1 
 
「月火ちゃんになにやってんだ!」 
 
 叫びとともに気合一閃。目の前にあった月火の顔が一瞬でながれ行き、僕は壁までぶっとばされた。 
 常人なら首の骨が折れている。 
 僕は壁に当たって、重力にひかれてベッドに落ちた。 
 簡単にかかれているが、現実的にはかなりシュールな光景だ。 
 
「う、があ……」 
 
 未知の痛みにうめきつつ、ベッドのシーツにひれ伏しながら、部屋の入り口をみる。 
 おっきいほうの妹がいた。 
 あいもかわらず、かわいいよりも格好いい、阿良々木火憐。 
 長めのショートカットといったヘアスタイルは、どこをとっても鋭く、凛々しく、格好いい火憐にはよく似合っているがあえつらえたように似合っていた。 
 ポニーテイルだった部分のなごりで、後ろ髪がちょっと長いのも高ポイント。うなじを隠す位の長さの髪が女の子をしている。 
 
 格好よすぎる。 
 
 
 僕の体に残るわずかな不死性のことを知ってから、ことさら暴力的になってしまった阿良々木家の長女が、理想的な前蹴りを繰り出した体勢でとどまっていた。 
 
 お気に入りサイクル・ジャージに身を固め、長い足をこれでもかと見せつけるレーパンを装備した火憐は蹴り脚をどん、と床にたたきつけ怒鳴った。 
 
「月火ちゃんの眼球になにすんだ! 月火ちゃんの眼球を好きにしていいのはあたしだけだ! なあ月火ちゃん!」 
「いや……火憐ちゃん……それもちょっと……」 
 
 ベッドに横になったまま、月火が若干引いていた。 
 ざまあみろ。 
 おまえと違って僕は月火の涙まで舐め尽くせるぜ。 
 
 首のすわりを確認しながら、やっとこ復活する僕。 
 あれ、いやちょっと待てよ? 
 火憐の奴、どうやってこの部屋にはいって来たんだ? 扉が開く音(火憐が扉を蹴り開ける音)もなにもきこえてこなかったぞ。 
 火憐でも扉を無音で蹴りあけることなど不可能だ。そんな忍者みたいなスキルは火憐の持ち物ではない。 
 トリックの証明よろしく、導き出される答えはひとつだ。僕は以前の失敗から(歯磨きゲームの際、月火に発見された失敗から)、部屋の扉は必ず閉じることにしている。だから、扉がもともとあいていたということは絶対にない。絶対に、だ。そしてカーテンからわずかに漏れる光に――火憐の濡れた指先が照らされた。 
 要するに、だ。 
 
「おまえ、ドアをあけて僕と月火ちゃんの情事を覗いていたろ!」 
 
 そんな結論に達してしまった。達することすら恥ずかしい結論だが、的には必中しているはず。 
 火憐は一度おののくような動作をしたあと(もうこの時点でなにがなんだかばらしているようなものだが)、鼻でわらった。 
 
「はぁ!? ふざけんじゃねえぜ兄ちゃん! なんで妹と兄の情事をどこぞの家政婦よろしく覗いてなきゃいけねーんだ!」 
「家政婦が情事をのぞくわけないだろうがイメージでもの言うな! だったらその濡れた指先はなんだ。僕たちの情事を見て耽ってたなによりの証拠だろ!」 
「はっ! 語るにおちたな兄ちゃん! さっき念入りに指をあらってきたから、濡れているとしたらそのときの水だ! ったく兄ちゃんの短慮にはおそれいったぜ!」 
「語るにおちてんのはおまえだろ。自分から告白してるぞ!」 
「う……なかなかやるぜ、兄ちゃん。そうだよ、二人の情事を見て耽ってたよ! 悪いか!」 
「悪いかどうかは別として、もうちょっと頭を使え! 『外から帰ってきて手をあらうのは普通だ』っていう反論もあってしかるべきだろ! なんで思いつかねえ! あり得ない可能性を全部つぶさせろ!」 
 
 そして頼むから消去法をつかわせてくれ。 
 有効な証言をならべてくれ。 
 妥当な推理をさせろ。 
 
「あ……なるほど。さっきのは兄ちゃんを試しただけだ。実は外から帰ってきたときに手を洗ったんだよ! だから手とか濡れてんだ!」 
「『手とか』、とかさ……。なんかもういいや」 
 
 ほかにどこが濡れてんだよ、おまえ。 
 そんなに下着脱がされたいのか。 
 手を洗う前に着替えてこい。 
 
 その濡れた指先で後頭部をがじがしひっかきながら火憐が言う。 
 
「でもよくわかるよなー。こんな真っ暗闇であたしの指のことに気がつくとは」 
「あー……もうそんな時間か」 
 
 部屋の時計をながめる。夕食一時間まえといった時間だ。 
 
 さて火憐の指摘はもっともだったが、それにはトリックがある。 
 情事のおりには恥ずかしがって明かりを全面的に消したがる火憐と月火(どちらかといえば明かりを消したがるのは月火のほう。火憐は暗ければいいな、程度の消したがり)だが、実は吸血鬼スキルのせいで暗視が利き、わずかな光源さえあれば十分な明度が得られている。 
 だから二人が想像している以上に丸見えだったりするが、これに関しては黙っておく。いまさら照れられても困るし(萌えるけど)。 
 一人称なのにやけに細部が詳しいとしたらそのせいだ。 
 そもそもまっくらなのに桜色の頂点とかいえるわけがない。これは僕のスキルによるものだ。 
 決して一人称のルールをやぶるものではない。 
 さて、尋問を再会しよう。 
 
「しかし、いつも乱入してくるくせに。今日に限ってどうして覗きだ」 
「いやぁ。月火ちゃんのアヘ顔がかわいくって、つい。参加してるとさ、見えない面ってあるじゃん。それでタイミングを見失っちゃってさぁ。扉あけてても、兄ちゃんも月火ちゃんも気がつかねーし」 
「気がつくかよ……。こっちは夢中なんだぞ? ただ覗きはわからなくもないけどな。おまえと月火ちゃんが絡んでいるときって、普段僕とやってるときと表情が違って見えるんだよな」 
「……なんか語るにおちる以前の、とんでもない告白をされた気がするけどまあいいや。月火ちゃんサイコー」 
「サイコー」 
「月火ちゃんのどのあたりがいいのか聞くぜ兄ちゃん」 
「そりゃもちろん――」 
 
