新本格18禁魔法少女ツナギ 二度あることは五百十二度ある?  
 
 
 
 キズタカが聞いてきたのが、ツナギと戦った夜の帰り道なの。  
「それにしても――ツナギに喰われた時、りすかが悲鳴も上げなかっ  
たのにはびっくりしたな。あれって実際、どんな感じなんだ? 物理的  
に『喰われる』だけじゃないんだろう?」  
「……………」  
「……悪い。思い出したくないよな」  
 珍しくきまり悪そうに眼をそらしたのがキズタカだったの。で、黙り  
こんじゃったのがわたし。  
 
 分からないのが、その時わたしがどんな顔してたのか。  
 分からなかったのが、その時どんな風に説明するべきか。  
 
 不完全だけど正しいのがキズタカの推測。相手の『存在そのもの』  
を食べるのがツナギなの。ツナギの口の中の様子が外から見ても  
分からないことだし、それに――  
 
 五百十二の口があるのが、体の表面でなく口の中なの。  
 
 身体を細切れに噛み千切られる苦痛なんて、だから本当はささいな  
ことなの。「アレ」を五百十二回繰り返されることに比べたら。  
 
   ★       ★  
 
 ――人飼無縁は、意識を取り戻した。  
 何も見えない闇の中、横たわっている。  
 
「……ふむ。我輩は一体、どうなっているのかな? 確か――ツナギ  
に『喰われた』はずだが? いや、『喰われなかった』はずだが、と言  
うべきかな?」  
 
 状況も分からないまま、彼は軽口を叩いてみた。軽口を叩くことで、  
己の冷静さを取り戻そうとする。  
 ある意味、虚勢のようなものだ。  
 
 生暖かく、湿気に満ちた洞窟――のようなところに横たわっていた  
ようだ。黒一色と思っていた闇は、目が慣れてくると微かに赤黒い。  
地面は柔らかく、湿っている。とても高いところにある天井には大きな  
割れ目がギザギザに走り、そこから微かに光が射している。  
 ゆっくりと身体を起こしてみる。噛み砕かれたはずの手足は自由に  
動くし、触ってみた限りでは傷もないようだ。もちろん愛用のローブも  
健在である。あらゆる攻撃から彼を護り、また彼の『魔眼』のカラクリ  
を隠してくれる、『あのお方』から拝領したローブ。  
 わずかに、魔力が減っているような気もするが――しかし、今日は  
既に何度も『魔眼』を使っていたのだから、この程度の消耗は当然だ  
ろう。もちろん、まだまだ余裕はある。  
 
「ふむ、ならば何とかなるのがこの状況、かな。いや、何ともならない  
のがこの状況、と言うべきかな?」  
 
 どういう経緯でこういうことになったのか、さっぱり見当もつかない  
が――人飼無縁の記憶はツナギに『喰われた』所で途絶えている。  
だから何故、五体満足な姿でこんな所に寝ているのか全く想像も  
つかなかった――、しかし、少し安心した。  
 ここがどこだろうと、今どんな状況だろうと、ローブと魔力さえ無事  
ならばなんとでもなる。大概のことからはこのローブが護ってくれるし、  
いつ誰がこの場に現れても彼の『魔眼』は健在だ。  
 ――問題は、今この場所がどこだか分からないことと、この洞窟に  
誰かが現れる様子が全くないこと。  
 
「我輩が生きているということは、我輩に用があるということなのだ  
ろうが――ツナギに、知られていた以上の何らかの魔力があった  
ということなのだろうが――しかし、こうして放置しているのは解せ  
んな。我輩に用があるなら、さっさと出てくるのが礼儀だろう!?」  
 人飼無縁は、闇に向かって吼えた。しかし紅い闇は何も答えない。  
声は反響さえしない。  
 彼はなおも、血走った目で叫び続ける。  
「あるいは……臆したか!? ははは、そうだよな! 暗闇だろうと  
も我が『魔眼』は依然として有効! 我輩の傍に貴様は近寄れん!  
駄人間が! 駄人間が! 我輩を生かしておいたことを後悔させて  
やる! あの妖怪口オバケ、若作りの糞ババァが出てきたら、すぐ  
にでも我輩の『魔眼』で――」  
 
「――ふぅん、まだそんな元気あるんだ。活きのいいことね」  
 
 少女の、かすかな呟き。  
 赤黒い闇の中に響くその声に、人飼無縁は凍りつく。  
 
「ど、どこだ! どこにいる?」  
「怒鳴らなくても、すぐ傍にいるわよ」  
 
 狼狽する人飼無縁、クスクスと笑う声「だけ」のツナギ。  
 人飼無縁は周囲を見回すが、ツナギの姿はどこにもない。声から  
位置を探ろうと耳を澄ましてみても、まったく方向が掴めない。まる  
で洞窟全体から声が響いてくるようだ。  
 
「か、隠れてるのか!? 我輩の『魔眼』に恐れをなして隠れている  
のか!?」  
「やあね、隠れてなんていないわよ。最初からずっとすぐ傍にいた  
わ。面白いから少し黙ってたけど」  
「と、ともかく、姿を現せ!」  
「いいわ。あなたにも分かり易く出てきてあげる」  
 
 唐突に、人飼無縁の視界にツナギの姿が『出現』する。  
 まるで地面から生えてきたかのように、何もない所から立ち上が  
るように――裸の少女が出現する。  
 人工物を何ひとつ身に付けていない、しなやかな身体。  
 肉体年齢は11歳前後。外見だけではごく普通の『人間』の少女に  
しか見えない。忌むべきあの『口』は、まだ『出して』いないらしい。  
 嫌というほど良く知っている、ツナギの姿だ。  
 ただそんな彼女の外見に、人飼無縁はかすかな違和感を感じ――  
しかし、彼には何がおかしいのか見当もつかなかった。  
 
