い―ちゃんの鉄柵? を読んでくださった方コメントくださった方はどうもです。  
ダラダラと次の投下がいつになるのかわからず続くのもどうかと思い、本番にいく前に終わらせましたが、中途半端申し訳ないです。  
 
 
 喫茶店は昼時を過ぎてかガラガラ。客はぼくらだけ。  
 ふたり分の注文を適当に済ませてから、その人は改めてぼくを見る。  
 表情は笑っているし、多分そうなのだろうが、いまいちぼくには、彼女が本当に愉しんでいるのかどうかの自信が持てなかった。  
 あの最悪の島では彼女に散々に振り回されている。  
 それはいまだって。こうして目の前にしているいまだって何も変わらない。  
「きみも頑固だな。何もしないと言っているのに。緊張するのは自由だが、そろそろ警戒は解いてくれないか?」  
 玖渚の部屋で再会を果たしてはいるが、この人とこうして話しているのは、やはりどこか妙な感じだった。  
 幽霊。  
 と。ぼくは今のこの人にそんな印象があるが、それはいまも拭えない。  
「あのときの真相はきみだって知ってるだろうに。人様の脳を食するなんて趣味は、いくらスタイルがないとはいっても御免こうむるよ」  
 まだ。まだいまのところは。園山赤音を名乗る天才は、にっこりと微笑を深くする。  
「それを聞いて安心しましたよ」  
 ぼくの方はといえば、少したりとも笑わなかった。  
 店に入ってからずっと同じ表情。得意だったはずなのに、最近はとかく見破られがちのポーカーフェイスである。  
 
「でも確か。次に会うときは哀川潤になってるって、赤音さん言ってませんでしたか?」  
「ふぅ。まったくきみの記憶力は、相変わらずどういう基準でバックアップを取っているのかよくわからんな。つまらん事を覚えてる」  
 赤音さんは『やれやれ』といったように首を振った。そういえばあの島でも、この仕草は何度か見たなぁ。  
 だがそんなことは覚えていても、もっと大事なことを『覚える』のを『忘れる』ということを、ぼくの脳は忘れない。  
 そんな禅問答みたいな構造は、あの島で初めて会ったときから、なんら変わってはいなかった。――――――――欠陥製品。  
「ま。わざわざ呼び出しておいて、いまさら繕っても仕方ないから言ってしまうが…………要はまだ自信がないのだよ」  
「自信? 何のです?」  
 そう訊いて置きながら、ぼくの中では、もうすでに答えは出ていた。赤音さんの現在欲しがる自信など決まっている。  
「哀川潤に成り代わる自信……………………いや、確信かな。なにしろさすがは『死色の真紅』だ。情報が圧倒的に少なくてね」  
 なるほど。なるほど。それはまぁそうだろう。  
 あの人はあっち側の世界ではトップクラスどころか、他の追随を許さないぶっちぎりトップの有名人だろうが。ふむ。  
 哀川潤と聞いて思い浮かべるあれこれ。  
 赤き征裁、死色の真紅、砂漠の鷹、鬼殺し、なによりもっともベタでポピュラーなのに人類最強の請負人と、数々の異名があるものの、  
やはり身内でなければそれ以上は中々調べられないだろう。  
 なるほど。なるほど。そこで一応は請負人の身内であるぼくに、赤音さんは白羽の矢を突き立てたということか。  
「でもぼくだって。あんまり教えてあげられる情報はないと思いますよ」  
 身内に甘いとか、漫画好きとか、他人をやたら過大評価するとか、平気の平左で人を騙すとか、精々がそんなものだ。  
 ぼく如きのしがない戯言遣いでは、とてもではないがあの人は語れない。  
 