 火憐とうなずきあう。僕と火憐。ちっちゃい妹のことに関して(特に情操面)ほとんどの場合意見が合致する。 
 
「童顔な月火ちゃんの顔がゆがむのがいいんだよな……」 
「童顔な月火ちゃんの顔がゆがむのがいいんだよ……」 
 
「そろってロリコンかよ!」 
 
 月火が勢いをつけて起きあがった。いままでの情事の影響がうかがいしれる、快楽に疲労した顔をしながら僕と火憐を交互に見て、あきらめのため息をはきつつ言った。 
 
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが両方ともロリコンだったなんて……パパとママが知ったら卒倒しちゃうよ。長女と長男が犯罪者で、次女がその被害者なんて育て方を間違えたなんてレベルじゃないよ……」 
 
 たしかに僕がパパママの立場だったら自殺しかねない、子供たちの現状ではあるけど。まあ兄妹であるためには必要なことなので、しかたがないと目をつむってもらおう。 
 無理か。 
 でもばれないように細心の注意はしているし、大丈夫だろう。たぶん。 
 
「まあ、僕の場合はロリコンとシスコンだけだからいいけど、火憐ちゃんの場合はロリコンかつシスコンかつ百合だからなぁ」 
 
 ――かたくなに否定していた僕のロリコン、シスコン疑惑を一時的に肯定することによって、火憐との変態項目比べに勝利する。肉を切らせて骨を断つだ。 
 それに対して月火は目尻をつり上げて言った。 
 
「お兄ちゃん、五十歩百歩っていう言葉知ってる? あとお兄ちゃんには最後に『鬼畜』って属性がくっつくから百歩百歩だからね〜」 
「ははは。冗談はよせよ。たしかに僕は中途半端な吸血鬼で鬼だけど、鬼畜じゃないよ」 
「いやがる妹の腰を押さえつけて犯したのはいったいどこのだれだ!」 
「鬼畜々木さんじゃないのか」 
「お兄ちゃんだよ! というかいきなりボケにまわるのやめてよ! プラチナむかつく!」 
 
 対応しきれないよ、と全裸のままベッドの上で頭を抱える月火。 
 小動物がぶるぶるふるえているようにも見える。もちろん全裸で。 
 そんな月火を視て、僕と火憐が思うのはただ一つだけなのだが。 
 
「「いやぁ、萌えるわ」」 
「いやぁあああああ! お、おそれていたバランス崩壊が! パワーバランスの崩壊が! 枕を涙で濡らす日々が……」 
「「矯声と淫夢を抱いて眠れ……」」 
 
 月火のことに関しては僕と火憐の意見はかなりの確率でシンクロする。 
 びしっと月火を指さすのも忘れない。 
 非常に馬鹿っぽいけど。 
 
「ま、楽しんでいた月火ちゃんはちょっと置いておいて。兄ちゃん、いっしょに風呂はいろうぜ〜。背中流そうぜ〜」 
 
 とかいいながら、ベッドの上にのっかってきた火憐が僕の左手首を両手でつかんだ。 
  
 ――これでは緊急性がいまいち伝わらないかもしれない。『火憐が僕の手首を両手でつかんだ』と、括弧つきで描写すれば、僕の背筋が凍りつくような戦慄がつたわるだろうか。 
 月火との情事の余韻なんて速攻で吹っ飛んだ。合気道式に固められているのか、どんなに力を入れてもふりほどけない。 
 ここで僕が、実の妹どうして風呂にはいらなければならないんだ気持ち悪いなどと吐こうものなら、動脈ごと手首をたたき折られる。予感ではなく、体で表現する予告に近い。 
 次回予告。 
 言うことを聞かないなら手首を折る――。吸血鬼スキルがあるから大丈夫――。 
 
「な、なんだよいきなり。別に一人でも風呂くらい入れるだろ」 
 
 恐怖で声がうわずった。語尾がふるえなかったのは我ながら対したものだと思う。 
 火憐は僕の感情に気づいているのか、いないのか。 
 
「それがさー。ためしてみたいことがあるんだよなー。でも兄ちゃんと一緒じゃないとできないことでさぁー」 
 
 火憐は手首を握りながらしなをつくり、ねだり声でつづけた。顔を身体を寄せてくる。おっぱいが――肘に当たった。 
 口ではおねだり口調なのに――手首の血の巡りが――停止する。 
 暴力が開始され、暴力を実行される。 
 やられたほうには恐怖しかない。 
 
「僕がある程度の暴力に耐えられることを知ってから暴力がはげしすぎないか!? 手首の血の流れが完全にとまっているんだけど!?」 
「実の兄をサンドバックがわりになんてしないよ。なんならダッチワイフにしてやるぜ」 
「ダッチワイフにモノはない」 
「性転換したダッチワイフだよ」 
「それはすでにワイフじゃない!」 
「兄ちゃんをワイフにしたいな……」 
「その台詞。おまえがもし男だったら格好よすぎだからな!? 神原あたりなんていちころだ!」 
「なぁ、兄ちゃんいいだろ? かわいい妹がこんなに頼んでいるんだからさぁ」 
「一応聞くけどなにをするつもりなんだ」 
「そんなおかしなことじゃねえよ。変態扱いすんな。このまえの歯磨きの続きだよ」 
「は?」 
「や、だから。歯磨きの延長で体磨きを」 
「おまえに神原を紹介したのは、僕の人生のなかで一番の失敗だ!」 
 
 予想していたとはいえ、まさかこんなに早く神原に毒されるようになるとは。 
 火憐は不思議な顔をした。 
 
「なんでそこで神原先生がでてくんの? あんまりにも脈絡がねーぜ、兄ちゃん」 
「いまの体磨きのネタ元って神原じゃないの?」 
「それはものすごく失礼じゃないか、神原先生に向かってさぁ。兄ちゃん――手首おっちゃうぞ?」 
「かわいらしく言っても結局は暴力に訴えるのな!」 
「あたしの暴力は芸術だ!」 
「ちがう、ただの加害要素だ」 
「あーもう。だから入るのかはいらないのか! どっちだ兄ちゃん! 入らないんだったらこっちにも考えがあるぞ」 
 
 
 手首の動脈がひきしぼられた。 
 握力だけで骨を握りつぶされる。 
 わずか数秒後には――。 
 たたき折られる――。 
 
「はいるよ……」 
 
 結局僕は妹の脅迫に屈した。 
 
「はいるよ!」 
 
 期待に胸を膨らませながら。 
 
 
2 
 
 月火と火憐は、お風呂の時には電気を消そうとしない。消されたら危ないどころじゃないが、ベッドイン時よりも体の細部がよくみえるのに、ちっとも気にしていないのだ。 
 アンバランスきわまりないが、そこは男の僕にはわからざる理由があるのかもしれない。 
 
 高校生と中学生がふたりで浴槽に入って、スペースがあまるわけがないので、火憐は脚を浴槽の縁に投げ出している。僕は火憐の肩越しに顔をだして、水面のあたりに浮き沈みする乳房を何の気はなしにみていた。 
 わかったことがある。 
 どんなに発展途上中でもおっぱいは水に浮くのだ! 
  
