「お話があります」
いつものように勉強のために向かった民倉荘で、戦場ヶ原は開口一番そういった。
いつものように、といっても今日は休日だというのに平日と同じ時間、昼間はなにか用事があったとかで空も暗くなった頃、
という意味ではいつもと違うのだが、むしろいつもと違うのはそこではない。
忍に血を与えてきた直後で、感覚が鋭敏になっているとか、そういうのも些細な問題だ。
「・・・はい」
正座する戦場ヶ原の前に、逃げたいのに逃げられない、まるで怪異に魅入られたかのように正座する僕。
一見すると毒舌を吐いている普段より大人しいかに見える戦場ヶ原は、明らかにこれからの攻撃に備えた伏線だ。
何だ?何がばれた?八九寺との逢瀬か?神原のマッシュポテトに興奮したこと?
それとも中学生の手ぶらブルマー?ああくそ、心当たりが多すぎる!
おちつけ、おちついて考えろ、戦場ヶ原への情報ソースということは八九寺の情報が伝わることはないだろう。
とするとやはり神原絡みか?
「今日、羽川さんと」
羽川!まさかその名前が出てくるとは思わなかった!あの羽川が告げ口なんて・・・
いや、僕が羽川に告げ口をさせてしまうほどの粗相をしたというのか?そん
な、羽川の前では常に紳士的な態度を心がけてきたというのに。
「オーディオコメンタリーを収録してきました」
「はい?」
着いて最初の言葉を繰り返してしまった。
「DVDorブルーレイに収録するオーディオコメンタリーよ。作中キャラによるものだから
キャラクターコメンタリーとも言うらしいわ」
「それはわかってるよ!でもそれをSSに持ち込むなよ!メタにもほどがあるだろ!」
メタメタである。
ちなみにコメンタリー内で視聴者に向かって呼びかける分には、
相手が見ているのがどちらかわからないのでDVDorブルーレイでいいが、
収録する分には両方に収録されるので、DVD&ブルーレイと言うのが正しいだろう。
「そんな細かいことはどうでもいいのよ。それよりも1話冒頭、私と出会う前の春休みの事件ダイジェストが流れたのだけれど」
春休み――そうか、知ってしまったのか。
べつに隠していたわけではない。ただ、できることなら戦場ヶ原には、もうこれ以上怪異に関わらない、普通の人生を歩んで欲しかった。
いや、言い訳は止めよう。怪異もどきの僕と付き合っている限り、そして、僕が忍と共に生きる以上、怪異と関わらないなどというのは誤魔化しなのだ。
「阿良々木君が話してくれるまで、聞かなくてもいいと思っていたわ。でも、彼女として、どうしても聞かずに置くわけにはいかないことだと解ったの」
確かに、戦場ヶ原には聞く権利がある。今も僕の影に潜み続ける怪異のことを・・・
「羽川さんのおっぱいを揉んだでしょう」
「はい?」
「やっぱり揉んだのね!」
「ちょ!違!今のは質問が理解の範疇を超えていたことに対する感嘆詞であって肯定の意味は無い!」
この女、一瞬の間に左手で僕の後頭部を押さえ込み、右手で躊躇無くシャーペンを眼球に向けてきやがった!
いや、それだけなら前にもやられているし、その言葉は正確ではない。前回はこちらが反応する間も無く寸止めだったが、
今回は僕がその手を掴まなければ確実に刺さっている勢いだった!前回の経験と、
血を吸われた直後で吸血鬼能力が高まっていること、どちらが欠けても間に合わなかっただろう。ありがとう忍。
ちなみに「はい?」というのが感嘆符かどうかは国語の成績が悪い僕には自信が無い。
「言い訳は止めなさい、私ははっきりと見たのよ」
戦場ヶ原は右手一本だというのに、僕は両手で押さえて拮抗させるのがやっとだ。
筋力は再生能力ほど強化されてないとはいえ、結構筋肉質になってるんだぜ僕。
戦場ヶ原は病弱少女ではないにしろ、普通の、むしろ細い女の腕だというのに。
「何を誤解したのか知らないが、僕は羽川のおっぱいには指一本触れちゃいない!」
これは本当。確かに羽川からは、それはもう僕の口からはとても言えない様な赤裸々な言葉でその許可を頂いたが、
紳士な僕は丁重に、自分を大事にするよう伝えたのだ。
「見苦しいわよ阿良々木君。私は見たと言ったの。羽川さんの背後から忍び寄るいやらしい魔手を」
「そ、それはギロチンカッターの手じゃないかな?ハリネズミみたいな髪型で神父風の奴いなかった?あいつ羽川を人質にとったんだよ」
うん。死人のことを悪く言いたくはないが、あいつがいやらしい手段をとったのは事実だからな。
声が揺れているのは、戦場ヶ原の手と押し合って力が入っているからである。
「私が阿良々木君のいやらしい手を見間違えると思っているのかしら。あんないやらしい手は阿良々木君しかいないわ」
シャーペンを持つ手の力は全く揺るぐ気配が無い!つかそんなに確信を持って言われるなんてどんだけいやらしい手つきなんだよ僕!
