僕こと阿良々木暦は二年間の時間を取り戻すつもりでいた。 取り戻すと言っても無駄にした青春ではない、無駄にした勉強時間である。
落ちこぼれの僕がなぜその気になったか。将来を考えてまともな大学に行くため。それもある。
だがもう一つの大きな理由、戦場ヶ原ひたぎとより多くの時間を過ごすために同じ大学に行く。動機が不純なのはわかっているが、別に悪いことでもないだろう。僕にとっても、家族にとっても、戦場ヶ原にとっても。
そのため高校最後の夏休みは羽川と戦場ヶ原に交代で毎日勉強を教わっていた。戦場ヶ原はともかく羽川には申し訳ないが大変ありがたいことである。
そんなある日。
「海へ行きましょう、阿良々木くん」
それは簡単な一言だった。
ともすればうっかり聞き流しそうになる戦場ヶ原の一言。
「海? だけど勉強はどうするんだ? 自分で言うのもなんだが、僕の成績にあまり余裕はないだろう?」
「たまには息抜きしないと体に悪いわ。それに羽川様、いえ、羽川さんにも許可をとってるわよ」
「おい戦場ヶ原、また羽川に『様』ってつけたか?」
「そんなことあるわよ」
「肯定したっ!?」
戦場ヶ原はなぜ羽川に『様』をつけるのか、それを僕は一応知っているが理由はまたの機会に。
だからまあこれはお約束のやりとりだと思ってくれ。
「だから阿良々木くん、勉強道具、水着、寝間着を用意しなさい。日時はまた知らせるわ」
「あ、ああ」
勉強道具って結局勉強するのかよ。
あと日時は相談じゃなくて一方的に決めるのか。
そんな突っ込みも出ないまま生返事をしてしまう。
『寝間着』
『寝間着』
『寝間着』
それは泊まり込みの意味に他ならない。
そして少し上の空でその日の勉強を終えた僕は帰路につく。
「いよっしゃああああああ!!」