「どうしたんだ? 千石」  
「ん〜〜、あんでもないお〜〜、こよみおにいちゃん〜」  
「顔が赤いぞ。気分でも悪くなったか?」  
「じゃあ、こおみおにいちゃんのおでこで撫子の体温測ってくれないかなぁ」  
「ああ、いいぞ」  
 
呂律が回っていないがあまり気にせず、僕は千石に近づいた。  
まあもともと二人でベッドの上に座っているからほんの少しだけ千石に近づいただけなんだけれど。  
 
千石の顔は目に見えて真っ赤に染まっている。  
きっとウイスキーボンボンや強炭酸のコーラを味わいながらゲームをやっていたせいだろう。  
千石にとって兄のような存在である僕に対して照れているわけがない。  
 
僕は千石に額を近づける。  
僕の額が千石の額に接触する寸前に千石が動いた。  
俯き加減で額を突き出していた千石は突然顔を上げる。  
僕は千石の動きに反応出来なかった。  
 
僕と千石の唇が触れ合う。  
相変わらず真っ赤な千石。  
妹二人とのキスを経験した僕からするとあまりなんでもない行為のはずだった。  
だけれど、千石はやっぱり妹とは違う。  
いつもなら意識することはなかったかもしれないが、僕はもう千石を女の子として意識してしまっている。  
 
原因は千石が着ている服だ。  
今日に限ってなぜか千石が通っている学校の制服を着ている。  
いつか羽川には言ったが僕はこの制服が目的で私立の中学ではなく公立の中学に行くことにしたくらい好きな服だ。  
 
今日千石の家に遊びに来た時に驚いて聞いてみると、ちょっと着てみたい気分だったから、と言っていた。  
気分で制服を着たくなる気持ちはわからないが、千石がそう言うのだからそうなのだろう。  
僕としても嬉しいだけで、問題はないはずだった。  
そのはずなのに、今日はずっとドキドキしている。  
千石と目が合うたびに、千石の身体に目を奪われるたびに、千石の姿が僕の視界にはいるたびに鼓動が速くなる。  
僕としても自分の反応に驚いているわけだけれど、千石に悟られないようにしていた。  
だから問題はないはずだった。  
 
なのに唇が触れ合ってしまった。  
キスをするだけなら昨日までだったらなんともなかったはずなのに、制服の効果で千石を女の子として見てしまっている。  
女の子とキスをする。  
その行為にドキドキしている。  
いつか羽川に本屋でからかわれた時のように心臓が踊っていた。  
 
僕が驚いて後ろに飛びのくと千石はちょっと寂しそうな笑顔を浮かべ、ごめんね、なんて言った。  
悪いことをしたわけでもないのに謝ることなんてことしなくていいのにな。  
で、なぜか可愛く見えて思わず抱き締めてしまったわけだけれど、状況を見るとかなり危ないんじゃないだろうか。  
 
千石の部屋で二人きり。  
ベッドの上で抱き合っている。  
少し酒に酔っている。  
 
何か間違いが起こりそうな状況だけれど、僕としてはこれ以上するわけにはいかない。  
せめて胸を揉むくらいだろう。  
それなら妹二人にもやっていることだから何も問題はないはずだ。  
 
もう一度キスをする。  
千石は驚いていたけれど、柔らかく唇で触れただけだからか素直に受け入れてくれた。  
啄ばむようなキスを何度か繰り返しながら、胸を揉んでみる。  
 
柔らかかった。  
……なぜか下着の感触はなかった。  
制服は本来厚いものなんだろうけど、千石の着ている制服の胸の部分は薄いシャツだから直接触っているようなものだ。  
胸の先の突起を弾くように軽く触ると千石は甘い声を出す。  
 
今日の千石を見ているとやけに興奮してしまう。  
これ以上一緒にいると僕は千石を襲ってしまいそうで怖くなるが、僕にそんなことをする度胸はないし、実際する気もない。  
だから大丈夫だろうけど、あまり好ましいとは言えないだろう。  
この甘い時間を止めるのは勿体無い気がするけど、仕方がないか。  
 
そんなことを考えている間にも僕の両手は千石の身体を撫でている。  
ボタンを外し、直に胸を揉んでいる右手と、いつの間にか千石の内ももを触っていた左手を止めた。  
なんとなく喘ぎ声に似たような声を出していた千石は、ん?と首を傾げ、求めるような目で僕を見ている。  
軽く頭を撫でると千石は再び笑顔になった。  
 
やっぱり可愛い。  
前髪を上げているせいで、普段隠している大きな瞳が目立っている。  
顔立ちは整っているし、裏表のない笑顔に惹かれてしまいそうになった。  
 
その日はそれ以上のことはせず、興奮を隠しながらDSを一緒にしていた。  
小さな画面を二人で眺めることになるからずっと肩が触れ合っていたけれど、なんとか表には出さなかった。  
 
ということで何事もなく、たぶん普段通りに接することが出来たはずだ。  
何の問題もない。  
一つ気になったことはあったけれど、あれは良い方に転んだということだと思う。  
 
それは僕が千石の家から帰る時。  
いつもは寂しい顔をする千石が良い笑顔をしていたから。  
 
 

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