「気分はどうかしら、人飼無縁? とりあえず、噛み砕き切り刻んだ  
肉体を『再構成』してみたんだけど、どんな感じ?」  
「ははは、有難いことだなツナギさま! しかし、我輩のローブまで  
修復し、あまつさえ姿を見せたのは失敗だな! いや成功だな、と  
言うべきかな?」  
「魔眼が使えるってこと? ――まぁ、そうでしょうね。私は単に、私  
の魔法で一旦『分解』したあなたを『元通り組み立てなおした』だけ  
だから。『ほぼ元通りの能力』を備えていて、当然ね」  
 勝ち誇り哄笑する人飼無縁に、裸のツナギは淡々と呟く。まるで  
諦めたかのように。  
 
(どういうことかな、このツナギの様子は。全く理解できぬ。いや、  
理解できるのが今の様子、と言うべきかな?)  
 人飼無縁は、この一連の不可解な状況に眉を寄せる。  
 どこだか分からない洞窟。裸で無防備に現れたツナギ。そして  
『敵』として殺したはずの自分を『再構築』したという彼女の言葉。  
 こんなことをしてツナギに利益があるとも思えぬし、しかし利益も  
なくこんなことをする必要があるとすれば――  
(――ツナギの『魔法』の『付帯条件』か?)  
 強力な魔法には時折、発動に際して複雑な条件がつくケースが  
ある。それは『影の王国』の「相手の影にダーツを刺す」だったり、  
人飼無縁の「相手と自分の間に視線を通す」だったりする。もっと  
もこれは基本的に魔方陣での話で、しかも魔方陣を書いた者が  
自由に設定できる項目なのだが――  
(ツナギの場合、ある意味で本人の『魔法』ではないからな。『あの  
お方』に創られた身体だ、言って見れば『あのお方』が書いた魔法  
陣。もし『あのお方』が付帯条件をつけていたとしたら――)  
 例えば、「何らかの条件が満たされない場合、分解した相手を再  
構築してしまう」などの制限がついた『魔法』。……考えてみれば、  
ツナギの『解呪』は何の条件もなしに使うには、強すぎる。  
 その人飼無縁の推測を裏付けるように、ツナギが言葉を続ける。  
 
「私も好きであなたを『直した』わけじゃないけど――仕方ないわ。  
これが私の『魔法』なんだから」  
「ははは、哀れなことだな劣等種の旧人類! 所詮は『あのお方』  
から授かった魔法に縛られるだけの存在か! しかも今ここには  
あの忌々しい小僧も忌々しい『すくうたぁ』もない! もはや貴様は  
我輩の前では裸も同然! いや裸そのもの、と言うべきかな?」  
 
 人飼無縁は目の前にいる裸の少女を嘗め回すように見る。嘲笑  
しながらも油断はない。いつツナギが『口』を使って変形しようとも、  
いつツナギが眼を逸らそうとも、いつツナギが喰いかかろうとも――  
その瞬間に『魔眼』を発動させ、ツナギを殺す準備は整っている。  
 いや、たとえ目を逸らされても――もはや『魔眼遣い』の看板を下  
ろしてしまった人飼無縁である。呪文を詠唱しさえすれば、噛み付か  
れた状態からでも先にツナギを殺すことができる。『変形の過程』を  
見逃さなければ、先ほどのような『心臓の位置の偽装』も無効だ。  
 そして、そのことはツナギ自身も理解しているようだった。  
 すなわち――今のこの状況。ツナギはツナギ自身の命を人質に  
取られ、人飼無縁に逆らえないも同然。  
 
「……勃ってる」  
「ん?」  
 ツナギの視線が人飼無縁の股間に向けられ、僅かに揺れる。  
 確かに彼の股間はローブ越しにも分かるほど、膨らんでいた。  
 
「我輩、『影の王国』のような悪趣味を備えてはいないのでね――  
少女を捕らえて、ただ見てるなどという勿体無い真似はできんな。  
やはり脱がして触って嬲って犯して愉しんで注ぎ込んでやらねば、  
満足できぬのだよ。いや、満足できる、と言うべきかな?」  
「十分悪趣味よ、それも」  
 
 溜息をつくツナギに構わず、人飼無縁は視姦を続ける。  
 顔――幼さの残る顔立ち。艶のある黒髪。切れ長の目。秀でた  
額は剥きたてのゆで卵のようにツルリとしている。少々キツい雰  
囲気はあるものの、文句なしの美少女である。  
 胸――かすかに膨らみかけてはいるが、しかしまだまだ薄い。  
おそらくまだブラジャーは必要ないだろう。裾野の広い山のような  
盛り上がりの先端、ほんのり桃色の乳首が可愛らしい。  
 腹――傷ひとつない白い肌の中、綺麗な形のへそが目を引く。  
脂肪は少ない。というか、微かにアバラが浮いてさえ見える。好み  
は分かれるかもしれないが、決して不健康な痩せ方ではない。  
 腰――お尻も小さい。思春期直前の、いままさに膨らみ始めんと  
する生命力を内に秘めたヒップ。股間には当然余計な毛など生え  
ておらず、綺麗な縦すじが隠されることなく真っ直ぐ走っている。  
 ……やはり、どこか違和感を感じる。しかし人飼無縁には、その  
違和感が何からくるものか分からなかった。  
 
「……やらしい視線ね」  
「いやなに、ツナギさまの身体がなんとも素晴らしくてなぁ。我輩、  
つい見入ってしまったよ。しかしできれば、もっと見せて頂きたい  
のだがね。ツナギさまの奥の奥まで」  
「……それ、命令?」  
「そう取って頂いても結構。そうだな――こちらに顔を向けたまま、  
その場に尻をつけて足を広げてもらおうか」  
 
