005  
 
 
 
  僕が図書館に着いた時、既に羽川は図書館に着いていて、  
 何か作業を始めていた。  
「お待たせ、羽川」  
「あ、おはよう阿良々木君」  
 しかし、今更ながら平日昼間に高校の制服を来た男女が、  
 図書館とはいえ学校の外で待ち合わせをしているというのは、  
 周りの目にどういう風に映るんだろうか。  
 羽川の評判が少しだけ心配だ。  
 僕の方は征制服姿で学校をさぼるのは、結構慣れているんだけど。  
「何をしてるんだ?」  
「取りあえず探す場所の分担をしようと思って」  
 見ると羽川は、自由配布の図書館の見取り図に何かを書き込んでいた。  
「阿良々木君、説明文と物語文なら、物語の方が得意だよね?」  
「国語の話か? 確かに理系なのに何故かそっちの方が得意だな」  
 でも古文は苦手である。まあ僕の受験に必要な教科では無いけど。  
「あんまりこの場合、理系文系は関係無いんだけどね」  
「それで、どうして今勉強の話なんだ?」  
「別に勉強の話じゃないよ。  
 うん、それじゃあ阿良々木君には文学とか、そっちの方を調べてもらう事にするね」  
 そう言って、羽川は僕に見取り図を渡してきた。  
 
「なあ羽川、この丸がついてる所が僕の担当なのは解るんだが、  
 こっちの尋常じゃないスペースをカバーしてる×印はなんだ?  
 まさかこの全てが、羽川の担当ってわけじゃあないよな?」  
 僕と羽川の読書スキルの差を考えても、これは分担として成り立っていない。  
 範囲が僕の分の50倍くらいある。  
 幾ら羽川でもこの範囲を一人で、というのは無理だろう。  
 すると羽川は慌てて訂正した。  
「そんなわけないじゃない、それは既読分だよ。  
 念のため、新しい本が入ってないかは確認してみるつもりだけど」  
「それでも十分驚くべき事だけどな」  
 殆ど担当しているみたいなものじゃないか。  
 呼び出しておいてなんだけど、  
 図書館において僕に羽川を手伝える事なんてあるのだろうか?  
 まあとは言っても、やるしかないんだけれど。  
「というか調べる以前にさ、  
 現時点で羽川は何か思い当たるような節は無いのか?  
 人間の記憶を奪ってしまうような怪異とか」  
 これだけの量の本を読んでいるのだ。  
 そういった話や、伝承みたいな物を結構知っていそうな感じだけど。  
「うーん、あんまり人の記憶に対して干渉する、っていう話はピンと来ないんだよね」  
「そうなのか? 知らない僕が言うのも変だけれど、  
 そんなの、結構な数が居るもんだと思ってた」  
「かなりマイナーな所までレベルを下げてしまえば、  
 もちろん居ない事は無いんだけれど、それこそ数が多いからね。  
 結局そんな情報は役には立たないよ」  
 成る程。  
 データが無いというのと、データが多すぎるというのは、大して変わらないからな。  
 質の高い情報だけを拾ってこれればそれに越した事はないのだけど。  
 
「そうは言っても阿良々木君、行き詰ったら本だけじゃなくて、  
 インターネットなんかで調べるのも重要だと思うよ」  
「ああいうのって当てになるのか?」  
「インターネット上とはいえ、そういう情報があるって事は、  
 少なくともそういう風に言い伝えている人がいるって事でしょう?  
 それならば、それが一般的に正しいかどうかはさておき、  
 今回の場合、意味はあると思うけれど」  
「確かに、そうだな」  
「多かれ少なかれ、人々にその存在が伝わってさえいれば、  
 怪異として成立するはずだから。  
 でもそういうのも入れると、本当に数が膨大になっちゃうんだけれどね」  
「そうだろうな、でもそれじゃあ結局どうすればいいんだ?」  
「だからかなりピンポイントに、今の戦場ヶ原さんの状態に近い物を探すべきだと思う。  
 似ている所がある、みたいなレベルだと収集がつかなくなっちゃうだろうから、  
 条件を厳し目にして振るいにかけてね。  
 まあこの辺りのさじ加減が難しいんだけど」  
「わかった」  
 
