少し乱れた前髪をかき分け、晒されたその額に軽く口付ける。  
「ん……」  
八九寺は目を瞑ったまま顔を上げ、もっとしてほしいというように首を伸ばしてきた。  
僕はそれに応え、顔中に唇を触れさせる。  
額に。瞼に。こめかみに。頬に。顎に。唇に。  
八九寺はくすぐったそうに身をよじりながらも僕の首に腕を回し、そのまま胡座をかいている僕の上に乗り、脚を僕の腰に絡める。  
僕も八九寺の背中に手を回して力を込めるとお互いの身体が密着し、上昇しているだろう体温が肌の感触とともに伝わってきた。  
「ふふ」  
「? どうした八九寺?」  
「いえ、あちらの私が言った通りだなって思いまして」  
八九寺は四肢を僕の身体により強く巻きつける。  
「こうやって抱きしめられると、心があったかくなってすごく心地良いです」  
「そっか」  
僕はさっきの八九寺にもしてやったように頭を優しく撫でてやった。  
しかし八九寺が嬉しいのはいいんだけども。  
八九寺の下腹に押し付けられている僕の肉棒がそろそろ新しい刺激を欲しがっていた。  
柔らかいおなかの感触も悪いものではなかったが、もっと気持ちのいいところを知っている今の僕には物足りない。  
例えば八九寺の指。  
例えば八九寺の掌。  
例えば八九寺の唇。  
例えば八九寺の口。  
そして、例えば八九寺の膣。  
僕は八九寺の背中に回していた腕を下ろし、軽くおしりを撫でて脚の付け根の内股に伸ばす。  
「んっ……」  
指に濡れた感触が絡む。  
そこは次々と溢れ出る八九寺の蜜が広がっていた。  
その源泉を探り当てて指でいじり始めると、八九寺は身体を震わせながらしがみついてくる。  
かろうじて声が出るのはこらえているが、その表情は快楽に満ちていた。  
僕は少しだけ指を蜜壷に埋めながら八九寺に話しかける。  
「八九寺、そろそろいいかな?」  
「んんっ……は、はい」  
一瞬きゅっと指への締め付けがさらに強くなり、抜くのに少し力がいった。  
互いに腕の力を緩め、わずかに身体を離す。  
「えーと、このまま入れるか?」  
さっきの八九寺と同じように。  
が、ふるふると八九寺は首を振ってすっくと立ち上がる。  
くるりと背を向けて椅子に腰掛けるかのようにそのまま僕の足を跨ぐように膝立ち、僕の亀頭を秘口に押し当てた。  
「これで、お願いします」  
これは……背面座位か。  
僕は八九寺の腰に手を回し、ぎゅっと抱き締める。  
八九寺は僕の腕に手を添え、僕に寄りかかった。  
 
先っぽだけ埋め、一旦そこで八九寺は深呼吸する。  
「……いきます」  
緊張した面持ちで言い、ぐっと唇を噛みながらゆっくりと腰を落としていく。  
多少入ったところでそのまま一気に八九寺は身体を下ろした。  
「くう……っ」  
「…………っ!!」  
何かを突き破るのと同時に僕の肉棒が柔らかくて心地良い感触に包まれる。  
膣内を押し広げようとするかのように肉棒はさらに固く大きくなり、それに負けまいと肉襞はぎちぎちと締め付けてきた。  
端的に言うとものすごく気持ちいい。が、それを味わってばかりもいられない。  
「だ、大丈夫か八九寺…………八九寺?」  
「う、動かないでください……阿良々木さん」  
「あ、ああ」  
僕は少し戸惑った。  
苦悶というよりも疑問の表情を浮かべていたからだ。  
まるで痛みを覚悟していたら全くなかったかのように。  
八九寺はぐっと歯を食いしばり、ちょっとだけ腰を揺する。  
その瞬間。  
「……っ!!」  
顔が歪み、声が出そうになるところを慌てて口を手で塞ぐ。  
が、どうみても苦痛を感じている様子ではない。  
まさか。  
もしかして?  
「八九寺、気持ちいいの?」  
僕の言葉に八九寺はぶんぶんと首を振って否定する。  
が、今の表情と覆っている手から漏れ出る熱い吐息、そして時折痙攣する身体がさらにそれを否定していた。  
僕は腰を揺すり、さっき八九寺が動いて擦れたところをもう一度肉棒で刺激してみる。  
「んうっ!」  
びくんっと八九寺の身体が跳ね、声が出た。  
間違いない。八九寺は今痛みでなく快楽を感じている。  
僕は腰に巻いていた腕を解き、ひょいと八九寺の膝裏に通してそのまま抱え上げた。  
膝立ちのところを持ち上げられたため、腰が沈んで僕の肉棒をずぷぅっと奥まで差し込まれ、さすがに痛みを感じたか顔をしかめる。  
それでも声をあげなかったのでそれほどのものでもないだろうと判断した僕は、腕を動かしてぐいっと八九寺の両足を開かせた。  
そう、まるで赤ん坊におしっこをさせるようなポーズだ。  
もっとも、今しているのはそんなほのぼのしたものからかけ離れている行為なのだが。  
「あ、あ、阿良々木さんっ!?」  
これ以上体重がかからないよう僕の腕を掴んでいた八九寺が焦った声をあげる。  
が、それに構わず僕も胡座を崩して足を広げ、腰を少し前に突き出す。  
「見えるか、八九寺?」  
僕に抱かれてる八九寺じゃない、目の前で僕たちをまじまじと見ているもうひとりの分身の八九寺に声をかける。  
 
