「キズタカに、触って欲しいのが、わたしなの」  
 まだあどけないという表現の方が遥かに似合う少女  
であるところのりすかの口から、そんな言葉が紡ぎ出され  
たという事実は、少なからずぼくを動揺させた。  
「興味のある女の子には、エッチなことをしたいのが、  
男の子だって聞いたの」  
 他者と接触する機会が極めて少ないりすかが、誰から  
聞いたというのだろう。まさかチェンバリンがそんなこ  
とを吹き込むとも思えない。テレビででも得た情報なの  
か。こんなとき、疑問を疑問のままにしておけないのが、  
ぼくという人間だ。  
「誰に聞いたんだよ」  
「お兄ちゃん」  
 とんでもない男だと、ぼくは内心溜息を吐いた。幾ら  
「運命干渉系」の魔法を使うからといって、ぼくたちの  
運命に直接干渉なんてして欲しくは無い。そして、そん  
なぼくの心中に、りすがが当然気付く筈もない。軽く首  
を傾げた格好で、彼女はぼくに軽く詰め寄った。  
 
「好きなのが、キズタカだから、触って欲しいのが、わ  
たしなの。それとも――わたしに興味ないのが、キズタ  
カ?」  
 困ったことを聞いてくる。ぼくは確かにりすかに対し  
て、他の手駒の誰よりも深い繋がりを感じている。だけ  
ど、それが一般的に恋愛感情と呼ばれるものであるのか  
どうか、それはぼく自身にもわからないのだ。「興味が  
ないわけないさ」取り合えず、ぼくは答える。それは嘘  
じゃない。その言葉にりすかは、嬉しそうに頬を染めた。  
「いつか君は言ったよね。もう少し自分の気持ちも考え  
て欲しいと」  
 ぼくの言葉に、りすかがこくんと首を振る。  
「今君は、ぼくに触れて欲しいと願っている。そして、  
君に興味のない訳じゃないし、人並みには好奇心もある  
ぼくとしても、それに応じることはやぶさかじゃない」  
「……いつも難しくてわからないことを言うのがキズタ  
カなの」  
「まあ、結論だけ言えば」りすかが唇を尖らしかけたの  
で、ぼくは慌てて言葉を続ける。「ぼくが君に触れるこ  
とに関しては、何ら問題はないってことさ」  
 その言葉に、りすかの顔が再び明るい色を取り戻した。  
「それで――りすかは、ぼくに何処を触って欲しいんだ  
い?」  
 
 ぼくの問い掛けに、逡巡するように視線を宙にさまよ  
わせた後、りすかは消え入りそうな声で「胸」と呟いた。  
ぼくは正直拍子抜けした。もっと、こう――とんでもな  
い要求を突き付けられるのではないかと、そんな風に考  
えていたのだ。だけど今の10歳のりすかなら、それで  
すら十分と言うべきか。そう。27歳の、あの最強で最  
凶で最狂な『赤き時の魔女』ならいざ知らず、ぼくの目  
の前で、何処か萎縮するような表情を浮かべている彼女  
は、ただ魔法が使えるというだけの、当たり前の女の子  
なのだ。  
「構わないよ」  
 ぼくは鷹揚にうなずく。りすかは嬉しそうに、服をぺ  
ろんと半分だけめくり上げた。その裾から、ぼくは手を  
滑り込ませて、りすかの温かい肌に触れる。直接触って  
みると、それは予想以上に存在感のある代物で、もちろ  
んぼくが唯一知る女性であるところの、記憶の中の母親  
のそれとは比べ様もないのだけれど、それでも確かに膨  
らみを感じるものだった。  
「気持ちいいのかな」  
 問い掛ければ、微かにかすれた声が、「よくわからな  
いの」と返った。  
「でも、感じるのが、キズタカだから、嬉しいのが、わ  
たし。――動かしてみて」  
「こうかい?」  
 そっと指に力を込めて、そこを掴めば、りすかは体を  
びくんと震わせる。そのまま軽く手を揺らす。りすかは  
頬を紅潮させて、目を閉じた。  
 
=了=  
 

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