ある日、崩子ちゃんと並んで歩いている時。  
 
「実は私は甘いものが好きなのです」  
「……? へぇ、そうなんだ?」  
「そうなのです」  
「ふうん」  
「…………」  
「…………」  
 …………。  
 自分から話し始めておいて、黙り込む崩子ちゃん。右下の方から意味ありげな視線を感じるのはなんでだろう。  
「…………」  
「…………」  
「わうー……」  
「よしわかった。それじゃどっか連れてってあげるよ」  
「わんっ」  
 
 というわけで、ぼくは崩子ちゃんと一緒に出かけることになった。時 行き先は、甘党のみいこさんも絶賛の祇園の大原女  
屋。刻は大体4時過ぎ。出かけるにはちょっと遅い時間だったけれど、みいこさんがバイトのついでに送ってくれるというの  
でありがたく甘えることにした。  
「バイトさえ無ければ私も行くのに……」  
「すいませんみい姉。いずれまた機会があれば、是非」  
「うん。暇を作ってでも行く」  
 大原女屋に崩子ちゃんと来るのは初めてだった。というか、崩子ちゃんと出かけるようになったことが、ここ最近になって  
からなのだけど。崩子ちゃんはしょっちゅうお見舞いに来てくれるので、そのお礼に出かけることが増えたのだ。  
 
 
「お兄ちゃんはいつもこんな贅沢なものを食べてるんですか?」  
 店の前のショーウィンドウを見て、崩子ちゃんは驚いた風に言った。  
「まあ、そんなにしょっちゅうってわけじゃないけど」  
「来るのは何回目ですか?」  
「ええと……3回、いや、4回目かな」  
「4回も!」  
 崩子ちゃんは彼女にしては珍しく本当に驚いているようだった。  
 冷やししるこ、700円。  
 冷やしぜんざい、750円。  
「一回でしるこ一杯だとしても2800円ですよ?お兄ちゃん、これは私達の1週間分の食費に相当します」  
「…………」  
 
 そう言えば、崩子ちゃんと出かけるときはいつもお金のかからない場所だったと、思い出す。  
 そして実際、これは嘘でもなんでもないのだろう。  
 以前萌太くんがぼくにお金を借りに来た時のことを思い出す。  
 
 
「すいませんがいー兄、少しお金を工面していただけませんか?」  
「やあ萌太くん。お金は別にいいけど、どうしたの?」  
「今月はどうも予想外の出費がかさみまして。恥ずかしながら、先日で持ち金がとうとう20円になってしまいました」  
「……20円」  
「僕一人なら別に食べなくてもいいんですが、妹がいますので。今月の残りの食費を都合していただけませんか?」  
「いいよ。で、いくら?今そんなに手持ちないけど」  
「では、500円ほど」  
「…………」  
「?」  
「……はい」  
「あれ、いー兄、これ500円多いですよ」  
「今細かいのがないから、それで勘弁してよ」  
「…………。ありがとうございます、いー兄」  
 
 
 数日後、萌太くんは律儀に1100円を持ってぼくの部屋に来た。ぼくは忘れたフリをして断って追い返したのだが、翌日、 
郵便受けに入っていた。  
 しかし萌太くん達、どうやら相当慎ましい生活を送っているようだった。  
 まだショーウィンドウにへばりついている崩子ちゃんを引っ張って店内へ入り、適当な席に座る。  
 崩子ちゃんはといえば、まるで高級レストランへ来たかのような緊張っぷりだった。座ってからも、メニューを見て目を白  
黒させている。かわいいのだが、なんだかここまで来ると気の毒になる。  
 
「いらっしゃいませー、ご注文をどうぞ」  
「ぼくは冷やししるこで。崩子ちゃんは?」  
「…………えっと、それでは、お茶を」  
「お茶なら無料で持って来ますよー」  
 店員さんのその何気ない一言に、崩子ちゃんは目をまん丸にして、声も出ない様子だった。  
 …………。  
「あー、それじゃ冷やししるこ2つで」  
「はい、かしこまりましたー。お茶は熱いのと冷たいの、どちらにしますか?」  
「選べるんですか!」  
 そしてまた吃驚仰天、と言った感じに驚く崩子ちゃん。  
「え、と……、それでは、温かい方を」  
「ぼくも熱いのを」  
「かしこまりましたー」  
 そう言ってにっこり笑って、店員さんは去って行った。  
 崩子ちゃんはいまだショックの抜けきらない表情で、再びメニューに目を落とす。  
「……えっと、崩子ちゃん」  
「は、はいすいませんっ、何か私失礼な事しましたか?!」  
「…………」  
 滅茶苦茶動揺している。こんな崩子ちゃんは初めて見た。  
 ……いや、何もそんなに緊張しなくても。。  
「いや、別に何もしてないけど。ただ、もうちょっと落ち着かない?」  
「あ、はい、すいませんお兄ちゃん、私、こういう店入った事なくて、少し緊張してます」  
「……、ごめんね、なんだか合わなかったみたいで」  
「いいえそんなっ!」  
 崩子ちゃんは慌てた風に言う。  
「少し驚いているだけで、私本当に嬉しいです」  
「……それなら良かったよ」  
 ぼくがそう言うと崩子ちゃんは「はい」と微笑んで、そしてメニューに目を落とした。  
 かわいいなあ、崩子ちゃん。  
 そして他愛ない話をしたり運ばれてきたお茶のおいしさに崩子ちゃんが感動したりしている間に、冷やししるこが運ばれて  
きた。  
 