 舌なめずりせんほどの人飼無縁の言葉に、ツナギは不思議な  
ほど従順に従う。赤く柔らかい洞窟の床に腰を下ろすと、自分の  
足を抱えるようにしてM字型に開く。  
 
 ――そこまで足を広げても、股間に刻まれた一本線は崩れない。  
二枚の白い大陰唇はぴったりと閉じ、はみ出すものがない。  
 
「実に美しいものだなツナギさま! いや実にいやらしいものだな、  
と言うべきかな?」  
「…………」  
「では、自分でそこを広げてみたまえ。我輩の顔を見ながら、だ」  
「…………」  
 
 素直に股間に指が添えられ、ゆっくりと、割り広げられる。  
 
「ほぅ………」  
 思わず声を上げる人飼無縁。  
 産毛も生えぬ白い大陰唇に囲まれた舟形の窪みは、桜色に  
輝いていた。薄い小陰唇には色素の沈着もない。大小の陰唇  
に挟まれ、小さく閉じた膣口がかすかに震えている。今まさに花  
開かんとする、可憐な蕾のような女性器――  
 
「くぅぅ……そんなに……見ないで……」  
「何を今更。見なければ我輩の『魔眼』が使えぬではないか。最  
もツナギさまが目を閉じて抵抗しても、我輩の呪文詠唱の方が  
早いわけだが」  
 
 相手の立場を噛んで含めるように言い聞かせる人飼無縁。余  
裕に満ちた表情。先ほど一人きりだった頃、「出てきたらすぐに  
でも魔眼を使ってやる」と吼えていたことなど、綺麗さっぱり忘れ  
ているらしい。  
 
 ついでに言えば――先程まで闇に包まれていた『洞窟』が、前  
よりも光が増し、細部の色彩に至るまで識別できるようになって  
いることにも気付かない。ツナギが姿を現した頃から、ゆっくりと  
天井の割れ目が広がっていったのだが、彼は気付かない。  
 ――と、別のことに気付いた人飼無縁の眉が寄せられる。  
 
「それに……本当に嫌なのかね? 本当に見られたくないのか  
ね? 我輩に見られて、悦んでいるのではないか? いや、泣い  
ているのではないかね、と言うべきかな?」  
「……ッッ!」  
 
 そう、人飼無縁の指摘通り、彼の眼前に無防備に晒された蕾  
はゆっくりと綻び始めていた。広げられた小陰唇はヒクヒクと蠢  
き、その上方で包皮に隠れていたルビー色の真珠が恐る恐る  
顔を覗かせる。閉ざされていた膣口は先ほどよりもだいぶ緩み、  
いつの間にか潤いを得てテラテラと光っている。  
 男の熱い視線を受け、心拍数が上がる。なおも命令に忠実に  
人飼無縁を見上げる少女の瞳も、情欲に潤んでいる。その白い  
頬も秀でた額も、ほんのりと紅に染めあげられる。屈辱と劣情と  
興奮と自己嫌悪の入り混じった、微妙な表情。  
 『少女』の幼い肉体と『豊富な人生経験』の精神を兼ね備えた  
アンバランスな存在。その双方が、死をももたらす人飼無縁の  
視線だけで内なる炎を掻き立てられていた。  
 
「さて、噛み付くなよ。いや、咥え込めよ、と言うべきかな?」  
 
 いつもの口癖なのかそうでないのか良く分からない口調で呟き  
ながら、人飼無縁はツナギの足の間にしゃがみ込む。少女は己  
の性器を大きく広げたまま、潤んだ瞳で男を見上げる。  
 不安げな――しかし、何かを期待するような、熱い瞳。  
 人飼無縁はニヤリと笑うと、ツナギの股間に手を伸ばす。  
 
 つぷっ。  
「んッ…………!」  
「ふむ、どうやら処女ではないようだな――まだ何もしてないのに、  
簡単に我輩の指を飲み込んでしまったではないか。例の魔法の  
『口』同様、『下の口』も実に食いしん坊であるな」  
「……そんな、こと、ないッ……」  
「誤魔化しても無駄だ。いや、誤魔化してくれて結構、と言うべき  
かな? どちらにしたところで、ほれ、少ォし指を動かしただけで  
こんなに恥ずかしい汁が溢れてくるようでは、何を言っても」  
「あっ、ちょっ、やめッ」  
「……全く、こんなに幼い身体なのになんという淫売ぶりだろうね。  
我輩は悲しいよ。いや、嬉しいよ、と言うべきかな?」  
 
 言葉でツナギを嬲りながら、人飼無縁は少女の中に埋めた右手  
中指を動かしていく。いきなり指を突き入れられたにも関わらず、  
潤い、緩んだ膣は彼の指を素直に咥え込んでいた。たった指一本  
でもかなり窮屈な膣道。熱を帯びた媚肉。指を動かすたびに滴る  
熱い液体。内側に触れる複雑な襞が、それぞれ独立した生き物の  
ように指を締め上げ、名器の予感を掻き立てる。  
 
「ではどれ、他の場所も弄ってみようか――」  
「んんんッ!」  
 
 人飼無縁は、右手中指をなおもツナギの中に埋めたまま、左手  
で無遠慮に身体を撫で回す。ツナギは自らの足を抱えたM字開脚  
の姿勢のまま、されるがままになっている。  
 