「それと今更聞くけれど、忍ちゃんや神原さんは手伝ってはくれないの?」  
「あー、それなんだけどさ。  
 忍の方は僕が戦場ヶ原に攻撃されてた時に、一度起きたみたいだったから、  
 さっき手伝ってくれないかって頼んだんだけれど、  
 こんな下らない事、儂は手を貸さんぞ。とか言って今はもう寝てる」  
「そうなんだ、まあ彼女は完全に私たちの味方って訳じゃあ無いしね」  
 まあそうだけど、今日はやけに薄情な感じだった。  
 あんまり戦場ヶ原の事は、元から好きじゃないみたいな感じだったから、  
 そのせいかも知れない。  
「神原さんは?」  
「そもそも電話に出なかった。授業中だったからかも知れないけど、  
 折り返してこないあたり、多分家に携帯を忘れてる」  
 機械音痴のせいかもしれないが、結構あいつ充電を忘れたりとか多いんだよな。  
 最近は機能自体は使いこなせるようになったんだけど。  
 それに僕が言えたことじゃ無いが、あいつあんまり頭脳労働向きじゃないんだよな。  
 状況によっては、誰よりも頼りになるんだけど。  
「それは仕方ないね、じゃあ取りあえずは私たち二人だけで探して見ようか」  
「だな。それじゃあ早速始めるか」  
「うん。解ってると思うけど、閲覧室の中ではお喋りは駄目だよ。  
 これもあんまり良いことじゃ無いけど、  
 相談とか、何か気がついたことがあったらメールしてね」  
 
  なんて言って別れたのが3時間くらい前。  
 しかしこと羽川との勉強会以外では、あまり利用した事が無い僕にしてみると、  
 この図書館というのは、本当に使い方が難しい施設であった。  
 第一あの本達はどういう基準で並べられているのだろうか?  
 大まかなジャンルで分かれているのは当然としても、それ以上はさっぱり判らない。  
 本の背表紙に「905」とか「シ」なんて書いてあるシールが貼られていて、  
 数字に関しては周りの本も、近い数字が並んでいる所をみると、  
 きっと並び順的に何らかの意味があるのだろう。  
 そういう物だと誰かに教わった記憶もあるのだが……。  
 まああんまり無い知恵を絞ってもしょうがないと思い、  
 タイトルからそれっぽい物を選択して読んでいく事にしたのだが、  
 結局それらしい記述を見つける事は出来ず、こうしてロビーで休憩していた。  
「阿良々木君お疲れ、休憩?」  
 すると丁度羽川もロビーに戻ってきた。  
「ああ、……図書館っていうのはどうも疲れる。  
 羽川はよく1日中こんな所に篭っていられるな」  
「何言ってるのよ、阿良々木君だって最近は私と1日中ここで勉強してるじゃない。  
 それに今阿良々木君が疲れているのは、図書館のせいじゃなくて、  
 必死に調べ物をしているからだよ」  
「まあ、それは」  
 必死になりもする。  
 もう少し休憩したら、今度はパソコンからも検索をかけてみるか。  
 
「ん?」  
 そこでふと、カウンターの所に明るいオレンジ色で飾りつけがされているのが目に入った。  
 そういえば今日はハロウィンか。  
 別に日本では学校が休みになったりするわけでも無いので、  
 特に気に留めてはいなかったんだけど。  
「あっ……」  
「どうしたの? 阿良々木君」  
「妖精、なんじゃないか? 戦場ヶ原の記憶を奪った怪異は」  
「妖精? 妖精ってフェアリーとかピクシーとか、  
 そういう妖精?」  
「ああ、その妖精だ」  
「確かに妖精が森なんかで人の記憶を混乱させて、  
 道に迷わせる何て話は聞いた事があるけど、決め手に欠けるというか……」  
「普段ならそうだけどさ」  
「? ああ、10月31日」  
「そう、今日はハロウィンだから」  
 妖精、精霊や魔女が現れると信じられていた日である。  
 今日という日にその怪異が現れるのは、これ以上無くらしいと言えた。  
 あとは戦場ヶ原が言っていた子供の容姿が、  
 妖精らしさを彷彿させるには十分だったのも大きい。  
「そうだね、妖精なんて漠然としすぎて盲点だった。  
 確かに今日にふさわしい怪異と言ったら、それくらいしかいないかも。  
 でもよくそんな事思いついたね、阿良々木君」  
「いやまあ」  
 偶然1年くらい前に、妹から無理やり読まされたライトノベルに、  
 妖精が記憶を奪うような描写があったのだ。  
 けれど僕が覚えていないだけかもしれないが、  
 とくに対処法、解決法みたいなものは、載っていなかったと思う。  
 
「うん、かなり良い線行ってるかも。  
 ちょっとそっちの路線で調べてみる。  
 妖精なんて、一冊図鑑が出来ちゃうくらいポピュラーな怪異だから、  
 きっと対処法なんかも探せばあるんじゃないかな」  
「だな、僕も引き続き調べて見る」  
「ううん、阿良々木君はもう図書館はいいよ、慣れない作業で疲れているでしょう?」  
「え、ちょっと待ってよ羽川さん、そんな戦力外通告みたいな」  
 確かに役に立ってはいなかったけれど!  
 見捨てないで、僕だってやれば出来る子なんだから!  
「ううん、ここまで解ったら、  
 やっぱり阿良々木君は、戦場ヶ原さんのそばに居てあげた方がいいと思う」  
「戦場ヶ原のそばに?」  
「うん、今一番大変なのは、阿良々木君じゃ無くて戦場ヶ原さんだと思うから」  
 確かに、気がついたら記憶が無くなってるなんて、大変どころじゃない。  
 自分の事ばっかりで、戦場ヶ原自身の事を考えてやれていなかった。  
「まあ阿良々木君も動揺してるのは判るけど、でも駄目だよ、  
 ちゃんと自分の彼女を支えてあげないと」  
 そこまで羽川に言われたら首を縦に振らざるを得ない。  
「わかったよ羽川、あとは任せた」  
「任された。こっちも何か判ったら連絡するから、頑張って」  
 そして僕は図書館をあとに、戦場ヶ原の家へ向かう事にした。  
 
