「よろしければ名前、教えてくれませんか?」  
「ああ、ぼくは今まで本名を――」  
 と。  
 そこまで言ってから何気なく、校舎の二階の窓から下界を見る。  
 そして発見してしまった。ここに居てはいけない人物を、こんなところでウロウロしていてはいけない人物を。  
 紫木一姫。  
 まさか、ぼくの事を心配してか? だとしたらどこまで…………どこまで。  
「どうかしましたか?」  
 いつまでも視線を下界に向けたままのぼくを、不審に思ったのか子荻ちゃんも隣に並んで、窓の外を見ようとする。  
 まずい。  
 成り行きでこうして子荻ちゃんと一緒にいるが、正直ぼくはまだ、どっちをはたして裏切ろうか決めかねていた。  
 出来るならば、もう少し、あとちょっと、あとちょっとだけでいいから、曖昧に、いつもどおり曖昧に保留させて欲しい。  
 でもじゃあ、一体全体どうすれば。  
 頭が混乱する。混濁する。くるくると狂いそうになる。  
 だがこんなとき、自分でも予想外だったが、人間の身体とは無意識に………………無為式に。動いていた。  
「子荻ちゃん…………」  
「はい?」  
 一瞬だったと、思う。  
 ぼくは隣に並ぼうとした子荻ちゃんの肩に手を置くと、なんの警戒もなしにこちらに向けられる、桜色の唇に唇をそっと重ねた。  
 
“チュッ”  
 おそらくは、否、否否、こんなとびっきり偏執的と言ってもいい閉鎖された学園ではあるが、世間一般の建前上は超々の超お嬢様学校。  
「…………はい?」  
 まず初めてだろう、他人との唇の接触に、《策師》萩原子荻は目をパチクリさせると、非常に間の抜けた返事を寄越した。  
 ぼくはそんな初心な反応を見せる子荻ちゃんを、頭をクラクラさせながら眺めつつ、目の端ではしっかりと窓の外を確認する。  
 姫ちゃんは、まだウロチョロしていやがった。  
 こちらは猛獣の尻尾を踏みつけるような心境で、ありもしない勇気をふりしぼってフォローしてやっているというのに。  
 でも、ま、このスリルが堪らないと感じる自分が確実に居たりする。さすがに救いようがない…………………………この欠陥製品は。  
 ならば、ならば、ならばどうせ欠けているのならば、子荻ちゃんに壊されるまでは、終わらせてもらえるまでは、フォローしてやるか。  
「子荻ちゃん…………」  
 さっきよりもゆっくりと、肩に置いていた手を廻して抱くように引き寄せながら、ふたりの距離を、ふたりの唇の距離を詰めていく。  
 瞳に。子荻ちゃんの瞳に映っているのは、ぼくの(女装している)姿と戸惑いだった。そこに拒絶は…………今のところはない。  
“チュッ”  
 ふたりの唇がまた重なった。  
 一度目はこちらもなにがなんだか、必死すぎて感じる余裕などあるわけもなかったが、《策師》の唇は喩えられない柔らかさだった。  
 子荻ちゃんは目を大きく、はっきりと驚愕で見開いている。もちろん、それがわかるぼくも、目は開けていた。  
 でも理由は子荻ちゃんとは違う。胸はドキドキしているが、頭はひどく醒めてきていた。  
 どうやらこんなときでも、ぼくは目を閉じないらしい。  
 子荻ちゃんの意外なほどにほっそりとした身体を、長く綺麗な髪の毛を梳くようにしながら、巻き込むように抱き寄せて位置をずらす。  
 これで姫ちゃんの姿は、子荻ちゃんには確認出来ないはずだ。  
 