「こうやって二人でお風呂もひさびさだなあー」 
 
 ん、と体を少しのばしながら言う火憐。 
 確かに、『二人』で入るのはひさびさだ。 
 あの日以来、『三人』で入るのはめずらしくなくなったけれども。 
 
「……そーだな。まさかこの年になってまで実の妹と風呂にはいることになるとは思っていなかったよ」 
「あたしだって思ってなかったぜ」 
 
 まーいいじゃん、甘露甘露、とどこぞのおっさんのようなことをいいながら、火憐は僕に体重を預けてきた。 
 湯船にはったお湯に波紋が広がる。火憐の下敷きになっている格好だが浮力が効いているおかげでちっとも重くない。 
 
 そもそも火憐は格闘技に傾倒している割には軽い。本人曰く適切に鍛えられた筋肉と、タイミングさえあれば十分有効打になるのだそうだ。 
 理屈としては正しいが実際にはとんでもない高等技術だし、実行できる人間はそうはいない。中学三年生の分際で、そこまでの高みにのぼりつめてしまった火憐の最終着地点はいったいどこになるのか見当もつかない。いまだ成長期まっただなかの妹を体の上にのせながら、僕はそんなことをおもいつつ、湯船に肩を沈める。 
 情事のあとのけだるさが残っているので、ぬるめのお湯がちょうどいい。 
 
 しかし、それにしても……。 
 
「脚がながいよな……火憐ちゃんは……」 
  
 踝から上を湯面の外に出し、浴槽のへりにのっけられた脚は、そして僕よりも若干長い脚は、べつにその方面のフェチでなくてもおもわずうっとりするような、そんな肉感的な美しさがある。 
 脚先から視線をおろしていくと、脂肪のかけらもない下腹部と恥毛がみえる。この下腹部。実はまことにさわりごこちがいいので、じゃまな恥毛を全部剃ってやったことがあるのだが、また生えてきてしまったらしい。こんど機会があったら、月火と一緒に剃ってやろう。 
 
 ちなみに月火はお休みして回復中。以前はすぐにでも求めてきたものだが、このごろはお休みしないと体が動かないらしい。 
 喜ばしいことだ、まったく。骨を折った甲斐はあるのだ。火憐に関して言えば、本当に骨を折っているわけだし、努力と傷はいまのところ報われている。 
 
 湯の中でゆらゆらゆれる黒若芽をぼうっと見つめる。黒いなー、つやあるなーとか思っていると、 
 
「ん? なんか一瞬、股間のあたりに悪寒がはしったんだけど……兄ちゃん心当たりあるか?」 
 
 火憐が言う。 
 
「妹の股間なんぞに興味なんてねえよ」 
 
 大嘘をはいた。 
 
「妹の裸体を見て喜ぶ兄がどこにいるっていうんだ?」 
 
 念を押すようにもう一度言った。 
 そうだ。同年代の中学生よりもよっぽど色っぽい腰のラインや発育途上の乳房にときめいたりは、しない。 
 目隠しをされたまま局部の感触だけで二人の秘処をあてるゲームなど、やって、いない。 
 
「兄ちゃんって本当に嘘が大好きだよな。体は正直だけど」 
 
 火憐はごそごそと体をゆすった。 
 下敷きにしているのは僕であり、僕のモノでもある。 
 火憐の全裸に反応してわずかに勃起していたのを見逃してはくれなかった。弾力のある尻の下にモノが敷かれているだけだが、刺激に対して僕のモノは素直だった。堅くなっていく。 
 
「う……」 
「にゃは。妹あいてになに欲情してんひゃっ!?」 
 
 最後までいわせるかと、僕は脇の下から手を通して、火憐の膣口にふれた。 
 明らかにお湯とはちがう粘ついた感触がした。そのまま入り口付近の肉皺を指先でもてあそぶ。男の体にはない、いく相も重なった皺を一つ一つ辿るように、指を動かす。 
 ひくっ。 
 太股の火憐がそのたびにひくぅ、ひくぅ、と震える。 
 
「兄相手に欲情してんじゃねえよ。どれだけ淫乱だよ、おまえ」 
「っ――手、はなせよ……」 
 
 火憐の手が僕の手首を補足する――が、力はあまりにも弱々しい。本気を出せば手首くらいたたき折れるはずの火憐は、むしろ手を添えるくらいの握力で僕の手首を握った。 
 
 体は正直だ。 
 
 さきほどのような殺気はまるで感じない。まるで続きを欲しているかのように、体を僕にすり寄せる。 
 お湯とは明らかに温度がちがう、火憐の体温をかんじながら指を進める。 
 
 想像よりも簡単に、火憐は僕の指を受け入れる。角度的に奥へ進入させるのは無理そうだったので第一関節までを膣道につき入れて、まさぐってみた。 
 
「あっ……ひっ……」 
 
 風呂場のタイルに反響して、火憐の声がいつも以上に響きわたる。 
 男の体のどこにもない、なめらかなおうとつを確かめるように指を這わせる。 
 外側からではけっしてみえない、つぶつぶを指の腹で味わう。 
 
「んっ、んっ、んっ……! 指がエロい……! そんなとこ触るなって……」 
「気持ちいいか? さっきから指が締めつけられるんだけどさ」 
「締めつけてねえ、よっ、あっ……んっ……。ちょっとせつないだけだって……」 
「おまえいつもそんなこと言うけど、結局最後は……」 
「言うなよ兄ちゃん……はずかしいんだからさ……」 
 
 明らかに感じているくせに認めない火憐を陥落させるべく、もう少しはげしく責め立てようと手の角度を変えた。 
 
「う、わっ……」 
 
 わずかな動きでも、ぴったりとひっついた指先の動きを敏感に感じとった火憐が小さく悲鳴をあげる。 
 でも、その動きのせいで僕の手に乗っていた火憐の手がお風呂の縁にぶつかった。 
 
 こつ。 
 とたんに火憐が顔をしかめる。 
 
「つつっ……」 
 
 手を水面のうえに出して、様子をみる火憐。 
 指が長くて、とても暴力につかわれるものには見えない綺麗な手。 
 だけど、いまその手は不格好だ。かさぶたがはがれてできた、新しい皮のせいで。 
 まだ痛みがあるのとはおもっていたけど、この痛がりようは予想外だ。 
 