その八九寺は身体を伏せ、僕たちの結合部に顔を寄せる。  
「はい、とてもよく見えます」  
「どんな感じだ?」  
「んー……すごいいやらしいですね、こんな小さなとこに阿良々木さんのこんな大きいのが入ってるなんて」  
そう言ってぷにぷにと秘口の周りを指でつつく。  
そのたびに腕の中の八九寺は身体を震わした。  
「何言ってんだ、さっきまでお前の中にも入っていただろ」  
「それはそうなんですが……あ、ちょっと血が出てますね、それなのにあまり痛くなかったなんてうらやましいです」  
そういやなんでこの八九寺は痛くなかったんだろう?  
挿入する角度とかによって痛みが変わるというのは聞いたことがあるが。  
その八九寺はというと、見られている恥ずかしさのあまりか両手で自分の顔を覆ってしまった。  
僕は別に加虐趣味はないつもりなのだが、なんとなくそんな八九寺に意地悪してみたくなる。  
下の八九寺に対してちょいちょいとある箇所を指差すと、八九寺は心得たように頷き、すっと唇を寄せた。  
ちなみにその箇所とは僕と八九寺がつながっているところの少し上。充血してぷっくりと膨らんでいる、最も敏感な豆の部分だ。  
そこに唇が触れた瞬間。  
「ふあぁっ、あああんっ!」  
顔を覆っていた手が離れ、ぐうっと身体を仰け反らせながら泣きそうな悲鳴をあげる。  
「く、う、うっ」  
それに呼応して更にぎちぎちと肉棒を締め付ける圧が強くなり、僕は思わず声を漏らす。  
気を抜くと押し出されてしまいそうだ。  
足を開かせるのは下の八九寺に任せ、僕は膝裏を通していた腕を解いて腹部に巻き付け、ぎゅうっと抱き締めるように暴れる身体を押さえつける。  
そのまま八九寺の身体を揺らし、腰を動かして互いの性器に刺激を与えた。  
ぐりぐりと。  
ごりごりと。  
ぐちゅぐちゅと。  
ごしごしと。  
突いて擦って。  
擦って突いて。  
どんどん高みへと駆け上がっていき、思考力がなくなってくる。  
「あっ、阿良々木さんっ! もう! 私、私……」  
「ダメですよ、もうちょっと我慢しないと」  
下半身の方から制止する八九寺の声が聞こえた。  
「中に出してもらいながらイくのが最高に気持ちいいんですから」  
ぎゅっと陰嚢が八九寺に掴まれた。  
そのままやわやわと揉まれ、甘美な快感が全身を襲う。  
「さ、阿良々木さん。この中に詰まってる精液、もう残り全部出しちゃってください」  
そうだ。  
このまま八九寺の中に。  
思いっきりぶちまけてやる。  
 
