・こよみランタンC
PM6:30 下駄箱→校門
そんなこんでな一頓着ありつつ、僕らは下駄箱に差し掛かっていた。
神原は家で本の続きが読みたいらしく、一足早く帰っていったので、今は戦場ヶ
原と二人きり。
気を効かせてくれたのだろうか。
だとしたら、有り難く思うべきなのだろうが、あんな事があった手前、やはり戦
場ヶ原とは話しにくい。
ふと戦場ヶ原が、思い出したように呟く。
「あらいけない」
「どうした?忘れ物か戦場ヶ原」
「ええ、ちょっと試作型対人用ビームホチキスを教室に」
「嫌な忘れ物だ!」
大体何でビーム兵器が実用化されている。
お前は連邦軍の白い悪魔かよ。
「いや、確か同じく対人用全自動ノコギリ『CS-78-1』だったかしら」
「それじゃただの殺人チェーンソーじゃないか!」
しかもなんだよその形式番号!
今度はプロトタイプかよ。
だとしたら世界の物凄い悪意と歪みを感じる。
…ちなみに、ホッケーマスクがチェーンソーを使ったという事実は一切なく、本
来は『悪魔のいけにえ』という映画のキャラクター、レザーフェィスという奴の
得物だそうだ。
ていうか戦場ヶ原、どうやったらそんなモノを学校に持ち込める!
「じゃあ忘れ物を取ってくるから、先に校門の前で待っててくれるかしら阿良々
木くん」
「…ああわかったよ、お言葉に甘えて、のんびりしてくるさ。」
そして、校門前の横断歩道。
特にすることもない僕はガードレールに腰掛け、さっきの怪異のことを考えてい
た。
偽物の僕?
何の伝承?
何の怪異?
駄目だ、何も思いつかない。
誰かに聞いてみるか。
頭の中で思い浮かぶ人物。
アロハ親父。
真っ黒詐欺師。
見た目幼女。
……いや、やっぱり相談するのは止めよう。
ロクな目にあいそうにない。
しかし、僕だけの頭脳では心もとない。
すると、やはり―――
――と考えていると、横断歩道の向こうに、見慣れた巨乳と三つ編にメガネの委
員長が登場。
時間はともかく、なぜ学校の前を散歩しているのだろうか気になったが、別に聞
く程のことでもない。
それと周りを何か気にしているようで、オドオドとした仕種。
「おーい、羽川ー」
声をかけてみる。
こちらに気づく羽川。
その顔は、みるみるうちに真っ赤へと―――。
信号の方は青になった。
信号は青に。
羽川は赤に。
その羽川が、横断歩道の向こうから自慢の巨乳を揺らして走ってくる。
歩みに合わせて揺れる双房。
たふん、たふん、と上下に動く。
いい、すごくいい。
美しいラインと絶妙な振動のハーモニー。
重なり合う曲線の芸術が僕の視線を奪う。
目の保養に最適。
まさに精神安定芸術。
美しい立体から生み出される精神の平面。
揺れる胸の一挙一動に、僕の視線が釘付けになる。
一日中見ても飽きない。
一日中見れたらそれこそ―
「ねえ…阿良々木くん…?」
「ん?どうした羽川?顔、そんな真っ赤にして」
「どうしたって…それは…」
「それは?」
「さっきあんなことを私にしたのに…その平然とした態度は…どうかと思うよ」
「いや、別に普通の態度だと」
「それに……続き、してくれないの?」
「続き?何の続きだ?」
いったい何のことだろうか。
今日羽川と最後に会ったのは掃除の時間。
そこからは顔を会わせてないし、それ以前にも何らかの変わったアクションをし
たわけでもない。
いったい羽川は何を―――
「―あれだけやって途中で逃げるなんて、阿良々木くんのクセに生意気だぞ?」
「だから何だって…」
――途中まで?
いったい僕は何をしたというんだ。
羽川の顔を真っ赤にするようなことをして、「はい忘れました」となることなん
てまずない。
いや、絶対ないと言い切ってもいい。
しかもそれを途中で放棄…はしそうな気がする。
笑えない話だ。
末代までの恥だ。
末代からこそ呪われそうだ。
「今なら…続き…しても…いいよっ…」
顔を赤らめ、盛んに肩で息をする羽川。
その右手はスカートの裾をたくし上げ―
「ちょっと待て羽川!僕は何のことだか――」
わからない?
いったい――羽川は何を話している?
まさか、春休みのことで?
それとも、クリリン…いや、「いつでも好きな時に好きなだけ私の胸に触ってい
いチケット」のことか?
疑問が頭を駆け巡る。
目の前にはスカートをたくし上げる羽川。
脳内では羽川に関する記憶の一斉検索。
見つからない。
見つからない。
どこをどう探しても見つからない。
この時僕の頭を脳内メイカーで見たら、きっと「羽川」の二文字に満ち溢れてい
ただろう。
だが、次に僕が聞いた言葉は、その脳内を真っ白なキャンパスに戻すくらい衝撃
的で――
「―私のおっぱいをあれだけ吸っておいて、事後処理もなしに逃げ出すのはどう
かと――思うよ?」
え?
羽川さん、何をおっしゃいます?
僕は先程まで教室で戦場ヶ原と楽しく談笑を―
「だーかーら!私の自慢のおっぱいをちゅうちゅうしておいて『何のこと』はヒ
ドいと思うよ!阿良々木くん」
ゑ?
疑う。
自らの耳を疑う。
二度も疑う。
―親父でもないのに。
そして、
認めたくない真実。
表情から読み取れる確信
沈黙。
沈黙。
ただ沈黙。
二人の間に広がる沈黙の海。
そして―――――――――――――――――叫んだ。
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
次囘ニ續