「あ、ごめん……」 
 
 思わず謝ったが、火憐はこっちを振り向きもせず、 
 
「んにゃ。大丈夫」 
 
 と言って、不思議そうに自分の指を視ていた。 
 体の外傷の方は治ったらしいが、重傷だった拳の傷だけは癒えていない。指の付け根から皮がずるむけ、拳の骨はひび割れ、手首は折れているというひどい有様だったのだ。 
 僕の血を垂らしたおかげでふつうより治りは早いし、ひびはすぐになおったけれども、よく見れば腫れはまだ引いていないし、破れた皮膚はカサブタが治った後で痛々しい。 
 外傷かつ、体の外側からはみえない後遺症ものこっているはずだ。本人は顔にださないし、あえて指摘しようとはおもわない。 
 あのときは月火をとめるのに必死だったからなぁ……。 
 
「まだ痛むのか」 
「んーときどき。チクチクする感じだから、すぐにもとにもどんだろ。月火ちゃん殴ったときの方が痛かった」 
 
 手をにぎったり開いたりする。動きにはさして問題なさそうだが、そうは言っても痛みはあるのだろう。  
 
「それならいいけどさ。せっかくきれいな指をしてんのに、カサブタまみれじゃもったいねーぞ」 
「にっしっしっしっ。師匠にもそういわれてほめられたぜ。おまえの指は人体を破壊するのに適切な指先だって。長く! 細く! 理想的にきれい!」 
「一度おまえの師匠を紹介しろ。マジで」 
「特に二本指で眼球をつぶす技には――」 
「明日おまえの師匠を紹介しろ! マジで!」 
 
 場合によっては火憐から引き離さなくてはなるまい。僕の戦闘スキルはそのお師匠様におよばないだろうが、羽川がいればなんとかなるだろう。手練手管をつかって妹を救い出さなくてはいけない。人を加害する前に。 
 でもさ、と火憐が手をぶらぶらと振りながら言う。 
 
「今回はちょっとやりすぎだけど、格闘技やってれば自然とこうなってくよ。皮がやぶれて、カサブタになって、それで皮が強くなる。拳もだんだん戦闘形態になってくんだよな。だからこれくらいどうってことねえよ」 
「おまえのそのストイックさってどこから来るんだろうな……。M心からだろうけど」 
「ちがうぜ、兄ちゃん。それをなすのは負けぬ、揺るがぬ、諦めぬ、普遍と、愛と正義のなせること――だと思う……」 
「……」 
「正義だぜ、兄ちゃん。たぶん……」 
 
 火憐の声が消え入るように小さくなっていく。 
 あれだけ公明正大、声を大にして語っていた正義が、最近めっきり火憐の口から聞こえなくなってきた。 
 正義はほかの正義に倒されるまでの前座であると、月火の家出を発端とした事件から火憐なりに――理解し始めているのかもしれない。 
 ――なにせ、火憐の理想である強さ、どんな人間であろうと駆逐できる強さを得た月火の姿を見てしまっている。 
 強さに依った正義がどんなものなのか、すでに感覚でわかってしまっている。 
 頭の悪い部分を持ち前の直感力でカバーできる火憐は、理解したくなくても、感覚的に正義がどういうものかわかってしまっているはずだ。 
 
 
3 
 
 薄暗い体育館倉庫跡。鈍く光る千枚通しと包丁と鉄パイプ。 
 忘れられるモノじゃない。 
 それでいいさ。最初から全部できる人間なんて、それこそ偽物なんだから。 
 誇るべき、僕の妹たち。成長の余地をのこした彼女たちが丸くなるのか、鋭くなるのかはまだわからないけれど。 
 まだまだ子供っぽいところがあるのはしかたない。彼女はまだ十五才だ。 
 でも誰よりも家族想いで、他人思いな火憐を僕は誇りに思っている。 
 僕は火憐の頭をなでた。ポニーテールではなくなり、短くなってしまった火憐の髪を梳くようになでる。美容師さんの腕がよかったのか、この短い髪型も火憐には似合う。 
 
「な、なにすんだよ……。そんなことされるような年じゃねえって」 
「照れるなよ、愚妹」 
「照れてねえし……。そもそも月火ちゃんのことがなかったら絶対に一緒にお風呂なんてはいらないんだからな!」 
「僕だって月火ちゃんのことがなかったら実の妹なんて抱かない。そもそも僕はおまえらのことが大嫌いだった」 
「あたしだって兄ちゃんのことは大嫌いだった!」 
 
 月火ちゃんのことがなければ、か。 
 だけどが月火がいなかったら僕と火憐の関係はもっと険悪だったかもしれないし、逆に有効だったかもしれない。 
 
 だけど、月火がいたおかげで大嫌い『だった』妹とこうして肌を合わせることになった。一般的な仲がいい兄妹とはいかないかもしれないけれど、まあそれなりの兄妹関係は築けた。大嫌いだったころとはえらい違いだ。 
 
「話かわるけど」 
 
 火憐がいいながら身じろぎする。局部があたっているのが気になったらしい。ほんの少し自分の腰を浮かせて、僕の体と距離をとりやがった。 
 
「翼さんとひたぎ姉ちゃんが、兄ちゃんがまるで野獣のように求めてくるから体がもたないっていってたんだけどさ……。そんなことねえよな。あたしや神原さんはぜんぜん実感ないし、せんちゃんは――文句なんていわないだろうし。なにされても」 
 
 そりゃおまえらの体力がずば抜けているからだろ。千石に関しては文句どころかいろいろ要求してくるしな。その文要求もしているので等価交換ではあるはずだ。 
 しかし、羽川や戦場ヶ原にはそんなふうにおもわれているのか。反省だ、反省。 
 本日はやけに反省が多い。 
 反省はできるが、その反省を実現できるかというとそう簡単ではない、はずだ。努力だけは買ってもらおうと心にきめ、火憐への愛撫を再開した。 
 僕のペースではなくて相手のペースでを念頭に。置きっぱなしになっていた膣口から手を離した。 
 