「いやいやいや。別に哀川潤の恥ずかしい私生活を教えてくれとか、決してそういうことではない」  
 当たり前。そんなの知ってしまったら、それこそ記憶を飛ばされるまで殴られるに決まってる。  
「リハーサル、といったところかな? 近くで哀川潤を見てきたきみに、わたしの哀川潤を少し見てもらいたいんだ」  
「………………はぁ……まぁ……いいですけど…………」  
 そんなんでいいのか? モノマネの練習じゃないんだぞ!   
 ん?。ん〜〜〜〜?。ああ、だからか。そう考えればリハーサルしておきたい気持ちもわからなくはない。  
 本番で似てなかったら客のブーイング程度では済まないだろう。それはそれは命懸けのモノマネだ。失敗は即ち死を意味する。  
「たとえばだねぇ――――」  
「!?」  
「哀川潤はこんなことを、きみにしたりはするのかな?」  
「しませんよ、するわけないでしょ」  
 テーブルの下で赤音さんの長い足が、そんな素振りはなかったのに、いつの間に靴を脱いでいたのか、ぼくの股間に当てられていた。  
「わたしの集めた情報だと、哀川潤は大層な悪戯好きらしいじゃないか。このくらいするだろ?」  
 言いながら足の裏で、グニグニとぼくの股間を赤音さんは刺激してくる。  
 テーブルの上では両の指を組んで、顎を乗せてぼくの一挙手一投足を、観察でもするように目を光らせて窺っていた。  
「しませんてば」  
「でも、きみはされたいと思っている?」  
 足の親指だけ立てると、なぜ頭の方は鈍感と人に言われているのに、こうまでこっちの方は敏感なのか、ぼくの言い訳も利かないほど  
パンパンに膨らんでいる股間、勃起の裏筋を上から下へ、下から上へと、赤音さんは毛筆で刷ける様に丁寧に撫で擦る。  
 ぼくに向けられる視線が、段々と獲物を苛める猫の様なものに変わってきていた。  
 なんかこんなとこは哀川さんに似てるかもしんない。  
 しかしそれは弱い者を弄ぶというよりは、『頑張れ頑張れもっと頑張れ頑張れるだろ』そんな感じだ。  
 
 だが言われなくとも、応援されずとも、この《戯言遣い》の、それこそスタイルを捨ててでも頑張るつもりである。  
 そうしないと帰りはえらいことになりそうだ。この歳でズボンを濡らして後ろ指差されるのは、いくらなんでもさすがに厭過ぎる。  
 みいこさんにでも見られたたら、ぼくはきっと彼女の日本刀を奪って腹切りも辞さない。  
「死ぬるべき時節には死ぬがよく候、だよ。成長したのは認めるが、我慢はよくない」  
 こちらの気持ちを知ってか知らずか(多分知ってる)赤音さんの足の指は器用に、ジ〜〜ッと音をさせてズボンのジッパーを降ろした。  
 ひたりと直接ぼくの牡器官に、赤音さんのストッキング越しの足が押し付けられる。  
 テーブルの下では一体どんな格好になっているのか、両足でもってしっかりとぼくの勃起を挟んで、激しくシゴキはじめた。  
「んぎぐああああぁっぁぁぁぁ……ぁあああああああっ!!」」  
 鴨川の土手で壊人に身体を好き放題弄繰り回されたときのような、自分でも思う聞き苦しい悲鳴がぼくの口から洩れる。  
 あのときのような、京都中に轟けという様な大きな声ではなかったが、隣りに人がいたらきっとビビッたはずだ。  
 そしてぼくの背中にも、ビビッと快感が走る。もちろん駄洒落が言いたかったわけじゃない。  
 自分でするときよりもずっと性急な動きに、ぼくは中身の入っているカップを、零しそうな勢いでテーブルに突っ伏した。  
 脱力する。その意味は、自分の口からは言いたくない。  
 脳裏に蘇る『あなたは一度死んだ方がいい』無口メイドから初めて掛けられたセリフ。お願いします。どうか殺してください。  
「うふふふ。…………前にも言ったが、きみが女だったらよかったのにな」  
 それ。あのときも気にはなっていたんですけど。それは赤音さんの趣味でしょうか? それとも幽霊さんの方ですか?  
 赤音さんは訊けばおそらく答えてくれるだろう。  
 だがそんなのはどちらでもいいし、だいたいからぼくは、そんなどうでもいいことを質問出来る状態ではない。  
「――――まあいいだろう。きみもひとりになりたいだろうから、これでわたしはお暇するよ。ありがとう。いくらか役に立った」  
 本当ですかと訊きたくなったが、そんなわけもない。欠陥製品の《戯言遣い》は気を遣われてしまいましたとさ。めでたしめでたし。  
 
「それじゃあ………………また………」  
 音もなく、それこそ幽霊のように気配が消える。それでもしばらくぼくは動かなかった。  
 五分、いや十分、もしかしたら三十分かもしれない。ぼくは携帯を出すと、メモリーの一番最初をプッシュする。  
「お――っす! い――っちゃん! 今日も僕様ちゃんのこと愛してるっ!!」  
「…………友、大事な話しがある」  
 言いながらぼくは考えた。  
 この広い世界で、玖渚機関にこんな隠蔽を頼むのはぼくだけだと。それでも玖渚友は、ぼくの知ってる玖渚友は笑って許すだろう。  
 そこまで考えてぼくは呟く。  
「戯言だよな」  
 いつもどおりに。しかしこれ。本当に便利な言葉だなぁ。  
 
                                             終わり  
 

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