「あああ確かにその手は僕だ!でも揉んじゃいない!」
「ノーブラの羽川さんが覚悟を決めている背後から、葛飾北斎の描いた蛸のように欲望にまみれた手を伸ばしておいて、どの口がほざくのかしら」
北斎の蛸はそんなにいやらしいのか?実物は見たこと無いんだ、僕。
それはともかく
「ああ確かに羽川は覚悟を決めてたよ!言質をとるために淫語も言わせて、顔を見ながらだとやりづらいから後ろを向いてもらって手を伸ばしたさ!
でも触れなかったんだ!だってそうだろ?羽川は2年以上の高校生活でやっと得た当時ただ一人の大切な友人で、
命を救う以上のことをしてくれた恩人なんだ、触れるわけ無いじゃないか!」
「・・・女にあそこまでさせておきながら?」
「そりゃもう土下座して謝ったさ!調子に乗って羽川の優しさに甘えてしまったけど、おかげで目が覚めたんだ!
こんな形で胸を揉んだら一生後悔するって!」
ごめんなさい。本当はそうなんです。
「どうやら、嘘をついているわけではないようね」
シャーペンを持った手が引く。
「わかってくれたか」
「阿良々木君がこの上なくチキンだということが解ったわ」
羽川にも言われたよ。今の戦場ヶ原が優しいとさえ思える声音で。
「淫語を言わせたというのは看過できないけれど」
う、勢いでスルーされるかと期待したけれどしっかり聞きとがめれらた。なんでわざわざあんなこと言っちゃったんだ僕。
「それと、女の子の手首を掴むときはもっと力の加減を考えた方がいいわよ。
最初に忍野さんのところに連れて行ってくれたときも、童貞なりに私を気遣ってくれたつもりなのだろうけれど、内出血するかと思ったわ」
ついさっきまで僕が抑えていた右手首をさすりながら言う戦場ヶ原。いや今回は僕の眼球がかかってたし?
「それはそれとして」
正座にもどる戦場ヶ原。
「もう一つお話があります」
姿勢も話も、振り出しに戻った。まあこれから話す内容は違うんだろうが・・・
「私のおっぱいを触ったでしょう」
「はい?」
繰り返しギャグは3回までと決まっているのに、4回目をやってしまった。いや、最初のはまだギャグじゃないから、これが3回目か?
「やっぱり触っていたのね」
「いやだからこれは肯定の意味じゃない!」
少し違ったがあんまり変わってなかった。
まあ戦場ヶ原の態度は大分違う。シャーペンで刺そうとはしてこないが、こちらを見つめたまま、微動だにせず、
いや微かに震えている?表情はいつもの鉄面皮で読めないけど、怒ってらっしゃる?
