・こよみランタンA  
 
 
「はううっ…やはり藤吉先生の作品は素晴らしい……カップリングチョイスも見  
事ながら、細かいストーリー設定をフル活用している所がなんともっ!」  
 
 
PM5:10 神原宅  
 
学校から帰って真っ先に昨日買ったBL本を手に取る神原(もちろん全裸)。  
「ふんふん――あうっ!んんっ!―――」  
悩ましげな声を漏らしながら、1ページ1ページ丁寧に先へとめくっていく。  
そうしたいつもの情景。  
物の溢れた汚部屋の中。  
誰しもにある、至福の時を過ごしていると―  
 
『ピンポーン』  
チャイムの音。  
―誰だこんな時に。今折角イザーク×ミゲルがいい所なのに。  
「はーい」  
今一つやる気のない声で返事をする。  
―ピンポーン―  
再び押されるチャイム。  
うむ、どうやらお客さんはだいぶせっかちなようだ。  
この程度の時間も待てないようではどうせ手も早く前戯も稚拙でチャイルドなの  
だろう。  
まあ、それがいい、と思えるシチュエーションを育成するのもまた一興であるの  
だがな。  
神原駿河育成計画(性的な意味で)。  
うん、いい響きだ。  
携帯に辞書登録してしまいたい位だ。  
 
「はいはいはい今出まーす」  
おばあちゃん達は確か買い物だから…私が出るしかないか。  
私は早く応対を終わらせて続きを読みたいのだ。  
流石に、イザーク+半裸+ベッドイン状態で中断=色々みなぎってきてしまうで  
はないか!  
ああ、早く肉欲の海に身を沈めたいっ!  
「…あ、服、服っと……」  
ん、流石に見ず知らずの人に全裸はまずいか。  
とりあえずエプロンか何かを探すとするか。  
そういえば、阿良々木先輩は裸エプロンは守備範囲なのだろうか。  
今度戦場ヶ原先輩に聞いてみよう。  
もしストライクゾーンなら、私も料理を嗜まなければな。  
手料理、うん、いい響きだ。  
「…っと!あったあった!」  
洗面所に掛けてあったバスタオルを軽く羽織り、玄関へ急ぐ。  
―ピンポーン―  
「はいはい、今すぐ開けますから―」  
だらしなく、ふてぶてしそうな顔をして玄関の鍵に手を延ばした時―  
 
「神原?いるのかー?」  
 
―決して聞き間違うことのない声。  
阿良々木先輩。  
阿良々木先輩の声。  
あの変態性欲剥き出しなのに剥けていなくてドキンちゃんの阿良々木先輩がエロ  
で百合で薔薇でマゾでロリでメイドロボで水着はVで人外な私の家まで用も無い  
のに尋ねてきてくれた!  
これは、一大事だ。  
一世一代の一大事。  
つまり、1・1・1。  
 
身体を覆っていた倦怠感は一瞬にして消滅。  
代わりに、なんとも言えない高揚感が全身を駆け巡る。  
衝動、リビドーに任せ身体を突き動かす。  
先程までのスローライフは何処へ消えたのか、奥歯の加速装置を作動させ、サッ  
シが摩擦熱で燃え上がる寸前のスピードで扉が開け放たれる。  
必殺、神原アクセル!  
 
「阿良々木先輩!よく来て下さっ――た?」  
 
困惑。  
当惑。  
大迷惑。  
戸惑いの表情を見せる神原。  
それもそのはず、玄関に立っていたのは、カボチャの被り物と黒いマントを羽織  
った謎の男だったのだから―。  
 
「よぉ神原、元気してたか?」  
「…その声は阿良々木先輩だが、いかに守備範囲が広いことだけが自慢の私とい  
えども人外コスプレ趣味は流石に専門外で」  
「別に趣味じゃない」  
「では、そのコスはいったい何なのだ?」  
「何なのだってそりゃ――あれ?神原、もしかして今日が何の日か知らないのか  
?」  
「うむ、今日10月31日は確かガスの日であったと記憶しているが」  
「何でそんなマイナーな記念日を知っているんだよ!」  
何だよガスの日って。  
10月14日、鉄道の日並にマイナーじゃないか。  
最も、後者の方は熱烈な支持者がいるので知名度では勝っているだろうが。  
ちなみに誤解を避けるため言っておくが、僕は世間で言う「鉄」というヤツでは  
ないので詳しくは知らない。  
何だよクモユニって。  
 