「…………わあ」  
 目を輝かせて運ばれてきた冷やししるこを見る崩子ちゃん。  
「勝手に頼んじゃったけど、良かったかな?」  
「そんな、全然構いません」  
 ぷるぷると、かわいい仕草で手と顔を振る崩子ちゃん。  
「それは良かった」  
「それでは、いただきます」  
「いただきます」  
 木製のさじで餅を一つすくい上げ、そっと口に運ぶ。ぱくり。  
 うん、うまい。  
 満足気に一人頷きながら、崩子ちゃんを見ると、崩子ちゃんは感慨深げに何かを呟いていた。  
「この一口が大体70円くらい……」  
「…………」  
 崩子ちゃん、貧乏なだけあって中々即物的な考え方だった。  
 しばらく見ていると、躊躇しながらも、思い切ってえいっ、という感じでぱくりと食べる。  
「…………」  
「崩子ちゃん、おいしい?」  
「……ほっぺたが落ちそうです」  
「それは良かった」  
「はい」  
 夢中になって食べる崩子ちゃんを見ていると、いつもの冷やししるこも数段おいしく感じられるのだった。  
 
 帰り道。  
 バスに乗ろうと思ったのだが、崩子ちゃんがどうしても歩く(バス代が勿体無いと主張された)というので、ぼくと崩子ち  
ゃんは歩いて帰る事にした。  
 ゆっくり食べていたせいもあって、すでに時刻は6時になっていた。秋の日は釣る瓶落としと言うが、既に辺りは薄暗くな  
っていた。アパートまでは徒歩だと軽く2時間はかかるだろうが、二人で話しながらならそんなに気になるほどの時間でもな  
い。四条大橋手前で右に曲がり、川端通りの河川敷をを、二人並んでてくてくと歩く。  
 
 
「おいしかったね」  
「はい、ありがとうございました。崩子は感激しました」  
「そいつは奢った人冥利に尽きるね」  
「はい。今日は楽しかったです」  
 弾むような返事。美形の崩子ちゃんが微笑むと、周りの空気まで違って見える。精神が白濁沈殿するぼくとは大違いだった。 
身体の構造は同じなのに、どうしてこうも、決定的な差異が生まれるのか。ぼくは眩しげに崩子ちゃんを見て思う。  
 ……でもまあ。今日は滅多に見られない崩子ちゃんをたくさん見られて、ぼくも楽しかった。  
「そうだね……。それじゃ、また来ようか」  
「えっ!」  
 崩子ちゃんは驚いた風にぼくを見る。  
「今度は萌太くんも誘って。嫌かな?」  
「そんな、全然構いませんっ。……でも、本当にいいのですか?」  
「うん。ぼくも一人で食べるより崩子ちゃんの顔を見ながら食べる方がよっぽどおいしかったしね」  
 そう言うと崩子ちゃん、少し顔を赤らめて視線を下に落とした。  
「あ……はい」  
 
「それじゃ今度は、冷やしぜんざいの方を食べようか」  
「ぜんざいってしるこより50円も高いじゃないですか……?!」  
 ……いや、そこかよ。  
 本当に即物的だなあ。。  
「別に構わないよ。ていうか崩子ちゃん、ぜんざいとしるこの違いって何かわかる?」  
「いえ……、そう言えばよくわかりません」  
「あんこが違うんだよ。ぜんざいはつぶあんでしるこがこしあん」  
「そうなんですか」  
「地方によっても違うんだけどね。関東へ行くとぜんざいは汁なしの餅にあんこを添えた物を指す場合もある」  
「なるほど」  
「関東のぜんざいは関西だと亀山だね。まあこの他にも色々あるんだけど、大体この二つが一般的かな」  
「凄いです」  
 崩子ちゃんは感心した、といった風に言う。  
「お兄ちゃんは餅マスターですね」  
「餅マスター……」  
 名誉なのか不名誉なのかよくわからない呼称だった。  
 