「つーかおまえ自身の胸なら触ったらわかるだろ!」
僕にはツンデレの彼女から気づかれず胸を触ったり、怪異の女王から気づかれずに心臓を抜き取るようなスキルは無い。
「あのときは緊急事態だったから、そこまで気が回らなかったのよ」
「あのときってどのときだよ」
貞操観念の高いお前がそこに気を回さないような緊急事態ってどんなだ。ていうかそんな嬉しい経験があったらお前が忘れても僕は忘れないぞ。
「最初に助けてもらったとき、階段から落ちて阿良々木君が受け止めてくれたときよ」
そう、僕と戦場ヶ原との最初の出会いは・・・いや、出会いというなら1年から同じクラスなわけで入学時点で顔は知っているわけだが、
言葉を交し合うきっかけになったのは、階段から落ちてくる戦場ヶ原を僕が受け止めたことだった。
いまどきバナナの皮で足を滑らせるという、ギャグ漫画でもやらないような彼女の失態から、
僕は彼女の抱える問題を知り、その解決(一概に解決したとは言い切れるものではないが、それはひとつの決着だった)に立ち会った。
そしていま、僕たちは彼氏彼女の関係として、恋人同士として、付き合っている。
「あのときは、ラピュタ王家の末裔のように降りてきた私を、阿良々木君がお姫様抱っこで受け止めてくれたわけだけれど」
妙に美化した(のか?)言い方をするな。こっちまで恥ずかしくなる。
「あのときは私が羽根のように軽かったおかげで、人間が軽い阿良々木君でも無様に押しつぶされることなく受け止められたわけだけれど」
いやあの高さから人が落ちてきたらどんな重厚な人間でもひとたまりもねぇよ。お前が軽かったのは事実だが。
「今でも軽いけど」
いやまあ、もちろん当時の軽さとは別の意味で、普通に女子として体重が軽いと言いたいのだろう。
ちなみに僕はお前に返されるはずだった体重を一時的に請け負ったこともあるから、
僕の体重と当時お前が言っていた怪異絡みの体重から、本来のそれを逆算できるんだぜ?
「!」
なんか飛んだ!僕の頬をかすめてなんか飛んだ!後ろで何かが壁に刺さった音も聞こえたが、身体が固まって振り返ることができない!
いや実際軽いほうだとは思うよ?女子をスペックで計るようなことはしないし!ああもう重みのことは考えないからおこらないでひたぎさん!
「そのお姫様抱っこのとき」
戦場ヶ原は重みの話はこれで終わり、とでも言うように話を変える。いや戻したのか
「脇から伸ばした手で私のおっぱいに触れたでしょう」
「べつにね、付き合っている彼女の胸に触りたいというのは、男子高校生として当然の欲望だし、
彼女がこんなわがままボディの持ち主となればなおさらだわ。でも本人に黙って、というのはどうなのかしら。
それにあのときはまだ付き合っていなかったわけだし」
「いやだから触ってないって。背中から受け止めて胸まで届くほど僕の指は長くねぇよ」
それこそ上腕に体重を乗せて抱え込むように抱いたなら、指の長さなんか関係なく届くんだろうけどな。あのときはほぼ前腕で支えてたから。
まったく戦場ヶ原が軽かったからできた芸当である。
「童貞の阿良々木君は知らないかもしれないけれど、女性の胸というのは仰向けだと左右に広がるものなのよ。巨乳だと特にね」
「いや、それはノーブラ時の話だろう。あのときお前はブラしてたし、そこまでは広がらねぇだろ?」
ブラの着用・非着用による女性の胸の変化、特に挙動の変化については僕にも一家言ある。
大体巨乳というのは羽川レベルに達してから言ってもらおう。いや戦場ヶ原だって決して小さい方ではないのだが。
「・・・確かに羽川さんも触れていないと言っていたわね」
なら確実じゃないか。さすが公平なる羽川。羽川の言うことなら間違いは無い。なんでもは知らないが、知ってることは知ってるのだ。
「結論としては、阿良々木君は私の胸にも、羽川さんの胸に触れたことが無い」
いや・・・うーん、全く無いかというと、まあ、手で触れたわけではないけれど。
「まさか、あるの?」
かつてないような表情をした戦場ヶ原を前に、僕もどうしていいかわからない。
顔は青ざめ、見開いた目は僕ではないどこか遠くを見ているかのようだ。
「え?あの、戦場ヶ原さん?違うんだ、事故みたいなもんというか、手で触れたわけでもないし、
自転車で二人乗りしたときに背中に当たっていた、というだけで」
とにかく誤解を解こうと真実を話す。あれは羽川に憑いた怪異が蘇り、忍野に相談しに向かう道中のことだった。
「二人乗りなら私たちもしたでしょう」
少し落ちついてきたらしき戦場ヶ原に、僕は言う。
「お前は二人乗りでもほとんど僕に触れないだろ。羽川は安全のために、こう、密着するんだよ」
もちろんそれは重心を安定させるための行為であり、僕にも羽川にもやましい気持ちは全く無い。
わざわざ段差のある部分を選んで走行するようなことも全く無かった。
「でも、阿良々木君はオナニーときには、その羽川さんのおっぱいの感触を思い出すのでしょう」
「は?」
いつまでも同じ繰り返しギャグでは読者も飽きるだろうと、意識して変えてみた。
「聞こえなかったふりをして、私に何度もオナニーと言わせたいのね」
「いやいやいや、そうじゃなくて、突然オナニーとか出てくるからびっくりしたんだよ!」
僕には女子に淫語を言わせて喜ぶ趣味は無い!