「なあ、火憐ちゃん」 
「んあ?」 
 
 首をめぐらせた火憐の耳に唇をよせながら、 
 
「ちょっと、自慰、見せて」 
 
 とつぶやいてやる。 
 とたんに、火憐のほおから首筋がまっかに染まる。 
 
「な――はぁ? いやいやいやっ!?」 
 
 火憐が音がしそうな勢いで首を横に振る。 
 
「恥ずかしすぎぜ――それ! なんで突発的に妹の自慰をみたくなるんだよ! わ、わけわかんねー! さっきまであたしのあそこに指をつっこんでたろ……」 
「なんとなくとしか言いようないけどさ……やっぱり妹と本番ってどうなのかなと思って……」 
「は、はじめてのときにいきなり中出ししたの、兄ちゃんじゃん……いやだって泣いて頼んだのにさ、無理矢理――」 
「わかった、僕はこれから火憐の胸のみ愛撫する。下半身には手をださない。これでいいな?」 
「にいちゃんってときどき全く話が通じないよな!」 
「ほらほら、はじめるぞー」 
「くっ」 
 
 そもそも僕に無防備な背中なんてむけるのがわるい。 
 火憐の後ろからまわした両手の指で、乳首をつまむ。さきほどの愛撫はまだ有効だったらしく、勃起したそこを指先で転がす。 
 
「うひゃ……あっ……兄ちゃん……」 
「火憐ちゃん……」 
 
 指の動きをそのままに、湯気でしっとりと濡れた首の動脈あたりを舌先で舐めあげ吸いついた。 
 
「はうっ……そんなに強く吸ったら……あと、残る……」 
「すこしくらい大丈夫だろ」 
「んっ、大丈夫じゃないって、う、んっ! みんなそういうの、敏感なんだから……」 
「ああ……そういうのに敏感な時期だっけ中学生って」 
 
 かの日を思い出す。誰かがくっついた、離れたという情報になによりも耳をむけていた年ごろだった気がする。 
 
 火憐ちゃん、キスマークつけてどうしたの? だれかとエッチしたの? 
 
 とかか。 
 嫌だろうなぁ。 
 嫌だろうなぁ。 
 正義のヒロインたる阿良々木火憐がどこぞの男に抱かれている。 
 いやぁ、スキャンダラスなニュースだ。一面記事にもなりかねない。 
 そのままファイヤーシスターズ解散なんてことにもなりかねない。 
 嫌だろうなぁ。 
 
 だから僕はよりつよく、火憐の首筋を吸った。 
 
「っ――人の話を聞けって! っ!?」 
「んちゅ……聞いたよ、もちろん」 
 
 まず間違いなく話は聞いた。その上の行動だ。 
 火憐が騒ぎだし立ち上がって僕に暴力を振るう前に、その口のなかに人差し指をつっこんだ。さっきまで火憐の下の口に挿入されていた指を。 
 指先は唾液で濡れた舌を絡めとる。 
 
「ひゃふ――? ひゃにひゅるんひゃ――」 
「歯磨きの続きの体磨きだろ? 体で――指で洗ってやるよ。口閉じるなよ?」 
 
 乳房をもむ勢いで逃げ腰だった火憐の体を抱きしめる。もちろん局部も密着するが、「指」づくで文句は言わせなかった。 
 歯磨きの先端よりは刺激がないだろうがしかし、軟体動物の触手のごとく自由自在な指先で、口の中を縦横無尽に蹂躙する。内壁をこすりあげ、歯の根をなで、抵抗するように動き回る舌を蹂躙した。 
 その間にも乳房への愛撫はとめない。手のひらを全体に当てるようにして円を描くようにもみほぐす。僕の舌はその両手とはまったくべつに、汗の味がしはじめた首筋を舌から上に舐めあげる。 
 
「んんっ――んっ、んっ、んっ! んぁっ!」 
 
 風呂の壁に矯声が反射し軽いエコーがかかる。 
 最初こそ抵抗が強かったものの、しばらくやっていると火憐の体から力が抜けはじめるのを感じて、僕は耳元でこうささやいた。 
 
「胸、片方さびしくないか? なんなら自分でさわってもいいんだぞ」 
 
 悪魔のささやきだった。 
 それに対して火憐は、 
  
「んっ! んちゅ……じ、じぶんでやる……にいひゃんはてをひゃふな!」 
 
 なんて答えを返してきた。おずおずと片手を乳房に向けて自ら愛撫をはじめる。 
 手を出すなって。出せないよ、両手ともふさがってんだから。 
 
「んっ……もうひょっとやひゃしく……にいひゃん……」 
「ん? こうかな」 
 
 指を舌を絡めとるような動きから、抜いて、入れる動作に変えてみる。まるでフェラチオされている気分だ。さすがに妹にフェラチオなんて覚えさせてないけど。 
 
「な、んちゅ……ちがう、ちゅぱ……そうじゃな、ちゅ、て……」 
 
 明らかに語尾が弱い。 
 指の動きが直線的になったせいで少しはしゃべりやすそうだけど、火憐の口を行き来する指はぴちゃぴちゃと嫌らしい音を響かせはじめた。 
 疑似フェラチオは僕のみならず、火憐も興奮させる。 
 口からはきつける荒い呼吸が手に当たってくすぐったい。 
 
 
「んっ、ひゃう、おっぱい、ちゅ、やばい……それに、んちゅ……」 
 
 そういってた火憐は指先を舐め始める。肩越しから見る火憐の顔は、歯磨きをした時と同じく、興奮と快楽で真っ赤になっている。夢中で指先をしゃぶりながら、自らの乳房をこねまわし、快楽に身を震わせる妹に、不覚ながら――男根が堅くなる。 
 
 急激に膨らんだ僕の局部は、なんと火憐の体をおしのけて、股間の間にあらわれた。 
 
「ひあっ!」 
 
 雁首のあたりが火憐の秘処をすりあげ、油断していた火憐は腰を浮かせる。 
 目をぱちくりとしながら、自分のまたの間に生えた局部をみつめる火憐。 
  
「に、にいひゃんの……」 
「そんなにまじまじとみるなよ……」 
「うま○棒三本分の……」 
「そんなに巨大じゃないわ!」 
 
 縦方向に三本分なのか、横方向に三本分なのかわからないが、そんなに巨大ではない。そんなんだったら月火と情事をかわせねえよ。 
 子宮までつぶしかねないぞ、その大きさ。 
 
「三本分は冗談だけど、いつもこんなの大きいのがはいってたのか……月火ちゃんとかよく大丈夫だな」 
「ああ、いつもは暗くてよく見えないからか」 
「ちげーよ。兄ちゃんがすぐ挿入してくるだろ……」 
「だから、今日はおまえの自慰をだな」 
「今日の兄ちゃんには反省の色がない!」 
 