 お尻――見た感じ多少ボリューム不足な臀部も、触ってみれば  
張りと弾力、柔かさのバランスが絶妙である。感度も悪くないよう  
で、ゆっくり撫でてやれば身体全体がビクッと震えるのが分かる。  
 腹――すべすべして実に触り心地がいい。へそに指を這わせる  
と、少しくすぐったそうな顔をして身を捩るのも可愛らしい。  
 胸――これは、さすがに今ひとつ不満が残る。成長期の少女の  
胸がそうであるように、揉んでやっても「感じる」以前に痛みを覚え  
てしまうようだ。だが乳首だけは彼女の興奮を示すかのように、固  
く勃起している。  
 顔――柔らかい頬を撫で、すべすべのおでこを指でなぞる。顔を  
弄り物にされてなお、彼女は唇を噛み締め人飼無縁を睨みつける。  
しかし視線に媚色が混じってしまっているので、全然凄みが感じら  
れない。唇をなぞり口の中に指を突き入れても、噛みつくどころか  
積極的にしゃぶりついてくる始末だ。指を引き抜くと、つぅぅっと口と  
の間に糸が引き、実に卑猥な光景だ。  
 そうして左手で全身を嬲っている間も、股間に差し込んだ右手は  
休まない。膣内を往復させたかと思えば、深々と突き入れて内部を  
掻き回す。時折、親指や人差し指を伸ばし、小さな小陰唇を摘んだ  
り、肛門の回りをなぞってみたり、陰核を弾いたりする。その度ごと  
にツナギの小さな身体は跳ね、悶え、捩り、荒い息をつく。  
 
 人飼無縁、尊大で傲慢な性格の割に、案外丁寧なテクニシャンで  
ある。まぁ彼の使う『魔法』の方も、見た目の派手さと単純さの影に、  
実に複雑な技巧を積み重ねた代物だったわけだが。  
 
「はっ、ああッ、はァっ……も、もう、私っ……!」  
「――もう、どうしたのかね?」  
 
 思わず漏れたツナギの吐息。人飼無縁は楽しそうに問いただす。  
人飼無縁の指遣いが止まり、断続的に響いていた水音が止まる。  
 
「………な、なんでも、ないわよッ……!」  
「おやおや、ツナギさまは強情だな。我輩の目は誤魔化せぬと言う  
のに。我輩のテクニックの前に、メロメロになってしまったのだろう?  
そろそろ、指では満足できなくなってきたのではないかね? いや、  
指で十分満足できる、と言うべきかね?」  
「わ、わ、わたしは……!」  
 
 人飼無縁の言葉嬲りに、ツナギが揺れている。火のついてしまった  
肉体を持て余し、しかし彼女の高いプライドが人飼無縁に屈すること  
を拒んでいる。だがどう見ても、彼女が折れるのは――人飼無縁の  
指技に屈するのは、時間の問題だ。  
 で、あるのに――人飼無縁はあっさりと、彼女の中に突き入れて  
いた指を引き抜いてしまう。指が抜かれた瞬間、ツナギが「あッ!」  
と小さく吐息を漏らしたが、構わず身を離す。  
 
「我輩、こう見えても紳士でね――ツナギさまに選ばせてあげよう。  
いや、選ばせてあげない、と言うべきかな?」  
「え――?」  
「ツナギさまが本当に嫌なら、ツナギさまが本当に止めて欲しいな  
ら、我輩、素直にここで止めてあげようではないか。我輩、嫌がる  
娘を無理矢理犯すような趣味は持っておらんのでね」  
「――――!」  
 
 明らかに、心にもない言葉を平然と吐く人飼無縁。自身の劣情を  
おくびにも出さず、人飼無縁はなおも詭弁を重ねる。  
 
「しかし、もしもツナギさまが我輩の『コレ』を欲するなら――ツナギ  
さまのお身体を慰めてやってもいい。我輩、できればそんなことは  
したくないのだがね」  
 
 大袈裟な身振りで語りながら、彼はローブの前をはだける。――  
そこに現れたのは、自慢の髭と同じくらい重力に逆らった、大きく、  
長く、天を突くような怒張だった。  
 見つめるツナギの喉が、無意識のうちにゴクリと鳴らされる。  
 
「さぁ、ツナギさま、返答やいかに?」  
「……ぉ……さ……ぃ……」  
「うん? 聞こえぬなぁ?」  
「……お願い……それで……私を、貫いて……欲しいのッ……!」  
 
 羞恥に消え入るような、敗北宣言。  
 人飼無縁はその裂けたような唇をニンマリと歪めると、ツナギの  
細い身体の上に覆い被さった。  
 
   ★       ★  
 
 例えば、キスや握手、挨拶、そして互いの眼を見つめるといった  
日常的な行為の数々がそうであるように――否、それらがそうで  
ある以上に、『セックス』というのは極めて『魔法的な』行為だ。  
 それは、愛情の行為であり、欲望の行為であり、支配の行為で  
あり、服従の行為であり、奉仕の行為であり、受容の行為であり、  
快楽の行為であり、生殖の行為であり、罪悪の行為であり、神聖  
の行為であり、奇跡の行為であり、普遍の行為であり、陵辱の行  
為であり、純愛の行為であり、本能の行為であり、知性の行為で  
あり、闘争の行為であり、逃走の行為であり、洗練の行為であり、  
野蛮の行為であり、遊戯の行為であり、真剣の行為であり、秘密  
の行為であり、当然の行為であり、夫婦の行為であり、恋人の行  
為であり、退屈の行為であり、好奇の行為であり、悦楽の行為で  
あり、苦痛の行為であり、種族の行為であり、個人の行為であり、  
射精の行為であり、受精の行為である。  
 無から新たなる命を生み出す程の力を秘めた、魔力と生命力に  
溢れる特別な行動。そこに秘められたパワーは、この行為に関連  
し、『魔眼』と同レベルの伝説的な秘術の存在が『数多く』語り継が  
れているほどだ。  
 ゆえに魔法使いたちにとって、その意味は『城門』の『こちら側』  
より、より重く、より深く、より強く、より尊いもので――だからこそ、  
その行為に及ぶに当たり、それが「どちらの意思のコントロール  
下で行われるのか」が重要になってくる。  
 たとえ、そこに直接『魔法』が関係してなかったとしても――  
 