 そのまま1時間程歩いて、ようやく今出川通りに差し掛かる。道程の半分といったところだろうか。  
「崩子ちゃん、疲れない?大丈夫?」  
「はい。あ、でも、少し疲れました」  
「そうだね。少し休もうか」  
 ぼくたちは河川敷に並んで座る。辺りはすっかり暗くなっていた。そろそろ、この時間に半袖は肌寒い季節になる。  
「お兄ちゃん、今日は本当にありがとうございました」  
「ん、どうしたの、そんな改まって?」  
「崩子の何気ない一言がこんな事になるとは、少し反省しています」  
「…………」  
 どうやら崩子ちゃん、700円の出費を本当に重く見ているようだった。  
 そんな気にしなくてもいいのに。  
「ましてまた連れて行って下さるなんて、とても恐れ多いことです」  
「……気にしないでよ、いや本当に。ぼくは、ぼくが一緒に食べて欲しいから誘ったんだよ」  
「…………ありがとうございます」  
 なんだかしんみりとした空気が流れる。嫌だなあ、これじゃまるでぼくがいい人みたいじゃないか。  
 と、崩子ちゃんが「くしゅん」と小さくくしゃみをした。  
「……寒い?もう帰ろうか?」  
「あ、いえ……。その代わり、もうちょっと近付いてもいいですか?」  
「別に構わないよ」  
「すいません」  
 崩子ちゃんは少しぼくに近寄って座り直した。肩と肩が、体と体が触れる。ぼくは少しどきっとしたが、崩子ちゃんがそ知  
らぬ顔をしているので、何も言わずに川を眺めていた。  
 辺りは暗く、遠くから車がせわしなく走る音が響いてくる。少し離れたところにある街灯が薄くぼくらの影を作っていた。  
「…………」  
 いや。  
 いやいやいや。  
 別に?ぼく何も変な事なんて考えてませんけど?  
 
 ……と、その時。  
 
 
 崩子ちゃんが、そっとぼくにもたれかかってきた。  
「……崩子ちゃん?」  
「…………」  
 返事はなかった。表情は夜の闇に紛れてよく見えない。ぼくは多少混乱しつつ、跳ね上がった鼓動をなんとか抑えようと努  
める。  
 ……よし、少し落ち着いてきた。と、そこへ突然崩子ちゃんの声がかかる。  
「お兄ちゃん」  
 落ち着いた鼓動がまた跳ね上がるのを感じる。全然落ち着けてなかった。  
「…………何?」  
 少し間をあけてから、崩子ちゃんは言う。  
「気付いていないかもしれませんが、私は、お兄ちゃんに物凄く感謝しています」  
「…………そう」  
「気付いていないかもしれませんが、私は、お兄ちゃんに色んなものを貰っています」  
「…………そう」  
「何かお礼をしたいのですが、私に差し上げられるような物がありません」  
「…………そう」  
 崩子ちゃんは、前を向いたまま淡々と言葉を紡ぐ。そろそろぼくにも先が読めてきた。  
 つまり、ああなって、  
 そうなるから、  
 こうしよう、というわけか。  
「お兄ちゃん」  
「はい」  
「私は、お兄ちゃんが好きです」  
「…………」  
「だから、こういうのも、嫌ではありません」  
 
「…………」  
 待った。  
 まずい。  
 まずいぞ……。  
 この流れは、実にまずい。  
「…………」  
 崩子ちゃんはいつの間にかぼくの目をじっと見つめている。思わず視線を逸らすぼく、超チキン。  
 しかしぼくが目を逸らしても、崩子ちゃんの視線はぼくの横顔に向けられたままだった。  
 嫌な感じだ。  
 厭な流れだ。  
 酷く不自然だ。  
 非道く不可解だ。  
 ぼくは誰にも何も施さない。  
 だから、何も受けとらない。  
 ありとあらゆるものを拒絶する。それがこのぼくに残された最後の矜持。  
 なのに。  
 彼女は、ぼくからたくさんのものを受け取ったという。  
 勘違いだ。筋違いだ。お門違いだ。見当違いも甚だしい。  
 誤解だ曲解だ倒錯だ背反だ。  
 決定的に踏み外しつつある崩子ちゃんを正すべく、戯言遣いは言葉を紡ぐ。  
「……崩子ちゃん」  
 流されるな。身の程をわきまえろ。  
「……はい」  
 韜晦しろ。後悔するな。自戒しろ。瓦解するな。  
 ぼくは言う。  
「ぼくは、何もしてないよ」  
「…………」  
 