 
006  
 
 
「貴方、また電話なんてかけてきて」  
 戦場ヶ原の家の前に着いた僕は、  
 いきなりチャイムを押す勇気が無かったので、  
 取りあえず電話で機嫌を伺ってみた。  
 もしかしたら無視されたり、着信拒否にされているかも知れないと思ったが、  
 無事戦場ヶ原は電話に出てくれた。  
「その、話がしたいんだけど。少しいいか?」  
「手短に用件だけ述べなさい、私は忙しいの」  
「いや、そう言わずにちゃんと聞いてくれ。  
 お前にとっても重要な話なんだ」  
「重要かどうかは私が決めるわ、15秒だけ時間をあげる」  
「おいちょっと――」  
 なんだそのTVコマーシャルみたいな時間は。  
「14,13,12……」  
「覚えてないかもしれないけど、  
 お前は数日前に会った妖精に記憶を消されてしまったのかもしれないんだ、  
 だからお前自身の記憶を取り戻す為にも僕に協力してくれっ!」  
 物凄く早口になってしまったが、聞き取れただろうか。  
 少しの沈黙の後に聞こえた戦場ヶ原の声は、すこし上ずって聞こえた。  
「妖精が……なんですって?」  
「妖精がお前の記憶を奪ってしまったのかもしれない。  
 つまりお前は、そのせいで今記憶喪失なのかもしれないんだ」  
 今度はさらに長い、それこそ30秒くらい沈黙が続いた後。  
「ふふっ……あはははははっ、妖精が記憶をね、それで?」  
 戦場ヶ原さん大爆笑。  
 こんな笑い方をする奴だったっけか。  
 あまりにも久しぶりすぎて、この状態の戦場ヶ原に対して違和感がありすぎる。  
「いや、笑ってしまうのも判らなくは無いんだけどさ、  
 真面目に聞いてくれ、今回も前回の蟹同様、怪異の仕業だと思うんだ」  
「今回も、蟹? 何のことかしら?」  
 あれ、この辺りの記憶も無いのか?  
 そもそも今の戦場ヶ原の記憶が、どの辺りから途切れているのか、  
 それが時間軸的な物なのか、事象的な物なのかすら判らない。  
 
「その、今家の近く、というか家の前に居るんだけど、  
 詳しい話がしたいから中に入ってもいいか?」  
「……ええ、構わないわ」  
「ありがとう」  
 僕はドアノブに手をかけ、少し慎重になりながらドアを開ける。  
 中では戦場ヶ原がテーブルの前に座り、携帯電話を折り畳んだ所だった。  
 特に臨戦態勢というわけでも無さそうだったので、  
 僕も戦場ヶ原の向かいに腰掛ける。  
 一応意識して周りを見渡し、妖精みたいな物が居ないか気配を探ったが、  
 それらしいものは感じ取れなかった。  
「それで、改めて何の用かしら、阿良々木君?」  
「お前が妖精のせいで記憶喪失になってるって話だ」  
「ふふふっ、本当に貴方は愉快な脳みそをしているわね」  
 本当に、容赦の無い暴言を吐くなコイツは。  
「ていうか協力しろよな、お前だってこのままじゃあ困るだろ?」  
「別にそんな事は無いわよ?   
 ああでも今正に不審人物に付きまとわれて、少し困っているけどね」  
「お願いしますから協力して下さい!」  
 もうとにかく下手に出るしかない。  
 本当に素朴な疑問なのだが、どうやってこの人と会話してたんだろうな昔の僕。  
   