「何!?阿良々木先輩は私の知らない10月31日を知っているのか!?流石語彙の豊富  
さでは笑点のピンクすらも上回る阿良々木先輩だ、きっと私の知らないような10  
月31日を話してくれるに違いない」  
「ピンクを必要以上に貶めるな!」  
僕は結構好きだ!  
「なんと!司会者どころか視聴者からも見放されているピンクにも慈悲の御心を持  
っているとはさすが阿良々木先輩、釈迦に説法、イエスに聖書も凌駕する驚くば  
かりの情け深さだな!」  
明日から私の辞書には「らぎ子に情け」という言葉が追加される。  
もちろん、マーキング必須だ。  
さて、そのピンク大好き変態戦隊阿良々木先輩はいったいどんなエッチで淫乱で  
糜爛で卑猥な記念日を作りあげてくれるのだろうか!もしかしたら「僕と神原の(  
内縁の妻としての)結婚記念日」とか、「僕と神原の『はじめて』の記念日」とか!  
心も身体もワクワクテカテカしてたまらなく激しいぞ阿良々木先輩!  
早く!早くその唇から甘い生クリームのような言葉を!  
「…期待させといて悪いがな、つまらないくらい普通に答えるぞ、神原」  
「うん!」  
 
「―今日は、ハロウィンだ。」  
 
「ハロウィン…?というと、キリスト教の収穫祭のか?」  
「ああ、もっとも、厳密に言うと違うらしいが」  
「コスプレをしたかわいい幼女たちが『トリックオアトリート!』と言ってその身  
をプレゼントしてくれる、あのハロウィンか!?そうなのか!?」  
「なんか間違った方に脳内変換されてる!」  
そんな局所的な人間しか喜ばない祭をどうして祝う。  
大分歪んだ祭と宗教だな!  
「あの、『犯してあげるから性戯させろ』のハロウィンなのか!?」  
「訳も漢字も間違ってる!」  
そんな何か大切なものを間違えた宗教が信者を得れるほど社会は甘くない!  
「何!それらは全て違うというのか!私の妄想の産物でしかないのか阿良々木先輩!  
」  
「全然違う!全てお前の妄言だ!」  
妄想どころか暴走だよ!  
よーしわかった、お前にハロウィンというモノの恐ろしさを叩き込んであげろう  
じゃないか。  
ハロウィン・オブ・ザ・テラー、とくと味わうがいい!  
「いいか神原!ハロウィンてのはな!」  
「ハロウィンとは?」  
「トリック オア―」  
そしてカボチャの被り物を外して―  
 
 
「――トリート」  
 
 
―その瞬間、唇同士が触れ合った―。  
 
 
「―えっ、あうっ、ふあうっ―」  
 
 
神原の顔が、真紅に染まる。  
いきなりの出来事。  
一瞬の出来事。  
バスタオルが落ちたのにも気づかないくらいに。  
僅か数秒の――口づけ。  
だが、それは神原の思考を停止させるには十分すぎた。  
蕩けるように甘く、かつ溢れんばかりの情熱で満たされた口づけ。  
糖蜜のような禁断の香り。  
豊潤な唇の触れ合う調べ。  
口づけ。  
口づけ。  
決して許されない口づけ。  
 
その一切合切が、神原の思考の全てを奪っていった―  
 
 
「――ってことだ。わかったな神原?」  
「あ?…ああ……」  
何が起こったのかわからず、ただ生返事を返す。  
空虚な瞳で。  
力無くうなだれた双肩で。  
今にもその体躯の支えとしての責務を放棄しかねない足元で。  
 
「じゃあ、僕は帰る。いいガスの日を過ごせよ」  
「あ…ああ…気をつけて」  
赤色の角灯を振って別れる。  
その姿を見送る神原。  
あまりのショックに、呆然と立ち尽くす。  
立ち尽くす。  
ただ立ち尽くす。  
全裸でただ立ち尽くす―  
 
