ほんとはなかなおりしたかったけど  
あなたのきもちわからなくて  
いじっぱりぱりぱりぱりだったの  
 
なかなおりできて よかった  
 
 
「兄貴、今日もここで待ってるの?」  
「ん? ――あぁ、そろそろ来そうな気がするから」  
「いつもそう言ってここで待ってるよねっ。  
 大丈夫、きっと今日こそ来ると思うよっ」  
「……そうだな」  
「……じゃ、あたしあっち行ってるからっ」  
 
「――おい」  
「……」  
「――あー、おい、こんなところで寝るな」  
「……ん」  
「――えらい久々だってのに随分なご挨拶だな」  
「……むー」  
「――おら、起きろって、犯すぞ」  
「……うー……ねちゃってたか……って、あれ?」  
「やっと起きたか」  
「……」  
「久々の再会だってのにだんまりかよ」  
「……」  
「髪切ったのな」  
「……あぁ」  
「お前の長い髪、好きだったんだけど――それも悪くねえな」  
「……」  
「まただんまりかよ。……にしてもお前がいるってことは、ここはあの世って奴か。俺死んだのか」  
「……あぁ、そうだ」  
「かはは、俺やお前は死んだら地獄行きかと思ったんだがな」  
「……ここは誰に対してもずっとこんな感じだ」  
「死後の世界の方があっちより穏やかってのは傑作だな」  
 
「……どうして」  
「あぁ?」  
「……どうしてお前はそんなに普通に話せるんだよ」  
「へ?」  
「今までずっとあんなんだったのに、僕は今さら普通な顔して話せねーよ」  
「……」  
「第一、何でお前が来るんだよ」  
「いや、死んだから」  
「何でそんな冷静なんだよ!」  
「いやー、あんな人生送ってりゃーいつかは死ぬだろ」  
「う……そりゃ、まぁ、そーだけど」  
「つーかさ、つまんねーじゃん」  
「……何が?」  
「こういうの。昔の喧嘩でいつまでもうだうだしてんのって、つまんねーじゃん」  
「……」  
「死んでんのに今さら殺し合ったってしょーがねーし。  
 あいつに聞いたけど、お前引退したんだろ? それに、俺だって――もう人殺せねえし」  
「知ってる」  
「かはは、死人が人殺しの話してるのも大概傑作だがな。  
 ――だからさ、こういうのもうやめにしよーぜ」  
 
「やめにする?」  
「お互い好き勝手にやってたんだから、どっちが悪いってのはもうねーだろ」  
「――いや、きっかけは僕だ。やめにするって、お前は簡単に言うんだな」  
「お前だってつまんねーだろ、こんなの」  
「……」  
「――本当は、お互いが死ぬ前にしたかったんだけどな」  
「へ?」  
「……お前何想像してんだよ。何てーか、あれだあれ――『なかなおり』」  
「……『なかなおり』」  
「生きてたときにしたことなくても意味くらいは知ってるだろ」  
「あぁ」  
「一緒にごめんさなさいでおしまいだ」  
「……お前はそれでいいのか?」  
「俺がそうしようってんだからいいもくそもないだろ」  
「……そっか」  
「どーすんだよ、出夢」  
「――お前がどうしても『なかなおり』したいってんだったら、してやってもいいぜ、人識」  
「素直じゃねーなー」  
 
 
「お互い死ぬ前にもう一度くらい会っときたかったよな」  
「ぎゃは。会ってたら結局殺し合いだろ」  
「かはは、違いない」  
 
 
ずうっとなかなおりしたかったけど  
どうしていいかわからなくて  
ゆうきがなかなかなかったの  
なかなおりできて よかった  
 
よかった  
 

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