「ン……む……ん―…………」  
 それでも保険は一つよりも二つ、二つよりも三つの方がいいだろう。  
 より密着度の増した唇。  
 真一文字に閉じられていたが、僅かではあるが子荻ちゃんが開いたのを見逃さず、ぼくは舌をスルリと差し込んだ。  
 我ながらこれは。ほんの少しだけ。久方ぶりに自分で自分を褒めるという、なんとも独り善がり、エゴ丸出しの行為をしたくなる。  
 不躾に口内へと侵入してきたぼくに、あの子荻ちゃんが怯えた様に逃げ回っていた。  
 しかしこの鬼ごっこは、当然だが結果は、《策師》足りえないぼくにでもわかる。狭い口内のどこに逃げようというのか。  
「んむッ………ふぅ……んンッ……んぅ…………」  
 それはぼくを愉しませるだけで。子荻ちゃんの舌はくねり・絡み取られ・嬲られて、好き放題に戯言遣いに蹂躙されるだけだった。  
 さらに唇を覆い被せるように顔を傾けて、唾液を流し込んでみたりもする。  
「んぅッ!?………むぅッ、むぁッ……んンッ!?………………ううッ……むぅ………んッ………んン…………」  
 後頭部はガッチリ押さえて逃げられない様にしているので、子荻ちゃんにはどんなに厭でも、回避する策戦などあるわけがない。  
 観念した様に喉がこくりこくりと小さく鳴り、唾液を嚥下しているのが、唇を触れ合わせたままのぼくには振動でわかった。  
 悔しそうに顔を顰めながら、いつの間にか背中に廻された手が、ぼくの制服をギュッと掴んでいるのが、なんとも言えず可愛らしい。  
 そしてそこに輪をかけて、この戯言遣いが可愛らしいと思った仕草は。  
「…………あ!?」  
 遊ぶだけ遊び、愉しむだけ愉しんで、自分勝手に引き抜いたぼくの舌を、子荻ちゃんの舌が目一杯のばされて追い掛けてきた。  
 無論。子荻ちゃんはすぐに舌を引っ込めはしたが、ぼくから目を逸らすと、顔を耳まで一気にカァ――ッと赤くさせる。  
 
 可愛い。  
 じっとぼくがその顔を見つめると、目を合わせられないのか、あっちこっちキョトキョトと挙動っていた。  
 そのくせに、ぼくの方から視線を外すと、その切れ長の目は鋭く険しくなる。  
 可愛い。具体的には骨董アパートに持って帰りたいくらいに可愛い。制服の上からエプロンをつけて、手料理を作ってもらいたい。  
「子荻ちゃん、ぼくは好き嫌いはないから」  
「はい?」  
 小さく子供っぽく、子荻ちゃんは首を傾げる。  
 ま、いくら《策師》でも戯言じみた妄想までは読めまい。もっとも読んだら読んだで、その扱いにはたいそう困るだろうが。  
 しかし、とりあえずそれはそれとして。  
「子荻ちゃん、動かないでね」  
 ぼくは身体を子荻ちゃんから、ほんの少しだけだが離す。そのまま身体を、ゆっくりと沈ませた。  
 
 両膝ついて中腰になる。  
 見上げると、見下ろす子荻ちゃんと目が合った。ただそこからは、なんらの威圧感も感じはしない。  
 睫毛こそふるふると震えてはいるものの、ぼくの言った事を守ってくれているのか、子荻ちゃんは微動だにしなかった。  
 ドキドキと喧しかったぼくの心臓の鼓動が、さらにヤバいスピードでペースアップする。  
 考えてみればこれだけ素直に、ぼくの言う事に従ってくれる女性は、うん、はじめてかもしれない。  
 なにしろ人類最強の請負人やあの島の占い師を、わざわざ例に挙げるまでもなく、ぼくの周囲にいる女性はクセの強い人ばかりだ。  
 その上に皆が皆、美人ぞろいなものだから始末が悪い。  
 ぼくもそんな人達に苛められるのは、決して嫌いと言うわけでは、むしろ好きだが、どんな御馳走も毎回では胃にもたれる。  
 それこそあの島の料理人の様に、メニューはバランス良く出して欲しい。  
 だからそんなわけで、子荻ちゃんの様に頭が切れるのに、ぼくに従順といった存在は、なんだかとてつもなく新鮮だった。  
 頭が切れる。ふっと浮かんだやつがいたが、あいつの場合はぼくに従順とか、そういった次元ではない。  
 と。  
 それはともかくとして、子荻ちゃんが言う事を聞いてくれるのというのであれば、言う事は、言いたい事は………………いっぱいある。  
「じゃあ、子荻ちゃん………………スカート、捲ってくれないかなぁ」  
 ぼくはまた一つ、人間として大事なものを失った気がしたが、そんなものは気にしない。  
 元々欠けているものの方が、圧倒的に多い欠陥製品。今更そんなものを一つや二つ失くしても気にしない。  
「はい?」  
 それがあまりにも、想定外だったからだろう。  
 子荻ちゃんはさっきからずっとこればっかりだが、咄嗟には言葉の意味が理解できなかった様だ。  
「スカート、自分で捲って」  
 だから戯言遣いは珍しくも親切に、もう一度子荻ちゃんに言ってあげる。  
 そして三度目はいらない事は、《策師》の肌の色が教えてくれた。赤くなっていたのに、その上からまた羞恥の色を塗りたくる。  
 見ると子荻ちゃんの唇が、わなわなと震えていた。  
 