「崩子ちゃんがぼくをどう見ているかは知らないけど、ぼくは小さな人間だ。矮小で卑小で最低で生きる価値の無い人間だ。  
生きているだけで人を貶める人間だ。生きているだけで人を殺す人間だ」  
 あの時も、  
 あの時も、  
 あの時もあの時もあの時も、  
 ぼくのせいで死んだ。  
「人が死ぬのをなんとも思っちゃいないしぼくが死ぬのもなんとも思っちゃいないし、人が殺すのをなんとも思っちゃいない  
し人が殺されるのもなんとも思っちゃいない。何を言うのも何を言われるのも全然構わない。何をするのも何をされるのも何  
とも思わない。一から十まで破綻者で、端から端まで異端者で、無知蒙昧の堕落三昧、曖昧模糊の五里霧中だ。徹頭徹尾、全  
てにおいて絶対値零の、そんな奴なんだよ」  
 あの人も、  
 あの人も、  
 あの人もあの人もあの人も、  
 ぼくのせいで死んだ。  
「何人騙したか何人陥れたか何人傷つけたか何人裏切ったか。情愛を向けられて憎悪を返し、好意を向けられて踵を返す。人  
を人とも思っちゃいないし全てを何とも思っちゃいない──、人間失格の欠陥製品なんだよ」  
「嘘ですね」  
 しかし崩子ちゃんは、あっさりと全てを否定した。  
「それは全部お兄ちゃんの独善に過ぎません。言葉で塗り固めた壁を四方に敷いて、真実から目を逸らそうとしているただの  
戯言です」  
「…………」  
「私はお兄ちゃんとはそんなに深い付き合いではありませんが、それくらいの事はわかります」  
 
「……知ったような口ぶりだね」  
 耐え切れずに、ぼくは口を挟んだ。  
「何がわかる?何でわかる? ぼくは自分がそんなに深い人間だとは思ってないけど、先の見通せない程度には罪深い人間だ  
と自覚してる」  
「そんな事は子供にだってわかることです」  
 しかし、これも崩子ちゃんはあっさりと否定した。  
 その目には、何の気負いも少しの気概も欠片の衒いもなくどんな偽証もなく。  
「お兄ちゃんが何をどう思っていようが、事実は何も変わりません。全てを否定して拒絶して逃亡するのがお兄ちゃんの処世  
術であったところで、私には何の関係もありません」  
「…………」  
「あなたの周りで誰が死のうが何人死のうが誰が殺そうが何人殺そうが、何が起きようが何が起きまいが、誰を信じようが誰  
を信じまいが、誰を嫌いだろうが誰を嫌いであったところで──  
                                   私があなたを愛する事に変わりはありません」  
 
「…………」  
 びくりと。  
 心が、震える。  
「あなたが私を陥れようと、あなたが私を騙そうと、あなたが私を嫌おうと、あなたが私から逃げようと、あなたが私を憎も  
うと、あなたが私を殺そうと──私は、あなたを愛します」  
「…………」  
 
 すっと、崩子ちゃんが立ち上がった。そしてぼくの背後にまわり、肩越しに手を回し、体重を預けてくる。  
「貴兄が乾きしときには我が血を与え、  
貴兄が飢えしときには我が肉を与え、  
貴兄の罪は我が贖い、貴兄の咎は我が償い、  
貴兄の業は我が背負い、  
貴兄の疫は 我が請け負い、  
我が誉れの全てを貴兄に献上し、  
我が栄えの全てを貴兄に奉納し、  
防壁として貴兄と共に歩き、  
貴兄の喜びを共に喜び、貴兄の悲しみを共に悲しみ、  
斥候として貴兄と共に生き、  
貴兄の疲弊した折には全身でもってこれを支え、  
この手は貴兄の手となり得物を取り、  
この脚は貴兄の脚となり地を駆け、この目は  
貴兄の目となり敵を捉え、   
この全力を持って貴兄の情欲を満たし、  
この全霊をもって貴兄に奉仕し、  
貴兄のために名を捨て、  
貴兄のために誇りを捨て、  
貴兄のために理念を捨て、  
貴兄を愛し、貴兄を敬い、  
貴兄以外の何も感じず、貴兄以外の何にも捕らわれず、  
貴兄以外の何も望まず、  
貴兄以外の何も欲さず、  
貴兄の許しなくしては眠ることもなく  
貴兄の許しなくしては 呼吸することもない、  
ただ一言、貴兄からの言葉のみ理由を求める。  
そんな惨めで 情けない、貴兄にとってまるで取るに足らない  
一介の下賎な奴隷になることを―─  
 