   ★       ★  
 
「くぅっ……お願いッ……そんな、焦らさないでよ……」  
「くふふッ、しかしツナギさま、どこをどうして欲しいのか具体的に  
言って貰わねば、我輩としても何をすべきか困ってしまうな?」  
 
 大量の雫をこぼす陰裂を固く勃起した亀頭でなぞり上げながら、  
人飼無縁はツナギにさらなる言葉を要求する。これは単なる言葉  
嬲りではない――もちろんその要素はあるが、もちろん人飼無縁  
の性的嗜好でもあるのだが、しかし一方でこれは魔法使い同士の  
真剣な『闘い』でもあるのだった。ちなみに『声に出して言う』という  
行為も、実は極めて『魔法的な』行為である。長崎の住民にとって  
それが持つ意味は大きい。  
 ――だがどうやら、今のツナギはそんなことにはお構いなしに、  
もはや我慢しきれないようだった。羞恥に顔を真っ赤にしながら  
も、はっきりと嘆願の言葉を口にする。  
 
「わっ……わたしの、お、オ○ンコに、あ、あなたの……あなたの  
逞しいおチ○チンを、突き入れて、下さいッ……!」  
「フフフ、そんな卑猥な言葉、よくもまぁ臆面もなく言えたものだな  
ツナギさま。だが、そこまではっきりお願いされてしまっては、我輩  
としても答えてやらねばならん。――それッ!」  
「あああッ!!」  
 
 ぎちっ、ぎちぎちっ。  
 まだ子供そのもの、といった狭い膣に、標準よりやや大きめの  
成人男子の怒張がねじ込まれる。いくら事前に十分ほぐされてい  
たと言っても、いくら潤滑液が過剰なほどに分泌されていたと言っ  
ても、いくら外見からは想像しづらいほどに彼女が経験豊富だと  
言っても――さすがに、抵抗が強い。  
 
「力を抜きたまえ、ツナギさま。いや、力を込めたまえツナギさま、  
と言うべきかな? いやしかし、本当に凄い締め付けだな。下の  
お口はよほど我輩を気に入ってくれたと見える」  
「くっ、はっ、はぁっ……」  
 
 人飼無縁の軽口に、しかしツナギは荒い息を吐くだけだ。永ら  
く焦らされた末の挿入に声も出ない。性的快感と圧迫感と屈辱感  
とが、ごたまぜになってツナギの脳髄を焼く。  
 上からのしかかる人飼無縁の方も、一見優位に立っているよう  
に見えて、実際にはさほど余裕があったわけでもない。ツナギの  
そこは、まさに名器と呼ぶに相応しい具合の良さだったのだ。  
 膣壁の襞々の一枚一枚が人飼無縁に絡みつき、締め上げる。  
強い圧迫が、痛みと紙一重のところで快感を引き出す。ツナギの  
体温が・鼓動が・興奮が、粘膜越しにダイレクトに伝えられる。  
 ただ入れただけなのに、早くも腰が砕けそうになる。その快感  
が表情に出ないように噛み潰し、人飼無縁は腰を使い始める。  
 
 ぎゅぼっ、ぎちゅっ、ぎゅにっ。  
「あっ、はっ、そ、そんなに動かないでってば、あはっ」  
「何を仰るかなツナギさまは。動かんでどうしろというのかね?   
それにほれ、ここをこうすると、」  
「ひっ、ひあァッ」  
 突き入れれば子宮口をノックされた膣道が一際強く締め上げ、  
引き抜けば名残惜しげに絡み付く襞々が雁首を刺激する。中央  
上方の天井を意識的にこすり上げれば、小さな悲鳴と共に熱い  
飛沫が噴き出してくる。  
 正常位の姿勢で、音を立てて腰を打ちつけあう二人。  
 どちらにも余裕はなく、早くも限界は近い。  
 
 だが、まだこの程度では人飼無縁は満足できない。  
 まだ最後の、そして最期の愉しみが残っている。  
 
   ★       ★  
 
 強姦魔のうち少なからぬ者が、強姦の被害者を殺してしまう。  
 それは多くの場合、発覚を恐れての行為であるが――しかし、  
現実的に考えれば、それはかえって逆効果だ。ヒトの死体という  
のは始末が大変だし、見つかりやすいし、発覚した際の罪状が  
遥かに重くなってしまう。被害者を脅して口止めするか、被害者  
の泣き寝入りを期待した方がマシというものだ。  
 だが時に、それ以外の理由から殺害に至ることがある。それ  
らのデメリットを知ってもなお、殺害を止められないことがある。  
サディズムの延長線にある過大な加虐性癖の暴走。復讐の手  
段として強姦し、復讐の仕上げとして殺害する場合。乱暴かつ  
強引な性交そのものが、被害者の命を奪ってしまうこともある。  
 そして時に――強姦者は、純粋に性的快感を得るために被害  
者を殺す。  
 
 頚部が強く絞められると、窒息で死に瀕した生命は全身を硬直  
させる。もちろん、股間に8の字を描いて走る括約筋もだ。  
 この括約筋の強い収縮が、強姦者に多大な快感をもたらす。  
 実際、強姦魔の中には、犯しながら被害者の首を絞める者が  
少なくないし、それによる死亡例も数多く報告されている。  
 相手を殺し、刹那、絶大なる快楽を得る外道の愉しみ――  
 