 いかん。お嬢様の持つハイエンド・クラスの矜持の高さを、ぼくは見誤ってしまったのかもしれない。  
 なにしろ子荻ちゃんの指先は、スカートの裾を白くなるくらいに、感情を抑え込もうとする様に、思いっきり握り締められている。  
 ここで終わりか。終わらせてもらえるか。あと少し。そんな未練がない事もないが。  
 本望――――かどうかはわからない。後悔――――はそれこそ後からするものだ。  
 子荻ちゃんの手で終わらせてもらえるなら。それは悪くない。まだ窓の外に姫ちゃんが、ウロチョロしているかどうか定かではないが。  
 戯言遣いに出来るのはここまで。  
 そこからは我らがヒーロー、哀川潤の活躍に期待しよう。次回作の赤い請負人シリーズにご期待くださいだ。  
 などと。ぼくが心の中で哀川さんにバトンを渡そうとしたとき。  
 スカートの裾を握ったまま、子荻ちゃんの手がそろそろと動きはじめた。  
「…………子荻ちゃん」「………………………」  
 何も。《策師》は何も答えない。  
 顔を俯かせて、スカートを自分の手で捲る、そのハシタナイと言っていい行為に没頭していた。いや、逃避しているだけか?  
 だが。子荻ちゃんの思いがどの辺にあったとしても。  
 そろそろと捲られるていくスカートは、そろそろ下着が覗ける地点に到着しそうだ。  
 しかしそこで。子荻ちゃんは手を止めると、ゆっくりと俯かせていた顔を上げてぼくを見る。  
「…………見たいですか?」「ええ、物凄く見たいです」  
 ぼくには珍しく間髪入れずに、人間失格でも反応できないだろうスピードでもって、これも珍しく、素直な答えを返した。  
「………………………」「………………………」  
 そしてしばし、沈黙が空間を支配してから。子荻ちゃんの手の動きが、意を決したように再開される。  
 チラッと。微かに白い布地が見えた。  
 一瞬、いや半瞬だけ、躊躇う様に手が止まったが、子荻ちゃんはギュッと目を瞑ると、迷いを振り払うように腰まで捲り上げる。  
 
 ぼくの目はその一点に奪われた。  
 白い。そこは何の変哲もなく、何の捻りもなく、ただ白いだけだ。なのにその白さから、ぼくは目が離せない。  
 これが例えばシャツの白さであれば、何ということもなかったろう。  
 でも少女の秘密を覆っているというだけで、この白さは代理の利かない、かけがいのない色になったのだ。  
「……ふぅ」  
 ここまで考えてちょっと眩暈がしてきた。自分がまともではない自覚はあったが、このイカれっぶりはいっそ天晴れかもしれない。  
「…………戯言だけどね」  
 いつも通りに思考を中断すると、ぼくは目の前にある白さと、仄かにする少女の匂いに誘われて、顔をゆっくりと子荻ちゃんの秘密へと  
近づけた。  
 