「だから、阿良々木君だって健全・・・かはともかくやりたい盛りの男子高校生なわけだし、
家では猿のようにオナニーにふけって勉強も手につかないのでしょう?」
「僕は健全だし猿は神原に憑いた左手だし勉強は家でもしている!」
「でもオナニーもするのでしょう?」
そりゃ・・・しないとは言えないさ。
「そのとき、視覚は雑誌やビデオ、ネットから、あるいは唯一全裸を見た私の記憶で満たすとしても」
それはいいのか。
「触覚は、情報ソースがその羽川さんの記憶しかないのでしょう?」
まあ・・・正確には神原のに腕が当たったりもしたが、ノーブラで密着のインパクトは強いよな。
「いくら阿良々木君がたぎる欲望を私との妄想に向けようとしても、阿良々木君にとってリアルなのは羽川さんなのよね」
そ、そんなことはないよ?付き合ってる彼女が一番リアルに決まっているじゃないか。
「私の胸の感触を知ったら、私は阿良々木君にとって羽川さんよりリアルになれるのかしら」
「は?」
2回目だ。まだいける。
「阿良々木君に胸を揉まれれば、触られれば、当てれば、私は妄想の中でも阿良々木君といっしょにいられるのかしら」
「いや、あの戦場ヶ原、無理しなくていいんだぞ、そんなこと。そりゃあ僕だってそういう欲望はあるけど、
それは戦場ヶ原の心の整理がついてからでいいし、戦場ヶ原が必ずなんとかすると言ってくれたんだから僕は待てるさ」
「そう、阿良々木君が私を信じてくれているのはわかるの。だからこれは、私の中の焦燥をどうにかしたいだけ」
う、うーん、そういうことなら、戦場ヶ原自身が望むなら触っていい、のかな?
いやでも本当に彼女自身の望みだと言えるか?弱みに付け込んでいる形にならないか?
「でもその、僕だって恋人と二人っきり、そういう状況でどこまで理性が持つかわからないぜ?」
そういう危惧もある。
「大丈夫。阿良々木君が私の決意を信じてくれたように、私は阿良々木君のヘタレさを信じるわ」
そんなとこ信じられても。でもまあ、彼女がここまで言ってくれるなら。
「でも、手で触られるのは、まだ怖い」
あ・・・そうなんだ。
「それは、あの下衆が最初にしてきたことだから」
これが、彼女の抱える問題だ。その下衆と、万一にも僕を重ねたくない。それは僕への愛ゆえの思いだろう。
僕だって、彼女の中でそんな下衆と重なりたくは無い。だから、待つ。彼女の心の準備ができる、そのときまで。
「でも、背中に当てることなら、できると思うの」
「えーと、つまり・・・」
繰り返しギャグはもう止めだ。つーか僕もテンパってきた。
「後ろを向いて、阿良々木君」
「それはその、そういうことですか?」
「なに、阿良々木君はこれから行うことを彼女に口させたいと、そういうこと。いいわよ聞かせてあげる。
あなたの目の前にいるこの欲情した淫乱メンヘル処女はね、これから童貞の彼氏に対して、
背中におっぱいを押し付けるだけという寸止めプレイで(;´Д`)ハァハァすることで、その屈折した欲望を満たしたいと、そう言ってるのよ。満足した?」
台詞の中に顔文字を入れるなよ。縦書きの原作じゃできないネタだぞ。
「で、その淫乱メンヘル処女を彼女に持った童貞豚野郎彼氏の阿良々木君は、
そんな寸止めプレイでたぎる欲望が満足できるかと切れて断ったあげく、
この家中にあるありとあらゆる文房具をその身に埋める方を選ぶのかいら?