ここに誓いましょう」  
 
 崩子ちゃんの腕に少し力が込められて、ぼくは我に帰る。  
「……お兄ちゃんが嫌なら、そう仰って下さい。そうすれば、私は未来永劫永久不変に、二度とお兄ちゃんの前に姿を現すこ  
とはないでしょう」  
「…………そ、んな」  
 ぼくは。  
 ぼくは。  
 ぼくは乾いた喉に多少むせながら言う。  
「違うんだ」  
 無条件で向けられる好意など信じてられなかった。  
「違うんだよ、崩子ちゃん」  
 友愛を警戒し、情愛を嫌悪し、孤独を愛し、孤立に焦がれていた。  
「一人でいいんだ」  
 愛を捨て、義を恐れ、仁から逃げ、恋を騙し、徳を貶し、情を疑っていた。  
「ぼくは一人で、いいんだ。仁愛なんて邪魔だ。友情なんて迷惑だ。恋慕なんて知ったことじゃない。笑みを恐れてきたんだ  
。交わりから逃げてきたんだよ。ぼくの歩く道は血塗られた道でしかない。海千山千の死屍累々を踏み越えて、ぼくはこれか  
らも独りと独りで独りを堕ち続けて行くんだ。そうやって生きてきたんだよ。そうやって生きていくんだよ。崩子ちゃん。崩  
子ちゃん。ぼくは──……っ?!」  
 突然、何かで口をふさがれて言葉が遮られる。  
 何か暖かい、そして柔らかい──  
 崩子ちゃんがぼくの頭を無理矢理横に向け、唇を合わせてきたのだと気付くには時間がかかった。  
 崩子ちゃんの顔が目の前にある。ぼくは一瞬の間を置いて正気を取り戻す。  
「──っ、崩子ちゃ……っ!」  
 離れるぼくを力尽くで引き寄せ、またも口付ける崩子ちゃん。しかも今度はなんと舌を侵入させてきたために、ぼくは完全  
に言葉を発することができなくなる。  
「…………んむぅっ……?!」  
「ん…………」  
 ぼくは目を見開いたまま、崩子ちゃんは目を閉じて、そのまま固まったように時が過ぎる。崩子ちゃんの舌がぼくの口内を  
犯す。崩子ちゃんの舌は、それ自体が意志を持った生き物のようにぼくを蹂躙した。  
 
 数刹那のような数時間のような数年のような時間が経ち、崩子ちゃんはぼくから離れた。  
 つ、と。ぼくと崩子ちゃんを唾液の糸が繋いだ。  
 ぼくは現実と非現実の境目にいるような心地で、ぼんやりと崩子ちゃんを見ていた。  
「卑屈は……楽しいですか?」  
 崩子ちゃんは、呆然と座り込むぼくを見下ろして言う。  
「人生は、嫌ですか?」  
「…………」  
 崩子ちゃんに表情はない。無機質な、どこか幾何的な感じの表情。  
「生きているのは嫌ですか?死にたいですか?明日が恐いですか?昨日を悔やみますか?人が信じられませんか?」  
「ほうこ、ちゃん」  
「人が嫌ですか?自分が嫌ですか?私が嫌ですか?世界が嫌ですか?」  
 無表情の崩子ちゃん。しかし、その声は、潤んでいる。  
「私は、あなたが嫌悪している今日が、楽しかった」  
「…………」  
「あなたが憎悪している明日が、本当に楽しみです」  
「…………」  
「何故ですか……?」  
「…………」  
「何故、なんですか……?」  
「…………」  
 崩子ちゃんの言葉が途切れる。最早隠しようもないくらいに、崩子ちゃんは涙を流していた。頬を伝った雫が、地面を濡ら  
す。それでも瞳だけは、気丈に強い光を宿していた。  
 
「……お兄ちゃんは、今日が嫌いでしたか?」  
「…………」  
「みい姉さんが嫌いでしたか?姫姉さんが嫌いでしたか?私を嫌いですか?」  
「…………」  
「お兄ちゃんは自分の事を知らなすぎです」  
「…………」  
「お兄ちゃんは、優しいんです」  
「…………」  
「その優しさに、姫姉さんが、アパートのみんなが、そして私が。どれだけ救われたか、知っていますか?」  
「…………」  
「何故目を背けるんですか?何故気付こうとしないんですか?」  
「…………」  
「過去に何があったかは知りません。でも、少なくとも、私の知っているお兄ちゃんは、優しくて素敵なお兄ちゃんです」  
「…………」  
 拳を握りしめて。声を震わせて。  
「…………」  
「……ここまで言って、それでもまだわからないようなら、お兄ちゃんは、本当に、一度死んだ方がいいんです」  
「…………ごめん」  
 憑き物が。  
 ぼくが今までずっと囚われ続け、足掻くことすら諦めていた檻が。  
 ──今、粉々に砕かれた、気がした。  
 
 
 それから崩子ちゃんはぼくの腕の中で泣き続け、ようやく落ち着いて息も整ってきたのは1時間程経った後だった。  
「すいませんでした」  
 ぼくの腕の中で、崩子ちゃんはしおらしく言った。  
「誓いを立てた直後にあのような失態……差し出がましいことを。あまつさえ、あんな、……申し訳のしようもありません」  
 言っている途中で、先刻の事を思い出したのか頬を真っ赤に染めて、語尾はほとんど聞き取れなかった。  
「謝らなくていいよ。むしろ感謝したいのはぼくの方だし」  
 そう。  
 救われたのはぼく。  
 救ってくれたのは崩子ちゃん。  
「お礼を言わないといけないのはぼくの方だよ」  
 救ってくれて、ありがとう。  
 崩子ちゃんはごにょごにょ言っていたようだが、よく聞き取れなかった。  
「ところで、そろそろ家に帰らなきゃいけないんだけど」  
 ぼくは時計を見ながら、しかし溜息をつく。  
「……少し疲れたよね」  
「……はい」  
 崩子ちゃんが落ち着くまで約1時間、ぼく達は立ちっぱなしだったのだ。  
 それに、肉体的疲労に加えて、精神的疲労も相当なものだった。  
「もう少し休んでから帰ろっか」  
「……はい」  
 そう言って座るぼく。その横に、ぴっとりと寄り添うように座る崩子ちゃん。  
「………………」「………………えへ」  
 うーん。  
 不慣れな状況だが、どうやら崩子ちゃん、さっきの愛してる云々は本気だったらしい。  
 正直、玖渚以外の女の子と(しかも相手は中学生だ)こういう雰囲気になった事は全然無いので、対応に困る。  
 崩子ちゃんはといえば、楽しそうに川面を眺めている。  
 