 
そして、5分後―  
 
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  
 
奇声とも喚声ともつかない雄叫びがあがる。  
「どーしよう!どうしようどうしよう!阿良々々々木先輩が!私にキスを!口づけを!  
折檻―じゃなくてせせせ接吻を!」  
全裸のまま、玄関で慌てふためく神原。  
幸い庭が広かったからいいもので、普通なら「ちょっと署まで」と言われて当然  
の状態。  
この状況を知ってか知らずか、我を忘れ支離滅裂な行動をとる変態女子高生。  
見苦しいくらいに、支離滅裂。  
まあ最も、見やすい支離滅裂なんてある筈ないのだが。  
「そうだ!まずは布団―じゃないっ!日記日記――は書いてないっ!とりあえず落ち  
着け私!深呼吸震度数!」  
とりあえず、気持ちは落ち着いた!落ち着いた!落ち着いたはずなのだ!  
…落ち着いて、どうする?私。  
「まずは――連絡だ!戦場ヶ原先輩!戦場ヶ原先輩に電話電話っと…!」  
奥歯のスイッチを噛み締め自分の汚部屋に突入。  
そこからは慣れた手つき。  
視界ではなく、身体が場所を覚えているのだろうか。  
雑多な山の中からコンマ数秒足らずで携帯を見つける神原。  
手に取り、ボタンを押そうとする。  
「だだだめだ手ががふふふるええててててて」  
 
落ち着け私、興奮するな。  
しかも古典的な興奮の仕方で。  
こういう時は…そうだ!萎えることだ!ひたすら萎えるカップリングを考え平常心  
を取り戻すんだ。  
萎えるカプ、萎えるカプ…ヴィーノ×ヨウラン、モラシム×ダコスタ……よし、  
落ち着いてきた、落ち着いてきたから大丈夫。  
うん、早く電話番号を押して…  
「とにかく戦場ヶ原先輩にこの溢れんばかりのソウルシャウツを伝えなければ!」  
そこで戦場ヶ原に電話か。  
ヴァルハラコンビの絆は堅い。  
 
携帯の発信音が鳴り響く。  
1コール。  
2コール。  
3コール…。  
 
4…コール?  
 
あれ?出ない…?  
おかしい。  
絶対におかしい。  
普段ならきっかり2コール目で  
「今日もあなたの○○奴隷……でお馴染み、ヴァルハラコンビリーダー、戦場ヶ  
原ひたぎです」  
という甘言褒舌蕩ける美声で私を快楽の園へと導いてくれるはずなのだが―。  
何が?  
何かがあったのか?  
だとしたら愛人の私としてこれは由々しき事態――  
そうだ!家に直接行ってみよう!  
何らかの事情で携帯の着信音に気づかないという可能性もあるはずだ。  
事情の確認、まずそれが先決。  
とりあえず、早く外に――  
 
そして、玄関のガラスに映った自らの姿を見て気づく。  
「――あ、服、着てないや――」  
 
 
「とまあこんな感じだ。満足いただけただろうか戦場ヶ原先輩」  
 
がじゃこっ。  
がじゃこっ。  
がじゃこっ。  
 
ホチキスが綴じられる。  
一定のリズムで綴じられる。  
 
何かを引き裂く生々しい音とともに、只々一定のリズムで綴じられていく―。  
 
ぐちょり。  
ねちょり。  
べちょり。  
ぶちょり。  
 
「ええ、とてもよくわかったわ、ありがとう神原」  
「どういたしましてだ、戦場ヶ原先輩」  
「お礼を言いたいのはこっちよ、本当に――あら、阿良々木くんがいつの間にか  
無惨にも物言わぬ屍に」  
「お前がしたんだろっ!第一まだ死んで――ぎゃうん!!」  
「阿良々木くんの嬉しい悲鳴…」  
「用法が違う!惜しいけど嬉しくないし――ぎゃん!!」  
「シールドミサイル?」  
「ここはテキサスじゃない!」  
ミラーは正常である。  
がじゃこっ。  
暦の頬に眉間にあらゆる所へホチキスの針が突き刺される。  
「もうやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」  
「ヤダ、やめない」  
「いややめてー!」  
小学生のような問答を続ける二人。  
リアル小学生に見せたら間違いなく引かれるだろうが。  
その間にも、僕の頬やら瞼やら眉間はどんどん人としての原型から掛け離れた姿  
に加工されていった。  
 