 取りあえず気を取り直してコミュニケーション再開。  
「蟹の事は覚えていないのか?」  
「何のこと?」  
 記憶に無いのだろうか、  
 あの一件が、戦場ヶ原の性格を、  
 ここまで研ぎ澄ませてしまう原因になったはずなのだけど。  
「お前の母親が、その……怪しい宗教にはまった時の」  
「……なんで貴方がそんな事を知っているの?  
 ああ、そういえば彼氏なんだっけ?」  
「先ずそこからかよ」  
 もしかして今までのはとぼけられていたのだろうか?  
 だとしたら前途多難過ぎる。  
 妖精よりもこの状態の戦場ヶ原の方が強敵って感じだ。  
「頼むから少しは僕の事を信用して話してくれ、でないと話が全然進まない」  
「嫌よ、何処の誰だか知らない相手に、自分の話なんかしたくないわ」  
「そんな――」  
「だから貴方の方から自分の事を話しなさい、それで信用に足るか判断するわ」  
 ――まあ、それでもいいか。  
 それで戦場ヶ原が何かを思い出せれば万々歳だ。  
 むしろ僕の話を聞いてくれるというだけで、一歩前進である。  
「ええっと、一応僕はお前の彼氏だった訳だけれど」  
「そもそも先ずそれが信用できないんだけど、  
 一体どういう経緯で私は貴方とつきあう事になったのかしら?」  
「まあ、そうなるよな……」  
 僕は簡単に、階段で戦場ヶ原を受け止めた辺りから、  
 告白を受けるまでの話をした。  
 途中相槌こそロクに打たないものの、  
 戦場ヶ原は大人しく、結構真面目に僕の話を聞いてくれたように思う。  
 
 話しているうちに段々と、戦場ヶ原に対する違和感が消えてきた。  
 ああ、確かに昔僕はこいつと、こんな風に話していたな、  
 そんな懐かしい感じ。  
「戦場ヶ原さんは随分と惚れっぽい女なのね」  
「うん、お前だけどな」  
 僕が話し終えた後の彼女の感想は、全くもって見も蓋も無いものだった。  
「そう、そしてそれ以降、私は貴方に対する態度を軟化させたわけね」  
「いや、あんまり変わらなかった」  
「はい?」  
「何故だか付き合い始めてからも、僕に対するお前の態度は、今みたいな感じだった」  
「貴方よくそんな女と付き合っていたわね」  
「だから、お前だけどな」  
 まあそれは、僕自身たまに思ったりしたけれど。  
「まあしょうがないわね、自分で言うのもなんだけど、  
 私相当可愛いし、  
 多少性格がアレでも、そんな事気にならないわよね」  
「まるで僕が、女を顔だけで選んでる奴みたいな言い方は止めてくれないか?」  
「そうじゃないなら、貴方随分と特殊な趣味の持ち主なのね、  
 じゃあさっき私が貴方の首をボールペンで切りつけた時も、  
 貴方は心の中で喜んでいたの。  
 ああ、だからあんな事をされても、  
 懲りずにこうして再びのこのこ現れる事が出来たのね、  
 少し不思議に思っていたのだけれど、納得したわ」  
「納得するな、それは誤った認識だ。  
 僕はあくまで正常な感性を持った、普通の男子高校生だからな」  
 
 その後、今度は戦場ヶ原の方から幾つか質問をされた。  
 内容は、高校の中では二人はどんな感じだったのか、とか(高校に入った時の記憶はあるそうだ)  
 僕の家族の事とか、そんな些細な事。  
 そして最後に。  
「貴方、羽川翼と、神原駿河という人間を知っているかしら」  
 確認をするように戦場ヶ原。  
「ああもちろん、僕たちのクラスメイトと、後輩だ。  
 お前とは両方とも中学時代からの付き合いだったな」  
「そう……貴方そこまで、私の中学時代の事まで知っているのね」  
「信じてもらえたか」  
「ええ、ストーカーにしては優秀すぎるわね。  
 それでもその可能性が0になったわけでは無いけれど、  
 取りあえず今は貴方の言葉を信じる事にするわ」  
「そうかい、そりゃどうも」  
 さて、ようやっとスタート地点である。  
 といっても、具体的に何をすればいいのかは分からないわけだが。  
 さっきまでの会話の途中で、記憶が戻ってくれる事を期待していたんだけど、  
 どうやらその様子もない。  
 
 ふと、携帯に着信があった。  
 表示を見ると羽川から。  
「ごめん、電話だ」  
「どうぞ」  
 僕は一応断りをいれてから羽川の電話に出た。  
「もしもし」  
「もしもし、阿良々木君」  
「どうした羽川? 何かわかったか?」  
「うんまあ、ところで阿良々木君。  
 戦場ヶ原さんは今そこにいるの?」  
「ああ」  
「ちょっと部屋を出てもらえるかな?  
 あんまり本人の居る前で、積極的にしたい話では無いし」  
「まあ、そうだな」  
 僕は一旦席を立ち、家の外に出た。  
 
「それでどうしたんだ、羽川。何か解決策が見つかったのか?」  
「残念ながら、そういうわけじゃないんだ、  
 あれから調べる本を妖精関係に絞って、15冊くらいざっと目を通したんだけれど。  
 それらしい、決め手になるような資料には行き当たらなかったの。  
 でも一応経過報告と、もう少し戦場ヶ原さんの症状を聞きたかったから」  
「そうか……」  
 まあ、そうそう上手くはいかないよな。  
 というか、あれから1時間ちょっとしか経ってないのに15冊か。  
 やっぱり羽川さんすげえ。  
「あんまり考えたくないけど、そもそもの前提が間違っているって事も、  
 考えないといけないと思う」  
「まあ、もちろんその可能性もあるよな」  
 寧ろ当然といえよう。  
 もともと僕の浅知恵からひねり出したものだし。  
「それ以外にも、少し気になる事もあるから、  
 取りあえず情報交換をしましょうか」  
 それから、僕は戦場ヶ原の様子等を伝え、  
 羽川はそういう事をする妖精の特徴、  
 後は2,3具体的に確認して欲しい事と、アドバイスを受けた。  
「うん、それじゃあこっちももう少し調べてみる。  
 阿良々木君も頼んだ事、よろしくね」  
「ああ、わかった」  
 