「ん…………」  
 ぼくの息が当たったからかもしれない。子荻ちゃんの身体が、鼻に掛かった呻きを洩らしてぴくりと動く。  
 それを合図にして。  
“ぺちゃ……”  
「んンッ!?」  
 ぼくは子荻ちゃんの、女子高生の若さに裏付けされた、張りのあるなめらかな内腿に舌を這わせた。  
 唾液のヌメ光る航跡を引きながら、丹念に丹念にフトモモを舐める。  
 すると。  
「ううッ………くぅんッ…………んンッ………ん…………」  
 スカートの裾は健気に掴んだままで、子荻ちゃんはモジモジと、身体を振って逃げようとするが。もちろんの事そうはいかない。  
 ぼくは執拗に子荻ちゃんを追いかける。  
 こんなに自分から、率先してアクションを起こすのは久しぶりだ。  
 情に流されず状況に流される。それがぼくを現す言葉だったはずだが。うん、俄然萌えてきた。《策師》最高っ!! 叫びたい。  
 そしてそこまでこのぼくに、この戯言遣いに言わせた子荻ちゃんに、敬意を表す事にした。  
 窓枠に身体を寄り掛からせると、右足を掴んで軽く持ち上げる。  
 子荻ちゃんのちょっと不安そうな視線を、つむじの辺りにビシバシ感じるが、あえてそれは無視。  
 ブーツを脱がし、少し蒸れている靴下も脱がすと。  
「あッ!?」  
 ぼくは小さく可愛らしい爪を生やした足の指を、何の迷いも躊躇いも見せずに口に含んだ。  
 一本一本を丁寧に、指の股の間まで舐めしゃぶる。  
 エラいスピードでもって、ぼくのモラルの井戸は枯れていこうとしているが、そんなものは上等だった。底に何があるのか見てみたい。  
 
「ンッ、ンッ…………ふぅッ……はぁ……んぁッ…………んンッ………ぁッ…は……ああッ……あ……………」  
 子荻ちゃんも満更ではない様だし、このままこっち方面に突き進んでも問題はないだろう。  
 右足を一先ず置いて、左足を掴んだときなど、本人は気づいているのかいないのか、ぼくの手は添えてるだけで、子荻ちゃんは自主的に  
足を上げていた。  
 こういう変態チックなアプローチは慣れたら怖い。クセになりそうなエクスタシーというやつだ。  
 指を舐めながら子荻ちゃんを盗み見ると、その瞳は妖しい光を放ち恍惚としている――――様にぼくには見える。  
 子荻ちゃんの背筋には今走っているんだろうか? 指を舐めるたびに、ぼくの背筋を走っているのと同じ、ぞくぞくしたものが。  
「ふぅッ……んンッ……あ…うぅッ……んッ……はぁッ……ン……んふぁ…………あッ……んッ……んふ………はぁ……………」  
 下唇を噛んで声を殺そうとしているが、叶わず洩れてぼくの耳朶を打つ可愛い声。  
 その声に操られるように、ぼくの舌は指から離れると、ふくらはぎ、膝の裏、内腿を通って、足の付根、いよいよギリギリに達した。  
 少女の秘密を覆う、薄く頼りない布地。  
 そこから感じる熱と匂いは、さっきよりもあきらかに強い。  
 ぼくは大口を開けると、下着ごと、子荻ちゃんの秘密の部位にむしゃぶりついた。  
「ふぁッ!?」  
 不意を突く。意表を突く。裏を斯く。ぼくはこんな事を生まれてからずっとしてきた。  
 でもこの学校に足を踏み入れてからは。《策師》萩原子荻に出会ってからは。どれもこれも、やりたい事をやられっ放しだった。  
 突発事項に助けられて突き飛ばしたりとか、口八丁で身の安全を図ったりはあったが、こんなに見事に子荻ちゃんにアンブッシュが  
決まったのははじめてである。  
 子荻ちゃんは身体をくの字に折って、ぼくの頭を抱え込んだ。  
 結果。子荻ちゃんのもう一つ唇と、ぼくの唇は、そりゃあもう熱烈な接吻をする事になる。  
 少女に、それも子荻ちゃんの様な《美》少女にキスをされて引き剥がせるほど、ぼくは紳士では、自信満々絶対確実にありえない。  
 
