――佰年が経った。  
 
僕は歳を取ることが出来なかった。  
あの時のまま、キスショットに眷属にされた時の年齢だった。  
高校三年生。  
十八歳。  
それが今の僕の外見だ。  
 
僕は戦場ヶ原と一緒になった。  
結婚し、子供ができ、自立するまで育てる。  
家族に事実を打ち明けると、思った通り笑い飛ばされた。  
火憐と月火だけは真剣な表情で聞き、本気で驚いてくれていた。  
僕の言うことは本当に信じるんだな。  
 
だけれどそれ以外の人間は信じようとしない。  
どれだけ真剣に告白しても、  
どれだけ真摯な態度を取っていても、  
どれだけ思い悩んで言ったとしても、  
信じるわけがない。  
 
見たこともない怪奇現象なんて、目の当たりにしなければ信じないものだ。  
出来れば使いたくなかったが僕の言葉を信用してもらうため、影から忍を出現させると一瞬で部屋の空気は凍りつき、みんな目を丸くしていた。  
みんな口を開くことは出来ないでいた。  
当の忍は眠い目を擦りながら欠伸をし、緊張感に欠けていたけれど……。  
 
みんなは呆気にとられている状態のままだったが、怪異に関わることは極力避けるように注意し、  
もし不可避な出来事があったら連絡するように、と強く言い聞かせる。  
 
こうして僕とひたぎは家から出て行った。  
 
田舎のこの町には、ご近所付き合いというものがある。  
さすがに歳を取らない夫婦というのは不気味過ぎる。  
だから出て行くのはどうしようもないことだった。  
 
歳を取らない夫婦。  
僕は確かにそう言った。  
僕と何度も交わり、唾液や精液を身体に受け入れた戦場ヶ原もいつの間にか人間もどきになっていた。  
歳を取っていない、という事実を前にしてひたぎはこう言い切る。  
 
「あら、そうなの? じゃあ地獄の果てまで一緒に行きましょう」  
 
笑顔だった。  
たまに彼女の価値観がわからなくなる時がある。  
訊いてみると、  
「私だけ歳を取るなんて不公平じゃない。それとも何かしら。あなたは歳を取った私としたかったとでもいうの?  
 あなたがロリコンだということは薄々気が付いていたけれど、熟女までいけるなんてね。  
 ああ、そういえばいつだったかに誰かから聞いたことばあったわね。  
 『阿良々木先輩はうちのおばあちゃんさえもストライクゾーンに入っている』って。  
 申し訳ないけれど、おばあちゃんになった私とそういうことしたかったというあなたの性癖には応えられないわ。ごめんなさい」  
などと言いやがった。  
 
でもデレたひたぎはそんなことを言わない。  
彼女がそんな言葉を使ったのは僕が頼んだからだ。  
「これから一週間はツンツンしてみてくれ」って言ったら、ちゃんと要望に応えてくれるひたぎさんだった。  
でもやっぱり毒は足りなかったけれど。  
 
 * * * * *  
 
「阿良々木ハーレムは永久に不滅ですね」  
 
いつだったか八九寺に言われた言葉だ。  
八九寺は幽霊だから死ぬことはない。  
特に悪いことをするわけでもないので除霊もされない。  
 
歳を取らない小学生は僕が行く先々で遭遇する。  
浮遊霊だから何処へでも行けるということなのだろう。  
僕を追ってきているって素直に言えばいいのに、そういうことは言えないようだ。  
恥ずかしがっている。  
いつになっても可愛いやつだった。  
 
一応説明しておくと、八九寺が言う阿良々木ハーレムの加入者は、阿良々木ひたぎ、忍野忍、羽川翼の三人。  
阿良々木ひたぎなんて言うとわかりにくいだろうが、結婚した以上戦場ヶ原とは言えないものである。  
 
八九寺は「私は数にいれないでください!!」と声を荒げて言っていたが、それは恥ずかしがっているだけだ。  
だから阿良々木ハーレムには、八九寺を含めて四人は常時入っているようだ。  
 
 
羽川翼。  
彼女も歳を取っていない。  
たぶん原因は高校二年から三年に上がる春休み。  
僕がキスショットと出会った春休み。  
羽川はエピソードに腹を貫かれ、死にそうになった。  
忍野に金を払う約束をし教えてもらった結果、吸血鬼の眷属だった僕の血で羽川の怪我を治した。  
その時に僕の血が大量に混ざったのだろう。  
羽川もあの時から人間もどきだったようだ。  
 
頭を下げて謝った僕を責めることはせず、  
「これでいっぱい勉強できるね」  
と笑って言っていた。  
 
人生勉強、日々勉強。  
生涯学習を旨とする羽川でも世の中のことを全て知ることは出来ないだろう。  
技術は日々進化し、巡っている。  
どのように変化して行くかの方向は予見できるが、それを実際に見るのは難しい。  
羽川が言うには、まだまだ勉強することはあるようだ。  
 
 
あくまで人間もどきの僕達はいつでも死ぬことが出来る。  
だけれど、そんなことをすることはない。  
変化にとんでいるこの世界。  
技術が進歩し、科学が進歩したことで、人々は不可思議な現象からは認知されにくくなっているが、怪異はどこにでも存在している。  
それを解決し、料金を得る。  
僕が今、仕事にしているのは忍野と同じ、怪異の専門家。  
バランスを取り、交渉をする。  
時には闘うこともある。  
ドラマツルギーと共闘なんてこともあった。  
 
 
危険な怪異との接触で何度か死にそうにはなっているけれど、それでもなんとか生きている。  
幼い忍と、  
妻になったひたぎと、  
大恩人の羽川と、  
僕のことが大好きでひたぎにいつも嫉妬している八九寺と、  
一緒に生きることが出来ている。  
 
キスショットのように一人ではない。  
これは大きな救いだった。  
人間強度の考えを捨てた僕の周りには何人もの大切な人間がいる。  
お蔭で生きる希望を失うことはなかった。  
こうして昔を懐かしんでいるわけだけれど、これからまた大仕事だ。  
忍野や影縫さんのように強くない僕には危険度が高い。  
だけれど、誰かが勝手に助かるためには必要なことだった。  
 
こうして僕らは日々を過ごしている。  
 
 
 
 

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