  僕は電話を切って、再び家の中へ。  
 戦場ヶ原は先ほどと変わらず机の前に座ったまま、携帯を弄っていた。  
「お友達かしら?」  
「ああ、羽川だ」  
「彼女も私が今、どういう状況かを知っているのね」  
「うん、そして協力もしてもらっている」  
「そう」  
 僕は羽川に言われたアドバイスや、  
 確認しておいて欲しいと言われた事なんかを思い出しながら、会話を続ける事にする。  
「本当はもっと、大勢に協力を仰ぎたいんだけどな」  
「最近の私、あまり友達がいないみたいね」  
「まあ、そうなんだよな」  
 僕も人の事は言えないんだけど。  
「本当は神原にも協力してもらいたいんだけど、  
 あいつも微妙な立場だからな」  
「どういう事?」  
「ああ、お前は覚えて無いんだな。  
 僕とあいつはお前を巡っての恋敵だったんだ。  
 もう決着はついたんだけどさ。  
 でも神原からしてみれば結果的に、  
 僕がお前を奪った、みたいな形になってしまったからな。  
 このままお前の記憶が無くなっていた方が、  
 あいつにとっては都合がいいのかもしれない」  
 
「ああ、そういう事ね。  
 まあそれは確かに、協力を仰ぐのは止めておいた方がいいのかも知れないわね」  
「やっぱりそう思うか?」  
「ええ、幾らもう決着がついた事とはいえ、  
 そういう話って結構根深いものよ。  
 実際頼めば彼はやってくれるでしょうけど、  
 あまりお互い気分のいいことじゃないでしょう?」  
「まあ無理に協力を仰ぐつもりもないさ、  
 解決の糸口らしき物も丁度見えた所だし」  
「あら、そうなの?」  
 まあ殆どが羽川の功績なんだけれどな。  
 というか、マジで羽川凄すぎるだろ。  
 実際に直接見る事も無く、話を聞くだけでその怪異の正体を見破る。  
 忍野が実際に八九寺との一件等で見せた事ではあるが、  
 彼女は専門家ではないのに、それをやってのけた。  
「その解決策っていうのを教えてくれないかしら?」  
「もちろん、でもその前にお前に一つ確認したいんだけどさ」  
 そう言って僕は改めて彼女に向かい合った。  
「お前は戦場ヶ原ひたぎじゃないな?」  
   
 
007  
 
  時間は少し遡って、羽川との電話の続きである。  
「少し気になる事があってね」  
「気になる事?」  
「さっきも言ったけど、前提の話」  
「ああ、今回の怪異が妖精かどうかって話か」  
「ううん、もっと前提の話だよ」  
「え、まさか戦場ヶ原が記憶喪失なのは、怪異の仕業じゃないっていうのか?」  
「ううん、もっと前」  
「これ以上前だって? なんだそれ、検討もつかないぞ?」  
「えっとね、そもそも本当に戦場ヶ原さんは記憶喪失なの?」  
 ――は?  
「いやいや、そうだろ。  
 まさか、戦場ヶ原の悪戯だっていうのか?」  
 いくらハロウィンだからといって、これはやり過ぎだろう。  
「ううん、そうじゃないよ」  
「じゃあ、どういう事だよ」  
「そもそもその阿良々木君と一緒にいるその人、  
 本当に戦場ヶ原さんなの?」  
 
「――」  
 それは。  
 それは本当にいつの間にか僕が勝手に「前提」だと思っていた事だった。  
 思い込んでいた、と言ってもいい。  
「そもそも、今阿良々木君が話しているその彼女が、  
 本人じゃ無いっていう可能性を、考えて無かったんじゃないかな」  
「いや、確かに我ながら記憶喪失っていうのは、突拍子も無い話だとは思うけれど、  
 でもそれは」  
「取替え子」  
 僕の言葉を遮り、羽川は聞いた事の無い単語を言った。  
「取替え子、またはチェンジリングっていってね、  
 生まれたばかりの赤ん坊を、妖精がさらってしまって、  
 代わりに自分たちの子供を置いていくっていう伝承は、結構有名な話なんだ。  
 まあ戦場ヶ原さんはもう赤ちゃんではないけれど、  
 妖精は、人に姿を変えられるのよ」  
「いや、でもそれこそ記憶の話になるだろ。  
 それともその妖精達は、本人の記憶まで再現する事ができるのか?」  
「彼女は、戦場ヶ原さんしか知らないはずの事を知っていた?」  
「ああ、お前や神原の事だって」  
「どれくらい知ってた?」  
「え、いや……取りあえず名前は知っていたな」  
「それは携帯電話があれば知る事が出来るよ。  
 取替え子で人間の子を演じている妖精は、  
 とても頭が良かったみたいだし、それくらいの事は答えてくると思う」  
 