 人飼無縁もまた、その外道の快楽を知る者だった。  
 殺人に慣れ親しみ、虐殺に慣れ親しみ、破滅に慣れ親しんだ  
『眼球倶楽部』人飼無縁。この程度の逸脱行為など、彼にとっ  
ては日常ですらある。  
 
 ただし。彼は首を絞めるなどという無粋な真似はしない。抵抗  
されても面倒なだけだし、窒息で死に瀕した女の顔などとても見  
れたものではない。  
 何より、彼にはもっとスマートな方法が――  
 もっと簡単に、もっと直截に、もっと確実に、被害者を死の淵に  
追いやる方法が――  
 
   ★       ★  
 
 ――そして今、腰を振り続ける二人の快感は、まさに臨界点  
に達しようとしていた。人飼無縁は悪意の欲求を胸に秘めつつ、  
ツナギをさらに追い詰めていく。  
 
「……イけ! 逝ってしまえツナギ! 貴様の絶頂に合わせて  
我輩の精をたっぷりと注ぎ込んでやる! 逝け!」  
「あっ、ひっ、だめっ、ひっ!」  
 
 口では「駄目」と言いながらも、両足を巻きつけ自ら腰を振る  
ツナギ。  
 人飼無縁は腰をリズミカルに打ち付けながら、両手でツナギ  
を責め立てる。乳首を捻り陰核を剥き臀部を撫で回す。自慢の  
指技を駆使し、高い高い絶頂へと無理やりに押し上げていく。  
 そして、ツナギに限界が訪れた、その瞬間――  
 
「――ああああああッ!!」  
「うおぉぉぉお! 我輩もいくぞぉお! こちらを向け、ツナギ!  
我輩の眼を見ろぉぉオおォォぉッッッ!!!」  
 
  ど く ん っ 。  
 
 ツナギが達するとほぼ同時に――  
 人飼無縁は少女の眼を覗き込み――  
 その恐るべき『魔眼』をついに発動させ――  
 少女の膣は今まで以上に強く締めつけて――  
 ツナギの眼が、カッとばかりに見開かれて――  
 人飼無縁は、憎むべきツナギの死、その興奮に打ち震えなが  
ら、憎むべきツナギの身体を抱きしめ、憎むべきツナギの膣内  
で――永遠とも思える射精を、開始した。  
 
    ど く ん っ 。  
 人飼無縁は射精する。   
 ツナギに死の視線を送りながら。己の勝利を確信しながら。  
 
   ど く ん っ 。  
 人飼無縁は射精する。  
 絶頂と同時に『魔眼遣い』の視線を受けたツナギは、その膣を  
強く強く締め上げながら――ニヤリと、笑う。  
 
  ど く ん っ 。  
 人飼無縁は射精する。  
 歓喜の表情はすぐに驚愕に変わる。改めて少女の目を見つ  
め直すが、不敵な笑みは変わらない。見れば殺す、防御不能で  
見敵必殺なはずの『魔眼』の効果が現れない。膣の締め付けは  
なお強く、痛みすら感じるほどなのに射精が止まらない。まるで、  
向こうから強く吸い出されているかのような――  
 
  ど く ん っ 。  
 人飼無縁は射精する。  
 成人男性の射精は通常1回で2.5〜5.0ミリリットルだと言うが、  
その軽く数倍は出しているというのに精液が止まらない。止まら  
ないどころかますます勢いが増していく。いくら『魔法使い』でも  
これは異常だ。永き射精は快感を通り越して苦痛になり、恐怖  
にまで至っているのになお止まらない。咥えこまれた陰茎を慌て  
て抜こうとするが、ピクリとも動かない。  
 
  ど く ん っ 。 ど く ん っ 。 ど く ん っ 。  
 人飼無縁は射精する。射精を続ける。射精が止まらない。  
 その全てを吸い込むツナギの腹は膨らみもせずさりとて膣口  
から溢れもせず全て全て底なし沼のようなツナギの子宮に飲み  
込まれなおもなおも吸い込まれて締め上げられて射精が続いて  
どくんっ、どくんっ、どくん、どくん、どくんどくんどくんどくんどくん  
どくどくんどくんどくんどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく  
――と永遠に吸い出され続ける。  
 
「ひっ、ひっ、ひ……な、なんだこれはなんだこの現象はなんだ  
この射精は! なぜ死なぬなぜ逝かぬなぜ『魔眼』が利かぬ!  
どうして我輩に従ったどうして我輩に逆らわなかったどうして我  
輩に我輩に我輩に我輩に………!」  
 
 恐慌と混乱のあまり引きつる人飼無縁。ツナギは妖艶な微笑  
で彼を見上げる。なおも放出の収まらぬ陰茎を咥えたまま、彼  
を軽く押し倒し、正常位から騎乗位に移行する。  
 
「さて、どれから答えてあげようかしら人飼無縁? それにして  
も――さすがの私も、絶頂と同時に『殺される』とは思わなかっ  
たわ。タダの馬鹿じゃあなかったのね、『眼球倶楽部』」  
 
 『ぎぎぎぎぎぎぎっ』。  
 ツナギの嘲笑に答えるように、二人を包む『洞窟』が嘲う。牙  
を鳴らし口を広げ、人ならざる声帯から放たれる笑い声。  
 横たわり、天井を見上げる形になった人飼無縁には、今なら  
分かる。  
 赤く柔らかい『洞窟』で――天井の『割れ目』が、嘲っていた。  
 18本の牙が形作るギザギザは、紛れもない、ツナギの『口』。  
 そう、ここはツナギの『口の中』。外界から、空間的にも時間  
的にも魔法的にも遮断された異空間。赤く柔らかな口腔粘膜  
に覆われた、生きた洞窟――  
 
