「お前様、これをやる」
僕が自室でくつろいでいる時に突如影から出てきた忍は、そう言ってドーナツを差し出してきた。
「これは……昼に買ってきたやつじゃないか、食べてなかったのか?」
「いいから受け取らんか! さもなくば儂が食べてしまうぞ!」
「あ、うん、じゃあいただくよ」
手を伸ばしたときに僕は気付いた。
2月14日。
バレンタインデー。
忍から渡されようとしているのはゴールデン『チョコレート』。
「な、何を笑っておるのじゃ!?」
「いや、何でもないよ。ありがとう、忍」
僕はドーナツを受け取り、空いた手で忍の頭を撫でた。
くふふ、と嬉しそうに忍は笑い、さらさらの金髪が僕の指に絡みつく。
僕はドーナツを二つに割る。
「ほら、半分こして食べよう」
「ん」
僕達は少し固くなったゴールデンチョコレートを並んで食べ始めたのだった。