我慢して我慢して。  
ドロッドロに濃くなった精液を。  
年端も行かないこの少女の子宮に。  
妊娠させるつもりで思いっきり射精してやる!  
「〜〜〜〜〜〜〜!」  
腕の中の少女が何か叫ぶが僕の耳には届かない。  
八九寺の膣内はすごくきつくて。やわらかくて。あたたかくて。  
その八九寺の膣内で射精する、ただそれだけを考えて僕は身体を動かす。  
そして。  
「ぐ……う、う……うあ……あ……ああっ!」  
どくどくどくどくっ!!  
僕はついに射精した。  
脳に快楽の花火を上げさせながら八九寺の子宮に向けて精液がびゅるびゅると噴射される。  
何度も。  
何度も何度も。  
「うっ……うっ……ううっ!」  
尿道を通り抜ける度に僕の身体が震え、呻き声が漏れた。  
やがて。  
長い長い射精が終わる。  
僕は腰を揺すって最後の一滴まで出し尽くし、強張っていた全身の力を抜いて大きく息を吐く。  
「ふう…………んっ」  
さすがにあれだけ射精し、硬度を失った肉棒がずるりと八九寺の膣圧によって外に押し出される。  
さっきまで僕たち二人に刺激を与え続けてくれていた下の八九寺がその体液に塗れた肉棒を口に含む。  
とは言っても先ほどまでのように快感を与えるのではない、お掃除フェラだ。  
ぺろぺろと二人分の体液を舐め取ってくれている八九寺の頭を撫でると、なんとなく嬉しそうな気配が伝わってきた。  
腕の中でぐったりとしていた八九寺も後ろ手にしがみついてきたので、もう片方の手で頭を撫でてやる。  
しばらくそうしていた後、すっかり綺麗にされた僕の肉棒から八九寺の唇が離れた。  
同時に僕の抱いていた八九寺も立ち上がって僕から離れる。  
と思ったら僕の左右に座り、腕を絡めてぎゅっと抱きついてきた。  
「……………………」  
そのまま僕たちは何も話さない。  
ただこの静かなひとときを大切にしたかった。  
ずっとこうしていたかった。  
だけど。  
「阿良々木さん」  
「目を、閉じていただけますか?」  
身体を離した八九寺の言葉に僕は黙って従う。  
しばらくして唇にふっと柔らかい感触があった。  
少し触れただけの感触が二度。  
そして僕が次に目を開けたとき。  
八九寺がひとり、ベッドで寝ているだけだった。  
 
* * *  
 
「ん……」  
背後で声がした。  
どうやら八九寺が目を覚ましたようだ。  
「おはよう八九寺」  
「あれ、阿良々木さん、私は…………っ!!」  
意識を失う前の事を思い出したか、みるみる顔が赤くなり、慌ててシーツを被って隠れてしまう。  
 
まるで甲羅に閉じこもる亀のようだ。いや、殻に閉じこもる蝸牛かな?  
「今さら恥ずかしがるなって。僕たちの仲じゃん」  
僕が声をかけると、ひょこっと頭だけを出してくる。  
なんだか本当に蝸牛みたいだ。  
「私、今私じゃない私のせいなのに私じゃない私じゃない私が非常に恥ずかしい思いをしているんですが」  
「え? え? 何だって?」  
今何回『私』って言った?  
「えーとですね……」  
まだ照れているのか、八九寺は僕から目を逸らしながら言葉を続ける。  
「私、全部覚えてるんです」  
「ん? 気を失うまでのことか?」  
「いえ、そうではなく……」  
「?」  
何やら言いよどむ八九寺。  
いったいなんのことやら?  
「今私には、三人分の記憶があります」  
「……!!」  
「だ、だからその、他の私が阿良々木さんに言った言葉とかも、全部覚えて……きゃあ!」  
「はっはー、そうか! そういうことか!」  
僕は嬉しくなって八九寺を抱えて立ち上がり、ぐるぐると振り回し始める。  
あいつらは別に消えたわけじゃない。  
ちゃんとこの八九寺の中に存在してるんだ。  
「あ、阿良々木さん?」  
「大好きだぞー八九寺ー」  
再びベッドに倒れ込み、抱き締めながら僕は言う。  
すでに後始末は終えて服は着ているのだが、構わずに僕は八九寺の身体を弄る。  
もちろんキスの雨を降らせるのも忘れない。  
「は、離してください阿良々木さん!」  
腕の中で八九寺が叫ぶ。  
「私、あなたのことが嫌いですっ!」  
 
 
 
『まよいアルター』完  
 
 
 

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