ヒトクイエンディング――病室にて  
 
まったくあの人の――浅野みい子の物語というのは――  
 
夜の病室はなんとも寝心地が悪いものだ。人間的に整備した環境を維持するために  
機械は一瞬たりとも休むことを許されない。無音の闇の中で、その唸り声は耳から離れないのだ。  
 
こんこん。  
午前3時。看護士さんもこんな怪我をしただけの男のために見回りに来る必要なんてないのに。  
僕は寝たふりをする労を思ってため息が出そうになった。  
(らぶみさんなら楽なんだけどな)  
小言を言われずに済む。子供じゃないんだから多少生活リズムをずらした程度で目くじらを立てなくてもいいと思うのだが。  
ま、とにかく  
ぐぅぐぅ。  
 
「・・・・・・」  
ぐぅぐぅ。  
ぐぅぐぅ。  
「いの字…」  
はい?  
 
ずいぶんフランクな物言いの看護士さんもいたものだ。  
第一その呼び方はみい子さん設定。あまりいただけたことじゃないね。  
などと思っていると、傍らの人物はうつ伏せになっている僕の後頭部を撫でた。  
「あまり女を待たせるものではないぞ。いの字。早く帰って来い。そして―――」  
もしかして、  
「みい子さん、ですか?」  
「応、いの字。起きていたのか」  
 
「じゃなくて、どうしてみい子さんがここにいるんです?」  
「見舞いだ。昼間、崩の奴も来ていただろう」  
ほれ、と、みい子さんは僕に八つ橋を手渡した。あ、そこ、置いといてください。  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
「いの字」  
「はい?」  
「告白、しないのか?」  
な!?  
「あー、えー・・・。あ、そうだ!ほら、ここ病院じゃないですか。僕、「帰ってきたら」って言いましたし・・・」  
「そうか。・・・残念だな」  
表情の変わるみい子さん。なんかすっげぇ罪悪感。  
 
「私は好きだぞ、いの字。おまえが私のことを好きなくらいにはな」  
「あのー、みい子さん?」  
「信じられない、か?しようのない奴だ」  
前言撤回・・・。食われる!  
 
僕はベッドに腰掛けようとするみい子さんを止めることはできなかった。  
ここで騒いでみい子さんが不審者(しかも帯刀。銃刀法違反/建造物侵入etc・・・)決定も望むところではないし。  
「突然どうしたんですか?みい子さん。こんな夜中に」  
普通ならこんな非常識をする人じゃないだけに、話し合いの余地もあると判断だ。  
「だから見舞いだと言ったろう。ついでに告白の件もあったからな。まぁ、あの時はお前に言われてしまったからな。今度は私のターンという奴か」  
告白はついでですか。ってかあんなスキンヘッドに毒されないで欲しい。会ってもいないのに。  
「『私は好きだぞ、いの字。おまえが私のことを好きなくらいにはな』だ。お前はどうするんだ?いの字」  
みい子さんの攻撃。主人公は156のダメージ!あ、表示が赤い・・・。  
「・・・」  
「相変わらずはっきりしない奴だ」  
時間切れ早っ!  
「まあ、崩や姫もお前を好いていたようだしな。決めかねるか・・・」  
「いや、そういうわけじゃないんですが」  
「他にも青くてうにーなのやら、こないだまでアパートにいた変なのやら」  
しっかりチェックしてらっしゃる・・・  
「大人気というわけだ。いの字」  
はぁ  
「まぁ私としては私が勝手にお前を好きなんだからお前が誰を一番好きでもいいんだが」  
「この際教えてやろうとおもってな」  
 
「これが努力というものだよ。いの字」  
・・・とても子供には見せられない教育現場ですね!  
 
みい子さんは病院のベッドを軽く軋ませた。  
告白をしてしまうというのは失敗だった。  
みい子さんの髪の毛が顔に触れる。それだけでなにかもう、異常なものを感じる。  
戯言遣いが、白濁沈殿していた僕の人生がどうにかなってしまいそうだった。  
「いの字・・・」  
みい子さんは暖かな目を向けてくれる。虫のいい話だ。話がうますぎる。だけど、  
だけど信じてみてもいいんじゃないかって、未来を信じても。  
そんな――  
「服が邪魔だ。斬るぞ」  
はい?  
ず・・・ずんばらりん・・・  
 
「ふふっ、緊張しなくてもよいのだぞ、いの字。知らぬ仲でもあるまいよ」  
いや、けっこうシリアスなモードに・・・。期待しても無駄か。  
心地よい重量感。それはどうしても取り除けないって意味で、僕の胸骨にはやや荷が重かったらしい。  
ぱきっとね。  
「あ・・・あぅ・・・」  
「むぅ。ずいぶんと奥手なのだないの字。安心しろ。まぁ今回はお疲れ様だ」  
今度の甚平は見た事がなかった。そして、僕はそんなことよりもみい子さんの白い肌に見とれてしまったのだし。  
(これが・・・ひとつになるって、ことか)  
僕は半身になった体でみい子さんを仰ぎ見る。肩に、みい子さんの手が乗った。みい子さんも心なしか興奮しているらしい。  
ぽきっとな。  
力が強かった。  
脳内麻薬は素晴らしい。正直もう少し気合いが必要かと思ったのだが。何事も痛いのは最初だけってヤツか。  
肋骨が悲鳴を上げるが、気にするほどでもない。  
みい子さん。僕を救ってくれた人。  
みい子さん。僕を叱ってくれた人。  
みい子さん。僕を愛してくれた――  
 
「おっはよー!いーいー!いーいーの大っキライな新しい朝が来たよー!」  
あれ?  
「ん?どったの?いーいーボケちゃった?おーい。らぶみさんですよー?もひとつおまけにみこみこナース♪なんちゃってー」  
みい子さんは?  
「ま、いいや。いつものことだし。さ、脱いでいーいー。清拭する・・・」  
「いや〜〜!いーいーのえっち、不潔、信じらんな〜い!」  
まあそのことは後だ。まずは「清拭でなぜ下から脱がすのか」。この女に子一時間問い詰めなくてはならない。  
 
 
 

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