“むにゅ…………”  
「んぅッ!?」  
 この常識外れの学校で鍛えられているだけあって、子荻ちゃんのお尻は引き締まっていたが、決して柔らかさを損なってはいなかった。  
 ぼくは両手でその柔らかいお尻を掴むと、ワイルドに子荻ちゃんの身体を引き寄せる。  
 デフォルトで常に二、三本切れている線が、今のぼくはなんだか、余裕で七、八本はイッちゃってる気がしてならない。  
 舌をのばすと腿にした様に、少女の秘密の裂け目、秘裂を上下に優しく、丹念に丁寧に根気良く舐める。  
「ひッ!?………あ…あ……んぁッ………ふぁッ…………ぅんぁッ……………うぁあッ!!」  
 空っぽの空洞の癖に誇り満々――――似たもの同士。そんな風に《戯言遣い》と《策師》のふたりを評したのは哀川さんだが。  
 だからかもしれない。  
 ぼくの経験ゼロの拙い舌遣いにも、膝をガクガクさせながら艶やかな声を上げる子荻ちゃんは、ひどくちっぽけな自尊心をくすぐる。  
 ずるずると壁に身体を預け、力なく崩れ落ちていく子荻ちゃん。そのスカートに頭を突っ込んでいるぼく。  
 人には絶対に見られたくない姿だ。  
 そしてこんなときに限って、あの人は颯爽と、それもメチャクチャ格好よく現れたりするのだ。  
 ぼくは目だけで右を見る。よしっ。いない。左を――――  
「にゃぎ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」  
 向こうとしたが、その前に動物チックな変な声と、ドタドタと慌てて去っていく足音が聞こえる。  
 ネコ?………………じゃないよなぁ。  
 だがとりあえずは、哀川さんも未確認生物も誰も居ないのを確認して、ぼくは子荻ちゃんの腰の両端、下着の細くなっている部分に  
おもむろに手を掛けた。  
 
 頭をスカートから抜き取り顔を上げると。もう肩を緩やかに上下させ、はぁはぁと呼吸を整える子荻ちゃんと目が合う。  
 ぼくの喉がこくんと生唾を呑み込んだ。その音は子荻ちゃんにも聞こえたんじゃないかというくらい大きい。  
「ちょっとだけお尻、上げてくれるかなぁ」  
 お願いすると子荻ちゃんは、素直に応じて腰を浮かせてくれる。  
 真っ赤な顔で目線を逸らすのが堪らなく可愛い。またまた激しくやばく、胸がドキドキしてきた。震えるほどビ〜〜〜〜ト!!  
 相手を脱がすという行為は、動物の世界でいえば、獲物に舌なめずりする様なものだろう。  
 トドメを刺さずに舌なめずりは三流。そんな格言だか何だかは聞いた事があるが、この愉悦をぼくに放棄させる説得力には欠けていた。  
 するすると滑るように、ぼくの手で脱がされる子荻ちゃんの純白のパンツ。  
 …………やっぱりこの魅力に逆らうのは、うん、ぼくには無理だ。そもそも逆らう気ゼロだし。  
 右足から下着を抜き取ると、左の足首にクルンと絡めたりする。なに。しがない戯言遣いのちょっとしたこだわりですよ。ええ。  
 
 膝小僧に手を置いて力を込める。  
“グッ………ググ…………………ググッ……………”  
 逆らおうという気はないだろうが、やはりそこは温室、とはとてもこの高校いえないが、間違いなく純粋培養で育った可憐な乙女。  
 防衛本能が働いたみたいだ。  
 内腿をぷるぷると震わせて抵抗する子荻ちゃん。なんともぼくの嗜虐心を煽ってくれる。  
 色っぽく眉間にシワを寄せながら、無駄ぁ無駄ぁ無駄ぁ、な抵抗を試みたりしてくれていた。今のぼく。アドレナリン・ハイ。  
 そしてそんな、いつもより過剰にエネルギーをチャージしているぼくに、肉体的には一般人の域を出てない子荻ちゃんが適う訳もない。  
 解剖されるカエルのように無様な格好をさせて、フトモモをペタンと床に付くくらい開ききる。  
「あ……ああ…………はぁ…………」  
 見られた。終に《戯言遣い》に《策師》は秘密を見られた。何とも切なげで色っぽいため息が唇から洩れる。  
 毛がチョボチョボと、見苦しくないくらいに生えている子荻ちゃんのアソコは、もう綺麗に綻んでいて、ぼくの視線を感じてなのか、  
粘度の低そうな愛液を溢れさせて、涙を流すみたいに内腿を滑り落ちて床を濡らしていた。  
「…………………………」  
 人間の外見の美醜などといったものは、所詮は皮一枚の価値しかない。  
 剥いでしまえばそこには戯言を挟む余地などはなく、皆公平に、真実一欠けらの差別も区別もなく、グロテスクな肉の塊のはずだ。  
 ならばこれはどういうことだろう? 今こうして戯言遣いの目を釘付けにしているものは、形状としては傷口と変わらないのに。  
 どうしてこの鮮やかなピンク色の粘膜は、こうまでぼくを惹きつけるのか。わからなかった。まるでわからなかった。  
 それはきっと理性などではなく、DNAに刷り込まれた、本能で感じる美しさなのだろう。   
 しかしそんな怪しげな結論を出しながら、それだけではないだろう、そんな確信めいたものがぼくにはあった。  
 