「どうやら、ここが『口の中』だということは分かったみたいね?  
でもさらに教えてあげるなら――今あなたと繋がってる『ツナギ』  
の『似姿』も、ツナギ本体ではなく、『舌』が『変態』したもの……  
体表の好きなところに『口』を出せるという私の『魔法』を、裏返  
して裏向きに使った裏技よ」  
「で、では、我輩の『魔眼』が利かぬのは――」  
「あなたの『魔眼』は、標的の鼓動を止めることだけに特化して  
いる。けれど、その『魔眼』――果たして、『舌先の』心臓を止め  
ることができるのかしら? そもそも最初から心臓など存在さえ  
していない、こんな末端器官に意味があるの?」  
 
 それでは――そんなことが可能だと言うなら、今のこの状況、  
人飼無縁の魔法では、打つ手が皆無だ。どうしようもない。  
 
 どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん。  
 壊れた蛇口のように、精液を吐き出し続ける人飼無縁の陰茎。  
男性は一回の射精で数百メートルのダッシュに相当する体力を  
消耗すると言われているが―ーそれを数分に渡って強要された  
人飼無縁は、見る見る間にやつれていく。頬がこけ、皺が寄り、  
自慢の髭が垂れ下がる。  
 対称的に――上に跨るツナギの方は、見る見るパワーを得て  
いく。肌が潤い、髪には艶を増し、瞳が輝く。  
 
「これは『食事』。私の『咀嚼』――普通の人間の普通の食事で  
も、食べ物を何度も噛むでしょう? それと同じよ。私が『喰らう』  
時も――何度も何度も、百回二百回三百回四百回五百回五百  
十二回、繰り返し噛むわけよ。その過程の一つが、『再構成』。  
噛み砕くために修復するという、水倉神檎の気まぐれが作った  
大いなる無駄」  
「な、ならば……この交わりも貴様の『食事』でしかないと言うの  
か!? これが『あのお方』に授けられた力だとでも?!」  
 
「――いったい、どこの世界に『食事』をするだけで『若返る』生  
き物がいるって言うのかしら? これはただの『食事』じゃない  
……『房中術』、よ」  
 
 『房中術』。  
 それは伝説に語られる性の秘術の一つ。『性交』を介し、体力  
回復、寿命の延長、若返り、そして究極的には不老不死さえも  
達成するという、『魔眼』にも匹敵する究極魔術の一つ――  
 
「水倉神檎が『創った』のは、ただ他者の魔力を食べることで  
多少長生きできる、という身体まで。『食物』を『再構成』した次  
の刹那に再び『噛み砕く』、という生態まで」  
 
「でも――この『食事』と『性交』を組み合わせた『房中術』は、  
それをベースにした私のオリジナルアレンジ。これこそが私の  
『若さ』の秘訣。私の二千年の時を支えた力。老若男女お構い  
なく、犯して犯して犯して犯し、五百十ニ回犯し抜いて、精気と  
体力と魔力の全てをネコソギ吸い尽くしてやるのよ」  
 
 どくんどくんどくんどくんどくんどくん。  
 人飼無縁は、射精を通して十数リットルの水分を失いもはや  
ミイラ化さえ始めているというのに、まだ放出が止まらずまだ  
死ぬこともできない。肌はひび割れ髪は抜け、『魔眼』と恐れら  
れていた瞳は白く濁る。  
 その姿はまるで、『赤き時の魔女』に『時間』を吸い取られる  
犠牲者のような――  
 
「さぁ――まだこれは、たった『2回目』よ。あと五百十ある私  
の『口』が、あなたを喰らいたいと騒いでいるわ。あと五百十  
ある私の『舌』が、あなたを味わいたくて身を濡らしているわ。  
早く、喰われて飲まれて分解されて消化されて再構成されて、  
再び犯されなさい」  
「ひ……! い、いやだ! こ、こんな苦痛、もう二度と……!  
わ、我輩もう……せ、せめてひと思いに、殺してくれ! 楽に  
死なせ……」  
 
 死のさらに向こう側、エクスタシーの絶頂のさらに向こう側を  
見せられる苦痛に耐えかね、恥も外聞もない嘆願の声を上げ  
る。完膚なきまでの敗北宣言。しかし、ツナギは答えない。  
 『ぎぎぎぎぎぎぎっ』。  
 ツナギが微笑うと同時に、再び天井の『口』が吼え――  
 ツナギの可憐な陰唇から、なおも繋がったままの陰唇から、  
太く白い『牙』が、怪物的な『牙』が、牙が牙が牙が牙が牙が  
牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙、牙が唐突に飛び出してそれぞれ  
好き勝手に暴れだす。その数、実に18本。  
 言い伝えにある異形の女神、歯の生えた陰唇を持つ暴君、  
ヴァギナ・デンタータ、まさに、その顕現――  
 
「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ  
ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ」  
「く、くおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ  
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッ!」  
 
 牙が動く。牙が食べる。牙が肉に刺さる。牙が陰嚢を噛み  
砕く。牙が陰茎を噛み千切る。牙が人飼無縁を喰らいつくす。  
 小学生くらいのサイズの少女の膣に、成人男性の身体が  
まるごと一つ、飲み込まれていく――ありえぬ光景。激痛に  
満ちた胎内回帰。凄惨なる逆出産。  
 
 その身体がほとんど飲み込まれ、頭部に牙がかかるその  
瞬間――人飼無縁は、絶望的な光景を目にする。  
 乱れ動く牙の隙間に見えた、『歯のある陰唇』の向こうに  
覗いた冥い洞窟。これから堕ちていく、無限の深淵。  
 