 それにクンニすることはあっても、まだ千石くらいにしかフェラチオを試していない。常時の際には電気を消すのが暗黙の了解になってたし、大きさに驚くのにも無理はないか。 
 
「しっかし……こ、心なしかいつもより小さいような……体感だけど」 
「月火ちゃんとやったばっかりだからな。吸血鬼スキルっていっても万能じゃないし、これでも復活ははやいほうだぜ?」 
「ふ、うん……」 
「もちろんこれから大きくなる予定だぜ。火憐ちゃんの自慰をみるからな……」 
「……」 
 
 あれ? 想像していた反応がない。これほどしつこくさそえば怒りそうなものなんだけれども。 
 おそるおそる火憐の耳に口をよせてつぶやく。 
 
「おーい火憐ちゃん?」 
「自慰……したら、兄ちゃんのこれ、大きくなるんだな?」 
「あ、ああ。そりゃあな。火憐ちゃん自慰行為だし……みれるだけでレアっていうか、希少価値的に勃起しないわけにはいかないだろう」 
「わかった……。貸し一個だぜ」 
 
 火憐がそろそろに指先を自分のそこに向かわせる。 
 僕にせかされるわけでもないのに、火憐は胸を揉みはじめた。 
 
「は――あ、んっ」 
 
 秘処にむかった指が、股間の間に潜り込む。ちょうど僕の男根と火憐の秘穴の間のあたりに指をうずめ、しごき始める。 
 
「か、火憐ちゃん……」 
「んっ、ううぅ――は、あぁっ、んっ、んっ、んっ」 
 
 指のテンポとあわせて、火憐の体がおどる。色っぽく体をくねらせ、はしたないあえぎ声を風呂場にとどろかせて……。 
 
「あんっ、まり、んっ……んっ、オナ、ニー好きじゃねえけどっ、ひゃっ、にい、ひゃんに気持ちよくして、んっ、ほしいから……」 
「火憐ちゃん……」 
「月火ちゃんにしてもらうほうが、んっ、自分でやるよりっ! ああっ、気持ちいいし……」 
 
 そんな理由かよ。 
 たしかに指先の動きはすこしつたない。どこをどういじれば、気持ちよくなれるのか模索しているように、指をうごかしていた。 
 
「ひあっ、はぁ、はぁ、は、あああ……月日ちゃん、どうやってたっけ……んと……」 
 
 はじめこそ単調だった火憐の指の動きが、だんだんとリズミカルになっていく。 
 ひくひくと揺れる火憐をだきしめながら、胸と口への愛撫を再開する。 
 
「むふっ、んっ、ふぅ……」 
 
 これ以上はないと言うほど勃起した乳首を指先でしごき、舌先を「嘗める」ように指を動かした。 
 唾液をこねくりまわし、体の内側をなぶってやる。さきほどよりも粘性を帯びた唾液が指先に絡まりつき、さらにそれを火憐の口のなかでまぜかえす。 
 口内陵辱。 
 内ほおをこそぐように指の原でなぞってやると、火憐が口を思い切りすぼめる。 
 
「んゃっ! じゅるっ、あっ、あんっ……うぅ……」 
 
 手が四本なければ実現できない愛撫に、火憐はおぼれはじめる。 
 僕は手の動きをはやめながら、目の前にある火憐の耳たぶを甘くかんだあと、舌先を耳の穴にすべりこませた。 
 
「んんっ!? ひ、ひゃんなひょほろ……」 
 
 だんだんと弱って――快楽におぼれていく火憐と反比例して、僕の息子は元気をとりもどしていく。火憐の内股の間からたけだけしい、僕からしたら見慣れた局部が、天にむかってそそり立った。 
 
「はぁっ、はぁつ、あっ、あっ、にいっ、ひゃんの、おっきくっ!」 
 
 火憐の叫びに同調するように水の揺れが激しくなる。 
 口内で動き回る指先に絡まる、唾液が熱い。乳房の向こう側で心臓の鼓動が激しくなるのを感じる。なにより密着した体が、火憐の手が動くたびに過剰ともいえるほどの反応を僕につたえていた。 
 恥も外聞もなく、阿良々木火憐は僕の腕のなかでよがりくるっていた。 
 
「はぁっ、あっ、あっ、あっ、くっ、うぅ! い、いくっ、かもっ!」 
 
 より激しく火憐が淫核をなぶりはじめる。だが、もう一歩のところで失敗しているらしい。 
 逆に達することができなくて、苦しんでいるのが見て取れた。達しようとしているのに、それができない。どこをどうすれば達することができるのかわかっていないのだ。 
 
「はぁっ、つっ、にい、ひゃん! てつだっ――」 
「うん」 
 
 何事でも一人でやりたがる妹の懇願に答える。 
 僕は乳房においていた手をさっきと同じ場所に、つまり膣道口に突っ込み、ぬめった粘膜をこそぐようにして指を折った。 
 その瞬間。 
 
「んあっ、ああああああああぁ――!」  
 
 火憐が僕の鎖骨のあたりに後頭部をあずけた。湯船の水面から飛び出すくらい体を反らした。 
 一度大きく体をおりまげた火憐は、何度か大きく、ぴくぴくと全身をゆらす。 
 吹き出した潮が膣口のすぐそばにある男根に当たる。潮吹きつきのエクスタシーだ。 
 
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……つ……」 
 
 火憐が力つきたかのように湯船に沈んできた。 
 僕は荒い呼吸を続ける火憐を両手で抱きしめる。 
 局部の先端に性欲がたまり、いまにでも火憐を犯したい気分だったけど、いまはゆっくり火憐をねぎらってやりたかった。 
 身長こそ若干僕より高いものの、火憐は女の子だ。細い肩はすっぽり、腕のなかにおさまった。 
 
「ありがと、火憐ちゃん。これ以上ないくらい元気になったぜ」 
 
 すると火憐は息も絶え絶えながら、気丈にも僕に答えをかえしてきた。 
 
「はぁ……いいよ……あとで……貸し、返してもらうから……」 
 
 火憐は熱にうかされたような声でそう言った。 
 
 
4 
 
「はぁ……はぁ……はぁ……兄ちゃん……兄ちゃん……兄ちゃん……」 
 
 壁のタイルに手をつき、腰をこちらに向けた火憐は、惚けたような表情で、体をねじって僕をみつめた。 
 流した涙のあとが色っぽい。体をねじったせいでできるくびれからひとすじ、水滴がながれる。流麗で美しいのに、女の色気をかもしだすくびれにくらくらとしながら、僕は一歩分うしろにさがる。 
 
