「次は口移しだ! 阿良々木先輩行くぞ!」
神原は両手で僕の頬を優しく包んで固定し、一気に距離を縮めた。
唇が重なると神原の口の中に含まれていた酒が一気に流れ込んでくる。
神原の唇の感触を楽しむ余裕なんかない。
そのまま飲むのも癪だから神原の頭を持って僕から離れられないようにし、僕の口の中にある酒を押し返した。
ディープキスをするようにお互いの顔を少し斜めに倒し、より多くの面積が接するように調節しながら僕は神原を押し倒す。
神原に力では敵わない僕だが、先に上に乗ってしまえばいくら神原といえど、さすがに抵抗は難しくなる。
僕は舌を搦め、違う意味で酔わせようとするが神原の抵抗は激しい。
神原も僕の舌を搦め取るように動かしている。
まだ神原の口の中には酒が残っていた。
なんとか飲ませるために鼻を摘み息を出来ないようにする。
唇が接している状態から離れるのは難しいらしい。
体力でも力でも勝っているはずの神原が僕の力に押し負けている。
んんっ、んっ、と柔らかい声が聞えてくる気がするが、これはただの勝負だ。
苦しんでいるような声とは違うから、僕は攻撃をやめない。
絶えず舌で神原の舌を攻撃している。
真剣勝負を挑んできたのは神原だし、僕は神原に負ける気はないからな。
千石の目の前でする、というのは抵抗があったけれど、やはり第三者の意見というのは重要だ。
二人で勝負をして二人ともが自分が勝ったと主張したらややこしくなる。
まあ神原と僕の勝負だからややこしくなっても別に構わないのだけど。
そんなわけで僕と神原は千石の前でディープキスをし、僕は神原をベッドに押し倒している光景を千石がハラハラドキドキしながら眺めている。
僕の責めに耐えられなくなったのか、息が苦しくなったのか、神原は口の中の酒を全て飲み干した。
神原の顔が真っ赤に染まっているが、それはアルコール度数が高い酒のせいだろう。
僕はこの前、神原にちょっとしたお願いをした。
まあ何でもないことだったんだけれど、神原は
「阿良々木先輩、今回の貸しは利き酒勝負で返してもらうぞ」
と胸を張りながら堂々と言った。
なぜそんなことをするのか、よく意味はわからなかったけれど、こっちが頼んでいるんだ。
断ることはしない。
「そんなことで良いのか?」と訊くと
「もちろんだ!」と爽やかに答えた。
僕はお酒が好きなわけではないが、苦手なわけでもない。
ただ飲んだことがないだけだ。
話の流れで利き酒勝負を受けてしまっただけの僕に答えられる訳はなく、答えを間違うたびに神原の要求に応えさせられていた。
しばらくは簡単なお題がで済んでいたんだが、負けが込むうちに神原の要求はドンドン過激になっていった。
勝負を受けた以上、意地でも勝ってやろうと思っていたのだけれど、徐々に酔いが回り状況がよくわからなくなっている。
そんな時に神原は今までコップから呑んでいたはずの酒を口移しに変えると言った。
僕は神原の要求を飲み、千石の前でディープキスをすることになってしまった。
まあ、いいか。
などと考えていると、神原は次の酒を口に含もうとしていた。
また口移しで飲ませる気か。
さっき僕に押し負けたばかりだというのに学習しない奴だ。
神原が酒に口をつけたところで千石が言った。
「つ、次は撫子が飲ませてあげるっ!」
神原も驚いていたが、これはあくまで利き酒勝負なんだ。
酒の銘柄を当てたら僕の勝ち。
飲ませる方法は神原が相手でも千石が相手でも構わない。
神原は快く了承し、僕に飲ませる酒を千石に渡した。
酒はすでに紙コップに入っている。
それを僕に渡せばいいだけのはずなのだが、僕も神原も千石も今は口移しで飲ませるということが前提になっているようだった。
その理由はわからないがそうしなければいけない気がしていた……。
まあそういう訳で千石は僕に酒を飲ませる。
神原も気を使ったのか、千石が僕に飲ませた酒のアルコール度数は少ないようだ。
さっきまでのキツイ酒とは違い、味わって飲むことが出来た。
千石の舌が僕の口内で遠慮がちに動いていたが、それはきっと千石なりの気遣いなんだろう。