「話し方とか、物腰も戦場ヶ原のそれだったぞ?」  
「本当に? いつの間にか阿良々木君から情報を聞き出してこなかった?  
 戦場ヶ原さんがどういう人間かを、さり気なく探ろうとはしてこなかった?  
 戦場ヶ原さん、その怪異に実際会って声をかけているみたいだから、  
 ある程度の口調なんかは、相手に伝わっていると思うよ」  
「それは……」  
 確かにそう言われれば、彼女と話しているうちに、最初は大きかった違和感が、  
 段々と薄れていった。  
 最初に僕に対して文房具で攻撃してきたのも。  
 戦場ヶ原だったから、では無く、  
 武器らしいものが他に見当たらなかったからなのか?  
「でも、成りすますならどうして昔の戦場ヶ原なんだ?  
 普通それなら、今の戦場ヶ原に成りすますものなんじゃないのか?」  
「取替え子の妖精は、入れ替わる前の本物より性格が悪い事が多いそうよ」  
 性格が悪いって……。  
 しかし、言われて見るとそんな気もしてくる。  
 いつの間にか、勝手に僕は彼女が記憶喪失だと思い込んではいなかったか?  
 こと怪異に対して、  
 人間と入れ替わるのと、人間の記憶を弄るのとでは、どっちが難しいかなんて、  
 その質問自体がナンセンスである。  
「まあ、もちろん私の思い違いかもしれないし、  
 一応鎌だけかけてもらってもいいかしら?」  
「ああ、解った。試してみる」  
 
  なんていうやり取りを、さっき電話でしていたのだ。  
 今思えばハロウィン、妖精とまで思いついて、  
 「仮装」つまり姿を変えるという所にまで、どうして頭が回らなかったのだろう。  
 人間が怪異に変装をするなら、  
 その逆だって、あっておかしくない。  
 それこそ、本当にらしいと言えばこれ以上らしい事なんて無いのに。  
 間違った思い込み程、厄介な物はない。  
 ただ見た目や性格がそっくりなだけで、僕はそれが本人であると、  
 疑う事すらせずに、判断してしまった。  
 ああ確かに、こんな下らない事、忍は手を貸してくれないだろう。  
 ただただ、僕が一人で間違っていただけだ。  
 
 まあでも何にせよ。  
「お前は戦場ヶ原じゃない」  
 僕は再び目の前の戦場ヶ原の姿をした何者かに、確信を持って言った。  
「何を言っているの」  
「お前は、ずっと前からの知り合いのはずの、神原の事すら知らなかった」  
「知っているわよ、彼のことについて知らない事は無い、とまでは言わないけれど」  
「まあ、そういう勘違いをしてしまうのも無理は無いんだけどさ」  
「何が勘違いだって言うのよ」  
「神原駿河っていうのは、戦場ヶ原の後輩の女の子だよ」  
「だから――え?」  
「確かに、名前だけから性別の判断はつき難いよな」  
 神原に限らず、僕の周囲の人間は名前から性別が解りにくい。  
 僕の周りで、性別が名前から一瞬で解りそうなのは、  
 おそらく千石くらいのものだろう。  
 翼、だってこう言ったら羽川には悪いが、あまり女の子らしい名前じゃあないし。  
 でも彼女は自分から戦場ヶ原の携帯に電話をかけてしまったから、  
 声で女子である事がばれていた。  
「だって、神原は貴方の恋敵なんでしょう?」  
「ああ、神原は百合なんだ」  
 まあ普通男の恋敵っつったら男だもんな。  
 間違えてしまうのも無理はない、でもそれは。  
「記憶喪失というのでは、説明がつかない間違いだ」  
 神原を使って鎌をかけたのには、少しだけ罪悪感が無いでもなかった。  
 さっきはあんな事言ったけど、  
 実際に僕は神原なら、二つの返事で僕達に協力してくれると信じている。  
 彼女も羽川と同様、ツンからドロになって、  
 ある意味面白味が無くなってしまった最近の戦場ヶ原が、  
 今までで一番良いと言ってくれていた。  
 信じていいんだよな?  
 たまに、戦場ヶ原が前ほど明確に拒絶の態度を示さないのをいい事に、  
 過激すぎでは無いかと思えるようなスキンシップをとる事があるけれど、  
 あれは只のネタですよね? 神原さん。  
 