「戦場ヶ原先輩、これ以上は阿良々木先輩の顔が人間である証拠を留めなくなる  
かと」  
「そうね、そろそろホチキス『は』終わりにしましょう」  
「『は』って何だよ!」  
まだ続きがあるのか!?そうなのか戦場ヶ原!  
「ええ、モロチン」  
「誤植作品が違う!」  
同時制作は大変なんだよ!  
「あと神原!その話!僕がお前の家の前に現れたのは何時頃だった!?」  
「え?何時かと?確か5時ごろだったが…」  
 
そろった。  
糸口を見つけた。  
間違えても糸色じゃない。  
事件は解決へと導かれるはず。  
謎はとべてすけた!  
「ほらみろ戦場ヶ原!今日の5時、僕はこの教室で英語の追試を受けていた!だから  
僕にはアリバイがある!」  
「何!?阿良々木先輩は、あの時間、学校にいたというのか!?」  
「神原、これはどういうこと?」  
「いや!私は確かに阿良々木先輩にキスされたのだ!身長、フェロモン、声色、歩  
き方!どれをとっても阿良々木先輩だった!」  
「お前はどこで僕を判別してるんだよ!」  
とにかく僕は教室にいた。  
それは、揺るぎようのない事実。  
 
「これは…阿良々木くんは、『かげぶんしん』を習得した、と考えていいのかし  
ら」  
「そんなわざ使えるか!どちらか一方の僕が偽物に決まってるだろ!」  
「ちなみに、マルマインでの『どくどく+かげぶんしん』の王道逃げ切りは卑怯  
だから許さないわ阿良々木くん」  
「なんかあと二つわざを覚えれそう!」  
あと二つは、でんじほうか、だいばくはつか。  
ちなみに僕は「ロックオン+でんじほう」である。  
「でもっ!確かに私が会ったのは―」  
「違う!偽物か何かだ!」  
とにかく僕じゃない。  
僕と僕。  
僕が二人。  
二人が僕。  
二人とも――僕。  
これが巷でいう「ドッペルゲンガー」なのだろうか。  
はたまた「ドッペルライナー」が正しいのか。  
それ以外の何か別のものか。  
仮に、神原が見たのが僕のドッペルゲンガーというやつだったとしよう。  
しかし、よく言うドッペルゲンガーなんてものはあくまでも「他人の空似」の延  
長であって、そんなヤツが神原の家を知るはずがない。  
第一、ドッペルゲンガーは喋らないという話だ(が、それは今はあまり関係ないだ  
ろう)。  
僕が二人。  
二人が僕。  
僕がもう一人。  
「僕」と僕じゃない「僕」。  
これは、  
いったい――  
 
「―怪異、じゃないかしら」  
ぼそり、と呟く戦場ヶ原。  
「「え?」」  
「だから、これは何かしらの怪異が、神原か阿良々木くんに憑いていてる、とい  
うことじゃないのかしら」  
「―それはどういう事だ、戦場ヶ原」  
そうだ。  
納得できない。  
僕が二人いたからといって、怪異と割り切るのは早過ぎる。  
そりゃあ春休みから怪異につきっきりで出会っている現吸血鬼もどきの僕の頭脳  
であればらその思考に至るのはありうるが、戦場ヶ原はそうではない。  
普通の人間だ。  
蟹の一件からも、大分時間がたったはずだ(もっとも、本人の心からしたら短いか  
もしれないが)。  
僕と違って、怪異に吸い寄せられることもないだろう。  
だから、そんな思考に至るはずがない。  
いや、至ってはいけない。  
至っては―いけないのだ。  
その前に、僕や神原の話を疑うとかがあるだろうに。  
「どういう事って、つまり――こういうことよ」  
「そうなのか!そうすれば納得がいくぞ戦場ヶ原先輩!」  
「二人だけで通じ合うなっ!」  
その間、コンマ7秒。  
何が話されたのでしょう?  
超高周波言語かよ。  
「え?わからないの?」  
「さもわかるのが当然のように言うな!」  
ちゃんと説明してくれ!  
「仕方ないわね、学の無い阿良々木くんの為に『もう一度』解説してあげるわ」  
「初めての解説だよ!」  
「何!阿良々木先輩が今から此処で『初めて』を散らすというのか!教室が初めて  
とはいささかベーシックだがノーマライゼーションをモットーとする阿良々木先  
輩としては非常にベストな選択と言えるだろう」  
「黙ってろ神原!」  
第一ノーマライゼーションに卑猥な意味は一切ねえよ!  
 

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