 口を開けた陰唇の中のその奥に、口を開けた陰唇が待ち  
受ける。その陰唇の中には、さらに陰唇が。その中にはさら  
に陰唇。その中にも陰唇。陰唇。陰唇。陰唇陰唇陰唇――  
 まるで合わせ鏡のように、まるでロシアのマトリョーシカ人  
形のように、まるでフラクタル図形のように――  
 延々と、五百十の『牙の生えた陰唇』が、彼を順番に犯し  
喰らわんと、口を広げ牙を鳴らして待ち構えている。  
 
 ――口腔粘膜も消化管粘膜も、生殖器粘膜も子宮粘膜  
も、解剖学的には『表皮』の延長。ツナギの魔法、『体表に  
五百十ニの口を持つ』は、かくして五百十ニ回の性交となり、  
五百十二回の咀嚼となる。  
 
「堕ちたくない、喰らわれたくない、逝きたくない――!」  
「だ・め・よ。よく言うじゃない、二度あることは三度あるって  
――いや、三度では済まないか、五百十二回よね。たとえ  
『次の口の中』で恐怖のあまり勃たなかったとしても、たとえ  
『次の口の中』でセックスする気が起きなかったとしても――  
『口』全体で押さえ込んで、肛門にぶっとい『牙』ブチ込んで  
前立腺刺激して、無理やり勃たせて犯して逝かせて飲み込  
んで喰らってあげるわ」  
「いいぃやだぁぁぁああァァアアぁああ!?」  
 
  ご っ く ん 。  
 最期の最後まで見苦しい悲鳴を上げながら、人飼無縁は、  
ツナギの陰唇の間に、性器の部分に顕現した『口』の中に、  
吸われて噛まれて砕かれ飲まれて消えていった。  
 後には、髪一本残されない。  
 
  ★       ★  
 
 人飼無縁が消え、『第一の口の中』は、静寂に包まれる。  
 陰部にあった『牙の生えた口』が、スルスルとツナギの体  
を移動する。股間を離れ、本来の定位置である秀でた額に、  
つるりと綺麗な額に、ピタリと納まる。  
 ようやくツナギの外見が、『いつものツナギの姿』に戻る。  
 
「思っていたよりも『美味しかった』わね――でも、あの様子  
じゃそう長くは持ちそうにないわねぇ。百回どころか二十回  
も『咀嚼』したら完全に人格崩壊してるかしら。五百十二回、  
完膚なきまで『咀嚼』しても正気を保っていたのなんて、後  
にも先にもりすかちゃんくらいのものだし――」  
 
 そう、以前ツナギが水倉りすかを『食べた』時にも、ツナギ  
はこの『口の中』という異空間で、りすかの幼い肉体を徹底  
的に犯し抜いたのだった。  
 相手が男なら『下の口』で咥え込み――相手が女なら『牙』  
でもって貫き犯す。並の男性器よりも遥かに硬く巨大な『牙』  
をディルドー代わりに、五百十二回。  
 その度ごとに『分解』され『吸収』され『再構築』され、その度  
ごとに犯される直前の状態に引き戻され……水倉りすかは、  
『赤き時の魔女』は、実に五百十二回にもわたって、ツナギ  
の白い『牙』を破瓜の血で染め上げたことになる――  
 その間、ずっと悲鳴一つ漏らさず、見苦しく取り乱すことも  
なく、自分たちの勝利を疑わず、ただひたすらに身体を硬く  
して耐え続けた、健気な健気な、小さな赤い魔女――  
 あれは本当に、『美味しかった』。  
 
「ああ――思い出しただけで涎が出ちゃう」  
 じゅるり。  
 彼女を取り巻く『洞窟』が大量の液体を分泌し――『第一の  
口』の中にあった『ツナギ』の似姿は、溶け込むように『洞窟』  
の床と一体化し、消え去った。  
 
  ★       ★  
 
「……ねぇ、キズタカ」  
「なんだ?」  
「もし、もしもだけど――犯されたのがわたしの身体だとして、  
そのあと27歳のわたしが時間を戻したのが犯される前なら  
――辱められたことになったのがわたしなのかな?」  
 
 尋ねたのが切実だったのがわたしなの。あんな傷、簡単に  
治るのが私の魔法だけど――忘れられないのがあの体験。  
 もし、キズタカに知られたら――。もし、キズタカがわたし  
の事を嫌ったりしたら――。  
 
「なんだそりゃ。例えばあれか。影谷蛇之みたいな下衆野郎  
に捕まって好き放題されたら、ということかい?」  
「うん……構わないのがそう想定してもらうことなの。どう感じ  
るのがキズタカなの?」  
「例え身体を治しても、記憶ある限りその身体にされた事実  
は消せやしない。いやたとえ記憶を消したところで、過去の  
事実が改変されるわけじゃない」  
「…………」  
「でも僕が疑問なのは『辱める』という言葉の方だ。そりゃぁ、  
肉体的には何でもできるだろうが――精神までへし折られ  
ない限り、それはその人物を辱めたことにはならない。相手  
がどんな下衆野郎だったとしても――りすかを『辱める』こと  
ができる奴なんて、想像できないな」  
「…………きなのが、そういうとこなの」  
「ん? 何か言った、りすか?」  
「ううん、なんでもないの」  
 
 キズタカの答えにほっとしたのがわたしで――でも恥ずか  
しくてちゃんと言えないのもわたし。不審そうだったのがキズ  
タカの視線。  
 だから、前よりも怖くはないのがツナギ。……思わず同情  
しちゃうのが、食べられちゃった『眼球倶楽部』だけどね。  
 
 
 
                    《Vagina Dentata》 is Q.E.D.  
 

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