これを予想したのはいつだったか。  
 チャイムを鳴らしても無反応だった時だろうか。  
 昨日の夜、巫女子ちゃんと重なった時だろうか。  
 昨日、巫女子ちゃんと遊びまわった時だろうか。  
 14日、智恵ちゃんが殺された時だろうか。  
 それとも。  
 あの日、学食で巫女子ちゃんがぼくに話し掛けてきた時だろうか。  
「……戯言だ」  
 ぼくは死んだ葵井巫女子を見つめながら、ぼんやりと考えていた。  
 昨日巫女子ちゃんが言った言葉。  
『死ぬことは恐くないけど、思いを残すことが恐いよ。私には、』『私には、まだ──心残りが、あるから』  
 反芻する。  
「……ぼくと結ばれることが救いになったのなら、ぼくは嬉しいよ」  
 口に出して言ってみたが、結局それはただの空気の振動でしかなく、恐らく巫女子ちゃんの心には届かないだろう。  
 智恵ちゃんを殺したのは巫女子ちゃんで間違いないのだろう。  
 それも全て、ぼくのために。  
 だが、巫女子ちゃんがどんなにぼくを思って行動しても、欠陥製品のぼくには届くことはなかった。  
 どんなにぼくを想っても、  
 ぼくが返せるのは殺人行為を憎悪する気持ちだけだったのだ。  
 ふと、机の上を見ると、一枚の紙切れに何かが書いてあった。ぼくはそれを手に取る。  
『ありがとう』  
「…………」  
 きっと巫女子ちゃんは、全てを気付いていたのだろう。  
 昨日のことは、云わば、予定調和の茶番だったのだ。  
 しかし、まあ。  
 それが巫女子ちゃんにとって最後の手向けとなったのなら、それはそれで良かったのかもしれない。  
 追い詰めたのもぼくで、最後に救ったのもまたぼく。何様のつもりだろう。  
 とは言え、ぼくにある言葉は常に一つであって一つでしかなく、それはわかりきった事だった。  
 
「──戯言だよ」  
 

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