 魅入る。女子高生の。《策師》の。なにより子荻ちゃんの秘密だからこそ。魅入る。  
 学術的な理由がどうあれ、ぼくがぼくを納得させる為のロジカルは、サイコなロジカルはそれで充分。それだけで十全だった。  
「…………………………」  
 極限までに細められた見えない糸に操られたかのように、ぼくは無言で子荻ちゃんの秘密へと手を伸ばす。  
 我ながら随分と情けない事に、パンチドランカーの如く震えている二本の指先を、不思議に柔らかな秘唇に引っ掛けた。  
“くぱぁ……”  
 子荻ちゃんの秘めやかな唇を開くと、濡れ光る女の子の粘膜、その奥までが視覚に飛び込んでくる。  
 女性のヌードを見たことはあるが、蒼髪娘を風呂に放り込むときは、さすがにこんなディープ箇所までは見やしない。  
 誇張ではなくジ〜〜〜〜ンとぼくの胸は熱くなった。  
 もっと近くで見ようと顔を寄せると、息が当たったからなのか、子荻ちゃんがひくんと身体を震わせる。それにぼくは脊髄反射で、  
“むちゅッ”  
「うぁああッ!?」  
 ぼくは秘裂にむしゃぶりついた。  
 《策師》の腰をグイッと引き寄せると、慎ましやかな秘唇を掻き分けるように舌先を尖らせて、女の子の粘膜の奥へと侵入させる。  
「うッ…うッ…んあッ……あッ…はぁんッ……あ…あぁんッ……ふぁッ…………」  
 舌に居場所を奪われた愛液が秘裂から零れ落ち、  
“ちゅるん・じゅう・ちゅく・ちゅく・ちゅく…………”  
「はひッ…ひッ……あッ……ひッ……あッ……ぁッ………はぁ……んぁッ……んぅッ!?」  
 ぼくがそれを音を立てて啜り上げるたびに、子荻ちゃんの頭は快感にガクガクと何度も仰け反っていた。  
 そんな《策師》のあられもない反応に気を良くしたぼくは、立て続けに尖らせた舌先をぬかるみの奥に挿し入れて掻きまわす。  
「ふぁッ…あッ……やンッ……あふぁ……ン……んぁ………………はぁ……んぁッ……ひぁッ!!」  
 さらに音を立てて嚥下しつつ、ぼくはぷっくりと可愛く膨らんでいる女の子の真珠に吸いついた。  
「ンあぁッ……はぅッ……んンッ………あぁんッ……ひッ……うぁッ!!」  
 強く吸われて子荻ちゃんは艶やかな悲鳴を上げる。右に左にとお尻は切なげに揺れていた。  
 