 なんてぞっとしない事を考えていると、  
 おもむろに彼女が立ち上がった。  
「流石にバレちまった、みたいだな、  
 ひひひっ」  
 そう言って戦場ヶ原と同じ顔をニヤっと歪めて笑うと、  
 デロン、と文字通り化けの皮を剥ぐように、  
 彼女の体が服ごと変形していった。  
「やっぱり、戦場ヶ原が言っていた子供か」  
 その変形した後の姿は、いや変身を解いた姿は、  
 戦場ヶ原の言っていた奇妙な子供の姿かたちと一致していた。  
 身長がかなり低い上に、帽子を深く被っているせいで、その顔を伺う事は出来ない。  
 そしてソレは戦場ヶ原とは似ても似つかない、少年のような甲高い声で喋りだした。  
「正直俺はてめえが妖精の話をしだした時点で正体がバレたか、と思ったぜ。  
 ひゃはははははっ」  
 妖精、というのは正解だったのか。  
 まあそんな事はどうでもいい。  
「戦場ヶ原を何処にやった」  
 今は本物の戦場ヶ原の居場所、そして安否が何より大事だった。  
   
「さあな俺はそんな事、知らねーよ」  
「とぼけんな」  
「知らねーって俺は只あの女が落としたこの携帯電話ってやつを届けてやろうと思った、だけだぜ?」  
「つく意味すらわかんねえ嘘をつくな」  
「嘘じゃねえよまあ普通に返すだけじゃ面白くねえし  
 なかなかあの女帰ってこねえからちょっと悪戯してやろうとは、思ったけどさ。  
 ひゃははっ」  
 しかしさっきから不快な喋り方や笑い方をするなコイツ。  
 こういう抑揚の無い早口は、意味を汲み取りづらくてイライラする。  
「最初あの女に成りすまそうと思って家に帰ってお前がいたときはめちゃくちゃ、驚いたぜ。  
 ひひっ。  
 そういやあの時はいきなり暴力を振るっちまって、悪かったな」  
 そこは謝るのか。  
「謝るくらいなら最初からすんなよ、  
 というか成りすますのに何でいきなり暴力を振るって来た」  
「驚いちまったんだよ阿良々木暦って奴が家に居るのは  
 この携帯電話に届いていたメールでわかってたんだけどよまさかそれが、男とはな。  
 ひゃははっ」  
 今思い出すと、最初にこいつと顔を合わせたとき、  
 阿良々木暦という名前に対して、奇妙なな反応をしていた気がするが。  
 そうか、女だと思われていたのか。  
 僕こそ、名前から性別がわかりにくい筆頭なのかもしれない。  
 
「そんな事はどうでもいい、どうでもいいんだ。  
 もう一度だけ聞くぞ、戦場ヶ原を何処にやった。  
 正直に答えないようなら、今度はこっちが実力行使に出るぞ」  
「脅したって駄目だぜ本当に知らねえよ俺はやたら慌てた様子で走って行く  
 あの戦場ヶ原とかいう女を見てそんときこの携帯を、拾っただけだぜ」  
 そう言って、その携帯を見せびらかす妖精。  
「俺が見える奴なんて珍しかったし声をかけられるなんて本当に、久しぶりだったからな」  
 戦場ヶ原も怪異に関わった経緯があるせいか、  
 いや、現在進行形で僕と関わりがあるせいか、  
 そういう物を引き寄せやすくなってしまっているのかもしれない。  
「そしたらちょっとだけ嬉しくてなついついらしくも無く親切をしそうに、なっちまった。  
 ひひひひっ」  
「そんな話が信用出来るか」  
 このままこれ以上話をしても無駄だ。  
 僕は何時でも動き出せるように、眼前の妖精に意識を集中させた。  
「そんなに凄んでもしらねーって――」   
 一触即発、そんな空気の中唐突に携帯がなった。  
 僕のでは無い、戦場ヶ原の物だ。  
 そちらに一瞬気をとられた隙に、妖精は僕に向けてその携帯を投げつけてきた。  
「じゃーな結構お前も、楽しかったぜ  
 ひゃはははっ」  
 そう言うと妖精は、なんと開いていた窓から外に飛び出していった。  
「待てっ!」  
 不味い、逃げられた。  
 実質、今戦場ヶ原の行方の手がかりはあいつ以外に無い。  
 後を追わないと、しかしその前に、戦場ヶ原の携帯のディスプレイが目に留まった。  
「誰からだ……父?」  
 戦場ヶ原の携帯のディスプレイに、父と表示されているなら、  
 それはもちろん戦場ヶ原の父親だろう。  
   
 一応、出ることにする。  
「もしもし」  
「もしもし……もしかして阿良々木君?」  
「……戦場ヶ原か?」  
「ええ、阿良々木君が出た、という事はやっぱり携帯は家に忘れて来たのね」  
「え、ちょっと待て、お前無事なのか?」  
「何のことかしら?   
 ああ、ごめんなさい連絡をしていなかったものね、  
 いきなり急用――遠い親戚のお葬式に出る事になってしまって、  
 連絡する暇が無かったのよ。  
 向こうに着いてから携帯が無いのに気がついてから、  
 お父さんの携帯を借りて、何度か私の携帯にかけてみたのだけれど、  
 誰も出なかったのよね」  
 なんだそれは、じゃあ本当にあの妖精は、戦場ヶ原に何もしていないというのか?  
「心配しても当然よね。でも今日の夕方には家に帰れるから、安心して頂戴」  
 
