
「後ろ二つは断固拒否させてもらう!」  
そして数分後、今に至る。  
 
 
以上、回想終わり。  
「思ったより時間がかかったのだな、阿良々木先輩。あんまり遅いので先輩をオ  
カズに自慰をしてしまったぞ。」  
「人を勝手にそんなことに使うな!第一今日は妹をプールに連れて行く予定だった  
んだ!」  
「そうか、ではこれからは阿良々木先輩で自慰をする度に私の音を聴かせる事に  
しよう」  
「それもやめろ!この変態!露出狂!エロス大王!変態ランドに帰れ!」  
「ああ、いいぞ…もっと罵ってくれ、阿良々木先輩。その一言一言が私を快楽の  
奈落へと引きずりこむ……」  
「わかった!わかったから好きにしろ!とにかく落ち着け!」  
「ふむ、お心遣い感謝するぞ、阿良々木先輩。」  
と、いつもの様に言葉を交わした僕と神原だが、僕はともかく、神原の方はいつ  
もの通りではない。  
そう、根っこが生えているのだ。  
性格には、足が途中から根っこになっている、と言うべきだろうが、もはやそん  
な事はどうでもいい。  
根っこどころか、蔓まで生えているのだ。しかもそれが部屋中巡っているのだか  
ら、まるでジャングルに迷いこんだかのようで…  
「時に阿良々木先輩、阿良々木先輩の下の方はジャングルなのか?」  
「なんで僕のモノローグに合わせたかのようにそんな質問をする!テレパシーか!  
そうかテレパシーなんだな!?」  
「いやぁ、そんなに褒められても…ちなみに私は毎日欠かさず手入れをしている  
ぞ。」  
「聞きたくない事聞いちゃった!」  
話を戻そう。  
根っこが生えて部屋に屹立している神原。そこから伸び、部屋中を巡る蔓。その  
表面には小さな棘が浮かんでいる―そう、まるで薔薇のように―。  
神原が言うには、「昨日学校から帰ってBL本を読みふけっいたら寝てしまい、朝  
起きて日差しを浴びるころにはこうなってしまっていた」らしい。  
神原、寝てる間にどうやって立ったんだ。  
「私としては、触手プレイができるから、最初はこのままでもいいと考えたのだ  
が…」  
「そこでこのままでいいと思うなよ!」  
「しかしな、今日が『メリー×マスG』の発売日であることを思い出してだな、  
このままでは買いに行くことができないということで考え直したのだ。」  
「そこで考え直すのかよ!てか、食事とかはどうするんだよ!」  
「あ、そこについては心配することはないぞ、阿良々木先輩。  
この姿になってから、どうやら光合成が出来るようになったみたいなのだ。  
水分も、根っこから吸い上げる事ができ、いざという時は触手を伸ばせば大抵の  
ことは可能だからな。」  
「新たな人類の進化の方向性を示しちゃってる!」  
「というわけで阿良々木先輩、この神原駿河を元に戻していただけないだろうか  
?もちろんタダとは言わない、この部屋には阿良々木先輩の趣味に合う本もある  
から、それらを好きなだけ持っていくがいい。なんならこの私ごとお持ち帰りし  
ても構わないぞ?」  
「…拒否することを躊躇する僕がいるが、ここは良心に従って断固拒否しよう。  
」  
「うむ、少し残念だが、阿良々木先輩らしい返答だ。快く受けとっておこう。」  
そうして、僕らはこの神原を襲った怪異―恐らくは薔薇か何か―について調べ始  
めたのだった。  
 
 
 

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