 はてさて。  
 
「……崩子ちゃん」  
「なんでしょうか」  
「なんでも、言うこと聞いてくれるんだよね」  
「……はい」  
「ぎゃふんって言ってみて」  
「………………」  
 流石に眉が寄る崩子ちゃん。冗談ですよね、という感じにちらりとぼくの方を見て、しかし冗談じゃないと悟ったらしくシ  
ョックを受け、打ちひしがれたように俯き、肩を震わせ、消え入るような声で「ぎゃふん」と言った。  
「…………」  
 崩子ちゃん、かわいすぎ。  
 予想を遥かに超える好リアクションに驚くぼく。早速次の要求を考えてみる。  
「それじゃあ、次は……」  
「………………」  
 考え込むぼくを見て再びショックを受けた感じの崩子ちゃん。慌てて「あ、そう言えばっ」と話題を変えようとする。  
「そう言えば──何?」  
「えっと、そう言えば、そう言えば……」  
 口を開いたはいいものの話題を考えていなかったようで、二の句が継げずに言いよどむ。  
 と、何かを思いついたのか、ぽんと手を叩いてぼくに向き直る。  
「そうでした、実はお兄ちゃんにお礼がしたいのでした」  
 なんとも嬉しそうに言う崩子ちゃん。  
「そんな、お礼なんていいのに」  
「そんなわけには参りません」  
 そして、少し残念そうな顔になる。  
「……ですが、私はお兄ちゃんに差し上げられるような物を持っていません」  
「…………」  
 ん?  
 あれ?  
 この会話は、どこかで聞き覚えのある……  
 
「つまらない体で恐縮ですが、どうか御受け取り下さい」  
 
「…………」  
 さてさて。  
 今日一日、色んなことが御座いました。  
 あんなことやこんなこと、紆余曲折を経て、……結果。  
 今ぼくの前には目を閉じ、頬を染めて、手を胸の前で組んでいる美少女がいるわけですが。  
「………………」  
 え、えーと……。  
「≪ガラスのように繊細な心、但し防弾仕様の強化ガラス≫みたいなっ!」  
「…………?」  
 首を傾げられた。  
 ……ちょっとショック。  
 ていうか、元ネタを知らない人に言っても通じないのは当然か。  
「ええと、崩子ちゃん?」  
「……なんでしょうか」  
「なんていうか、お礼なんて本当に気にしなくていいよ。だから、そんなことしなくてもいいんだよ」  
「…………」  
「それに。もっと自分の体を大切にしなきゃ駄目だ」  
「…………お兄ちゃんが、そう望むのであれば、私はそれに従います」  
「うん」  
「しかし、お礼に関してはそうもいきません」  
「…………」  
「私は闇口の名を関する者。闇口は主人を一人定める習しがありますが、それはあくまで自分の意志で定めねばなりません」  
「…………?」  
 突然よくわからないことを言う崩子ちゃん。不審そうなぼくに構わず、崩子ちゃんは続ける。  
「私はあくまで自分の意志でお兄ちゃんを我が主としました。そこには”私の意志”以外の何かの介入する余地はあってはな  
らないのです」  
「…………」  
「分かりやすく言うと、主従の契りを交わす以前の貸し借りは、きっちり清算しておかねばならないという事です」  
「…………」  
 
 崩子ちゃんが主従関係を結ぶのは家の習しらしい(それにしても、随分変わった家だ)けど。  
 今日から新しい関係を築く事になったから、今日までの貸し借りを清算しようということか。  
「……でも崩子ちゃん、貸し借りで言うならやっぱり何もしなくてもいいよ」  
「…………」  
「崩子ちゃんがぼくから何かを貰ったのと同じくらい、ぼくも崩子ちゃんにたくさんのものを貰ってる筈だから」  
「…………」  
「だから、そんな無理しなくていいよ」  
「……無理ではありません」  
 崩子ちゃんがワンピースの裾をぎゅっと握りしめる。  
「……お兄ちゃんは……そんなに、嫌ですか?」  
「………………」  
 ここで、選択肢。  
  いく  
  いかない  
「……ルート分岐は、しないけどさ」  
「はい?」  
「いや、戯言だけどさ」  
 