「に、兄ちゃん……はやくっ……!」 
 
 火憐は腰をいやらしくゆらした。まだ子供なんだけどなぁ……。要求は中学生のものじゃねえよ……。 
 
 僕はまあるい臀部をみつめた。白い桃をぱっくり二つに割ってくっつけたらこんなふうになるだろうか。みずみずしい肌から水滴が……脚のほうへと落ちていく。 
 割れた白桃の真ん中には、明らかにお湯ものではない光かたをするワレメがある。 
 これなら十分濡れている。 
 
「に、兄ちゃんに、……、見られてはずかしいぃっ……」 
「照れ隠しに「……」を隠したつもりなんだろうけどさぁ。そんなかすれた声だとまったく意味ないからな」 
 
 愛らしくひくひくと、開いたりとじたりする未成熟な膣穴へ狙いをつけ、僕はゆっくりと腰を火憐へ近づけた。 
 
 ちゅく…… 
 
「ふあ……」 
 
 先端が火憐の肉襞とキスをする。 
 この世のなによりもやさしく受け止めてくれる感触をとおりこし、やわらかく湿ったそこを割っていく。 
 まるですいこまれるように、何の抵抗もなく僕の男根は火憐に飲み込まれていく。 
 体の内側の体温を伝えるそこは、さっきふれあった肌と肌よりも暖かい。いや、むしろ熱い。指で触れたときよりもぬめりを帯びた火憐のそこが、入れた先から間断なく刺激をくわえてくる。 
 
「んっ、ひぃ……」 
 
 一度達しているのが効いているのか、火憐は背中を矢なりにそらせながら僕をうけとめていく。 
 一気に貫くとそのまま射精してしまいそうだ。しかたなく自分でもじれったいほどゆるやかに腰を進める。 
 進める間にも、裏スジはなめらかなおうとつになぶられ、刺激され続けた。 
 
「んぅ……んぅ……、ま、だ……兄ちゃん……?」 
「もうちょっと……」 
 
 目線で急かす火憐に答えつつ、僕はやっと根本までを膣に埋めた。恥骨のあたりをおしりにおしつけ、僕と火憐はひとつになった。 
 ため息を飲み込み火憐の腰をなでまわす。 
 
「全部はいったぞ……」 
「うん……兄ちゃんが全部はいってるぜ……あたしのなかに……。やっぱ家族って似るのかな? 入れられてるだけなのにすげえ気持ちいい……鍵と錠前みたいな……」 
「言いたいことはわかるけどな……」 
「な、なぁ、兄ちゃん。さっきのオナニーの貸しあるだろ?」 
「わかったよ」 
 
 直接要求をはじめる火憐に答えて、僕は腰を引きはじめた。 
 
「は、あああああ……熱っ……あつい……」 
「んっ……火憐ちゃん……そんなに締めるな……すぐでちゃうだろ……」 
「無理っ。兄ちゃんだって無理だろ……ここでやめるとか。借り返すつもりでいいからさっ、あたしや神原さんは丈夫だからさ……兄ちゃんの好きにして……」 
 
 泣きそうな声で火憐が言った。 
 
「そこまで言うなら、遠慮なくやるけどさ」 
 
 男根の亀頭の部分をのこして全部引き出し、再び火憐のなかに体を沈めていく。 
 
「あ……ああぁ……兄ちゃんが……あつい……」 
 
 かわいいことを言いながら、火憐は僕を受け入れ続ける。 
 目をうつろに開き、顔の半分を壁のタイルにおしつけるようにして、こっちをみる火憐の顔は――はげしくエロかった。 
 
「あっ、あっ、やっ、ああああ……奥、つっついてる……」 
 
 火憐が目を細めながら荒い呼吸と矯声をあげる。 
 火憐の荒い呼吸に急かされるように、僕は腰のストロークを大きくした。 
 出し入れするたびに火憐の尻と僕の太股が当たって、拍手のような乾いた音を浴室に響かせる。 
 
「あ、ああっ! にいちゃん、にいちゃん、にいちゃん!」 
 
 僕を呼びながら、火憐は自分から腰を動かしはじめる。 
 
「あっ、ひゃあっ、はぁ、はぁ、はぁ……」 
「あ、ちょ、火憐ちゃん……」 
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……兄ちゃんが……兄ちゃんが気持ちいい! はぁっ、はぁっ」 
 
 僕の言葉など耳に入っていないかのように、火憐は腰の動きを加速度的にはやめてくる。肉襞に刺激され、尿道に射精感が溜まっていくのがわかる。 
 
「か、火憐ちゃん! ちょっと弱くっ!」 
「あっ、はぁっ、あっ、あっ、あぅ、あ――!! きもぢいい――きもちいよぉ――!」 
「うわ……」 
 
 完全にトリップをはじめてしまった火憐の片側だけこちらに向けた顔は、もうこれ以上はないというほどとろけている。とろん、と瞼を半分くらいにおろし、目尻に涙をうかべ、唇の端からあごに向かって唾液が流れ続け、口はだらしなく半開きで、そこから矯声が流れつづけた。 
 いつもの凛とした表情は、快楽にゆがんでいた。 
 普段はやらない自慰行為におよんだせいで、快楽を感じるレベルが下がっているのかもしれない。 
 
「う、あああっ、んっ! やあぁ! はぁっ、やっ、やっ、やっ!」 
 
 火憐はいつのまにか、壁から手を離しあいた両手で自分の乳房をもてあそんでいた。 
 腰をたたきつけるたびにわずかにゆれるくらいの大きさをもった乳房の先端を、指と指にはさんで刺激している。 
 しかも無意識にやっていそうだ。 
 これは止まらないな、という結論に至った僕は、火憐の腰をつかみなおして、火憐の動きにあわせるように腰を動かした。 
 とたんに、今までとどかなかった子宮口に先端が届く。 
 
「――! あ――!」 
 
 悲鳴にならない悲鳴をあげながらも、腰を止めようとしない火憐に、僕は男根を突きつけ続ける。 
 
 ぱんぱんぱんぱんぱん―― 
 ぐちょぐちょぐちょぐちょ―― 
 くちゅくちゅくちゅくちゅ―― 
 
 僕と火憐の荒い呼吸と腰をおしつける。火憐の愛液が絡まった男根を引き出し、たたきつける。火憐の長い足がガクガクとふるえだした。 
 つま先立ちになり、本能的に僕の局部から逃げ出そうとする火憐をつかまえる。一秒でも深く、長く火憐を味あうために。つま先だち立ったのを無理矢理平立ちにさせる。 
 脚先がすとんと落ちたせいで、火憐は再び串刺しになる。  
 