それともこの変態プレイに尻尾を振って期待に股間を膨らませつつ背中を差し出すのかしら?」
「そんなん一択じゃねぇか・・・」
だってそうだろう?戦場ヶ原が乳を当ててくれるんだぜ?他の選択肢なんて考慮に値しない。
後ろを向いた僕には、壁に突き刺さった定規が見えた。さっき飛んでったのはこれか。意外にひねりのないオチだったな。
「ところで戦場ヶ原」
「なに?」
いつもの平坦な声で、背後から返事が聞こえる。僕以上に緊張しているはずだと思うのだが。
それはともかく、実行する前に言っておかなければならないことがある。
「羽川はそのとき、ノーブラパジャマだった」
今の戦場ヶ原は、いつも一緒に勉強するときと同じような、清楚な私服である。
べつに重装備というわけじゃないが、パジャマほど柔らかくはないだろうし、もちろんブラだってしているだろう。
べつにだからどうというわけじゃないんだが、言わないのもフェアじゃない気がしたので言っておく。
「ちなみに僕もそのときは制服の夏服。つまりカッターシャツの下はなにも着ていなかった」
現在僕が着ているのは夏用のパーカー。薄手とはいえカッターシャツよりは厚い。一応アンダーも着ている。
「・・・脱ぎなさい」
イヤッホォウ(゚∀゚)!
思わず僕まで顔文字をつかってしまったが、字の文なのでセーフだ。
しかし僕は裸だとしたら、羽川のときを越える密着度合いになるんじゃないのか。
ここには僕の換えの服なんて無いわけだし。いや、薄手の戦場ヶ原の服を貸し出されるという可能性も?
それはそれで、いや洗濯済みの上着じゃあなぁ。そこまで変態にはなれない。
ほぼ一瞬にして上半身を脱ぎ終わった僕に何の声もかからないということは、僕はこのままなのだろう。
重要なのは戦場ヶ原の服装だ。やはり羽川同様パジャマ?いや、ここは裸同士という可能性も!
ゼロ距離である。肌と肌の何一つ遮るもののない密着!ああ、ついに僕は戦場ヶ原とひとつになれる・・・。
ていうか、今後ろで脱いでるんだよな、戦場ヶ原。少なくともブラは外しているだろう。
「あの、戦場ヶ原様」
「こんどは何かしら」
「そちらを見てもよろしいでしょうか」
「みたいの?」
「見たいです!童貞豚野郎彼氏の阿良々木暦は今猛烈に戦場ヶ原様のお姿を見たいです!」
例の戦場ヶ原の毒舌が始まって、許可をもらう前に着替えが終わってしまってはたまらないという思いが、
僕に先回りで自分への毒舌を言わせた。
「いいわよ」
イヤッホォウ(゚∀゚)!(2回目)
まあ、あっさり許可が出たので予想はしておくべきだった。
「わたしの裸ならもう見てるでしょう」
壁の方に向かって正座したまま、裸の上半身をひねって後ろを見る僕に、
既に薄手のブラウスに着替え終えていた戦場ヶ原が言う。
「あのときは、裸を見た、ってことばっかり印象に残って、あんまり具体的なこと覚えてないんだよ」
童貞の悲しい性を告白させられる。くそ、羽川のパンツは一瞬でも4ページほど語りつくせるくらい焼きついたというのに、
なんで戦場ヶ原の裸は途中の会話を入れて1ページ程度なんだ!
映像としてもなめらかなおへそ周りの肌やくびれのライン、下乳あたりまでは思い出せるのに、
肝心のその上や下が思い出せない!
「そう、じゃあ阿良々木君が本当の意味で私の裸を見るのは、初体験のときと思っていいのね」
そ、それまでおあずけですか。いやまあ普通はそうなんだろうが。
いやしかし、この薄手のブラウスというのも中々・・・肌の色がすこし透けて見えるんじゃないか?
もちろん下はノーブラ、胸のラインはおっぱい本来の自然な丸みを帯び、そして、その頂点には・・・これは錯覚か?
ああくそ、戦場ヶ原の乳首の色は何色だった?思い出せ僕!お前は見ているはずだ!
畜生吸血鬼だったら脳をかき回してでも思い出しているのに!
「では、行くわよ」
「は、はい!」
近づいてくる戦場ヶ原に、再び背を向ける。いよいよだ。あのノーブラおっぱいが僕の背中に!
