阿良々木先輩から連絡があった。
『明日、山へ行くから付いて来てくれ』と。
デートか?
私は阿良々木先輩と山へデートに行くのか?
デートと言えば、やはり初体験だ。
それは嬉しいな。
私の初めての行為は山か……。
少々ハードな気はするが、それが阿良々木先輩の趣向なら従うしかあるまい。
私などではとても理解できないほど物事を深く考えている御方だからな。
そのおかげで私はここにいられる。
もしも私が阿良々木先輩を殺していたら戦場ヶ原先輩の傍にいるどころか普通に笑うことさえ出来なか
っただろう。
ただの殺人犯。
嫉妬に狂った犯罪者。
そしてその犯罪者は戦場ヶ原先輩に殺されていたんだ。
大切な戦場ヶ原先輩を犯罪者にしてしまい、それだけではなく戦場ヶ原先輩が大切にしている人物まで
失わせ、心に大きな傷をつけるところだった。
最低だ。
私は下種でもなく、ゴミ以下だ。
そんな私に命を与えてくれたのが阿良々木先輩だった。
私の罪を全て許しただけでなく、戦場ヶ原先輩との仲も取り持ってくれた。
阿良々木先輩は命を狙った私といることを嫌がらず、世話まで焼いてくれている。
戦場ヶ原先輩が阿良々木先輩のことを大切にする理由がわかった気がした。
阿良々木先輩は、阿良々木先輩を壊そうとした私を否定しない。
それどころか戦場ヶ原先輩に自分か私かを選ばせるとまで言っている。
自信があるのか、それともただのお人好しか。
きっとただのお人好しだと思う。
私が本気で迫ったら愛人関係になってしまうだろう。
それも良いかもしれないが……
それはともかく明日の準備だ。
目的を確認。
男が誘って、男と女が二人で山へ行く。
これはもう、ふしだらな関係を築こうと言われたと考えるべきだ。
阿良々木先輩は戦場ヶ原先輩よりも私をとった訳か。
嬉しいが――切ないな。
戦場ヶ原先輩、申し訳ない。
しかし電話して一応謝っておいたからもう大丈夫だ。
戦場ヶ原先輩も「可愛がってもらいなさい」と言っていたからな。
彼女公認の浮気が出来るということか。
もしや阿良々木先輩は私がこのような行動を取ることを悟って誘ったのか。
戦場ヶ原先輩に浮気を認めさせるように私から口ぞえをさせたのか。
さすがは阿良々木先輩だ。
私などでは想像もつかないほど先を読んでの行動だったのだろう。
素晴らしい才能だな。
私のこれからの人生は阿良々木先輩の掌の上で踊らされるわけだ。
なかなか興奮するではないか。
次は準備だ。
ことに及ぶといっても、阿良々木先輩はたぶん避妊はしないだろう。
優しい笑顔で荒々しく攻め立てるのが好きそうだ。
そのギャップに惚れろというのだな。
ふふふ、不肖この神原駿河、阿良々木先輩の策略に見事に嵌ってみせようではないか。
そして無理矢理生で入れられ、嫌がる私を攻め立てる阿良々木先輩を想像してみよう。
SMグッズなどはすでに調達しているだろう。
鞭で打たれるか、蝋燭を垂らされるか……、亀甲縛りはもちろんされるだろうな。
縛られるのはいいが、縛られ続けるのは精神的に負担が掛かる。
しかし今から覚悟を決めておけば何の問題もない。
失敗したな、阿良々木先輩。
私は嫌がっている振りをして、存分に楽しませてもらうぞ。
おばあちゃんにはしばらく帰れなくなるかもしれないと言っておかなければならないな。
阿良々木先輩と一緒に行くと言ったら安心してくれるだろうか。
きっと信じてくれるだろう。
笑顔で見送ったその孫は隣を歩いている男の魔の手に掛かるというのに……。
うん、なかなかいいではないか。
次はお弁当だ。
たぶん山で及ぶ行為は相当体力を消費するだろう。
そこで栄養満点のお弁当の出番だ。
色とりどりの色彩で食欲を増進させ、精力を強化させるお弁当を食べさせ、阿良々木先輩の性欲を復活
させる。
そして午後からも楽しく行為に没頭するわけだ。
私の食事は全て阿良々木先輩から口移しで食べさせられるかもしれないな。
どんだけ鬼畜なんだ、あの先輩は。