「それじゃ、でも、せめて、その」  
 動揺。いや、落ち着け、ぼく。  
「まあ、そこまで言うなら、わかったよ。……でも、途中までね。そういう事は、もっと成長して、本当に好きな人ができた  
らするものだから」  
「私は本当に……まあ、わかりました」  
 そしてぼくに身を預けてくる崩子ちゃん。  
「優しく、してくださいね」  
「…………あ」  
 まさか。  
 まさか生きてその言葉を耳にできるとは。  
 ぼくは感動の涙にむせびながら(嘘)、崩子ちゃんを抱き締める。  
「お兄ちゃん……」  
「…………ん」  
 崩子ちゃんがせがむようにぼくを呼ぶ。ぼくはそっと口付けた。  
 先ほどとは違い、優しいキス。崩子ちゃんの舌は入って来なかった。  
「…………」  
 なんだか物足りない。ぼくは今度は自分から舌を伸ばした。  
「んっ……むぅ……!」  
 驚いた風な崩子ちゃん。偉そうな事を言っていただけに、ぼくから崩子ちゃんを求めるとは思っていなかったようだった。  
 二人の舌が絡みあう。二人の粘膜が触れ、唾液が口を伝う。ちゅ、ちゅ、と、非常にえっちな音が響く。  
 ぼくの手がワンピースの上から崩子ちゃんの胸に触れる。ほとんどおうとつのない平らな胸。崩子ちゃんはそれでも顔を真  
っ赤にした(そりゃそうだ)が、ぼくは少し悪いことをしている気になって、やはり崩子ちゃんの体に触れるのは避ける事に  
する。  
「んっ…………」  
 唇が離れる。と、崩子ちゃんはぼくの唇をぺろぺろと舐めた。  
「…………」  
 とても12歳とは思えない官能的な行動に、思わず息を呑むぼく。  
 目をあけてぼくをじっとりと見つめ、自分の唇を舐める。そしてぼくの肩にまわされていた手がするすると下りてくる。  
 
「崩子、ちゃん」  
「…………あ……」  
 崩子ちゃんが照れたような声を漏らす。ぼくのそこは既に膨張しきっていた。いくら相手が12歳の女の子だとは言え、ここ  
までされれば誰だって……って、誰に言い訳してるんだ、ぼく。  
 崩子ちゃんは体をずらし、ぼくの腰あたりにくる。ズボンの上から軽く撫でながら、着衣を脱がせ始める。  
「…………崩子ちゃん、やけに手馴れてるけど、経験あるの?」  
「……経験はありませんが、一通りの作法は学んでいます」  
「…………作法、ね」  
 やっぱり凄い家だ。  
 などと驚いている間に、崩子ちゃんはぼくのズボンをずり下げてしまっていた。  
 薄布一枚越しに、崩子ちゃんの顔がある。人に見られた経験などない僕はますます昂ぶっていく。  
 崩子ちゃんの手がいよいよ下着にかかる。いきり立ったモノに四苦八苦しつつも、なんとかこれもずり下げる。  
「………………」  
「…………あう……」  
 ひんやりとした外気と、崩子ちゃんの視線に晒されるぼく。流石の崩子ちゃんも実物を見るのは初めてらしく、感嘆とも驚  
嘆とも、なんとも曖昧な反応。  
 しかし気を取り直したのか、おそるおそる、という感じに手を伸ばす。  
 ぴとり。  
「───っ」  
 細くて白い崩子ちゃんの指が、ぼくに触れる。吸い付くような不思議な感触。ぼくは溜息を吐いた。  
 そのまま擦るのかと思っていたら、  
「それでは、失礼します」  
「え。…………なっ!」  
 そのままぱくりと咥える崩子ちゃん。  
「…………」  
 
 呆気に取られるぼくをよそに、崩子ちゃんは行為を続ける。  
「……ん、…………んむぅ」  
 小さな口では頬張りきれないのか、少し苦しそうだ。ぼくは人生最大の快感に酔いながらも、崩子ちゃんを気にかける。  
「崩子ちゃん、別に、無理しなくてもいいよ」  
 ぼくの呼びかけに、視線で応える崩子ちゃん。  
 ──構いません。私の意志でやっているのですから。  
「…………」  
 それ以上何もいえなくなる。  
 片手を竿に添え、もう片手で袋を弄びながらぼくを咥えている。稚拙だが、一生懸命舌を使ったり、その謙身的な行為は、  
ぼくに確実に快感を与えていた。  
「はむ、んん…………」  
「っ……」  
 体を支える手が震える。歯を食いしばって耐えたが、そろそろ限界だった。  
「崩子ちゃん、もう……っ」  
「ん……む」  
 崩子ちゃんの頭を離そうとするが、崩子ちゃんはむしろ行為を激しくするだけだった。  
「んぐっ……崩子ちゃっ……!」  
「んむぅっ…………んぅん…………ぷは」  
 結局崩子ちゃんの頭に手をかけたまま射精してしまったぼく。崩子ちゃんは、初めてなのに口内で全て受け止め、しかも飲  
み干してしまった。恐ろしい娘だ。  
「その……崩子ちゃん、ごめん」  
「いいえ。 私が、やりたくてやったことですから」  
 そう言って微笑む崩子ちゃん。  
 健気で、一途な、その表情。  
 ぼくは、何かしてあげたくなる──。  
 
