「なんでも言うこと聞くから返して!」
頭巾ちゃんはそう言ってぼくに迫った。
迫ったというより、難癖つけて一方的に攻めてきた感じだったけれど……。
ぼくは十三階段から抜けてくれさえすればよかったのだけど、ここは素直に言うことを聞いてもらおう。
頭巾ちゃんが言うには彼女が十三階段に入った目的は『無銘』というナイフだったらしい。
亡くなったおじいちゃんの墓前に添えるのだそうだ。
そんな良い娘にぼくは『何でも言うこと聞くから』なんていう台詞を言わせてしまった。
本来なら自分は自分の言動を反省するところなんだろう。
でもせっかくだから言うこと聞いてもらおうと思う。
頭巾ちゃんには申し訳ないが……。
しばらくの間、ぼくの家で住み込みで働いてもらうという条件を提示した。
しぶしぶだったが頷いた頭巾ちゃんは一度帰って色々と準備をしてくるらしい。
待ち合わせの場所を指定しようと思ったら、頭巾ちゃんはぼくの住んでいるアパートを知っていると言うので、ぼくは家でひかりさんと一緒に二人で待つことにした。
二時間後、頭巾ちゃんは言った通りに家に来た。
荷物は意外と少ない。
着替えの他に勉強道具を持ってきていた。
珍しいものは何一つ持ってこなかったようだ。
さすがは普通。
なぜ十三階段に選ばれたのかはよくわからないが、あの狐さんのやることだから何か理由があるのだろう。
狐さんの周りに普通な人間がいたらそれこと異色。
異物として、狐さんや周りの人間の目に映るのかもしれない。
まあそんなことはどうでもいい。
頭巾ちゃんは十三階段を裏切ってくれたわけだから。
本当に裏切ったかどうかはわからないけれど、素直そうなこの娘を信じてみよう。
ここにいる間は彼女の意思を尊重することを決意する。
「これに着替えてくれる?」
「メ、メイド服!? なんで!?」
「何でも言うこと聞くんじゃなかったっけ?」
しぶしぶだったけど、頭巾ちゃんは僕の要求を飲んでくれた。
もっとはっきり拒否したら止めたんだけど……。
ぼくは荷物の整理を始めた頭巾ちゃんに服を渡した。
この部屋の中で頭巾ちゃんがいつも着る制服。
頭巾ちゃんが家に帰っている間に用意したメイド服を手渡し、小声で指示を出す。
頭巾ちゃんは目を丸くして驚いたが、やはり月並み。
あえて言うこともないとは思うけれど、驚き方も普通だった。
頭巾ちゃんは早速着替える。
嫌がりはしなかった。
本当に何でも言うことをきいてくれるようだ。
冗談だったんだけど、せっかくだから僕の好みに合わせてもらおう。
指示を実行したか確認するため、ぼくは頭巾ちゃんのスカートを捲くってみた。
何も穿いていない。
その部分がどうなっているのか説明すると、少々卑猥な言葉を多々使うことになってしまうので控えておこうと思う。
頭巾ちゃんは「きゃっ」っと言い、しゃがみ込みながら慌ててスカートを押さえる。
ちゃんと言うことを聞いてくれたみたいだ。
可愛いな。
というわけでぼくに絶対服従の可愛い専属メイドを手に入れた。
ひかりさんが僕に白い目を向けていたのは言うまでもないことだろう。
おわり