僕が飲みやすいように千石なりの考えで動いていたに違いない。
千石の舌は僕の舌に絡まっていた。
千石はまだ不器用だな。
舌を使わなきゃ上手く移せないらしい。
僕はさっき神原にしたみたいに千石を押し倒すことはしなかった。
千石は少し残念そうにしていたが、もしかして自分で結構な量を飲んでしまったのだろうか。
触ってみると千石の頬は熱くなっていた。
次に千石から飲まされるときは気をつけよう。
千石が間違えて飲んでしまわないようにしなきゃいけないな。
神原は次の酒を用意して待っていた。
また千石が僕に飲ませたいと言ったので千石の口に酒を含ませ、僕に口移しをする。
千石が飲んでしまわないように僕は千石の身体を抱えながら後ろに倒れた。
僕の体の上に千石が乗った形になっている。
これなら千石は間違っても酒を飲んでしまうことはないだろう。
僕の頭はまだ冴えているな。
千石はゆっくりと時間を掛けて僕の中に酒を移す。
千石の身体が僕の身体に接している。
まだ起伏の少ない身体ながらやはり女性らしく柔らかい。
千石は僕に全体重をかけ、手足は僕の体に絡まっていた。
僕の身体から下に怖いのだろう。
力強く僕の体に搦まる千石は弱々しく見え、僕の中から保護欲を引っ張り出そうとしている。
僕の中からそんな存在が出る前に、千石の口内に蓄えてあった酒は全て僕の中に注ぎこまれた。
千石は残念そうな表情をしたように見える。
ここで身体が離れるはずなのだがそんな面倒なことはしないようだ。
身体が離れる前に千石は神原から渡された次の酒を口に含んでいた。
すぐに僕の唇に触れる。
貪りつくような勢いで僕の唇と千石の唇は重なった。
舌は絡みつき僕は全身で千石から愛撫を受けているような変な気分になっていく。
そんなことを何度も繰り返しているうちに僕の身体は酒が回り、動けなくなっていた。
動こうにもふらついてしまい、立つことさえ出来ない。
千石も同様で、もう記憶があるのかどうかもわからない。
神原だけが元気な状態だ。
たぶん。
しばらくすると僕の意識は何度も飛んでしまう。
千石が僕の上に乗っていたはず。
なのに神原が僕の上に圧し掛かっていたような気がする。
神原も僕も裸で、凄く心地が良い。
僕の全身は温かいモノに包まれているように感じ、日頃の疲れが癒されていく。
僕の上に圧し掛かっている神原は何度か痙攣していたが、その理由はよくわからない。
その度に僕の下半身に心地の良い感触が広がった気はする。
何度もそういう感覚が続き、僕の全身は快楽に包まれていった気がした。
夢を見た。
僕と戦場ヶ原がエッチをする夢だ。
不思議なのは戦場ヶ原が二人いたこと。
二人から刺激を受けている僕は何度もイカされ、何度も戦場ヶ原の膣に欲望を吐き出した。
それこそもう全てを搾り取られた感覚があるくらいに何度も吐き出した。
夢の中の戦場ヶ原は一人がイクともう一人が僕に跨り、激しく腰を振り出す。
入れていない戦場ヶ原は僕の唇を貪り、僕も戦場ヶ原の唇に吸い付いた。
入れている戦場ヶ原の乳首に僕の指が優しく絡みつく。
入れていない戦場ヶ原の陰核に僕の指が優しく絡みつく。
二人とも感度が良いようで、ずっと喘いでいた。
その声は僕の耳に入ると余計に興奮し、僕らの行為はより淫らに、より激しくなっていく。
そしてついには疲れ果て、僕らは眠りについた。
そんな夢だった。
僕が目を覚ますと神原と千石の顔がすぐ近くにあった。
二人とも凄くスッキリした顔をしている。
何か良いことでもあったのだろうか。
僕が訊くと、二人は顔を見合わせて嬉しそうに頷いた。
説明はしてくれないようだ。
しばらく話をし、また今度も利き酒勝負をしようという話になった。
それを約束すると二人とも今まで見たことのないような良い笑顔をしていた。
そういえばもう朝だ。
昨日は二人とも泊まっていったのだろうか。
質問をする前に神原も千石も僕の部屋から去っていった。
部屋を出て行く前に僕にキスをしていったが、あの満足感に溢れた笑顔を見せられた僕は何も言えなくなってしまった。
二人の後ろ姿を見送り、気だるい身体を何とかしようと僕はまた眠りについた。
おわり