「う、ああああ……っ! に、にいひゃん!」 
「はぁ、はぁ、いいよ、一緒にイこうぜ、火憐ちゃん――」 
「うっ、ん! あっ、あっ、あっ、あっ……いやぁ!」 
 
 返事なのかあえぎ声なのか、判別しかねるが、了承はとれたようだ。 
 腰をつかみなおしながら、奥へ奥へより奥へ男根を割り込ませる。引き抜こうとするたびに、火憐が締めつけてくる。エラからなにから、刺激されて腰が止まらなくなる。 
 ただ無心に、火憐とリズムを合わせる。ふとももとふとももがうちなる音と、火憐の甘ったるい喘ぎ声だけが聞こえた。息苦しくもない。ただ火憐の締め付けだけを局部に感じる。 
 頭が白くなると同時に終わりの感覚が局部の付け根をおそう。 
 
「あっ、あっ、あっ、やっ、あっ! たってらんないよぉっ! あっ、やぁっ!」 
 
 力なくしゃがみ込みそうになる火憐をささえる。 
 
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ! 火憐ちゃんっ! いくからな!」 
「やあっ! はぁっ、はぁ、はぁ、にいちゃん……いっぱいっ!」 
 
 とどめとばかりに強く腰を繰り出して、先端から精液を発射する。 
 
 どくっ、どくっ、どくっ! 
 
「ひっ、ああああああああ! あっ、あつい――!」 
 
 今日一番大きな悲鳴をあげながら火憐は、背をこれでもかというほどそらして、達した。 
 まだまだ足りないとばかりに男根をしめつける膣道。それにつられるように先端は精液を吐き出し続けた。 
 
 どくっ、どくっ、どくっ 
 
「あっ、あっ、あっ……やぁ……」 
 
 最奥ではいいだされたそれは、きっと火憐の奥の奥まで刺激しているはず。女性ならぬ僕にはよくわからないが、少なくとも火憐はエクスタシーを感じている。 
 射精するたびに、火憐は膣道をしめつけた。尿道にのこっている精液すら、どん欲に飲み干されていく。 
 
「あっ……やかれる……ひ、ん……」 
 
 本日二回目とは思えないほど長い射精でした。自分でもおどろくほどの量が、火憐の子宮にたたきつけられたはずだ。 
 
「あ……あっ……」 
 
 ようやく気がおさまり、局部が堅さを失っていく。 
 
 どくん、どくん、どくん…… 
 
「はぁ……はぁ……はぁ……火憐ちゃん……」 
 
 汗みずくになった背中にそっとキスをする。塩っぽい。しばらくそのまま火憐の背中に引っ付いていた。いつまでも感じていたい火憐の体温を抱きしめる。 
 射精に対する快感となぜだかわからない幸福感が胸を満たしていた。 
 妹とのセックスでこんな感覚を覚えるなんて、僕はやっぱり変態なのだろうか。 
 
「にいちゃん――いつまでいれてんだよ。重いよ……」 
「あ。ああ――」 
 
 あわてて体をおき上げる。ただ、挿入だけは続けていた。あまりにも抜きがたい。 
 射精して終わる男性よりと達してから始まる女性の違いか、絶頂を感じたタイミングは同じでも、火憐のほうが若干回復がはやかった。  
 火憐が首をこっちに巡らせた。なみだとよだれのあとが、情事のあとの色気をかもしだしていて――。 
 
「兄ちゃん……激しすぎだっての……もたねーよ、ほんとに。犬じゃねーんだからさ……」 
「おまえが先に激しくしたんだろうが!」 
「あ……? ぜんぜん覚えてねえけど……。兄ちゃん止めてないだろ……止めることをかんがえもしなかったんじゃねえの? ほんと、サカった犬みてーじゃん」 
「……その犬についてこれる奴がなにを言うのか。僕が雄犬ならお前は雌犬だろ」 
  
 僕は尻をなで回しながら言う。憎まれ口も今はかわいらしい。 
 まだどこかに快楽の余韻が残っているのか、火憐はときおり、それこそ犬が頭の水滴をはらうかのように細かくふるえた。 
 
「雌犬かあ……。はあ……お腹のなか兄ちゃんのでいっぱいだ……あっつい。体動かすとなかで……動くんだけどさ……嘗め尽くされてる感じが……どうも……なあ、兄ちゃん。触手プレイってこんな感じなのかなあ?」 
「知るか。触手でも、女性でもない僕に聞くことじゃないだろ」 
「でもすくなくとも、あたしは兄ちゃんの十倍、気持ちよかったぜ、きっと」 
 
 男の僕には想像ができない。 
 いまのの、十倍の快感? 発狂するんじゃないかと思う――。 
 にしし、と笑う火憐。そしてどこか切なげな、照れたような表情をしながら言った。 
 
 
「ん……でもさ、兄ちゃん……」 
「うおっ」 
 
 火憐が二、三度たしかめるように腰を振るう。 
 射精したばかりの、火憐の膣に挿入しっぱなしだった男根は、心地よい刺激に反応して鎌首をもたげはじめた。 
 むく、と火憐の中で身じろぎする男根に気がついた火憐が、目をそっぽに向けながら言う。 
 
「に、兄ちゃんがどうしてもっていうなら……もっかい、やってあげても、いいぜ――? ほら、女の快楽って男の十倍って言うだろ? 兄ちゃんが十分の一倍、フェアじゃないじゃん」 
 
 顔を真っ赤にしながら、目にらんらんと情欲をたぎらせながら中学三年生の妹は、恥ずかしそうにそう言って、僕の答えを待つ。 
 もう一ラウンドやったところで、十対一の差は埋まるどころか開くばかりなのだけれど。 
 僕は――。 
 
「そ、そうだよな。火憐ちゃんだけ僕の十倍気持ちいいなんて不公平だよな!」 
「そ、そうそう! こ、今度はあたしがリードするからさ!? だからさ、兄ちゃん……もういっかい、セックスしようぜ」 
 
 その言葉だけで十分だった。 
 火憐の言葉を実践するように、僕は再び腰を動かしはじめた。 
  
 
 そのあと僕は。 
  
 力が抜けた火憐をお風呂マットに寝かせ、犯した。 
 
 浴槽の中で対面座位の格好で、犯した。 
 
 ちなみに火憐がやりたがっていた体磨きとはどうやらソープごっこのことらしい。 
 もちろん、体中精液まみれになった僕たちは、互いに互いの体をこすりつけて、体磨きをしたわけで――。 
  
 
 しばらくの間、ごしゅ、ごしゅ、じゅる、じゅると阿良々木家の風呂場では淫猥な音が続いた。 
 
 
 待ちかねた月火が乱入してくるそのときまで。 
 

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