「はっちくじぃい――――――――――――!!」
といつも通りの愛の抱擁と欧米風の軽い挨拶を交わした後の話。
八九寺の喜びの様子を伝えられないのは残念だが、いつもより過激に嬉しがっていたのは言うまでもない。
八九寺が恥ずかしがるから仕方なく割愛するだけだということを一応断っておく。
「聞いてくれよ、八九寺。この前京都に行ってきたんだけど、そこで変な人に会ったんだ」
「また女性がらみですか?」
「僕の女性関係はしっかりしているぞ! 戦場ヶ原一筋だ!」
「そうですか。その割には色んな人とキスしているわけですが……。今は違う話でしたね。
また怪異がらみですか?」
「僕がキスするのはお前くらいだぞ?
で、その人のことなんだけどな、雰囲気が異様だったから初めは怪異かそれに関係する何かかもって思ったんだけどさ、なんか人間っぽかったんだよな。
和服を着た狐面の男でさ、なんていうか不吉なんだ。ちょっと貝木の雰囲気に似てた」
「今、変な告白をされた気がしますが……、きっと空耳でしょう。
貝木さんというのは戦場ヶ原さんを引っ掛けた詐欺師ですよね? それはまた変な人を呼び寄せましたね。さすがは阿良々木さんです」
「いや、僕のせいじゃないよ。向こうが勝手に突っかかってきたんだからな」
「そうなんですか。それでどんな人だったんです?」
「僕の目の前に立ったと思ったら<<よお、俺の敵>>って言うんだ。
ヴァンパイアハンターとかキリスト教の特殊部隊とかそんな雰囲気じゃなくて、もっと異様で異質な異常な――何か嫌な感じがしたんだよ。
関わりたくはなかったから、無視して通り過ぎたんだけど、その人は僕にかまってほしかったみたいでな……追ってきたんだよ。ほんとしつこくてさ」
「それはまた迷惑な人ですね」
「ああ、本当にそうなんだよ。でもしばらく付きまとった後に間違いに気が付いたみたいでな、
後ろを通りかかった人がたまたま知り合いだったみたいで、その人に向かってまた<<よお、俺の敵>>って言ったんだ。
何事もなかったように振舞うのが面白くて、ちょっと笑っちまった」
「変な狐さんがいたんですねえ。じゃあその狐さんのお相手は狸で、狸と狐の化かし合いをしているわけですね。
そこから派生して化物語シリーズが出来たわけですか。阿良々木さんのスペックはいーちゃんさんから来ているわけですね」
「僕は戯言なんか言えねえよ!!」
「突っ込み担当ですもんね。ですが影縫さんとは交渉しようとしたじゃないですか。それこそ戯言使いみたいになろうとしたわけですよね?」
「あれは見事に失敗だったな。忍野は圧倒的な力と膨大な知識の裏づけがあったから出来るのか?とか思っちまったけど、
単純に僕の考えが甘かっただけなんだろうな。これから色んな知識つけてみるか」
「ではまず戯言使いさんから学びましょうか。あの方は普通の運動神経のくせして殺し名や赤や橙に関わっていますからね。その上、奴隷までいますし……。
もうただの命知らずというわけでもありませんし、学べることはいっぱいありそうですね」
「馬鹿なフリしてるけど頭は良いし、度胸もあるからすごい人だよ。あの人は」
「阿良々木さんも誇っていい部分がありますよ」
「ん? そうか? どんなところだ?」
「この物語に出てくる女性みんなが阿良々木さんに惚れてますからね。そういうところです」
「ああ、なんだ、遠まわしに告白してるわけだな。僕もお前のことが大好きだぞ」
「さっき戦場ヶ原さん一筋だって言ったじゃないですか!!」
「照れてるのか? お前はお前の魅力があるからもっと誇って良いぞ」
「そうじゃありません!」
「だって『女性が惚れてる』って言っただろ?」
「『みんなが惚れている』って言ったんです!」
「ってことはお前が僕に惚れてるって解釈していいってことじゃないか。やっぱり遠まわしな告白だな」
「違います!」
「まあ、この話はこれくらいにしておいて、いや、なかったことにでもしてみようか。
もう一度始めからやり直すぞ」
「あれ、いいんですか? 阿良々木さんの方が有利な展開だったのに。
まあ話は随分ずれましたもんね。仕方ありません。じゃあどこから始めますか?」
「始めからだよ。出会いのシーンから」
「出会って阿良々木さんの言う挨拶が終わってからの方がいいと思いますが」
「遠慮するなって。僕らの出会いは大切だぞ」
「いいでしょう。では私は先を歩いていますね」
「ああ、頼む」
「では、失礼します」
そう言ってトコトコと歩いて行った。
リュックを背負った後姿は妙に可愛い。
僕は
「はちくじぃい――――――――――――――っ!!」
と叫び、後ろから抱き締め、思いっきりベロチューをした。
さっきの八九寺の告白に答えるためだったが、こんなことを八九寺にするのは初めてだ。
案の定、八九寺は怒った。
照れているだけだと解釈しておこう。