このお弁当は、私一人の力ではどうにもならない問題だから、今からおばあちゃんに頼んでおこう。
明日一緒にお弁当を作ってくれ、と早速頼んでみたら喜んで協力してくれるという。
その結果、私が阿良々木先輩に苛烈に攻め立てられるという事実はもちろん隠しておく。
おばあちゃんには笑って見送ってもらわなければ雰囲気も出ないしな。
性行為、お弁当ときたら次は服装か。
もちろん阿良々木先輩を挑発しなければならない。
あの人はロリコンの気があるらしいということはすでに知っている。
これは戦場ヶ原先輩に聞いたことではなく、阿良々木先輩のストーカーをしていた時に仕入れた情報だ。
阿良々木先輩はあの本屋でエロ本を買っていた。
内容は、
一冊は幼い雰囲気を持った女性が幼い格好をしていた本。
ツインテールやポニーテールが多かったと思う。
妹の一人がポニーテイルだったはずだが……。
なんということだ。
本命は妹で戦場ヶ原先輩は当て馬だったのか。
世間から白い目で見られないための代用品。
どっかの狐さんはジェイルオルタナティブなどと言っている小説を読んだことがあるが、まさにそれだったのだな。
明日はポニーテイルにしてみるか。
ははは、ゴムで結んでみたら
な、『ゴム』だと……。
なんてエロい言葉なんだ。
ゴムと言うだけであれを想像してしまう。
本当ならつけてもらいたいがそれでは雰囲気がでないから、私が行為が終わった後で薬を飲むしかない
だろう。
話が逸れてしまったな。
元に戻そうか。
もう一冊は清楚は雰囲気を持った女性が淫らになるという主旨の本だった。
その本はなぜか眼鏡をつけた巨乳の女性が多かった。
後学のために私も購入して楽しみながら確認したのだが二冊とも戦場ヶ原先輩とは違うタイプの女性が
載っていた。
阿良々木先輩と戦場ヶ原先輩が付き合っているのはやはり嘘なんじゃないかと希望を持った瞬間だった 。
もちろんその希望はすぐに絶望に変わってしまったわけだが……。
その経験を生かし、幼さを出しながら色っぽく、そして胸を強調する服を選ぶことに決定した。
野球帽を被り幼さを演出し、肌をところどころ露出することで軽く誘惑をする。
私の胸は巨乳と言えるほど大きくはない。
だから脇を締めて阿良々木先輩と腕を組もう。
脇を締めると胸が強調される。
それを阿良々木先輩の腕に擦りつけ、私という女性を覚えさせる。
これから阿良々木先輩が誰かと腕を組んで歩くと必然的に私を思い出すことになるだろう。
なかなかいいではないか。
これも決定だ。
あとは襲われるのを心待ちにするだけだ。
* * *
よしっ、これで話の大筋は決まりだ。
『阿良々木先輩』という苗字を使うのはここまでだな。
主人公の名前は気仙沼先輩にでもしようか。
あとは肉付けしてイベントを起こして、描写の仕方を考えると私専用の官能小説の出来上がりだ。
ん? そうか。それなら『気仙沼先輩』じゃなくて『阿良々木先輩』にでよいではないか。
う〜ん、普通の官能小説というのもどうだろう。
それなら既存のモノを買ったほうが早くて楽しめる。
……そうだ。
日記のように書こう。
毎日メールや電話で調教されている私を想像しよう。
会った時には直接責められ、脅迫され自由を奪われる。
あとは阿良々木先輩と会った時にエロい話を振れば応えてくれるはずだ。
Prrrrrrr Prrrrrrr Prrrrrrrr
家の電話が鳴っている。
おばあちゃんはどこかに言っているのだろうか。
なかなか電話に出る様子はない。
というわけで私が出たわけだが、その電話の相手は阿良々木先輩だった。
神の思し召しというヤツか。
神が阿良々木先輩と私はそういう関係が望ましいと示しているということか。
素晴らしいではないか。
その上、私が考えていた通りの始まり方だ。
では明日私は阿良々木先輩と神社の境内で結ばれることになるだろう。
まずは戦場ヶ原先輩に連絡しておこう。
おわり