 しかしそれも見様によっては『お願い……もっと………』と、恥知らずにせがんでるようにも見えなくもない――――こともない。  
 ぼくはさらにさらに強く吸引しながら被っているフードを、剥いたり戻したり口内で器用にくり返す。  
「はひッ…ひッ……あッ……あふぁッ!」  
 敏感すぎる快楽神経のカタマリに、集中口撃を喰らった《策師》の身体は、何ともあっけなかった。  
 子荻ちゃんのお尻はふわりと浮き上がり、ブリッジをして綺麗なアーチを描くと、ぶるぶると震えている身体をしばしホバーリング  
させたてから、ゆっくり静かに力無く床に落ちる。  
「…………………………」  
 少女の真珠からそっと唇を離して子荻ちゃんを窺うと、その顔はヨダレが垂れたままのだらしのない顔で正体を失っていた。  
 それを確認すると、ぼくはさして気にもせずに、愛液でベトベトになった口元をぬぐう。  
「…………美味……」  
 口の中いっぱいに広がっている子荻ちゃんの味。  
 どんな料理人だって再現出来っこない最高の味だ。いい。とてもいい。いいものは決してなくならない。  
 ぼくは独立した生き物のように、ひくひくと蠢いている子荻ちゃんの秘裂を一瞥すると、自分の穿いているスカートに手を差し込んだ。  
 ここまでくればすることは決まっている。ここまで来てしまえば、いくらぼくでも回り道はしない。  
 パンツに(さすがに下着は男物だ)手を掛けながら、この首吊高校に連れて来られてからの、諸々後悔を思い起こしていたが、  
「子荻ちゃん……それに…………それに哀川さんに………感謝しなきゃな」  
 ぼくは決意を込めてそう言った。ところへ。出待ちでもしていたかのようなタイミングで、ハスキーで男前な声をかけられる。  
「素直に感謝してくれたとこで、すぅんげ〜〜悪ぃんだけださ」  
「!?」  
 後ろを取られた何てものじゃない。  
 ぼくは確かに油断しまくっていたろうが、息が掛かりそうなほどの近さ。心臓の鼓動が伝わりそうな距離まで接近を許していた。  
 だが警戒なんてものは、この人の前(後ろ?)じゃ何の意味もなさない。  
 それはしてもしなくても同じ事だ。  
 
「男にしてやりたかったんだけど………………時間切れだわ。ごめんねいーたん♪ それとあたしのことを名字で呼ぶなって言ったろ?」  
 背中に何かが押し当てられる。  
 何か?   
 それは多分。超小型だけれど、しかし黒く四角く重厚な、まるでスタンガンのような物体の先端だろう。  
 どすん、鈍い音が響いて、ぼくは子荻ちゃんの胸へと、もちろん狙っていたわけではないのが、顔面から倒れこんだ。  
“むにゅ……”  
 ああ、絶妙に柔らかいなこのクッションは。もう最高。  
「解決編は、いーたんの目ぇ覚めてからしてやんよ」  
 そういやぼく、まだ子荻ちゃんの胸にはほんのちょっぴりも触れてないな。くっそぅ剣呑剣呑。  
 あきらかに使い方が違う戯言を心中でほざきつつ、ぼくの意識は少しずつ少しずつ溶暗していく。  
「ま、そうは言っても。あいつ。何やってんだって訊く前に、どうも純真なお子様には衝撃的なものを見たらしいんだわ」  
 まだ何か哀川さんが言ってはいるが、ぼくの耳にはほとんど届いてはいない。  
 あ、そうだ。姫ちゃんは、姫ちゃんはどうしたかな? 哀川さんにちゃんと保護されてるのかな?  
「勝手にぺラペラしゃべったあげくに逆ギレしやがってさ、これもいーたんのお手柄っちゃお手柄だな。たっぷりお灸はすえといたぜ」  
 目が閉じかける。閉じる前に映ったのは、なにやら細い糸のようなものでぐるぐる巻きにされている――――姫ちゃん?  
 その小さな身体はときおりびくんびくんと、絶対に子荻ちゃんとは違った理由で痙攣していた。  
「今……頑張ったいーたんのご褒……に、……うせ……園はもうダ……だ……ら、策師っ娘をプ……ントだ、やったじゃん♪」  
 断片集のセリフでも、何を請負人が言わんとしているかはわかる。  
 
 拉致って言葉を哀川さんは知らないんだろうか? 何よりそれをした場合、女の子というのが致命的だと知らないんだろうか?  
 子荻ちゃんの胸の柔らかさと心臓の鼓動を感じながら、確実にしかもとても厭な形で、ぼくの壊れた物語が加速していくのを確信した。  
「……傑作だな」  
 意識の消える寸前。奇跡的に呟いたぼくの声に、  
「戯言だろ♪」  
 たとえ見えなくともわかる。《人類最強の請負人》哀川潤はこれ以上ない満面の笑顔で微笑んでいた。  
 
 
                                           終わり  

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