「──崩子ちゃん」  
「きゃっ?!」  
 ぼくは崩子ちゃんを引き寄せて、倒れこむ崩子ちゃんを抱きとめた。  
「おにいち…………んっ」  
 何か言い募ろうとする崩子ちゃんに、口付けて言葉を封じる。  
 そしてぼくは、胸はまだでも下なら感じるだろうと、ワンピースの下から崩子ちゃんの太股を撫でた。  
「むぅっ?!」  
 焦らすように行ったり来たりしながら、張りのあるその足を撫で回す。  
「ちょ、おにい…………んむっ」  
 反論はさせない。ぼくは崩子ちゃんの口を塞ぎながら、少しずつ手の位置を上へ上げてゆく。行ったり来たり、焦らしなが  
ら、少しずつ。やがて下着の縁に手が触れた。おしりを揉んだり広げたりして、崩子ちゃんが「やぁん」とか「あん」とか言  
う反応を見て楽しむ。  
「おにいちゃ……、わたし……、恥ずかしい……」  
 とろんとした目でそんな事を言う崩子ちゃん。しかしそれはぼくの嗜虐心を煽るだけだった。  
 ぼくはその部分を、下着の上から軽く撫でる。  
「あ……」  
 強すぎず弱すぎず、微妙な強さでこすり続けると、少しずつ湿ってくるのを感じる。  
「崩子ちゃん、ちょっと濡れてない?」  
「え…………」  
「意外と、えっちなんだ?」  
「ちが……そんな……」  
 愕然とした表情で目端に涙を浮かべる崩子ちゃん。ぼくは調子に乗って言葉で責める。  
「調べてみようか?」  
 
 ぼくは布をずらしてその部分に触れる。  
「あっ……んん……」  
「ほら、濡れてるよ。そんなにえっちな声出しちゃって、崩子ちゃん、大人しい子だと思ってたのに意外だなあ」  
「や……うそ……ああっ!」  
 崩子ちゃんが何か言おうとしたので、ぼくは少し強めにそこを弄ぶと、崩子ちゃんは快感に身をよじらせた。  
「やっぱりえっちだよねえ。崩子ちゃん、気持ちいい?」  
 下着を脱がしながらそんなことを訊く。  
「えっちじゃ、ないです……お兄ちゃんが、そんなことするから……」  
「ふうん?でも気持ちいいでしょ?」  
 僕は指を割れ目に沿って強めになぞる。  
「んんっ……!」  
「ふふ……言葉も出ないくらい気持ちよかったかな?」  
「そんなことっ……」  
 今度はさっきより強めになぞってみる。  
「ふぁあっ」  
 崩子ちゃん、年の割には感じる方みたいで、もうかなり濡れていた。  
 試しに指をそこに立ててみると、少しずつ入っていく。  
「あっ……あんっ……」  
 第二関節くらいまで埋まったところで、これ以上はまずいかな、と思って止める。崩子ちゃんの目はもう虚ろだった。  
「それじゃ、崩子ちゃんもうイッていいよ」  
 埋まった指を出し入れする。中の愛液を掻き出すように、指を曲げたりもしてみる。  
「ああっ……何か………来る…ぅ…!」  
 ぎゅっとぼくにしがみ付く崩子ちゃん。  
「お兄ちゃん……お兄ちゃんっ……ふああぁっ……!」  
 一際大きな声で鳴いて、崩子ちゃんは果てた。  
 
 
 帰り道、ぼくと崩子ちゃんは、並んで歩いて帰った。  
「応、お帰り」  
 アパートの近くまで来たところで通りかかった車から声をかけられた。みいこさんだった。  
「只今帰りました」  
「みい姉さん、なんだか機嫌よさそうですね?」  
「ん。欲しかった物が手に入ってな。それにお前達こそ上機嫌じゃないか。何かあったのか?」  
 さすがみいこさん、あっさり気付くなあ。ぼく、そんなに顔に出てるだろうか。  
 と思って隣を見ると、崩子ちゃんがめちゃくちゃにこにこしていた。  
 …………。  
「いえ、歩いて帰ったので、少々時間がかかっただけです」  
「……。まあ追求はしないけどさ。とりあえず私は早速これを愉しみたいから、今日は静かにしていてくれたら嬉しい」  
「承知しました」  
 それじゃあ、と言ってみいこさんは駐車場の方へ行ってしまった。  
 …………。  
 みいこさん、鬼のように勘が鋭いから、ひょっとしたら気付いているのかもな。  
「…………」  
「お兄ちゃん、行きましょう」  
「……ああ、そうだね」  
 
 そしてぼくは家に帰った。  
 

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