「……本物?」  
「はい?」  
「戦場ヶ原、僕との初デートは何時だ?」  
「今年の6月13日火曜日の放課後よ」  
「先週の週末、一緒に見に行った映画のタイトルは?」  
「何言ってるの、そもそもそんなの行ってないじゃない」  
「戦場ヶ原」  
「どうしたの? 阿良々木君ちょっと変よ」  
「すっげー心配した」  
「それは、本当にごめんなさい」  
「ううん、いいんだ。僕が勝手に一人で暴走しただけだから。  
 それにむしろ謝らないといけないのは、僕のほうだ」  
「……、もしかして、また何かあったの?」  
「大丈夫、もう解決したから」  
「そうなの。何だか解らないけど、連絡しなくてごめんなさい」  
「やめてくれ、お前にこれ以上謝られると、立つ瀬が無いよ。  
 本当、情けない。  
 僕は今回、ただただ必死に空回りして、格好が悪いだけだった」  
 変な言い方をすれば、ある意味まだあの妖精の方が、  
 戦場ヶ原の携帯を拾ってくれた分、役に立っている。  
「そう……、  
 でもね、覚えておいて。  
 どんなに阿良々木君が情けなくても、  
 私は私の為に、必死に格好悪くなってくれる阿良々木君を、愛しているわ」  
 ――ああ、もう本当に。  
「お前は僕の理想の人だよ、戦場ヶ原」  
 超愛してる。  
 
 
008  
 
 
 
 
 
009  
 
 
  後日談というか、今回のオチ。  
 翌日朝早く、戦場ヶ原に起こされた僕は、  
 もう使い慣れた戦場ヶ原家のシャワーを借りた後、  
 二人で早めの朝食をとった。  
 携帯を見ると、妹達から、  
 「お兄ちゃんの不良! もう知らない! 受験なんて落ちちゃえばいいんだ!」  
 みたいな内容のメールやら留守電が大量に入っていたので、  
 少しだけ帰るのが憂鬱になる。  
 それでも2日連続で学校を休む訳には行かない。  
 昨日はあれから家に戻っていないので、  
 今日の分の教科書なんかは、家に帰って取ってこないといけないのだ。  
 また後で学校で、と戦場ヶ原家を後にした僕は、  
 家に帰る途中、僕に会った。  
「あ」  
「あ」  
 僕は僕と同じ制服姿で鞄を肩から提げていた。  
「またあったな、阿良々木暦。ひゃははっ」  
「何やってんだお前、気持ち悪いから早く戻れ」  
 言うと素直に妖精は元の姿に戻った。  
「僕の姿で何してんだよお前」  
「いやあてめえの家族は凶暴だなあ阿良々木暦あれはてめえの姉か?   
 もうちょっとでポニーテールの女に殺される所、だったぜ」  
「何で僕の家に行ってんだよ!!」  
 つーかどうやって突き止めた。  
「昨日のお前の話をちゃんと聞いてれば家の場所くらい簡単に推理出来たぜ  
 阿良々木なんて苗字は珍しい、からな。ひひひっ」  
「ひひひじゃねえよ、もっとゆっくり喋れ、聞き取りづらい、  
 ていうか僕に付きまとうな。  
 もうハロウィンも子供の相手も終わりだ」  
 
「そう邪険にすんなよ俺はお前が気に入ったんだほらちゃんと  
 お前の為に今日必要な分の教科書をとってきて、やったぜ。  
 ひゃはっ」  
 そう言って僕に教科書を手渡してくる。  
 確かに、今日必要なラインナップが揃っていた。  
 ……怖っ。  
 何でわかんのこいつ?  
「じゃあまた愉快に遊ぼうぜいや違うな俺がお前で遊ぶんだ、阿良々木暦。  
 ひゃはははははっ」  
「あ、待てっ」  
 僕が教科書に気をとられている隙に、妖精は何処かに走り去ってしまう。  
 後には僕が一人ぽつんと取り残された。  
   
   
   
 こうして今回のくだらない、僕が一人で相撲を取っていただけという一件は、  
 僕が一匹の迷惑な妖精に気に入られるという、本当にくだらない、  
 自分としては冗談ではないオチがついたようだ。  
 早速問題解決の為に、イレギュラーに出来てしまったこの時間を有効に使おう。  
 もう日付はとっくに変わっていたし、  
 こんな事で本当に悪戯を止めてくれるとは思えないが、  
 僕は取りあえず、近くのコンビニにお菓子を買いに行く事にした。  
   
 
 

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