薄い生地越しに当たった乳房は、液体のように変形して僕の背中に密着した。
人肌というには少し熱く、液体のような柔らかさでありながら、それは確かな弾力を持ってその存在を僕に主張してくる。
そして、その中心に位置する突起。
「わかるかしら、阿良々木君、私の乳首が勃ってるの」
硬くしこり勃ったそれは熱さも周りより一段高く、つぼを刺激するように僕の背中を刺激してくる。
「そう、あなたの彼女は彼氏のズリネタのためと言って背中に乳房を押し付け、乳首をビンビンに尖らせている変態よ。
今だってこんな台詞を言って(;´Д`)ハァハァしているわ。そしてあなたはそんな彼女に変態寸止めプレイをされて、
彼女以上にビンビンに股間を尖らせているド変態なの」
なんでわかるんだ。いやわかるか。この状況で勃たない奴がいたらインポだよな。
「こういうとき、黙っていられると女は不安なのだけれど」
ああ、そういえば最初に裸を見たときも、なにか言いなさいと言われたな。
で「いい身体してるね、とか?」と言ったら一生童貞だと言われたんだっけ。
「・・・最高に気持ちいい」
「月並みね」
2敗目。どう言ったら正解なんだ?こういうの。
「でもわかるかしら?阿良々木君の言葉を聞いて、さっきより乳首が勃ったの」
確かに、その瞬間キュッと乳首がより押し付けられたような、乳房全体の量感も増したような気さえした。
「口ではああ言っても、身体は正直なものよね」
それは自分で言う台詞じゃない。
「そう。あなたの彼女は口では感じてないふりをしながら、彼氏の何気ない一言に乳首をおっ勃ててる淫乱よ。
まあ阿良々木君のようなヘタレ童貞と付き合ってあげられるのはこんな淫乱処女だけだけれど」
っていうか、それは単にツンデレが性の反応でもツンデレってるだけだよな。
じゃあこれはツンデレが意を決して素直になろうとしての告白か。
「愛してるよ」
「!」
またしても、まだこんな余地があったのかというくらい戦場ヶ原の乳首が、乳房が反応する。
背中にめり込むのではないかというくらい存在感を増し、乳首は尖り、それでいて全体あくまで柔らかい。
「この私が不意打ちを受けるとわね。腕を上げたわ。阿良々木君」
「べつにそんなつもりはなかったんだけどな。正直な気持ちを言ったまでだよ」
「くっ」
また戦場ヶ原が反応する。脈動と言っていいほどのものだが。
「それで、これ以上阿良々木君はどうして欲しいのかしら」
「え?どうって、いや、うん」
そりゃ満足したとは、股間のたぎるものの関係で言えないけど、現状ではこれ以上どうしようもないし、ここまで、なのか?
「確か、二人乗りのとき、だったわよね。だとしたら、道路に段差のあるところをあえて選ばないまでも、
進路にある段差をあえて避けないくらいのことは、あったのかしら?」
なんでこいつそこまで僕の思考をトレースできるんだよ!
「こんな風に、強弱をつけて弾力を楽しみたかったのかしら?」
ぽよん、ぽよんと乳房が背中にリズミカルに押し付けられる。押し付けられる一辺倒とは違った、
いわば「揺れ」と「押し付け」のコラボ!乳房の柔らかさが「揺れ」によって新たな境地を見せる。
そうか、揺れるってのは、揺り返しがあるんだね。
「それとも、こんなギリギリ感を楽しみたかったのかしら?」
こんどはギリギリ、触れるか触れないかで微かに動く。だがそれは頂点だけが接触するということであり、
単にギリギリという以上に乳首の存在に集中してしまい・・・。
「いっそこう?とにかく激しく楽しみたかった?」
一転、押し付けてきた乳房を上下にこすりつける!尖った乳首が爪のない指のように僕の背中をひっかき、
乳房は移動時には後方へとつぶれて広がりながら
方向転換時には逆へ向かうためぷるんとした弾力を魅せる!
「くああああああぁぁぁぁぁ!」
まあ、どれほど激しくされたところで、背中と乳房の愛撫で最後までいけるほど、僕たちは出来上がっていない。
結局戦場ヶ原の息が切れたところで、お開きとなった。
「トイレ、使っていいわよ」
「はい?」
本日5回目、だっけ?
「阿良々木君も一刻も早く今回の思い出を反芻して、溜まったものを吐き出したいでしょうし、
私もそうだから一旦阿良々木君には帰ってもらうのがいいのだろうけれど、
それでは行き来するだけでも結構な時間がかかるし、ただでさえ失われた勉強時間がもったいないわ」
「いやだからって彼女の家のトイレではしねぇよ!」
ていうかお前もするのかよ!・・・まあするか。あんだけのことしたら。
「え?じゃあここで?私、まだ見せ合いをするほど心の準備は・・・」
「しねぇよ!家に帰るまでくらい我慢できるよ!」
そんなこんなで本日の勉強を始めたわけだが、互いに悶々として手につかなかったのは言うまでも無い。