「あ、暦お兄ちゃん。偶然だねっ。どうしたの? こんなところで」  
「あれっ、千石。そうか、お前の家はこの近くだったな」  
「うん、そうだよ。あっ、よかったら撫子の家に来る? 今日はお父さんもお母さんも出掛けてて少し寂しいんだ」  
「う〜ん、ちょっと八九寺とゆっくり話をするために場所を探してたんだけど……」  
「八九寺って?」  
「お前は会うの初めてだったか? こいつが八九寺だ」  
 
そう言って僕は八九寺の方に手を向けた。  
 
そういえば八九寺も千石も人見知りが激しい。  
もし八九寺の姿が見えていたら千石はどうしただろうか。  
いつか羽川と会った時みたいに焦って、神原顔負けの俊敏な走りでどこかへ去っていくかもしれないが、  
小学生相手にそんなことをするのかちょっと気になるところだ。  
 
八九寺はいつだったか神原が僕のストーカーをしていた頃に一瞬で逃げてしまったことがあった。  
あの時神原には八九寺が見えていなかったかもしれないが、それでも一緒にいることは出来なかったのかもしれない。  
 
そんな二人が出会ったのだけれど、なぜか逃げることはなかった。  
類は友を呼ぶ、というやつだろうか。  
八九寺はもしかしたら神原の本質を知っていたのかもしれない。  
『小学生の下着に興味がある』と言った僕を嫌うどころか趣味が合うなんて言ったやつだからな。  
百合でロリにまで興味が及んでいるあいつと出会うことに身の危険を感じたと言われてもおかしくは思わない。  
 
千石は首を傾げて、訝しい顔を僕に向けながら穢れの無い桃色の唇を開く。  
 
「誰も居ないよ? ここには暦お兄ちゃんと撫子しかいないけど……」  
「ああ、そうか。お前には見えないんだな」  
「撫子には見えないって…。……また……なの?」  
 
心配そうな瞳で僕を見上げる千石は少し大人になった気がする。  
いつの間にこんなに成長したんだろうか、と思えるくらい雰囲気が女性らしくなった。  
長い前髪をカチューシャで上げているから、大きな瞳が僕を捉えているのがよくわかる。  
そのせいかあんまり見つめられると照れてしまう。  
そんな僕の気持ちには気付かず、千石は不思議そうにじっと僕の顔を見つめていた。  
僕は耐えられなくなって視線を逸らし、  
 
「お前が心配するようなことじゃないよ。今は浮遊霊をやっててこの辺りをフラフラしてるんだ。  
 こいつは面白くて良いヤツだから安心して大丈夫だよ。  
 あと千石が八九寺のことを見えないのも問題はないから安心していいからな」  
「う、うん、暦お兄ちゃんがそう言うなら、信じる。ど、どんな娘なのかな?」  
「小学生でツインテイルで背が小さくて日本語のプロで僕の事が大好きで『いつも一緒にいたい』『離れたくない』って泣いて頼む可愛いやつなんだ」  
「な、なんてことを言うんですかっ!? 千石さんには私の言葉が届かないと思って変なことを言わないでください!」  
「暦お兄ちゃん! 小学生が好きだったの!? ちゅ、中学生はどうかなっ!?」  
 
二人とも何か的外れなことを言っている気がするけれど……、僕は八九寺のことが大好きだから八九寺も僕のことが大好きだし。  
小学生からおばあちゃんまで、僕のストライクゾーンはかなり広いぞ。もちろん中学生も問題はない。  
 
「八九寺、お前はポルターガイストでも勉強してみたらどうだ? そうすれば千石と話せなくても意思の疎通くらいは出来るんじゃないか?」  
「さては阿良々木さん。心霊現象を勉強させて私に悪戯させる気ですね。可愛い女の子を狙って、スカート捲りとかさせる気ですね?」  
「そ、そんなことをさせるわけないだろ! 僕はそんなに信用されていないのか!?  
 それに僕の部屋には近い将来家宝になるモノがあるから、そういうことに関してはお前の協力は必要ないんだよ」  
「家宝ってなんですか!? もしかして女性の下着とかですか!? とうとう下着泥棒にまで成り下がりましたか!?  
 ですが……まあ時間の問題と思っていましたから、あまり違和感はありませんね」  
「違和感持ってくれよ! 僕は泥棒なんてしない!  
 前に忍から『スカートの中を覗いてどんなパンツを穿いているか教える』という提案を断った実績だってある!!」  
「普段忍さんとどんな話をしているんですかっ!? 子供なのをいいことに自分色に染めてしまおうということですか!?」  
 
というか『家宝』っていう言葉だけで下着を想像するなんて勘のいい奴だ。  
でもなんというか……鋭すぎないか?  
もしかして見てたとか……。  
羽川がブラジャーを外して僕に揉まれそうになっているところを覗いていたとか……。  
羽川にいやらしいことを言わせている僕を見ていたとか……。  
迷子だからどこにいても不思議じゃないしな。  
もしそうなら……は、恥ずかしすぎる!!  
八九寺が今何を考えているかはわからないけど、とりあえず怒っておこう。  
 
「お前、僕のことなんだと思ってるんだ!? そんなことするわけないだろ!  
 僕は忍にそんなことをしないし、その下着はちゃんと合法的に手に入れたものだ!」  
「阿良々木さんが女性の下着を合法的に手に入れられるものですか!? 盗んだに違いありません!  
 盗んでいないとしたら……まさか忍さんのですか!? ロリだとは思っていましたが、そこまでの幼女が好きだとは……」  
「その下着の持ち主には僕が大切に持っていることは宣言してあるんだぞ! だから何の問題もない!  
 それに僕が忍に何かするわけない! 第一、忍は下着を付けないだろ!! 実際には五百歳以上だからロリじゃないしな!」  
「し、下着を付けていない!? そ、そんなことを知ってるなんて!? まさか確認したんですか!?  
 忍さんのワンピースを捲くって中を凝視して触ってしっかりと確認したんですね!?」  
「ち、違うっ! あいつは着る物は全部自分で作るし、僕の影の中には忍の作ったものしか持っていけないんだよ!」  
「はいはい、そんな言い訳しなくてもいいですよ。阿良々木さんがロリコンだというのは皆知っています。羞恥の事実です」  
「『周知の事実』だ! この野郎!! 僕をロリコンだと思っているやつなんかこの世の中の何処を探してもいるわけがない!!」  
「この世の中の何処を探しても阿良々木さんのことをロリコンじゃないと言える人がいるとは思えませんっ!!」  
 
僕は八九寺と本気の喧嘩をし始める。  
忍に血を吸ってもらったばかりだから大怪我しても問題はない。  
八九寺は躊躇いなく僕の指を噛み切ろうとし、僕はそれを防ぐため八九寺にアイアンクローをかます。  
目の前の小学生とじゃれ合うことに夢中になりかけた時、ふと千石の質問を思い出した。  
 
「あ、そうだ。千石、中学生もいいと思うぞ」  
 
八九寺の頬をつねりながら千石に言葉を投げかける。  
千石は嬉しそうに顔を綻ばせ、笑っていた。  
 
おわり  
 

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